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WORLD ONE ~遥かなる流星~  作者: 二毛猫
第二章 彗星の冒険者
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第五話 恙ないスタート

 Fランク迷宮【洗礼の訓練場】。

 熟練の冒険者なら引っかからないようなつまらない、しかし初心者は至極あっさりと嵌るような罠の仕掛けられた迷宮。

 罠自体は殺傷能力に乏しく、出現する魔獣(モンスター)も弱いため掛かっても落ち着いて対処すれば問題ないのだが、慣れない迷宮に気を張り詰めた冒険者は不意の状況変化に対応できず、惨憺たる結果で帰還する例も枚挙に暇がない。

 そういった理由から付いた名が上記の【洗礼の訓練場】。迷宮は特徴などから名付けられている物が多い。


 故に本来、冒険者に成り立ての者ばかりで構成された、とりわけ索敵や罠の発見・解除を担当する斥候のいないパーティはこの迷宮の餌食になるのがお約束なのだが──


「そこ落とし穴だよ。深さは脛までだけどバランス崩すから気を付けて」


「マジか!危うく踏むとこだったぞ」


「その壁の中段辺りに矢が飛び出る穴があるよ。弓に転向する予定があるなら回収するよ?」


「あー、あたし拳が厳しい時はそうするつもりだったからよろしく」


「後ろの曲がり角に魔獣が発生したみたい。背後取られる前に潰しておこうか」


「お任せを。神の鉄槌を脳天に下します」


 この様に、二つの役割を担う者(ダブルクラス)がいれば問題ない。しかし通常は一つ一つの技術の練度が低くなりがちなので補助程度が望ましい。


「いやー、初めはどうなる事かと思ったけど案外行けるもんだな!迷宮ってもっとギリギリの綱渡りを強いられるようなとこだと思ってたぜ」


 レンが気楽そうな笑みを浮かべ、頭の後ろで手を組む。


「馬鹿レン、油断するなっての……と言いたいところだけど、今回ばかりは同感ね。拍子抜けもいいとこだわ」


 その無防備さを責めるリィも、やはり言葉通り退屈そうな表情を隠せない。警戒の構えは解かないものの指を遊ばせている。


「神は我々に試練を与えますが……今回のこれはそうではないという事でしょうね。それともこうして順調に進んでいること自体が神の御加護という事なのでしょうか」


 ふむ、と言いながら手を組み祈りを捧げるエル。これもまた迷宮の中にあっては無防備といえる仕草ではあるが、もし安全な街の中であれば聖典でも読み始めていたのだろう。


 それにしても青黄赤の順で喋るとますます信号機みたいだ、という理解されないだろう笑いを内心で噛み殺し、別の言葉を吐き出すため口を開く。


「三人ともFランクの平均よりも大分強いね。Dランク相当の実力はあるんじゃないかな?」


 道中邂逅する魔獣を、弱いとはいえ全て苦もなく倒すのだから彼等の力量は中々に高い。全員一般人並だったとしても守るつもりではあったけれど、その必要はなさそうだ。


「まあな。これでも村では魔獣狩りも結構やってたからな、迷宮で心配なのは狩猟環境の違いくらいだったんだ」


 それも問題なかったけどな、と笑みを深めるレン。


「今まで仕留めた獲物の中で一番印象深いのは……エル、なんだったっけ?」


「一番でそれですか?まったく……あれは確か、Cランクの破城羊角(バッティングラム)でしたね。あの突進力は脅威と言わざるを得ませんでした」


「へえ、中々の大物だね。Cランクを倒せるってことは、三人ならCランクパーティに匹敵するんだ」


 破城羊角。

 ラムの名の通り子羊のような体躯なのだが、目を引くのがその角と脚力。先端・太さ共に攻城兵器そのものの様な羊角を二本携え、それを魔獣特有の外見とミスマッチな脚力で疾風の如く駆け叩き付けるのだ。Fランクのバトルシープとは脅威度が段違いだ。

 それにしても羊の魔獣か。記憶…いや、記録にもあるな。縁があるのかな。


「あー、あれなー。速くてしかも小柄なんて訳分からん奴だったな。もう中々剣が当てられなくて苦労したよ……」


「私もリーチが足りな過ぎてそれこそ弓使ったわね……まあでもあれで冒険者になる自信付けたんだし結果オーライといえばそうなのかしら」


 余程の激闘だったのか、思い出したレンとリィが『二度とごめんだ』という顔でゲンナリとしている。

 エルは後方支援に徹していたのか、二人に比べると特にそういった様子はない。神官がリスクを背負い過ぎるのは下策だしね。


「……と、ああ、そろそろ最深部だよ。まあ実力を鑑みると障害にはならないだろうけどね」


「お、ようやく迷宮主(ダンジョンボス)か。腕が鳴るなぁ!」


「といっても、所詮Fランクの迷宮じゃ高が知れてるわね。あまり高くは売れなそう」


「なんにせよ、私達には神の御加護があるのです。きちんと実力を発揮できれば負けはありませんよ。」


 迷宮の最深部には、迷宮の心臓である迷宮核(ダンジョンコア)がある。核の近辺は瘴気の濃度が一際濃いため、傍らに強力な魔獣が現れる。それが迷宮主だ。

 迷宮主は一つ上のランクとみなされ、ここでいうとEランクということになる。


「じゃあ、サクッと片付けて街でお祝いしようか。もちろん神への感謝も忘れずにね」


「「「賛成(です)!!」」」


 三人の唱和が迷宮に木霊する。約一名特に声に力が篭ってた、もしかして狂信の域なのかな。


 僕達は意気揚々、余裕磔磔と最深部へと足を踏み入れた。


「あ、迷宮主が奇襲してくるから気を付けて」


「うおぉっ!!?それ先に言えよ!!」


 あちゃー。

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