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命なんて必要なの?

 現在、日本では年間2万5千~3万人の自殺者が出ているという。その数の中に入った人々は何を思っていたのだろう。


「デスドルド」


 それは生存否定価値観。穂高改直ほたか かいともその価値観を抱く人間の一人だった。生きることに、価値を見いだせないでいた。


*****

 お腹が痛い。僕が、粗相をしたせいだ。父さんに殴られるのは当然。

 気に入っていたペンをクラスメートに壊された。僕を、からかうことで結束を強めようとしているからだ。

 そう、僕はただのサンドバックでしかない。父さんや、クラスメート達が、ストレスを発散するためだけのサンドバック。

 だから、僕は…それでも僕を、「普通の人」として付き合ってくれる山岸さんに告白してはいけないんだ。僕が告白なんてしたら、あの優しい人もサンドバックにされてしまうかもしれないから。

 僕は、…僕が、僕の望み通り生きていたって、みんなに迷惑をかけるだけだ。僕は父さんや、他の誰かの顔色を見てでしか生きることはできない。そんな、惰性で生きる人生に意味、あるんだろうか。


「きっと、僕が居なくたって世界はまわる。僕の存在を、心から喜んでくれる人なんていない」


 呟くと、ただでさえ重い心はさらに重くなって…だんだん馬鹿らしくなってきた。


「どうせ死ぬなら、そうだなあ…火葬されて、お金をかけて燃やされるより、化け物にでも喰われて、そいつの命の一部にでもなったほうが、幸せかな…」


 改直は自分の妄想の世界の都合の良さ、道化さに高笑いした。暗い路地には人気は無く、安心して笑う事が出来た。


 暫く笑っていると、路地の曲がった先の行き止まりから、小気味悪い租借音が聞こえて来た。僕は音に気付き、聞こえる先へ向かった。


 「なんだ…これ…」


 見ず知らずの化け物が、人間を喰らっていた。地面には赤い海が広がっている。むせかえるような血の臭い。ダイレクトに見える、内蔵のひとつひとつ。化け物の、真っ赤に染まった口。

 僕は、足がすくんでその場を動くことができなかった。吐き気を催して、その場にうずくまる。

 「うっ…」

 気持ち悪い。


 自ら以外の存在に気付いた怪物は、改直の方へ向かった。ぎょろりとした目が、僕の目とあう。


 「もう一人、人間、いるんだな。食べて、良いんだな?」

 

 そうだ、さっきまで僕は死んでもいいと思っていたじゃないか。化け物にでも、喰われて死んだほうが幸せだと思っていたじゃないか。生きていたって、誰かのストレス発散対象になるだけで、僕であるという意味なんてないって思っていたじゃないか。

 化け物はゆっくりと僕に近づき、その大きな口を開ける。

 願わくは、どうか痛みが長引きませんように。

 僕は最期の時を待ち、ぎゅっと目をつぶろうとした。


 その瞬間、一つの光が僕達の間に差し込んだ。


 「なんだな?この光」


 化け物が片目を瞑りながらそのホタルのようでいて、ホタルよりも眩しい光を見つめていると、その光は、僕の右目にどんどん近づいていった。

そして、僕は意識を失った。


*****

 「済まないな、体を借りるぞ少年」

 うずくまっていたはずの少年――改直が、そう呟いて立ち上がる。彼の右目には赤の左三つ巴紋が浮かび、彼の右手に周辺の空気が集まり、それらが硬化して炎の意匠のある大剣へと変化した。その様子に化け物は驚いて亜然としていた。


 ソレは化け物目掛けて大剣を振った。

 なんとか攻撃をかわした化け物ははっとした表情で言う。


 「まさか……こいつが、漆黒神しっこくしんの言っていた、最大の脅威、

  炎鳴神えんめいしん!?」


 化け物が真実に気付いたのも虚しく、隙を見せた瞬間、炎鳴神と呼ばれるものが憑依した改直の持つ大剣によって体は縦に割れていた。


 「よし、一体倒した。済まなかったな、少年……」

 ソレ――炎鳴神の大剣は空気に溶けるようにして消えた。炎鳴神はその場にしばらくたたずみ…たたずみ…

「ん?憑依、したままなのか?離脱できないだなんて、そんな馬鹿な!!」

 しかし、叫んだところで状況は一切変らない。

「……む…やむを得ん…この体の意識を、もとに戻してみるか…」

 

*****


 「……あれ…?な、何があったんだっけ?」


 僕は目を擦りながら、あたりを見渡そうとした。今までの事を思い出そうとしていたら、後ろから男性が声を掛けて来た。

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