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WORLD ONE ~遥かなる流星~  作者: 二毛猫
第二章 彗星の冒険者
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第二話 テンプレート

説明会ですね。用語の。

 迷宮都市メイデン。

 バラシル王国の影響力が強いソーメカ大陸で、どの国にも支配されることなく自治権を得ている都市。その背景には、やはり迷宮が大きく関与している。


 迷宮(ダンジョン)

 閉鎖された空間で濃密な瘴気の立ち篭める魔窟。それ故に多くの魔獣(モンスター)が出現するが、迷宮そのものが魔獣の一種とも言われている。

 深部に迷宮核(ダンジョン・コア)と呼称される核を持ち、迷宮核に近付けば近付く程瘴気の濃度は高くなり強大な魔獣が生み出される。

 迷宮は放置すると内部から魔獣が溢れ出すため、発見されると即管理され、迷宮核の回収に乗り出される。

 しかし、迷宮内部は何層にも分かれて構成されており、容易に深部へと辿り着けるものもあれば数年がかりでも未だ底すら見えないという大迷宮もある。更には一度攻略しても時間を置くと周辺の瘴気が再び迷宮核を形成するのだ。とてもではないが国家の力だけでは対処しきれない。

 よって、迷宮の攻略は他へと一任される事となる。死地へ飛び込み、戦果と名誉を持ち帰ることを生業とする者、冒険者へと。


 ──というのは、かつての話だ。

 ───────────────────────


「ウンザリするわね…………」


 カウンターの一席に座り、私は誰にも聞かれないよう口の中で小さく愚痴を零す。尤も、この喧騒の中ならそこまでしなくても同僚以外には拾われなかったかもしれないけれど。


 この迷宮都市メイデンは、冒険者の本場と言っても過言ではない。

 今でこそ冒険者という職業は依頼を受けて街のゴミ拾いなどの雑用から国家の要人警護まで、幅広く引き受ける何でも屋になってしまっているけど、元々は迷宮に潜って魔獣を倒す文字通り()()する者だったのだ。

 だから、ここは冒険者の本場と言って間違いない。

 何故なら、メイデンは世界でも有数の迷宮都市の中でも、七つの迷宮に囲まれた最大の迷宮都市だからだ。自然、冒険者達の持ち帰った魔獣の核は市場に多く流通し、それを求めて商人がやって来るなど何やかんやで人が集まる。そうすると都市は発展して、冒険者の数も増える。


 冒険者が増えると、どうしても粗暴な人や下品な人は一定数出てくる。職業柄、むしろそちらの方が多いかもしれない。で、そういう人はやっぱり問題も頻繁に起こす。力を振りかざして横柄な態度を取るのはよくある事だ。


 だから当然、彼等を管理する組織は必要になる。それが私が所属する組合、冒険者ギルドだ。

 そんな役回りに見えるかも知れないけど、実際その通り。特に私の様なギルド受付嬢は、主に冒険者達の対応を任されているため容姿も採用基準の一つだ。

 だから、自慢じゃないけど私も結構美人。しかも冒険者ってあんまり収入が安定してない上に良いイメージ持たれてる職業じゃないから出会いも少ないみたい。そういう事情もあって彼等にモテる訳なんだけれど────


「こうも無遠慮に視線向けられるとなぁ……こっちも嫌になるっていうか…………」


 ギルド内に設けられた飲食スペースに屯してる冒険者から、顔、そして身体を舐め回すような下卑た視線が突き刺さるのをヒシヒシと感じる。気付かれてないとでも思っているのだろうか?

 これが憂鬱の種になるのだ。しかしいつも見られてるから溜め息も漏らせない。だからこうして口を動かさずに愚痴を言う技術が身に付いてくる。日々磨きがかかってもうこれだけで稼げそうなくらいなのが腹立たしい。


 チラリと隣の窓口の同僚に視線を向けると──あっ、頬杖突いてる。接客業だって言うのに不機嫌なの隠しもしないで…………というかそれが物憂げな表情だって人気なのも納得がいかない。ただの不真面目なのに。


 私だって態度に出して主張できるならそうしたい。でもそんな事して下手したら叱責、減給ものだ。真面目が取り柄なんだから上司からの評価に傷を付けたくはない。そしてそんな思いから更にストレスが溜まり愚痴も増える、と…………悪循環ね。


 と、自分の思考だけで再び溜め息をつきそうになっていると、ギルドの両開きのドアが開く。反射的に気を引き締め、(乱していた訳ではないけれど気持ち的に)背筋を伸ばし居住まいを正す。


 入ってきたのは冒険者、ではなかった。ギルドでは、街中でも見覚えのない人。フードを深く被っているせいで顔はよく見えないけど……小柄……子供?依頼人かな。誰かの使いかしら?冒険者達はチラリとその子を見たけれど、すぐに興味を失ったように食事と雑談を再開する。


 その子はギルド内を軽く見回すと、厳つくて物騒な格好をした冒険者達を気にした様子もなく静かにこちらへと歩み寄ってくる。


 私は依頼者用の用紙と資料を用意し、顔を上げた時にすぐ傍まで来ていたその子に声をかける。


「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件でしょうか?」


 相手が子供といえど「僕、今日はどうしたのかな?」なんて対応をする訳にはいかない。プロである以上平等に接するべきだ。

 とはいえ、流石に次の返答は予想外だった。思わず信条を曲げてしまったのは仕方のないことだろう…………多分。


「はい、冒険者の登録をお願いします。字は書けますので代筆は結構です」


「…………はい?」


 我知らず変に高い声が出てしまった。でも仕方ない、仕方ないはず。子供らしい高音でありながら、大人びた落ち着きのある声。それでいて鼓膜に直接響くように澄んでいる。発言の内容も相まって一瞬呆けてしまった。


「え、ええとですね。冒険者というのは危険も付き纏う職業ですので、ギルドの規則で年齢制限が……」


「13歳以上である事、ですね。一昨日誕生日を迎えました、問題ありませんよ」


「……他の冒険者の方と問題を起こした場合、基本的にはギルドが介入する事はないので……」


「公共の迷惑となる場合は介入し処分を下すが、冒険者間のみの衝突の場合ギルドは極力干渉しない、把握しています」


 この子、ちゃんと予習してきてる。覚悟の上、か……仕方ない。元々条件を満たしてるのを私が勝手に引き止めてるだけだ。これ以上口は出せない。


「分かりました、それではこちらの用紙にご記入と、この魔道具(マジックアイテム)に魔力を流してください」


 登録を受理し、傍に置いてある用紙と魔道具を手に取り差し出す。

 この魔道具は、魔力を流した人の年齢・属性・魔力量といったステータスの一部を読み取るもので、全ての冒険者ギルドに置いてある。そこそこ高価な魔道具だが、より読み取れる項目の多い魔道具も存在し、下位互換のこれはある程度量産されている代物だ。

 中には身分を隠して冒険者になる者もいるので、名前の読み取れないこれは丁度いいと言えるかも知れない。


「はい、終わりました」


 と、速いな。しかもとても綺麗な字。高度な教育を受けているってことね。この子もそのタイプかしら。


 名前は……クロギリ。家名はなし、恐らく偽名。でも身元は深く調べないのが規則、言及せずにスルー。

 年齢は13、申告通りか。変声期もまだなのかと思っていたけど元々ああいう声なのね。

 属性は【火】【水】【風】【氷】……四属性!?しかも魔力量A+!!?ちょっ、もしかしてこの子、超将来有望なの!?


 ……いけない、顔に出さないように。どんな時でも崩さず乱れず営業フェイス…………


「はい、登録完了しました。こちらがギルドカードです。これはクロギリ様の冒険者としての身分を証明するもので、各国の冒険者ギルドでお使いいただけます。クロギリ様は初登録ですのでFランクからとなります。紛失した場合は再発行が可能ですが、金貨一枚いただきますのでご注意ください」


 冒険者のランクは上からS・A・B・C・D・E・Fの七段階。元は実力に見合ったダンジョンに挑むための挑戦資格だったが、現在では依頼の難易度、そして当人の実績を示す指標にもなっている。

 ちなみに、稀にカードをなくしたと言って本来より上位のランクを申告する小狡い者がいるが、冒険者のデータは全ギルドで共有されるようになっているので不正は出来ないようになっている。

 そういうとこ良くできた魔道具なのよねー、これ。


「ありがとうございます、それでは早速なんで──」


「おう、晴れて冒険者だなぁ。おめでとさん」


 クロギリ君の背後から、一人の冒険者が声をかける。

 というか、難癖つけようとしてる……?こんな子供相手に?


「どれ、折角だ坊主。お前さんが冒険者としてやっていけるかどうか、先輩の俺様がテストしてやろうじゃねぇか」


 底意地の悪そうなというか性根の捻じ曲がった様なというか、そういった印象を受ける薄ら笑いを浮かべて、その人物──Dランク冒険者の男はポキリと拳を鳴らした。


 あー……この人、視線が下劣な人の一人だ…………

受付嬢の口調が所々違うな、と思うかもしれませんが、その辺は学習した内容の復唱、教科書の引用してるってことで。

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