繋ぎの一手
このレベルの攻撃をばかすか打ってんのにエネルギー枯渇に120年とかふざけんな。
「おい松山、後ろの立て直しはもうちょいかかりそうだぞ。もう暫くは時間稼がなきゃならん」
「もう大分きついんだが??」
「無理でやるしかねえだろ」
「畜生やってやらあっ!」
『その意気やよし。だがいつまでこの猛攻に耐えられるかな?』
「自殺志願者が魔王ムーブしてんじゃねえよ!」
『返事はこれだ<大いなる六曜>』
<焔燼星皇>の周囲に六色の擬似太陽が展開される。赤、青、緑、茶、白、黒。どう見ても無属性を除く七属性の太陽だ。どうせ性質も六属性の通りなのだろう。
『<洛陽球><熔海><陽刃><熔滅弾><滅光><日食>』
ふっ!?
「「ざけんなあああ!!」」
唱えられたのは一般人でも行使できるレベルの各属性の初級魔術。だがそれらに【太陽】の性質が加わった所為でえげつない物へと変貌している。
<洛陽球>はそのまま擬似太陽が野球ボールの様に豪速で落ちて来る。
<熔海>は万物を熔かす超高温の液体が<焔燼星皇>の足元から全方位へ広がりだす。
<陽刃>は擬似太陽がいくつもの刃になって降り注ぐ。
<熔滅弾>は弾丸状の擬似太陽が音より速く飛来するしかも地面と<焔燼星皇>を中心とした一定範囲内の空間を勝手に跳弾しやがる。
<滅光>は白い擬似太陽が突如として破裂して網膜越しに目を焼く光をまき散らす。しかもその破片(?)が広域にまき散らされる。
そして最後<日食>によってそれらすべての【太陽】は見えなくなった。
不可視の死が迫る。しかも俺達の後ろはまだ回復しきって無い人達で溢れてる。躱す訳にもいかない。
「三十ぉぉぉ!!」
「《平方クラフトⅪ》【アダマンタイト封域クリエイター】!」
三十がクラフトした幾何学模様の球体を<焔燼星皇>の足元目掛けて投げつける。地面にぶつかるとそこを中心に超巨大魔法陣が描かれて、その外周から幾重ものアダマンタイトの壁が生えてきて外への道厳重に閉ざす。せりあがった壁は最後に天井を生み出し、ホールケーキ上の箱となって俺と三十と<焔燼星皇>だけが閉じ込められた。
『ふむ。これで外の者達は安全となった訳だが、どうするのだ? このままではお前たちは死ぬぞ』
「それなら」
「こうするんだよ! 《平方クラフトⅨ》【インフィニットボム】」
「【創造】【帰転地図 リターン】『我は回帰の導き手』」
三十がどう考えても相当にヤバい名前をした爆弾を放り投げ、俺が【創造】した特典武具で箱の外へと二人で転移する。目に見えない死の魔術が何処まで迫っていたかなんて分からないが、何とか回避出来たようだ。
「どうせすぐ破られる。今のうちに次の一手を考えなきゃな。俺の《平方クラフト》も材料がカツカツだ。お前材料作れるか?」
「出来なくは無いがあんな高レアリティのアイテム作成に使う素材はそんなに作れないぞ。こっちもカツカツだ」
『マスター。報告です』
どうした叡智之王
『元【煌炎皇】、現<焔燼星皇>の封印方法が分かりました』
おお! で、どうやったんだ?
『【煌炎皇】の封印には特殊な術式が使われていました』
特殊な術式?
『はい。熱エネルギーを魔力に変換するというものです。現在の<焔燼星皇>まで熱量が高まると封印は難しいですが、<焔燼星皇>の熱量を大幅に抑え、『熱耐性Lv5』以上のスキルの保有者であれば近接戦闘も可能に出来ます。また、熱量を抑えることによって発生した魔力を味方陣営に流すことも可能です』
完璧じゃねえか! 今すぐやるぞ!
『承知しました』
「おい三十。今から俺がアイツを弱体化させる。その為には弱体化の術式を奴に確実に当てる必要がある。何とか出来るか?」
「へっ! お安い御用だぜ。俺に任せとけ!」
「頼んだぞ」
と、その時アダマンタイトの箱の一部が赤く輝き始めた。
「一瞬だ。一瞬だけ俺が完全に動きを止めるその間にぶちかませ!」
「おう!」
奴が出てくるまでまだほんの僅かに時間がある。今のうちに全ての準備を済ませよう。
「【創造】『魔道叡智Lv10』『魔道技能Lv10』『百人力Lv-』」
俺に高度な魔法を扱う記述は無い。だから【創造】で無理やり一時的にその才能のスキルを得る。更に複数人で行う儀式魔法も一人で行える様なスキルを得る。
「【創造】【終極魔道杖 ラストチャンス】……くっ」
最後に一度使えば崩壊する代償に世界でも最高クラスの魔道具を創造する。これで俺の持つリソースは尽きた。今のラストチャンスでほぼすべて持っていかれたからスキルをリソースに還元してもこれ以上は碌に戦えないだろう。だから後はみんなに任せる。
“ジュゥゥゥ! ”
そして遂にアダマンタイトの箱が破られる。
『生き埋めとはやってくれるな!』
「だからお前何でノリノリ何だよ! ……でもまあそんなことどうでもいいな!」
三十が<焔燼星皇>の前に躍り出る。
「正直これやるの全く気が進まないんだがこうなったら自棄だやってやるよ!」
そう言いながら三十が取り出したのは血の様に紅い鎖。
「行くぜ『我は報いの血盟鎖』」
三十がそのスキルを発動すると紅い鎖は宙に浮かび、そのまま飛んだかと思うと三十諸共<焔燼星皇>を貫いた。
「『な!?』」
「へっ! こうなりゃ道連れだ。まあ、お前の生命力を相当削っても殺すには至らないだろうがな」
紅い鎖はしっかりと三十の心臓を射抜いている。あれではもう助からない。
『貴様、よもやそこまで……!』
<焔燼星皇>は茫然自失としてピクリとも動かない。
「今だ松山!」
「っ! 『古代儀式魔法』《燈火の蝋》」
<焔燼星皇>の全身に熱エネルギー吸収の魔道文字が刻み込まれる。
『ぬうっ……!』
辺りに漂う熱気が一気に薄れ、心なしか少し涼しく感じる。
「みんな。あとは任せたぞ……」
なんとか弱体化の魔法から発生した魔力を他の人達に送るようにパスを繋げた。
強引な魔法行使で魔力が枯渇して意識を失う寸前、俺は確かに背後から響く無数の足音を聞いていた。




