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WORLD ONE ~遥かなる流星~  作者: 二毛猫
第二章 彗星の冒険者
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第八話 魔道具と小鬼

「村を襲った小鬼(ゴブリン)、あれは多分威力偵察だよ。それも一部隊じゃないかな」


 ロドア村への道中、自分の予想を簡潔に説明する。聞こえているかは分からない。


「──~!」


「依頼書には撃退したって書いてあったでしょ。小鬼達も積極的には戦っていなかったんだろうね」


 恐らく小鬼の目的は村の戦力の調査。ならできるだけ戦闘を長引かせて探ろうとする筈だ。

 そして粗方把握した後子鬼達は撤退する。二度目の襲撃のための情報を携えて。


「一度目の襲撃は二日前。小鬼の数は分からないけど、森から間近の村への行軍なら準備するには充分な時間だよ」


「──~~!!」


「普通に向かうんじゃ到着はどうしても夜か明日になる。今日の明るい内にロドア村へ行くためにはこうするしかなかったんだよ」


「──~~~!!!」


「でもおかげで目的地はもう目前だよ!ほら見て、あれがロドア村だよ!」


「──~~~~!!!!」


 うーん、もっと快適な移動手段を確保しておくべきだったかな。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「じ、地獄のような時間だった…………尻痛てぇ」


「……こんな…荒い旅路は……も、もうごめんよ……オェェェ」


(ひは)を噛みまひた………………神……?」


「ごめんね、みんな……時間と加減の釣り合いが取れなくて…………」


 ロドア村を囲む柵の付近で、三人は膝を屈している。彼等にとってこの強行はあまりにも過酷だったようで、リィなど嘔吐感を催してしまっていた。


 ここまでの移動方法は徒歩ではなく、馬車を使って駆け抜けて来た。ただしそれは一般的に長距離の移動に使われる様な馬車ではない。というか車ではない。

 所謂(そり)だ。犬橇ならぬ馬橇。牽く馬は生物ではなく、魔力で稼働する魔道具(マジックアイテム)の一種である魔導式騎乗馬だ。

 残念ながら人数分はなかったため僕が騎手でレン達が乗員という形になったが、橇に車輪はなくまた道も舗装されていない、更にはこの魔導馬が実に馬力のある本物さながらの暴れ馬だったため、このように快適とは口が裂けても言えない道行きだった。


「おーいてて……それにしてもよくこんなもの持ってたよな、クロギリ」


 リィが回復するまでの暇潰しか、臀部を擦りながらレンが雑談を振ってきた。


「旅立つ時親に餞別にもらったんだよ、無事に目的を果たせるようにって。他にも幾つかあるんだ」


「なんと……あの魔道馬も高価な物でしょうに、それを複数とは…………もしやクロギリさんの御両親は裕福な方なのですか?」


「ううん、違うよ。僕の親は魔道具コレクターでね、その中の実用性のあるものを譲ってくれたんだ」


 それに片親だし、そもそも親というのも便宜上そう呼んでいるだけだけどね。


「後は距離を隔てて他人と会話できるとか、無機物の大きさをある程度縮小できるとか、別人に見える幻影を被せるとかそういった物があるよ」


 そしてそれらを収納し持ち運ぶのが、内部空間を数十倍に拡張されたポーチだ。これがなければ僕は金に困る人達に人気者になっていた事だろう。


 魔道具とは術式を刻まれた物品の総称で、魔術の心得のないものでも魔力を通したり魔獣の核を動力とする事で擬似的に魔術が扱えるようになるできる代物だ。

 言うのは容易いが術式を刻むというのは中々難度の高い技術で、材料もそこらにある物を使ってという訳にはいかないため、制作できる者は非常に限られる。

 そのため魔道具は基本的に高価なものなので見せびらかす様に持ち歩いていると狙われやすいのだ。


「どれも凄すぎてよく分かんねぇな……金額で言うとどれくらいなんだ?」


「恐らく、最低でも金貨十枚はするでしょうね。勿論1つあたりですが」


「凄すぎてよく分かんねぇなぁ!!」


 エルの目算に絶叫するレン。実はそれ以上だなんて言ったらどうなるのかな?


「お金の……うっぷ、話…してる………?」


 と、そこで今まで一人橇で蹲っていたリィが気怠そうに口を開いた。会話の内容に興味を惹かれたようだけど、本調子ではなくともその程度の無理が出来るくらいには回復したらしい。


「あ、復活してきたね。そろそろ歩けるくらいにはなったかな?」


「なんとかね……悪いわね、こんな時なのに時間取らせちゃって…………」


「事情が事情だからなあ。責められはしねぇよ」


「あまり問題はないでしょう。幸いまだ懸念した通りの事態には陥っていないようですしね」


 エルの言う通り、到着時の村は未だ平穏であった。

 もちろん襲撃があった以上厳戒態勢を敷いてはいるが、まだその段階だ。子鬼達はまだ仕掛けていないらしい。


「じゃ、調子も整ったところで、行くか!いざ子鬼の森へ!!」


「その前に村のほうに話し通しておかないとねー」


 勇み足のレンを掴み、村へと歩を進める。

 依頼受諾の旨の報告とか子鬼の詳細な情報の聞込みとか必要なことは色々あるからね。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「そうですか、皆さんがあの依頼を…………あの、こういってはなんなのですが……大丈夫なのでしょうか?」


 家に招いて迎えてくれたのは、如何にも村長らしい老人だった。それなりの歳ではあるようだが矍鑠としており、現在も農作業に勤しんでいると思われる。

 普段健康的な汗を浮かべているであろうその顔には、今は不安げな色がある。無理もない、彼にしてみれば村の存亡に関わる窮地にやってきたのが僕らのような駆け出しの冒険者だ。これで晴れやかな表情をしていたらそちらの方が驚きだ。


「ああ、俺達が来たからにはもう大丈夫だ。今日から安心して鼻高くして寝るといいぜ」


「馬鹿ね、高くするのは布団よ。あんたが喋るとあたし達の信用に関わるから黙ってなさい」


 枕だね。


「ご心配なく。この二人はともかく、私とこちらのクロギリ君は神の名のもとに必ずやご期待に副う働きをしてみせますので、どうぞ枕を高くしてお眠りください」


「そういうことなので、今回の依頼に関して幾つかお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「はあ、私共としても一刻も早い事態の解決を望んでいますので、私のお話しできることでしたらなんなりと……」


 そう言いながら、村長の視線はチラチラと横へ動いている。手もしきりに擦り合わせていて落ち着きがない。原因は当然視線の先の二人だ。

 レンとリィの掛け合いは緊張を解きほぐすムードメーカーとして有効ではあるが、こういった場面ではむしろ逆効果になる。少し大人しくしていてもらうべきだろう。


「今から大事な話をしますので、邪魔になる二人は村内の散策でもしていてくださいね」


「邪魔ってなんだよ、邪魔って。俺達もパーティの一員なんだぜ?参加させろよー」


「そうよ、それにまるで私がこいつと同レベルの馬鹿みたいな扱いじゃない」


「どちらも似たようなものですよ。いいから行ってきてください」


 エルも心得ているようで、不満そうな二人を適当にあしらって追い出している。

 ちょうどいいや、手持ち無沙汰なようだし仕事してもらおうか。


 拗ねた様子で出て行こうとする彼等に声を掛ける。


「それなら二人は結界の魔道具を調べてきてくれるかな?村の中央にあると思うから」


「……!おう、任せとけ!あれならよく弄ってたから完璧に分かるぜ」


「まあ確かにこいつだけじゃ壊さないか不安だしね、そういう事なら文句はないわ」


 よかった、意気揚々とした様子で向かってくれた。これで彼等のモチベーションが損なわれる事はないだろう。

 さて、こっちも仕事しなきゃだ。


「まず知りたいのは子鬼の数、武装、背丈などについてです。実際に子鬼と対峙した方からお伺いしたいのですが────」


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 約三十分後。


 僕達は各々の取得した情報を共有するため、再び村長宅に集っていた。


「それじゃあ先にそっちから聞こうかな。どうだった?」


「問題なしだな。うちの村のと大して変わらなかったから分かりやすかったけど、特に壊れてたりはしなかったぜ」


「出力設定はちょうど村の外周と同じ……それで気付いたけどこの村円形だったのね。設置されてる(コア)にも特に問題はなかったわ。襲撃の前後で変えてもいないそうよ」


 結界組に話を促すと、先に口を開いたのはレン、その補足がリィだ。


 魔獣(モンスター)は、世界に満ちる魔力が偏向し瘴気となる事で発生する。これは迷宮(ダンジョン)に限った話ではなく、山岳にも平地にも起こりうる現象だ。

 故に魔獣は人々が暮らす町や村の中にも現れることがある。結界の魔道具とは、そういった事態を防ぐために用いられる物だ。

 これは範囲内の瘴気の発生を抑制する結界を展開する魔道具で、副次効果として魔獣を寄せ付けない事も出来るため共同体にとって必須となるものである。


「つまり魔道具は作用していたにも関わらず、小鬼は結界の範囲内に侵入したという訳ですか……そんな事は有り得るのでしょうか?」


「あると思うよ。僕の推測が正しければ可能だね」


 顎に手を当て疑念の声を上げるエルに、そう断言する。


「どういう事です?」


「皆も知っての通りあの結界は瘴気の発生を抑制するものでね、瘴気で構成された核を持つ魔獣も本能でそれを嫌って近寄らないんだ」


 周知の事実に頷く三人の顔を見回し、でもね、と前置く。


「それはあくまで本能で嫌うだけで……魔獣が強い意志で入ろうと思えば()()()()()んだよ」


 息を飲む声が聞こえる。出身の村にも関係がある話だから驚くのも無理はない。でもまだ本題じゃない、その先を理解出来たのは一人か。


「それはつまり、この村を襲った小鬼達は本能ではなく知性を持って行動している、と?」


 その一人、エルが尋ねる。張り詰めた空気の中、その声は普段と変わらず落ち着いており面持ちも平静そのものだ。


「分からない。そうかもしれないし、命令されたからなのかもしれない。その命令が本能に優先されるほどの存在に」


「命令って……誰がだよ?」


「それも分からない。けど……大体見当はつくよ」


 そしてそれが当たっていた場合……これはFランクの依頼なんかじゃあなくなる。


「相手は多分、小鬼の上位個体だろうね」


 最低でもDランクかな、と付け加え、再び息を呑む顔を見回しながら村長の出してくれた茶を啜り、舌を湿らせるのだった。

ゴブリンの説明は次回に。

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