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WORLD ONE ~遥かなる流星~  作者: 二毛猫
第一章 金色の転生者
20/35

第十九話 天才の上

今日から修学旅行のため急いで書き上げました。

投稿される頃は海外ですかね

 ───────────────────────

 エラー:UNKNOWN

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 やはり駄目か。

 流星眼が機能しないことから分かるように、目の前の男達は両方とも今の僕じゃ敵わない相手だ。父様やクラウス団長に比べればまだ劣っているように見えるが、それでも絶望的な事に変わりはない。


「お、あれが噂の流星眼か!じゃあもうこれ確定じゃね?あいつで間違いないだろ!」


「ああ、このような場所に居る以上影武者ということもないだろう。あちらから明かしてくれたようなものだ、本人確認も必要なかった。良い予定外だ」


 男達の会話に歯噛みする。流星眼を見せたのは軽率だった。相手はまだ僕の正体に確信を持っていなかったのか。

 ……ということは、元々の狙いは僕じゃなくてアリスだったのか?


 服装などから見て恐らくアリスはそれなりの名家の令嬢だろう。ならば目的は誘拐、身代金の要求か?それならば僕もターゲットである事にも納得がいく。


 咄嗟に背後に庇ったアリスを横目で見る。

 不審な男二人の突然の登場に怯えているようだ、僕の服の裾を掴んで細かく震えている。無理もないが、足を竦ませているようでは困る。

 小声で、極力唇を動かさないよう話しかける。


「アリス、走れるかい?」


「…………え?う、うん。なんとか……」


「なら、合図をしたら全力で逃げるんだ。その間は僕が時間を稼ぐから」


「そんな、でもそれじゃあ……!」


 思わず声を出してしまったアリス、聞き咎めた男達がすかさず声を張り上げて介入してくる。


「はーいはいはい、なに話してんのか知んねぇけどさぁ。とりま大人しくしててくんね?こっちとしても、なんてーの?手荒な真似?とかは避けたいんだわ」


「お前達の抵抗も予定の内ではあるが、時間短縮になるならそれに越したことはない。抵抗の意思がないのなら両手を頭の後ろに組んで膝をつけ」


 一人は軽い調子で、もう一人はやや神経質そうに早口で降伏を勧告する。この人たち交互に話すルールでもあるのだろうか。


 現実を直視する事に専念しよう。

 第一目標はアリスを逃がす事だ。それにはまず隙を作らなければいけないが……何とかしよう。


「従えば危害は加えない、という事でいいですか?こちらとしても勝算のない争いは避けたいのですが」


「お、その通り!そこは間違いねぇから安心してくれていいぜー」


「賢明な判断だな。類を見ない神童という噂もあながち嘘ではないようで何よりだ」


「それは良かった。……さぁ、ここは大人しく言う通りにしよう」


 振り返って背後のアリスに向き直り、説得しているように見せかける。気付かれないようウインクで済ませたが、その意図は彼女に伝わっただろう。躊躇いがちの瞳で僕を見て小さく頷いている。


「そろそろいーかー?こっちも暇じゃねぇんだよ、ただでさえ隣のヤツが時間にうるせぇせっかち野郎からよー」


「お前が気にしなさ過ぎるんだ。それにこいつらにかける時間はまだ三分二十八秒の猶予がある。予定通りだ」


 遭遇してからの経過時間は一分三十二秒。五分だけ時間を割く予定だったのか。


 ともあれ、これ以上時間をかける訳にはいかなそうだ。実行に移そう。横目で二人の男を観察し、


「お待たせしました、今言う通っ!走って!」


 振り向きざまに手の中の物を投擲。相手の呼吸のタイミングに合わせかつ言葉の途中に仕掛ける事でタイミングを外す小細工も加えてみた。それと同時に合図し、指示通り走り出すアリス。


「っ、お!?っんだこれ、虚仮威しかよっ!ガキの癖にビビらせやがって!!」


「しかし、これは明確な反抗だぞっ!やけに素直に恭順するとは思っていたが油断を誘うためか。小賢しいな、だが予定通りだ!」


 投げたのは、森で拾った木の実。元々食糧目的で来ているのだ、ポケットに入れていたそれを振り向いて側面が死角になった際に抜き取った。

 ただの木の実と侮るなかれ。肩と手首を重点的に強化した右腕から放たれたそれはプロ野球選手の剛速球並の速度を叩き出す。しかし無理し過ぎた、結構痛いな。


 とはいえ敵もさる者、言動が現代日本の若者のような男を狙ったのだが、その程度は軽く片手で止められてしまった。


 しかし彼等の気を引きアリスを逃がす事には成功した。後は彼女が逃げ切る時間を稼ぎつつ僕も逃れられれば完璧だ。


 しかし、果たしてそう上手くいくか……?


「風精よ、幾重にも断ち斬れっ!土精よ、壁となせ!」


 複数の風刃を乱れ飛ばし、地面を隆起させ土壁を作って男達の視線と進路を遮断する。しかし、この程度の妨害がどれだけ通用するだろうか。


「あぁ?風の精霊術か?って土もかよ!つーかガキだってのに何で短縮詠唱なんかできんだよ、マジで面倒くせぇじゃねえか!!」


「多重属性だとは聞いていたが、まさか五重属性とはな。しかもそれなりに使いこなしている。舐めてかかると逃げられるかもしれんぞ。悪い予定外だ」


 やはりあの程度の風刃では痛痒にも感じないか。この分では土壁も大した障害にはならないだろう。

 質を上げようにも詠唱する時間はない。数を重ねるしかない。


「土精よ、連なる壁となせっ!!土精よっ!」


 魔力がガリガリと削られていくが同じ土壁を複数展開し、少しでも時間を稼げるよう努める。このまま逃げおおせることも出来なくはなさそうだがそうすると今度はアリスが狙われる事になる。


 それに今、気になる事を言っていたな……


「おらぁっ!ちっ、まだあんのかようっぜぇなぁ!!足の一本は切り落とすか!?」


「ふざけるな、そんな事をして万一死ねば本末転倒だろうが。極力後遺症の残らないよう捕らえるんだ」


「くっそが俺が手加減とか細けぇこと苦手なのは知ってんだろがよ!」


 壁も紙の如く容易く破られている。そもそも硬度も高度もさほどないものだ、あれだけじゃすぐに追いつかれる。罠を仕掛けないと。


「大した高さの壁ではない、飛び越えろ!」


「それもそうだな、っしゃ行くぞオラァ!!」


 きた。すかさず土壁に手を触れ、その形状を変える。横幅を削り、上方へ棘を伸ばし男の体を包むように捕縛する。土牢に囚われたのは現代日本男(以降男A)。


「くおっ!?精霊術で術式改変かよ!?マジでなんなんだこのガキ!」


「そういう規格外だからこそ意味があるのだろう!こちらで捕らえる!」


 もう一人の予定男(以降男B)は側面から回り込んできた。その速度は僕の身体強化の比ではなく、眼を強化していなければ動きを捉えられなかっただろう。

 まあ二手に別れるのは当然の事なので予測していたし、だからこそ強化して罠も仕掛けているのだが。


「なにっ!?」


 回り込んできた男Bが僕に肉薄しようと踏み込んだ時、その足が着地した地面を踏み抜き男のバランスが大きく崩れた。男の歩幅、壁の向こうからこちら側までの最短距離等を計算し片足分の落とし穴を作成しておいたのだ。


 体勢が前のめりに崩れた男B、このまま顎を蹴り抜けば砕けはしなくとも昏倒させる事は可能かもしれない……のだが、それでは悪手だと直感する。


「撃ち抜け!」


 事前に前半を詠唱しておき、後から後半を唱える技法、詠唱待機。土壁で時間を稼いでいる時に用意したそれにより即座に魔術を発動、男Bの顎を土の柱が打ち据える。

 しかし───


「……侮っていたと言わざるを得ないな」


 土柱は届いていない。5cm先で右手で抑えられ、それ以上の動きが出来ずにいる。

 恐らく、不用意に蹴りを繰り出せば掴まれていただろう。地力に差があり過ぎた。


 なにせ、今まで彼等は一切の身体強化を除き、魔術を行使していないのだから。相当に手加減されている状況だったのだ。


「これ程の逸材ならば少々手荒に扱っても壊れる事はあるまい。いい予定外だ。スギノ!お前は逃げた方を追え。俺はこっちを片付ける」


「あいよー。ヘマすんじゃねーぞ、イナッチ!」


 いつの間にか土牢を抜け出していた男Aが、その言葉と共にアリスの逃げた方へと駆けて行った。


 スギノ、杉野と言ったか!?

 彼等の使用する言語こそこの世界のものだが、その発音だけは日本語そのものだった。まさか……


 いや、そんな事よりもだ。まずい、一人取り逃がした。あの土牢も鉄等とは比ぶべくもない硬度だが、僅かな間だけでも抑えておけると思っていた。


 壊されただけだったならばまだよかった。まさか僕が気付くほどの音を立てる事なく、ましてや土牢に()()()()()()()()()()脱出されるなど予想だにしていなかった。

 何とかしてこの場をを切り抜けて彼女を助けに行かないと…………!!


「さて、ここからは本気でやらせてもらう。何、案ずるな。お前達の身柄を確保するのが目的だからな、殺しはしない」


「……安心しました。それなら僕も気兼ねなく抵抗できるというものですよ、()()()()さん」


「……ほう?クロム・シューティングスター、やはりお前は当たりのようだな」


 その反応で確信する。彼等の目的は僕のような転生者だ、彼等はこの不自然な転生にも関与していると思われる。

 ではアリスが狙われた理由は?彼女も転生者なのか?彼女の年齢に見合わぬ能力の高さも僕が情報を読み取れなかったこともそう考えれば納得がいくが……果たしてそうなのか?


 …………今はそれどころじゃない。処理能力の全てを目の前の男に集中して対処しないと、アリスと合流することもままならないだろう。


 接近戦は危険。男Bの技量がどれ程のものかは不明だが、僕の矮軀ではあまりにも不利だ。リーチや膂力の差は歴然としている。

 かといって魔術で対応しようにも、ここまで接近されていては詠唱を始めた瞬間に距離を詰められ妨害されるだろう。


 どのみち白兵戦しかない、か。仕方ない、一か八かだ。


「風せ」

 首へと伸ばされる手を右足を引き半身で、続く裏拳を背後に倒れ込むように仰け反り回避し

「いよ断」

 地面に両手を付き、裏拳の反動で放つ追撃の左手を蹴り上げその勢いのまま両腕のバネを使って更に後方へ飛び─戻ってきた右手に足を掴まれた

「ち斬れ!」

 ()()()で手と接触している大地を隆起、両腕で男Bの腕ごと身体を跳ね上げ風の刃を顔面に叩き込む。


 何とか上手くいった。

 身体能力で上回る男Bを視線・筋肉の動きなどからの先読み、自分ならどうするかというシミュレートをした上での直感で捌きつつその中で精霊とのリンクが切れないよう詠唱を中断させることなく維持し尚且つ今まで隠していた無詠唱による魔術の即時発動による不意打ち。これが成功したのは周囲の空間把握、嗅覚に味覚など不要な情報の全てを断ち切って集中した結果だろう。身長差により相手の体制が悪かったというのも大きい。


 能力の限りを尽くし思考を全て戦闘に向けて更に運に頼って漸く一撃入れられるかどうか。

 だからこそその一撃には十分な殺傷力を持たせたのだが……


「なかなかやるな。いや、油断するまい見縊るまいと重ね重ね実感していたのだがな。お前は上を行った。良い……いや、面白い予想外だ」


 その男は、僕の想定を超えていた。

 無防備な顔面に直撃して無傷。以前襲撃者の首を切り落とした時程の魔力は込められなかったが、この距離だというのに。

 いや、無防備……ではないな。男Bの顔を覆うような何か……魔力、か?


「しかしお前の体術は年齢にそぐわぬ程洗練されているが、比較すると魔術は少々稚拙だな。天賦の才は持ち合わせているが、それに頼るのみでまともな修練を積んでこなかったと見える」


「……っ」


 稚拙、確かにその通りだ。返す言葉もない。

 適切な量の魔力を注げておらず、消費量と結果が釣り合っていない。

 術式が他人任せの精霊術しか習得していないため、切れる手札がほとんどない。


 全ては僕の怠慢の結果だ。

 片足を掴まれて無様に逆さ吊りにされている現状は自業自得、滑稽という言葉が相応しい。


「尤も、その齢でこれは異常という他ないだろう。無詠唱など簡単に辿り着ける域のものではないぞ。転生者ならば飲み込みも早い、伸び代は計り知れんだろうな」


 男Bが何か言っているようだが、そんなものを聞いている余裕はない。気掛かりなのはアリスだ。彼女は──


「よ、そっち終わっ……てるみたいだな。しかし結構暴れたんだなー、こっちなんか楽なもんだったぜ?」


 足音もなく、風のように男Aが現れる。脇にはぐったりと力なく顔を伏せたアリスを抱えている。気絶させられたのか。


「ああ、だいぶ手こずらされた。異世界転生者というものが皆こうならば、早期に確保しなければ成長して手に負えなくなるだろうな」


「やー、それはないんじゃねぇの?そいつが特別なだけで、大体の奴は平和な世界でぬくぬくと暮らしてきた一般人だろ」


 異世界転生者?まさか、僕と同じような者は他にもいるのか?だとすれば、僕の地球での最後の場所、あのクラスにいた──


「おっと、そいつまだ意識あんのか。ほいっと」


 思考の最中、首筋に走る衝撃、鈍い痛み。当て身か。いや違う催眠魔術だ。意識が朦朧とする。駄目、だ…………

 唇を噛み、痛みを持って眠りの淵に踏み止まる。

 アリ、ス………………


「ありゃ?効きが悪かったか。ほんっとしぶといなぁこいつ」


「丁度いい、この状態なら後でやる予定だった記憶操作も前倒しにできる。良い予定外だ」


 男、Bの手が、目の前に、かざ、される……


「ああ、あれな。意識がはっきりしてない、魔力も消耗してるって条件揃えなきゃ使えない上に効果発揮も遅い効率も悪いダメダメ要素てんこ盛りのイナッチのクソ魔術!」


「喧しいぞ、人間には適性というものがあるんだ。そもそも習得しようともしないお前よりはマシだろう。始めるぞ……条件達成……術式構築……魔力循環……完了。術式起動……記憶解析………………改竄開始」


 きお、く……かい…………ざん…?……きえ、る……?……うば、わ……れる…………?

 …………………………………………そんな事は、認められない、受け入れられない


 残った魔力を掻き集め、なければ無理やり絞り出し、全て、余すことなく全てを精霊に譲り渡す。

 二次被害なんて関係ない。荒ぶる、純粋な破壊の顕現を……!!


「……っ、ぐあぁっ!?何……炎だと!?馬鹿な、何処にそんな余力が……!!」


「っておい、ヤバイぞこれ!木に火が点いて……くそっ、延焼しやがった!人知れず森の中で姿を消しましたって筋書きじゃなかったよ、おい!?」


「くそっ、悪い予定外だ……!!一先ずは消火しろ!俺はこいつの記憶を…………!!」


「…………おい、おいおい、おいおいおいおい!!?向こう、森の反対側!!なんか近付いてきてるぞ、やべーぞはえーぞ!!?」


「なっ……馬鹿な、シューティングスターか!?この火を感知したのか!!ああくそ、最悪の予想外だ!!今すぐ逃げるぞ、転移の水晶は!?」


「ああ!あるある、あるぞここに!こんな超々レア物こんな時じゃなきゃ使わねぇっての!!配給してくれてありがとう!備えあれば嬉しいなだクソッタレェ!!」


「無駄口叩いてる場合か!さっさと起動しろ、座標は船上の筈だな!?」


「確かそうだよ!!けど低確率でバグるって話だから恨むんじゃねぇぞぉぉぉ!!!」


 喧騒の中、予定を狂わせ混乱させたという達成感はなく、ただ結果を変えることが出来なかったという無力感に心を満たされたまま……意識が途切れた。

怠慢の結果タイマンで敗北、と。深夜のテンションは後が怖いですね。

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