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「教頭先生――」
思わずその背中に向かって叫ぶように言った。
「根津先生はそんなに悪いことをしたんですか。少なくとも僕たちにとってはいい先生だったし、みんな大好きだったんです。
それを先生が……。先生のせいです。先生がひどく責めたから……」
何を言っているんだろう。興奮のためにすっかり混乱しているのが自分でも分かる。
教頭が振り返った。目をぎらぎらさせている
つかつかとこちらに戻ってくると、僕の両肩をぎゅっと掴んだ。
顔を真っ赤に紅潮させ、恐ろしい形相をしている。
「今度のことで一番傷つき、苦しい思いをしているのはこの私なんだ。君なんかに何が分かる」
両手の指が僕の学生服にぐいぐい食い込んでくる。
僕はこれまで教頭のことを、それなりに威厳もあるし、近寄りがたい雰囲気も感じていた。
しかし自分の非を指摘されてかっとなった余り、僕のようなはるか年下の人間にこのように感情を剥き出しにして迫ってきたのを見て、おおいに失望した。
これでは対等だ。こんなつまらない大人に、毎日毎日朝から晩まで狭い教室の中で拘束され、人生の貴重な時間を浪費させられているのだ。
自分が一番傷ついたなんて、根津先生や僕たち生徒のことよりも自分の経歴のことだけを心配しているんだ。
このままとんとん拍子に出世して、将来は教育委員会のお偉方になるようなことでも夢想していたんだろう。残念でした。