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WORLD ONE ~遥かなる流星~  作者: 二毛猫
第一章 金色の転生者
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第二十一話 子供の証

タイトル決まったので確定しました。

 サンタクロースという概念がある。


 クリスマスに誰もが寝静まり街に静寂が訪れた時、赤あるいは緑の服、白い髭と周囲の黒に見合わぬ特徴的な容姿の老人が、大きな袋を担いでトナカイの引くそりに乗るというこれまた派手な姿で夜空を駆ける。

 その老人の手に持つ袋には、子供達の夢と希望が溢れんばかりに詰まっているという。

 そして世界中の子供達の家に一晩という限られた時間の中、驚異的な作業効率で望んだ玩具を届けるのだ。

 その正体が誰であるか、等というのは問題ではない。

 架空の人物である、不法侵入の犯罪者である、商事会社の陰謀である、等も一切関係がない。


 重要なのはただ二つ。

 サンタクロースは子供の望みを叶える存在である事。

 そして、僕が子供である事だ。

 ───────────────────────


 何故、サンタクロースが頭に思い浮かんだか。


 それは、目の前の()()がそれを連想させたからに他ならない。


 次を願った僕に、それをシーサーペントの命脈を断つという形でもたらした者──


 そこにサンタクロースを見出したのだ。


 サンタクロースの住所が北極である、という説も関係があるのかもしれない。


 その人物の容姿のみを見れば、サンタクロースとは縁遠い。赤や緑の服装でも豊かな髭を蓄えている訳でもない。いや、もしかしたらそうなのかもしれないのだが、よく分からない。

 顔に仮面を着けている事は分かるのだが、輪郭が霞みがかったようにぼんやりとしていて、姿形が掴めない。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような……


「えっと、大丈夫……かな」


 思考を遮るように、仮面の人物が声をかけてきた。

 確かに声を聞いた筈なのだが、その声音すらも脳内で再生しようとしても靄がかかって判然としない。

 体格・容貌・性別が一切不明の徹底した情報秘匿だ。相当高度の魔術あるいは魔道具か。


 それより、返事をしなくては。肋骨骨折、靭帯損傷など全身に激痛が走る有様だが動けなくもないし口は動かせる。礼は尽くさねば。


「……はい、お陰様で。この度は危うい所を救って頂き、感謝の言葉もありません。若輩の身ゆえ十分な礼を用意する事は出来ませんが、この御恩は僕の全てを尽くしてでもお返ししたく思います」


 悲鳴を上げる四肢に鞭打って居住まいを正す。

 正座し、膝の前に両手を置き、前屈する。地面から五センチまで頭を下げる最敬礼だ。作法では3・3・4で元の姿勢に戻るが、日本ではないし深い感謝の意を示す為にも長めに時間を取ろう。


 ……


 …………?

 相手方の反応がない。顔を上げるのを待っているのだろうか?確かに顔を伏せたままでは会話もしにくい。態度で伝える感謝も十分だろう。今度は行動で表すべきだ。


 顔を上げると、仮面の人物は先程と変わらぬ立ち姿で…………いや、絶句、動揺している?


「そんな…………どうして…………」


 漏れ出る言葉の端から狼狽している様子が見て取れる。何をそれほどまでに心を乱すことがあるというのか。


「あの、どうかされましたか?」


「……っ、い、いや、なんでもありませ…………ない、よ」


「そうですか……それならいいのですが」


 なんだろう、もしかして結構シャイな人だったのかな?あまり他人とのコミュニケーションに慣れていないのかもしれない。こちらから配慮しよう。


「申し遅れました、僕の名はクロム・シューティングスター。バリタインの出身です。貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 まずは会話の取っ掛かりから誘導していこう。恩人に対して主導権を握るのも心苦しいけれど。


「あ、えっと……私の名前、は…………ア…いや……アエク……そう、アエク、です…じゃなくて、だよ」


 偽名かな。アレクに似てるな。


「アエクさんですか。良いお名前ですね」


「あ……そう、かな…………ありがとう」


 アエクさんは気恥しそうに顔を背け、髪を弄びながら礼を言った。

 照れると態度に出るタイプのようで仮面越しでもよく分かる……異様ではあるけれど。


 では、本題。


「それでですね、アエクさん」


「何でし……かな?」


「先程の御恩もお返し出来ていない上に更にお願いするのは申し訳ないのですが、僕をどこか人里まで送ってはいただけないでしょうか」


「人里……?バリタインではなく?」


「はい、バリタインでなくとも構いません。ここから近い国まででいいんです。頼む事はできませんか?」


 大陸を離れ、強力な魔獣が闊歩するこの北極を自力で脱出することは難しい。どういった方法で、また何の目的でここへ来たのかは不明だが、アエクさんを頼った方が安全かつ確実だ。


 王城での暗殺者及び森での襲撃者達の素性が分からない以上他国への来訪は大きな危険を伴うため、バリタインまで護送してもらう方が確実だが、アレクさんにそこまで迷惑はかけられない。


 ……あれ、何か違和感がある。

 不意に感じた何かの齟齬、その正体を掴む前にアエクさんからの返答があった。


「……分かった、引き受けるよ」


 快諾。吉報。これで帰路の途中までは安泰といえるだろう。


 違和感がある。自分の中で、歯車がズレているような感覚。


「ありがとうございます、アエクさんのような方が付いていてくださるなら僕も安心できます」


 違和感。違和感。違和感。違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感


「任せて。私が責任を持ってクロム……君?を安全な所まで送る。私が……守るから」


 仮面の奥で、決意を固めた様子の──強者が、そう誓った。




 ────────ああ、そうか。


 ようやく歯車が噛み合った。違和感の正体が露呈した。


 僕は、他人に甘えていたんだ。


 アレクに嫌忌されたのも、襲撃者に圧伏されたのも、魔獣に蹂躙されたのも、全ては僕の至らなさ、無力さが招いたことだ。


 もし、暗殺者を殺さずに制圧する事が出来ていれば。

 もし、襲撃者を鎧袖一触に蹴散らす事が出来ていれば。

 もし、あの日国王に吐いた大言に相応しいだけの力が僕にあったなら────────こんな事にはなっていなかった筈だ。


 これは僕が父に、母に、リセリアさんにアレクに国王にクラウス団長に使用人の皆に貴族の方々に国民全員に甘えていた結果だ。


 クラウス団長を八年で超えられる?ああ、真っ当に修行していればそうだろう。そんな積み重ねなど今まで一度としてしていないが。


 成長が速すぎるから他人に速度を合わせよう?その他人が命を賭して築き上げてくれた平穏の中でならそんな戯言も通用しただろう。


 いい加減に理解しろ。ここは地球じゃない、日本じゃないんだ。

 敵はいつ何処に誰が何人で何の為に来るかも分からない。分かるのはその敵は仮想でもなんでもなく明確に存在するという事だけ。

 ここはそういう世界なんだ。魔獣も魔族も敵対国家も存在し得なかった地球とは違い過ぎる。探せばいたかもしれないが僕は知らない。近代兵器や怪異の類程度の相手しかしたことがないのだ。


 生温い世界で生きてきたが故に、僕自身もその温度に平衡してしまった。

 ならばそれを捨てろ。この冷たく苛烈な世界に適応するんだ。


 常在戦場の構えでいろ、それが欠けていたからこそ堕落したのだ。

 己が才に胡座をかくな、研がない名刀などなまくらに過ぎない。

 自らの全てを他者に委ねるな、サンタクロースの施しを待つ子供から脱却しろ。


 強く……誰よりも強く在らねばならないのだ。


 その為に今取るべき選択は?

 決まっている。あらゆる道は模倣に始まる、ならば力もまたそれに他ならない。


「すみません、やはり護衛の話はなかったことにさせてください」


「……え?ど、どうして?」


 突然の依頼撤回に困惑し切った様子を見せる。無理もない。あの悔恨、決意は僕の内面のみの変化だ。時間にして瞬き程もなかった。請け負った瞬間にキャンセルされたと思われても仕方がない。


 ただ、それはアエクさんの力量を軽んじての事ではない。むしろその実力を見込んでいるからこそ次に繋がるのだ。


「重ね重ねの非礼をお詫びし、伏してお願い申し上げます」


 再度膝を付き、額を地面に擦り付ける。零下の大地が刻一刻と接触部位から熱を奪っていくが、敢えてそれを促進させるかのように力強く押し付ける。


「ちょ、ちょっと…?え、何?」


 混迷を極めるアエクさんに目もくれず、頭部を沈みこませる勢いで懇願する。


「どうか……どうか僕を鍛えてください。力をください。魔獣にも、魔王にも、世界中の誰にも負けない力を…………何も取り零す事のない力を、授けてください………………」


 我知らず、握りしめた手が氷を抉り取る。

 熱い雪解け水がまつ毛を伝い、熱を忘れた地表を穿つ。


「それは……私に師事するということ?故郷に帰るのではなく?」


「その通りです。今バリタインに……両親の庇護下に帰ったとしても、僕は必ず後悔します。だから、まだ帰れません。あの日の言葉通りに、家族も友達も守れるくらい強くなるまで、帰る訳にはいかないんです…………!」


 魔王討伐の確約。あの言葉は一切重みのないものではあったけれど、決してあの場限りの偽りではない。


 覚悟はあった。足りなかったのは熱意だ。

 今、全てのピースが揃った。この北極を融解させんばかりの炎を胸に、僕は志を改める。


 誰かをを守ろうとするなら、誰よりも強くなければならない。

 故に、僕はこの世界で最強を目指す。

 界を渡って尚唯一無二の才を確約されている僕ならば、それが可能な筈だ。


「…………この選択でどうなるのかは分からない。分からないけど……これで断れる訳ないか」


 口を開かず何かを悩むような様子を見せていたアエクさんは、誰に聞かせるでもなく独り言のようにボソリと呟き、


「分かった、私がクロム君を鍛える。きっと……いや、必ずクロム君は私よりも、世界中の誰よりも強くなるよ」


 そう、断言してくれた。

 でもそれは自身の表れというよりは、既に確定している運命を語るような言葉だった。









「あの、すみません。顔を見せて頂くことは出来ますか?」


「それは…………駄目。もしこの仮面が外れたら、私はクロム君の師ではいられなくなるから」


 よほど見られたくないらしい。

キーワードが出てないのがポイントだったり。

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