第一話 気が付けば転生
この作品は主に自己満足を原動力に執筆しています。ですので、拙い文章や設定を詰め込み過ぎていたりするなど至らぬ点が多々あると思われますが、ご了承ください。
自分というものを理解したその日から、心にぽっかりと隙間が空いていた。
昔から特技と呼べるものがなかった。
学業、スポーツ、武術、芸術。一切合財ありとあらゆる何もかも、誰にも負けないと胸を張って他人に誇れるものを持っていなかった。
だって、何をやってもできるのだからのだから。
胸を張ることはない。特別な事など何もないのだから。
だから、いつまでも隙間を埋められなかった。
誰もが、自分とは異なっていた。
姿形も言語も文化も同じようで、その実根本から決定的にかけ離れていた。
誰も彼も唯の一人も例外なく、自分に遠く及ばない。
誰だって、他人は等しく自分より脆く儚く容易く崩れて潰れて折れる。
だから、いつまでも隙間を埋められなかった。
だから、無理矢理隙間を埋めることにした。
空洞に合わない異形のものを、押し込んでは空いて押し込んでは空いて────そうして自分は薄氷の上で安寧を保ってきた。
だけど、一度ならず考えた事がある。詮無き事とは思いつつ、夢想することを止められなかった事がある。
もし、別の世界に行けたなら。違う自分になれたなら。
今とは違う、新しい人生があったなら。
自分は、僕は隙間を────
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……さて、どうしてこんなことになったんだったかな。
まずは記憶を確認しよう。僕の名前は│黒霧流星。職は現在なし、便宜上学生。三神市立三神中学校二年生だ。
そして僕が何故今自身のプロフィールを振り返っているのかといえば、単純に現状に対し戸惑っているから。
いつも通り親友と談笑しながら登校し、教室の自分の席に着いてホームルームにやって来る先生を待っていたところ、突如視界全体、いや教室全体が眩い光に包まれ、気が付けば見知らぬ場所で見知らぬ女性の腕に抱かれており、やはり見知らぬ男性と共に自らの顔を覗きこまれている。
よし、記憶に欠損・違和感等の不備は見られない。問題はなさそうだ。
次に現在把握している情報を整理していこう。
現状について、結論を述べると異世界転生であると推測される。死んだ覚えはないけど、そういうパターンもあるということだろう。魂だけ世界を渡ったとか。
根拠としては、まず身体が思うように動かせない。満足に頭を動かすことも出来ない事から首が据わっていないと思われる。
次に、言葉を上手く発することが出来ない。精々あー、や、うー、などのうめき声のようなものが出るのみ。この事から声帯も発達していないことが分かる。
そして、周囲の人々がやたらと大きく見える。相手が巨人でもなければ自分の体が小さくなっているということになるだろう。自分の腕をなんとか挙げて見てみれば、明らかに未成熟な小さい手があったので間違いないだろう。
これらの事から己の体がまだ産まれて間もない新生児のものへと変化していることが分かる。そこから導き出されるのが、転生という訳だ。
これは日頃親友から異世界転生物の小説を勧められ、読んでいなければすぐには出てこなかった結論だろう。ちなみにリアリティに溢れ過ぎているので夢の線は除外とまではいかないまでも可能性は低いだろうと判断。そもそも今まで夢をみた事はない。
さて、それで異世界であるという点に関しては、さして考えずとも把握出来る。
何故なら……
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名前:クロス・シューティングスター
種族:人間族
年齢:24
属性:【火】【土】【雷】
魔力:B+
魔術:精霊術
特性:流星眼
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僕の顔を見る男性の前にこんなものが浮かんでいたからだ。小説等にもよくあるステータスだろう。最早慣れ親しんだものだ。
それはそうと何だか二人の僕を見る顔が驚愕の色に染まっているような……?