第七話 どこかで見たような知らない世界
ユーラシア大陸がある。南北アメリカ大陸がある。アフリカ大陸がある。オーストラリア大陸がある。南極大陸がある。
アイスランドやイギリス、フィリピンなどの小さな島国もある。この世界は地球とほぼ同一だ。
しかし、完全に同一ではない。
何故ならばこの地図には、日本列島と北極が存在していないのだ。
地図の不備だろうか?それともまだ発見されていない?しかしこれほどの完成度だというのに、その二つだけがないというのも妙な話だ。
まあそれはさておき、多少の差異はあるとはいえ、ここまで似通った世界なのだ。察するにここは……
「ハラヘルアールト……?」
おっと、まだ発声器官は発達しきっていなかった。もとい、パラレルワールド。平行世界の可能性がある。
ここは地球の平行世界、同じ理を持ちながら違う道を辿った世界なのだろうか。まあステータスなんて便利な物が存在している世界が地球な訳もない。それに魔物や魔術など地球には…………いや、妖怪や超能力はあったのだから魔術が存在していてもおかしくはないか?
考えても答えの出ない疑問なのでさておく。
地図をよく読んでみると、地球とは国土や国名が異なっている事がわかる。
地球には国連加盟国だけでも百九十三もの国家があった。しかしこの世界には、地図にあるのは数十程度で、六つの大国とあとは有象無象の中小国家ばかりなのだ。自治都市も幾つかあるようだがこれ等は除外だ。
六大国はそれぞれ、ソヴェート帝国、央華共和国、アフレア森林国、アステラ神聖国、バラシル王国、ロドーニア公国というらしい。
これらは地球で言うところのユーラシア、アフリカ、北・南アメリカ、オーストラリアの五つの大陸で、それぞれ覇権を握っている国家のようだ。ユーラシア大陸のみ二国あるが広大だから問題なさそうだ。
そして僕の生まれたこの国は、そのどれでもないバリタインという国らしい。地図の中央にあるから恐らくそうだろう。イギリスとアイルランドを領土とした国のようだ。
はっきり言って小さい。もちろん国土面積だけが大国と小国を分ける訳では無い。軍事力や経済力など、様々な要素を含めての評価なのだ。しかし、大きさというのはそれだけで力になる。それは国家でも同じ事だろう。国土が大きければ食糧事情にも寄るが人口も多いだろう。何をするにしても人員は欠かせない。
兵を集めて軍備を強化するのも皆が住み良い都市を形成するのも道を整備し流通を盛んにするのも全て人だ。国が発展すれば優秀な人材も集まってくるだろう。大きさが、というよりは国民の人数こそが国の力そのものと言えるかもしれない。
つまり、小さいというのはそれだけでハンデなのだ。周囲を海で隔てた島国とはいえ、他国に侵略されていないというのは少し不思議だ。アーサー王のような偉大な王でもいるのだろうか。その場合は是非とも内側からの崩壊には注意してほしいが。
……おや、どうやらこの世界地図、各国の大まかな情報も乗っているようだ。どれどれ。
『バリタイン王国 二千年もの長い間続く伝統ある国。魔力の高い者が多く、その人材を狙って他国より幾度となく侵略されるも、ただの一度も支配はおろか失地すらすることなく撃退している。通称神の使徒の国』
……神の使徒の国?この国の民は神の使徒などと呼ばれているのか?
実に興味深い事柄だ、早速これに関する情報を貼る――――――――
「ここには……あっ、居ました!坊っちゃまです、坊っちゃまが居ましたーっ!!」
……あ。先程の子が戻ってきたようだ。しかも僕を探し回っていた様子。そういえば何やら騒がしかった気もするな。
一時間も部屋を空けていたのだ、バレるのも当然のことだろう。
こうして、僕は少女の声を聞いて駆け付けてきた執事さんによって部屋に連れ戻されたのだった。
第一回屋敷探検の成果……上々。警備は多少厳しくなるだろうが、次回も頑張ろうと思う。