第一話 旅立ち
短いから連日投稿できる。
ある程度構想も練ってるつもり。
CCCも延長されて余裕が出来た。
「君の記憶で八年……短いものだったね。私にとっては特にそう感じるよ」
仮面の人物と、少年が向き合っていた。
仮面故にその表情は伺い知れないが、紡ぐ言の葉には名残惜しさがありありと滲み出ていた。
「はい。先生には本当にお世話になりました。餞別をいただくばかりではなく、何かお礼の品などを用意できればよかったのですが……」
少年は、礼の言葉以外何も持たない自分が口惜しそうに目を伏せる。
形容しがたい美貌の少年だった。
幼さの残る宝石を擬人化したかのような顔に、僅かに触れるだけで崩れ落ちてしまいそうなほど儚い印象を受ける陶磁の肌。神手ずからの被造物と言われても得心の念しかないだろう。
その少年が、柳眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべている。それを見て少年を責められる者がいれば、正体は心なき機械だろう。
「ううん、私も師匠からは沢山のものを貰った。だから、今度は私の番」
事実、先生と呼ばれた仮面の人物は少年を責めることなどなかった。いや、単なる慰めなどではなく、虚飾なしの本心なのであろうが。
「そうですか……分かりました。では、いずれ誰かに先生の教えを伝え、受け継いでいくことを僕にできる恩返しとさせていただきます」
「うん、そうして欲しい………………頑張れ」
「?」
小さな声で呟かれた言葉は、目の前の少年ではなく何処か遠くに向けられていたような気がした。
「……ところで、これからどうするの?」
「まずは冒険者になって、ランクを上げようと考えています」
「そっか…………人の中で暮らしていくなら、気を付けてね。なるべく顔を見せないこと、問題は起こさないこと、それから……」
「正体を知られないこと、ですね。分かっています、十分に注意するつもりです」
師の訓戒を、弟子が引き取る。深く、理解している事だ。
「うん………………元気でね」
「はい、先生もお元気で」
別れは言葉少なに。踵を返し、歩き出す。
振り向くことはない。視線を背中で感じるから。きっと見えなくなるまで見送り続けるのだろう。
少年は歩く。足取り軽く、決意は重く。
少年は歩く。志を胸に秘め、瞳に確かな光を宿し。
向かうは迷宮都市、命を賭して日銭を稼ぐ猛者達の街。
そこで少年は、上を目指す。目的の為の足掛かりとして。
「あ、魔獣だ」
狩っていこう。今日の飯の種はあれに決まりだ。
第二章、スタート