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もう夕暮れだというのに、誰もが校庭でソフトボールに打ち興じている。僕は鉄棒に寄りかかってつまらなそうにそれを見ている。
歓声は聞こえるけれども一人一人の顔は薄暗がりで見えない。
どこからか女が近づいてきて、三枚のカードを裏返しに広げて見せた。
「この中から一枚だけ選びなさい」
たじろいでいると、それにはまったくお構いなしに言う。
「キーワードは"T"よ。分かった?」
言われたとおりに一枚だけ引いてみると、何のことはない。三角と四角の図形が描かれているものだ。
各頂点ごとにダイヤがあしらわれているのか、暗がりでキラキラと光った。
「ピタゴラスね。幸先いいじゃない」
何のことだかさっぱり意味が分らない。しかしみんなと離れて彼女と二人だけで一緒にいるのは、何だか嬉しいような気もする。
すると福沢が駆け寄ってきた。白い帽子に白いシャツ、それに白いトレパンといういでたちである。
手招きするのでそばに行くと、「おい、カツ――。君、駄目じゃないか」と小声で言う。
「なぜ?」
僕は少し癪に障って問い返した。