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「根津先生は、少し事情があってしばらく休むことになった」
一言そう告げただけで、あとは何事もなかったように出席を取る。
どこかでひそひそと喋る声がする。
おそらく一部の生徒は、その事情ってやつを知っているのだろう。
先生は、二日、三日経ってもやはり出てこなかった。
噂はあっという間に広まり、皆はそわそわと落ち着かなくなった。やがてクラス全体が重苦しい雰囲気に包まれてしまった。
五日後になり、やっと教頭から、先生が一身上の都合で退職することになったとだけ告げられた。あとは何の説明もない。
それどころか、もう三学期なんだから君たちは動揺することなく粛々と勉強に励むようにと説諭された。
僕は福沢に話を持ち掛け、二人で手分けしてクラスで署名を集めると、帰りのホームルームで教頭に提出した。真夜先生を辞めさせないよう嘆願するものだった。
しかし、即座に断られてしまう。
「これは受理できないよ。そもそも高校生がこんなことをしてはいけないな」
僕は食い下がった。
「先生、どうか受け取ってください。これは僕たち全員の総意なんです。それをそんなに簡単にに撥ねつけないようにお願いします」
しかし教頭はそっけなかった。
「これは根津先生自身の問題だし、我々教職員の問題でもある。生徒が口出しすることではない。君たちは勉強のことだけを考えていればいいんだ」
「でも先生」
「くどいぞ。今日のホームルームはこれで終了する」
そのまま教壇を立ち去ろうとした。