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「人生に行き止まりはない」
これが真夜子先生の口癖だった。
「何かで壁にぶち当たったとするよね。その時あなたたちは、右にでも左にでも自由に進むことができる。
次にまた行き止まりになったら、また同じようにすればいい。人生はその繰り返しなの。だから決してくじけちゃいけない」
彼女はT型定規をぐるぐる回しながらしながら、熱っぽくそう語るのだった。
すると福沢が手を上げていった。
「でも先生、迷って袋小路に行きつくなんてこともあるんじゃないですか」
先生は黙って彼を見つめ返した。何かに怒っているような、そして彼を憐れんでいるような複雑な表情をしている。
福沢の方はたまらずうつむいた。
先生はやがて静かに口を開いた。
「お馬鹿さんね。その時はもと来た道を戻ればいいじゃない。あなたはネズミよりもお利巧さんでしょう、ユキチ君」
自分が、魔女だの、マヨネーズだの陰口をたたかれていることを知ってか知らずか、彼のことをそう呼んで、その頭を素手でポンポンと叩いた。
福沢は顔を赤くしてされるままになっている。
「いいわね、あなたたち」
彼女はそれからまた、みんなをまっすぐ見回した。
「人生には決して行き止まりはないの。もし行き止まりだと感じたら、そこでしっかりと目を開きなさい。
そうすれば分かるはず。右に行くか、左に行くか、それとも来た道を戻るか、あなたたちには三つも選択肢があることが。だから決してくじけちゃいけない」
再びT型定規を示して、熱心にそう繰り返すのだった。