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WORLD ONE ~遥かなる流星~  作者: 二毛猫
第一章 金色の転生者
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第十二話 謁見と使命 天才の心構え

学校やらぐだぐたイベントやら葬式やらで忙しかったです。

でも今回は結構長めです。


……長いだけで内容薄いかも知れませんが。



「髪型よし、服装よし、ドレスコードよし、と。やっぱりいいわ!うちの子は何着ても様になるわねぇ」


「二時間かけてこれに落ち着いたんですね」


 ほう、と頬に手を当てて吐息を漏らす母。


 対する僕はキッチリと整えられた髪に子供サイズのモーニングコート、シルバーのネクタイといった出で立ちだ。





 魔術ショックから数日後の事である。


 何がある、と問われれば、今日は第一王子の五歳の誕生を祝うパレードがある、と答える。ついでにのお披露目でもあるらしい。


 王子の名はアレクシル・A・バリタイン。何度か会ったことのある父が言うには、「手が付けられない中々の悪戯坊主」らしい。


 部屋からの脱走、厨房でのつまみ食いなどは当たり前。メイド達に鼠を放ったりうたた寝している国王の顔に落書きをしたりなど、かなり暴れ回っているらしい。


 父も何度かターゲットになったが、全て看破、回避したという。その結果、妙に懐かれて「シューティングスターのおじさん」と呼ばれているとか。


 素行がどうであれ、この国の王子だ。その記念すべき日に礼を失するような真似はできない。


 とのことで、母はメイドを押しのけてまで僕を着せ替え人形かマネキンのように扱った。


「白も素敵だけど黒も似合うわね、綺麗な髪がよく映えるわ。ほら、どうかしら、今の感想は?」


 そういって母は立ち鏡を指し示す。そこに映るのは、間違いなく僕だ。


 陽を受けて輝く黄金の髪に、紫水晶を嵌め込んだかのような瞳。


 そのような色彩、そして年齢の違いはあれど、顔の造形は以前と変わらぬ僕だ。


 そう、黒霧流星(以前)と。


 これか何を意味するのかは分からない。しかし、これはこれでありがたい。


 かつてと今の自分を同一視しやすいし、何より友人が同じくこの世界に来ていた場合、僕と認識しやすい。


 適当に感想を述べて、本題に入ることにする。


「それで、母様」


「なあに?」


「パレードでは、僕はアレクシル殿下の隣でよろしいのでしたね」


「ええ、殿下が主役だからそちらを立たせてほしいのだけど……無理そうね」


「?ご安心を、殿下を差し置いて出しゃばるような真似はいたしませんよ」


「そうね、貴方はそのように振る舞うでしょうね。でもね、そういうことじゃないの。貴方は否応なしに周囲の目を引き付けちゃうのよ」


 はて、言葉の意味がよく分からないな。シューティングスター家は目立つから、完璧に隠形しろということか?しかしそれほどならばそもそも隣などに配置する必要は……あ。


「なるほど、了解しました。僕は陰から護衛に徹すれば良いということですね、お任せ下さい」


「?何を言っているの、隠れたりしないで堂々としてなきゃ駄目よ?メインではなくとも国民への貴方のお披露目も兼ねてるんだから」


 あれ?違ったのか。まあそれもそうか、いくらなんでも五歳にそのような役目は任せないか。ではどういうことだ?


「もう、クロムにしては察しが悪いわね。いい?クロムのお顔が綺麗過ぎて、皆貴方に見蕩れちゃうのよ」


「なんと」


 びっくり。容姿の問題だったとは。


 そういえば、地球でもそのようなことを姉や友人、初対面の人にさえ言われた覚えがある。顔は同じだが、文化が違う以上評価、美的感覚も違うものと思っていた。以前からよく周囲から視線を感じたが、そういう事だったか。


「では、どうしましょう。なるべく周囲の気を引き付けないよう立ち回りはしますが」


「ええ、お願いね。でも一切注目されないのも悔しいから愛想もよく手でも振ってね」


 なかなか難しいことを要求する。複雑な親心、というところか。


「承りました。殿下を立たせかつ、自らにもある程度興味を引き付けるよう尽力します」


 ま、そのくらいならば加減を間違えなければ何とかなるだろう。



「ところで、パレードは昼からで、今から国王陛下への謁見でのため登城するのですよね?何故今この服を?」


「そんなの、私が見たかったからに決まってるじゃない!息子の晴れ姿を独占できるチャンスよ?逃す手はないわ!!」


「なるほど」


 人の心を正確に推し量るのは難しい。それが可能なのはクラスメイトの一人だけだった。彼女、元気にしているだろうか。口撃力はあっても武力はないからな……この世界にいたら大変だろう。


 ───────────────────────


 別の礼服に着替え、馬車で出立する事僅か三十分。暫くは人形のように大人しくしていろ、との事だったので母やメイド達に玩具(おもちゃ)にされてもノーリアクションで通した。お人形みたい、と喜ばれたが。古参の使用人はとにかく気安いのだ、ギルベルトさん以外。


 城門前に到着すると、父に手を引かれてその場を逃げるように馬車から降りて歩き出す(ただし母も来る)。到着とともに開かれた城門をくぐり、城内に足を踏み入れる。



 これが我が国の象徴、白亜の城の内部か。姿を映し出すほと磨き上げられた床に、白を基調とした壁、天井で煌々と輝きを放つシャンデリア……某有名RPGと大して変わらない。差異は精々規模と装飾くらいのものだろう。


 階段の裏を覗きたいな、宝箱があるかもしれない。


「クロム、そろそろ謁見の間だ。お前なら心配いらないと思うが、あまり失礼のないようにな」


 顔を動かさずに目だけで城内を観察していると、父に声をかけられた。


「分かっています、僕もこの国の民ですからね。相応の礼は尽くさせていただきますよ」


「おう。といってもまあ俺達は神の血統だしな?それなりにぞんざいでも構わないんだよ。現に俺は未だに敬語とかいまいち分からないからな!」


「そうね、貴方は昔から畏まったりなんてできなかったわよねぇ、それでよく叔父様に怒られてたわね」


 ワハハ、と胸を張って笑う父と、昔を懐かしむように、クスクスと笑う母。ふむ、多少の無礼は見逃されるという事か?しかし……


「ですがそれは父様だからこそ許されることなのでしょう。僕のような若僧、とすら呼べないような子供にぞんざいに話しかけられてはあまりよい顔はなさらないのではないでしょうか?」


 仮にも一国の王なのだ、その様な真似を許しては国家の威信に関わるだろう。


「いや、そんなに硬く考えなくても……いや、いいか。実際見た方が早いしな。……ほら、この先が玉座、我等が王がふんぞり返ってる場所だ。ま、気楽に行こうぜ」


「あら、ふんぞり返るなんて失礼よ。ほとんど座ってることなんてないんだから」


 城の奥、一際華美な装飾の施された扉の前で、僕の緊張(していると思われているのだろう)をほぐすためか、父は僕の頭をポンと軽く叩く。母も何か言っているがどういう事か?まあいいか。


 さて、いよいよだ。


 両脇の衛兵がゆっくりと扉を開ける。その先に見えるものは―――――



「やっときたなおじさんよぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 靴の裏だった。


 身長声色からして年端もいかぬ少年それがドロップキックを放っているようだ何のために台詞からするとこちら特に父の来訪を事前に知り待っていたのだろうその上でこの蛮行に及んでいるのだ随分と腕白なことだそのような真似が許されるかつ先の条件に当てはまる人物は一人ださて残る問題は一つ父の詳しい位置までは知る術がなかったのだろうその蹴りが――――――僕に向かっている事か。


 並列及び加速による思考の高速化、咄嗟に動こうとする両親を目と手で制し、少年の蹴りを半身で回避。と同時にその足、脇に手を添え勢いに逆らわずに回転、結果再び正面を向く形で勢いを完全に失った少年をそっと床に下ろす。


 少年は何が起きたのかまだ理解出来ていないのか呆然としている。


「お怪我はありませんか、アレクシル殿下?」


 少年──アレクシル殿下に声をかける。もっとも、回避も反撃も可能な中から、お互いが傷付かない方法を取ったのだ。怪我などあろう筈もない。


 暫く僕を見つめた後、我に返った殿下は、興奮したように顔を火照らせ、目を輝かせて畳み掛ける。


「おまえすごいな!!なは?なはなんという!?ああ、こういうのはじぶんからなのるのがれいぎだったな!おれはあれくしる・A・ばりたいんだ!よろしくたのむぞ!!それで!?おまえは!!?」


 舌足らずだが、勢いが凄いな。まるで新しい玩具を買って貰った子供のようだ。あれ、またしても僕は玩具?


「お初にお目にかかります、殿下。僕はクロム・シューティングスターと申します。どうぞお見知り置きを」


「かたくるしい!かたくるしいぞ、くろむ!!もっとらくにしろ、くちうるさいじいやどもとおなじかおまえは!!」


 おや、敬われるのは嫌いか。確かにそう言われて態度を改めないのは頭が固いな。よし。


「失礼いたしました、殿下はフランクな関係をお望みでしたか。では……これでどうかな、殿下?」


「うむ!それでいいのだ、くろむ。しかしな、おれのことはあれくとよべ!ちちうえたちはそうよぶぞ!」


「了解、アレク。以後よろしく。ところで、いつまでもこんな所で話しているわけにはいかないよ。陛下や皆様方をお待たせしてしまうからね」


 そうであった、と(きびす)を返す殿下、もといアレク。


 彼の走っていった先、すなわち玉座の間では、国王陛下を始めとした国家の重鎮達、並びに彼らを守護する騎士達……要はその場に居たほぼ全員が驚き半分、微笑ましさ半分な顔をしていた。


「流石だな、クロム。もうあの腕白坊主を手懐けちまうとはな」


「飛び蹴りから始まる友情ってあるのねー」


 とか何とか言っている両親と共に、僕は前に進み出る。


 あと三歩ほど前に出たら跪く、と考えていたら玉座に座っていた立派な体躯の威風堂々とした人物──バリタイン国王レオグラス・A・バリタイン陛下が、自ら立ち上がって此方へと大股で向かってきた。


 どうしたものかと父に視線で問うが、肩を竦めて返された。流れに任せろ、か。


 ズンズンと近付いてきた国王に、どう対応したものかと考えていると、向こうから片手を上げて声をかけてきた。


「よう、クロス!見てたぜ。大した手際だな、お前の息子。てっきりお前が相手するもんだと思ってたが、まさか同い年のガキにあしらわれるとはなぁ!」


 あ、この親にしてこの子ありだったのか。色々と合点がいった。父が敬語を覚えていない理由も、誰もアレクを止めなかった理由も。陛下が関わっていたのか。


「おう、陛下におかれましてはご機嫌麗しく……ってな!」


「ああ?んだよ堅っ苦しいな、お前らしくもねぇ。あれか?息子の出来が良すぎんのはテメェまでうちの爺共みてぇな堅物親父に成り下がりやがったからか?」


「はっはっは、そんなんだったらまずお前から教育し直してるよ。うちのクロムは生まれた時からこうだよ」


「マジかよすげぇな」


 陛下と父がとても親しげに会話している。気心の知れた友人同士が軽口を叩きあっているかの如しだ。いや、それそのものか。


「貴方、自慢するのもいいけどちゃんとクロムを紹介しないと。あんまりおしゃべりしてるとソアレ様のところに連れて行っちゃうわよ?」


 放っておくといつまでも談笑していそうな二人に、母が釘を刺す。ソアレ様、というのは王妃の名だったと記憶している。


「うげ、そりゃあ困る!お前らの話は長いからな、んなもん待ってたら日が暮れる!!」


 貴方が言います?


「貴方が言います?」


 おっと情意投合。


「陛下、そろそろ玉座へお戻りください。いつまでも立ち話では謁見の儀が終わりません。」


 玉座の脇に立っていた立派な髭を蓄えた老人──大臣だろう──が、陛下を諌めに歩いてきた。とても助かる、なかなか本題に入ってくれなくて困っていたところだ。


「あー、こういうのは形式が大事なんだったな。りょーかいりょーかい……ったく」


 面倒くせぇ、とブツブツ呟きながら定位置へと戻る陛下と、頭が痛い、とばかりに額に手を当ててそのあとに続く大臣。教育失敗したんだね。


 渋々と腰を下ろした陛下に、僕達は横並びに跪く。


「さて、と…………あー、よくぞー参ったークロスよー。息災だったかー」


「ははー、陛下におかれましてはー、ご機嫌うるわしゅー」


「おい、そのくだりもういいだろ」


 何してるんだろう、この二人。台詞も棒読みだし父さん完全にふざけてる。録画だったら飛ばすのに。


「ん、ゴホン……して、そやつが例の、シューティングスター家の神童に相違ないな?」


「いかにも。これなるは我等が愛し子、そしてシューティングスター家の悲願の結晶、クロムにございます。後にも先にもこれを超える者はおりますまい」


「うむ。汝らに伝わる(いにしえ)の予言、余も聞き及んでおる。」


 うん、うん?神童はいいとして、悲願?予言?予言は以前祖父が言っていたかもしれないけど……それかな?それだな。


「『天の星が落ち、太陽が月に呑まれる日。厄災の獣は牙を表し、憎悪のままに神を蹂躙するだろう。世界の寵愛者、異界の者の助力を得り、地上の流星となりてこれを討つ』」


 母が詩のようなものを諳んじる。これが予言の内容か。


「クロムの持つ特性は天才。万能の才を持つ、神に選ばれた証です。世界の寵愛者とは、この子の事で間違いないでしょう」


「いずれ来たる災いに対抗するため、神が遣わした未来の英雄か……。災厄の獣とは、魔王の事だろうか?」


「恐らくは。百五十年前に異世界より召喚された勇者によって討ち滅ぼされた魔王、その再来でしょう」


 その事が記された書物は読んだことがある。


 創世神ファトゥスを信仰する人類六種族、人間、エルフ、ドワーフ、獣人、海人、鬼人。

 人間以外を総じて亜人ともいう。


 それに対して、邪神を主と仰ぎその復活を目論んでいるという魔族。こちらも総称であり種は多岐に渡っているらしい。

 彼等は個体数が少ない反面非常に優れた能力を有し、かつて幾度となく人類と争い、数多の国家を滅ぼしたという。


 その魔族を統率する魔王。その力は並の魔族を凌駕し、一度(ひとたび)姿を現せば最低でも一つの都市が焦土と化すことは避けられないと語られるほどだ。


 さらに魔王は一時代に一人のみではあるが、歴史に一人ではない。その時代の英雄に討たれる事もあった。その度に魔王の座は次代へと移り、新たな魔王が誕生するのだ。


 しかし百五十年前、異世界から呼び出した勇者の手で十二代魔王が討ち果たされた後、これまでは最短で一年、最長でも十年程度で現れた魔王が、一向に姿を見せなかったのだ。


 原因を調査しようにも魔族の領地に兵を送る訳にもいかず、件の勇者は魔王を討伐した直後に失踪してしまっていた為に成す術がなかった。


 ゆえに人類は最初の十年は次の魔王に備え厳重に警戒し、次の十年は狡猾な魔族の卑劣な罠だと気を抜くことなく、三十年目で漸く安堵し訪れた平和を噛み締めたという。


 で、脅威の去った人類は安心して四十年目頃から人類同士で戦争を始めたというがそれはまた別の話だ。


 問題は、その魔王が百五十年ぶりに復活する、という事だ。


「魔王は代を重ねるごとにより強大なものとなってゆくと伝え聞く。それが十三代ともなればもはやその力は計り知れぬものだろう。それを打倒し得る器ならば、世界で……いや、歴史上でも有数の戦士となることだろうな」


 陛下陛下、なんかちょっとウズウズしてません?「是非とも手合わせしてみてぇ……折角の王位だ、命令してでもやり合ってやらぁ!」みたいな好戦的な表情が隠しきれてませんよ?僕まだ五歳ですからね?


 陛下が相当鍛えている事は体格、体捌きを見れば一目瞭然だ。戦っても現時点での僕が勝てる見込みは限りなく薄いだろう。


「しかし、その魔王が一体いつ現れるのかまでは分かりません。三十年後かもしれず、ひょっとすれば今かもしれない。

 クロムが生きている間に、としか全く情報はないのです」


 陛下の様子は父も気付いているようだが、無視して話を進める方針らしい。


 父の言葉で我に返った陛下は、慌てて真面目な顔を作り直す。


「う、うむ……問題はそこだ。クロムの実力が完成してから復活するとは限らぬ。どれほど素晴らしき原石でも、磨かねばただの石ころだ」


「既に輝きを放ちつつはありますが、クロムに限ってはまだ鈍いものと言わざるを得ません。この子はいずれ魔術の最奥に辿り着くでしょう、それほどの才を秘めています」


「親の贔屓目を抜きにしても、お前がそこまで言うほどなのだ。噂通り、いや噂以上ということなのだろうな……素養は十分。ならば、残るは当人か」


 陛下は再び立ち上がり、正面から僕を見据える。僕は顔を上げ、陛下と視線をぶつけ合う。やろうと思えば威厳出せるんだな、この人。


「ほう……状況を理解しておらぬ訳でもなかろうに、物怖じしている様子はないな。その度胸は認めよう。だが、クロムよ」


「はい」


 ここで初めて陛下は僕に声をかける。そこに父との会話にあった気安さは微塵もない。知人の息子に話しかけるには似つかわしくない、試すような色が見える。


 その瞳に、僕は気負うことなく次のお言葉を待つ。


「お前に、覚悟はあるか?人類の宿敵、比類なき怪物に挑む覚悟が。あらゆる艱難辛苦に耐え、仲間を犠牲にし、自らの命すら捨て悪逆なる魔王を討つ覚悟が」


 声を荒げることはない。波風一つ立たない水面のように静かに、されども聞くものを圧倒せんと王威を多大に滲ませて、人類の希望と成り得る若芽に問いかける。


 それは、言葉通り僕の覚悟を問うものだ。今まで僕が魔王と戦うことを前提として話していたが、そこに僕の意思はなかった。陛下は思い至ったのだろう。クロム・シューティングスターは、幼童であると。


 横に並ぶ大臣や騎士達、両親までもが不安そうに僕を見ている。アレクはポカンと呆けている。

 当然だろう、いくら神童と持て囃されていようと所詮は五歳の幼子だ。人類の命運を担う心構えなど出来ているはずも無い


 と、考えているのだろう。


 ならば、その不安は払拭してやるべきだ。


「もちろんです、陛下」


 肯定の一言で、自信に溢れる笑顔で、彼等のその憂いを断ち切る。その心配は杞憂だと大人達に突きつける。


「僕は、まだ幼く非力です。予言の事も、僕に課せられた使命のことも今まで一切知らずに育ちました。皆様が僕を疑うのも無理はないでしょう」


 それでも、察してはいたのだ。あの日、聞き取れなかった母と祖父の会話、言語を学習してから思い返せば確かに予言のことを話していた。


 それに、時折両親は僕の将来を案じるような言動をとった。地位の保証されている貴族でありながらのそれは、僕自身に何ががあると悟るには十分だった。


「ですが、知らないからこそ僕は気負いなく生きることが出来ました。そしてこの国の人々の温かさに触れました」


 みんな、僕に優しかった。普通じゃない、異常に(まみ)れた僕に、彼等はいつも笑顔を向けてくれた。


「彼らは皆、僕の友人です」


 僕だけが一方的に思っていることかもしれないけど。それでも、僕は彼等をかけがえのないもの友人と見ている。僕の孤独を埋めてくれる存在だと。


「魔王がどのような、どれほどのものであれ、それが友人に害を為すというのならば、僕はそれを排除する事に迷いはありません」


 僕は異世界でも一人ではなかったと、そう思いたいのだ。その為ならば、人類の敵でも世界を滅ぼす邪神でも関係なく立ち向かう。


 どんなものも、友を失う事に比べれば恐れることはない。



 静まり返る謁見の間。磨き上げられた床に映るのは、黙りこくった沈痛な表情と、不思議そうな顔ばかり。


 どうか皆様、喜んで頂きたい。

 幼子に重荷を背負わせる事に自責の念を感じないでください。

 何も分からぬ子供が幼稚な正義感を振りかざしていると思わないでください。



 僕はただ、認めてもらいたいだけなのです。

天才の行動理念


次回で物語を進展させ……られたらいいな

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