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懲りない奴だ。どうせまた、いつものくだらない冗談だろう。そうそう一杯食わされてたまるものかと思った。
しかし真夜子先生の一大事とあっては、全く知らん顔もできない。
福沢の指定する公園は街中にあって明るかったが、夜空にはオリオン座がくっきりと見えた。
プロキオンとシリウスもこちらを見下ろしている。頂点のペテルギウスの赤い光を見ると、なんだか不吉な予感がした。
しばらく待っていると、福沢が白い息をハーハーと吐きながら、自転車で駆けつけてきた。
すぐそばでキーッとブレーキの音を立てて止まると、自転車のスタンドを立てるのももどかしそうに、ガチャンと大きな音を立てて放り出してしまった。
これが彼一流のお芝居であったらいいが――。
思わずそう願わずにはいられなかった。
「一体どうしたというんだ。どうせまた僕を担ぐ気なんだろう」
僕は石畳の上に据えられた木製のベンチから立ち上がりもせず、両手をコートのポケットに突っ込んだまま、わざと暢気そうに尋ねた。
福沢は僕の隣にどさりと倒れこむように座った。
ベンチの背に深くもたれて天上を仰いだまま、何も言わない。星空に向かって、なおも苦しそうに白い息を吐き続けている。
しばらくして声を絞り出すようにして言った。
「先生が――」