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WORLD ONE ~遥かなる流星~  作者: 二毛猫
第二章 彗星の冒険者
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第三話 新米ラッシュ

人の思考を書こうとするとどうしても長くなる。そこを上手く要点だけ書けるよう精進する所存。

 相手を子供と見下し、威圧するように睨めつける冒険者の男。

 元々おかしな造形の顔を更に歪めて迫力を出そうとしているその様は、傍から見れば滑稽ではあるが向けられた当人は充分怯えるだろう顔面凶器だ。


 大方クロギリ君のような子供が同業者になる事が気に食わないから追い払ってやろうとか、認めるとしても最初に上下関係を明確にしてこき使ってやろうとかそういった思惑なのだろうと予想がつく。


 何れにせよクロギリ君の大きな素質を見た私としては、彼の心に心的外傷(トラウマ)を刻みつけられてギルドの損失となる前に止めなければならないし、それ以前にこんな大人気なさの極みみたいなことが目の前で起きて看過できる筈もない。


「あのっ、そのような──」ん?手?


「──ああ、助かります。僕も自分の力がどの程度通用するのか確かめたかったところなんです」


 ギルド職員として叱責しようと口を開くと、絡まれている当人に阻まれ、手振りで制止された。


 なんて事だ、彼にはあの冒険者の悪意が伝わっていないのか…………と思ったけれど、彼ずっとフードを深く被ってるから相手の顔なんて見えてないのかも。現に私にもフードの下は見えないくらいだし。


「あ?……お、おう。いい心掛けだなぁ、坊主。俺もお前が小鬼(ゴブリン)の前でビビって小便漏らしちまうような所は見たくねぇからよぉ、ま、胸貸してやるから精々頑張りな」


 まるで臆した様子のない少年に逆に戸惑いながらも、嘲るような言葉とともに野卑な笑い声を挙げる。見物していた他の冒険者も「おかあちゃーん、助けてーって泣き喚くのが先だろうよ」「身長伸ばして出直して来いよ、ガキが」と口々に野次を飛ばし、似たような品のない笑みを浮かべている。


 ここに良識のある大人はいないのか!!いや、そういう人もいるにはいるけれど、生憎今は皆依頼や迷宮に行っていて不在だ。なんて間の悪い……


 そもそもクロギリ君が冒険者になるのが気に入らないのなら登録中に口を挟むはずだ。何故終わった今になって……他の職員もどうして何も…………


「すみません、この人の実力はどれくらいのものなのでしょうか?」


「え?あ、はい。この方はアンザスさんとおっしゃいまして、ランクDの冒険者でいらっしゃいます」


 声をかけられ、意識の焦点が現在へと戻ってくる。

 彼は本当にテストとやらに応じるつもりなの?Dランクは言わば中堅という程度ではあるが、それでもそこまで積み上げた経験と実績がある。今日登録したばかりのFランクとでは比較にもならない程の差がついている。

 絶対に胸を貸すなんて生易しいものじゃない、何とかして止めなきゃ……!!


「心配してくださらなくても大丈夫ですよ」


 今度は言葉を発する前に出鼻をくじかれた。

 心配するなって、そんなの無理に決まってるでしょう!?


「さっき自分で仰っていたじゃないですか、ギルドは冒険者同士の争いには介入しないって」


 僕ももう冒険者ですよ、と顔が見えないながらも微笑んでいる様子が伝わってくる。

 そうだ、その通りだ。確かにギルドの規則ではクロギリ君の言った通りそうなっている。それで彼等は登録が終わるまで何もして来なかったのか……!!相手が一般人のうちはギルドに阻まれるから、冒険者になってから嬲りものにしてやろうと……!!!

 卑劣極まる。こんな奴等が冒険者の末席に名を連ねているなど断じて許容できない。例え規則違反になろうともここでカウンターを飛び越えて渾身のドロップキックを放つ事に迷いは──!!


「これで実力は分かりました、お相手ありがとうございました。それじゃ、僕はご飯食べてきますね。注文はあっちでいいんですよね?」


「へ?」


「あ?」


「「「「「「…………は?」」」」」」


 人々の声が唱和する。皆一様に何を言っているのか理解できないという顔だ。


 少年の口振りは、あたかも胸を貸すというテストとやらが()()()()()()とでも言うかのようだった。


 真っ先に我に返ったのは、絡んでいた冒険者だった。


「あ、おい、待ちやがれ小僧!てめぇ訳わかんねぇ事言って逃げよぉっ!!?」


 言葉は続かなかった。

 既に背を向け歩き出していた少年に手を伸ばそうと一歩踏み出した時、()()()()()()()()()()のだ。


「つぅう………………んだよ、これ…………」


 幸い咄嗟に全面に手を伸ばせる程度の反射神経は持ち合わせていたので床に激突する事は避けられたようだけど、その際事の理由を把握したらしい。その割には信じられないものを見たという顔だけれど。


 カウンターから身を乗り出し、足下を覗き込んでみる。彼のような冒険者が何も無いところで足を縺れさせるとも思えなかったし。

 そして、私も目撃した。理解した。でも受け入れられなかった。

 足は縺れてなんていなかった。最初から、一歩も踏み出せていなかったのだ。


「足が凍ってる?魔術……でもそんな、詠唱なんて…………」


 息を飲む。答えに辿り着いたから。信じられない、でも辻褄は合う。


「無詠唱……魔術……」


 誰かが呟いた。正しくそれだ。でもそれは一流の魔術師が長い訓練の末に身に付ける高等技術のはず。この場にいる中で使える者など皆無だろう。それを、あんな子供がいとも容易く……


 クロギリ君は鈍感な訳じゃなかったんだ。たかがDランク程度では脅威にはならないだけだったんだ。


 実力の片鱗を見せたクロギリ君に、彼等はどの様に接するだろう。

 嫉妬?それは当然あるだろうけれど、そんな感情は蹴飛ばしてでも接触を持とうとするはず。あれだけの即戦力、パーティに引き入れようとしない方がどうかしてる。


 ……あれ?誰も動こうとしない。隙を伺ってるのかしら?彼は今は食事中のはずだしそこまで慎重にならなくて……うわ、なにあの量!?ちょっと目を離した隙に何枚お皿重ねて──っていうかまだ食べるの!?


 がっついてる訳でもなく、むしろ見惚れる程上品なテーブルマナーで食べてるけどそれが恐ろしく速い。そして多い。これは声を掛ける隙も見つからないわ……


 力量も食事量も規格外の少年を呆然と眺めて、どれ程の時間を無為に過ごしただろうか。


 豪快な音を響かせてギルドの扉が開く。


「こんちはーっす!冒険者になりたいんすけどーー!!」


 続く新たな冒険者志望者。今度は胸を貸そうとする面倒見のいい先輩は、恐らく現れないだろう。

受付嬢の口調そのものが迷っているのもあるかも

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