第十話 小鬼の森へ
ストーリーの辻褄合わせ、折り合いをつけるために以前のものを改稿したりしますがご了承ください。
こうならないように前もって綿密なストーリーを構築するよう努力したいです……
「属性風、要求動体感知、範囲半径二十メートル、時間二時間、待機。属性風、要求消音、範囲半径五メートル、時間二時間、並列実行」
小鬼達の森へ突入する前に、魔術的な索敵・隠密行動の準備を済ませる。隊列は前衛にレン、真ん中に僕とエル、殿にリィと配置してある。
「初めて聞くけど、クロギリの詠唱って変わってるな。なんかこう淡々とした感じというか…………詠唱ってもっと面倒臭い感じじゃなかったか?」
周囲を精霊の風が包み込んだ事を確認すると、ふとレンがそんな事を言った。
そういえば普段は無詠唱だったから、今まで聞かせたことなかったか。
「精霊術って、名の通り精霊に力を借りる魔術だから希うような詠唱をする人は多いけど、実際は起こしたい現象のイメージが伝わりさえすればこういう事務的なものでもいいんだよ。むしろこの方が無駄がないから有利なんだ」
「へぇ……精霊術くらいならあたしも使えるけど、教えられた通り馬鹿正直に回りくどい詠唱してたわ。やっぱ本職の魔術師は効率的なのねー」
「いや、厳密には僕は……」
「雑談はそこまでにしておきましょう。あまり時間的猶予はありませんからね」
時間はお金なのに……と悔しそうに呻くリィの誤解を解こうとした所で、エルに注意された。
まあ最も気にするはずのエルが今まで何も言ってこなかったのだし、更に後回しにしても問題ないか。
「そうだね、じゃあそろそろ行こうか。魔術は僕を中心に働いているからあまり離れ過ぎないでね」
「了解!っし、んじゃ冒険者になって初の大仕事、小鬼一掃作戦開始といくかぁ!!」
「うるさい馬鹿レン!今から奇襲かけるってのに騒ぐとかどういう神経してんのよアンタ!!」
「消音の魔術があるとはいえ、本当に隠密行動に向かない人達ですね。猿轡でも噛ませるべきでしたかね?」
二名ほど性格的な不安があるけど、やる事はやってくれる人達のはずだから大丈夫だろう、多分。
残念ながら僕には未来予知にも等しい観察眼までは備わらなかったが、その代わり窮地からでも皆を助けられる程度の力は与えられている。小鬼くらいなら、僕が気を引き締めていれば何とかなる範囲だろう。
「……っと、止まってレン。そこの地面に落とし穴がある」
「なにっ……本当だ、確かによく見ると違和感があるな」
森の中のため地面は木から落ちた葉に埋め尽くされているが、注視して見ると地面に掘り返した痕跡、そして僅かに窪んだ場所があるのが分かる。偽装自体は雑なものではあるが、森の中では昼間であっても生い茂った木々が日光を遮るため薄暗く、一見気付き難い。
そっと枯葉と土を払って見ると粗雑なボロ布が敷いてあり、その下に穴が隠されていた。
「刃物でも仕込まれてるかと思ったけど、これよく見たら小枝が詰め込まれてるだけね。踏んだら簡単に折れそうなのばかり」
「なるほど……これは殺傷目的の罠ではなく、枝の折れる音で侵入を知らせる警報の役割を果たしていたのですね。尤もこちらには消音の魔術がありますので意味はありませんでしたが」
鳴子を思い付く或いは作る事は出来なかったようだが、これならさほどの技術は必要ない。穴を掘って隠すだけだ。
こういった単純な罠は他にも仕掛けられていると見るべきか。
「今のは運良く見つけることが出来たけど、静止しているものは風の探知には引っかからない。三人とも注意して進んで」
了解、と声の揃った返事があった。
改めて気持ちを引き締め、歩を進めること数十分。
どうやら小鬼達は森の奥深くにいるらしく、未だその姿は見えない。
しかし、収穫はあった。
「この足跡……小鬼のものだな。小さいし、村の人はここまでは入らないって言ってたな」
「うん、それも幾つも重なり合っている。この道を何度も往復しているんだね」
「でもこれじゃどっちに向かったのか分からないじゃない。どっちかに賭けて進んでみる?」
「いえ、その必要はないですね。足跡は全てこの少し先で引き返しています、そちらが正しい道でしょう。こちらには少々気になるものがありますが」
「え?」
一番端から足跡を見ていたエルの言う通り、彼の側に続く足跡はある場所で途絶えている。どうやらそこに、小鬼が何度もこの道を通った理由があるらしい。それは恐らくエルの言う「気になる物」が関係しているだろう。
そこには、森の緑の中で抜群の存在感を放つ色合いの植物があった。
あれは確か……
「実をもぎ取ったような形跡がありますね。小鬼達の食料という事でしょうか」
「え、魔獣って草食なの?というかこれ食べられるものなの?」
「いや、毒を持っているよ。果実には特に強力な猛毒が含まれてる」
「ひぇっ!?」
興味本位で手を伸ばそうとしていたリィが悲鳴を上げ慌てて引っ込める。触れる程度なら支障はないが、表面に果汁が付着していないとも限らない。
「これはシクモンの実。摂取すると即座に毒が全身に回って、屈強な英雄すら血管に直接釘を打ち込まれるような激痛に悶え苦しんで自死を選ぶって逸話から別名ヒュドラの餌とも呼ばれてる。この通り色合いが赤に黄と見た目が派手だから迂闊に食べる人はそう居ないけど、見つけたら速やかな処分が推奨されてるね」
という事で焼却。煙と延焼は風で抑え込む。煙からでも害はありそうだ、漏れないよう慎重かつ厳重に、と。
しかしこれを考えるに、結構嫌な状況になってるな。
「おっそろしい話だな……英雄の最期が果実なんてのは流石になぁ」
「死因が毒死ってのは結構いるけどね。それよりもクロギリ、魔術だけじゃなくてそんな事まで知ってるのね、うちの馬鹿とまるで対局じゃない」
「冒険に必要な知識は大体頭に入ってるよ。親が博識だったからね。ところでエル、その様子だと気付いたんだね」
シクモンの実について話してから、エルはずっと何かを考え込むように黙っていた。僕と同じ考えに辿り着いたんだろう。
「……ええ。ですが、必ずしもそうとは限りません。一応対策は考えておきましょう」
「そうだね」
小鬼達は未だ未知数。数も、知能も、武装も。
せいぜい剣や棍程度であればよいのだが…………それ如何では、小鬼達の脅威度は大きく変わる。
それから更に数十分後、陽射しも満足に入らない程木々が重なり合った最深部。その暗がりの中にあった天然の洞窟前、森の中で不自然に開けた空間で小鬼達は決起していた。
剣、槍、斧、槌、弓、盾、鎧…………木漏れ日を鈍く反射する武具で身を固め、兵装ごとの一糸乱れぬ隊列で居並ぶ矮躯の人型共。統率が取れているのか、それらはまるで声を発することなくただ静かに時を待ち続けていた。
その数、およそ百を超える。
「どうしようか、帰る?」
本格的に検討するべきその提案は、ゴクリと生唾が喉を鳴らす音と共に全員の耳朶を打った。
このクロギリの技能は某TRPG風に表すと
ソーサラー:10
セージ:8
レンジャー:8
スカウト:7
ライダー:3
マギテック:3
くらいの構成です。一人でも旅は出来ますね。信号機三人組はこれより幾らか劣ります。




