片鋏
「見つけた。松山」
「おう、山本か。無事だったみたいだな」
「なんとかね。それで松山に一つお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「武器を、私用の武器を作ってくれない?」
「武器って、お前の刀は壊れちまったのか。どんな武器がいい?」
「あいつを斬れる武器」
「…へえ」
その言葉を聞いたソウタの眼が剣呑に輝く。
「わかった。だがそれを作るには材料がいる。それを用意するにはお前の協力が必要だ」
「何を用意すればいいの?」
「お前の魂」
「わかった。どうすればいい?」
「即答かよ」
「迷ってる暇なんて無いでしょ?いいからやって」
「了解っと。そんじゃ俺の手握って」
ソウタに促されるまま彼女はその手を握った。
「【魂魄徴収】」
その言葉と共に彼女の身体が青白く輝いたと思ったら。既に光は霧散していた。
だがその時に何も起こらなかった訳ではない。現にソウタは握られた右手に青白い水晶のような物を握っており、ナニカをされた彼女は地面にへたりこんだ。
「なに、それ」
「お前の魂だよ」
その水晶の正体は物質化した彼女の魂その物。質量的な変化は一切無いが確かに自分を構成する大切なナニカが抜け落ちたことを強く実感した。
「それで足りるの?」
そう思うのも仕方が無い。何せ今ソウタあg持っている水晶は拳一つ分程度。とても武器の材料としては足りない。
「ああ、残りは俺の手持ちでどうにかなる」
するとソウタは右手の水晶をに向けて左手を突き出した。
「リソース供給。【変性】【再構築】」
それは断じてスキル程度に収まる物ではない。万物を構成する全ての源を操り新しい形を与える。それは正しく神の所業。否、そこらの世界を統括する神程度ではまるで足りない。全界に於いて彼のみに許された究極の奇跡。その名は
「【新生】」
それはある種の等価交換とも言える。だが遍く全ての物に定められたリソースを好きに操るソレは、とてもではないが錬金術等の範疇に収まる物ではない。
ソウタの【新生】によって生じた光が収まった時、その手には身の丈程もある漆黒の鋏が握られていた。
「…何で鋏?」
「いや、俺にもよくわからん。お前の魂を材料に作ろうとしたら何故かこの形が思い浮かんだんだ」
「そう。兎も角どんなものか確かめたいから貸して」
「わかった。ほれ…って、え?」
ソウタが里奈にその巨大鋏を渡した途端、鋏が二つに分かれ、片方がもう片方に吸い込まれてしまった。
「何?今の」
「わからん。兎も角調べてみるか」
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【別離一刀・想刃 タチキリ】
【ランク】創世級
【品質】不朽不壊
製作者:ソウタ=マツヤマ
未練を断ち、慙愧を断ち、生への苦より魂を開放する宿業斬りの太刀。その刃は如何なる物をも断ち、絶対の開放を約束する。
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「…物凄い事だけはよく分かった。兎も角ありがとう。これでアイツに一泡吹かせられる」
「おうよ。こっちも準備が整ったら斬り込むつもりだからそっちはミヤとかクロと合流しててくれ」
「わかった。先に行ってるね」
「おう、またあとでな」
「また後で」
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ところ変わって【煌炎皇】VS【天征七業大亜神 アマルティア】の戦場
「「『霊式・却火葬槍』」」
両者の攻撃は幾度となくぶつかり合い、その度にアマルティアが押し勝っている。だがその攻撃は【煌炎皇】の放つ物と全く一緒な為、全く傷を与えられて居なかった。
「やはり駄目か。そもそも僕は戦闘系の神では無いから仕方ないのだがこれでも足りないか…っと」
その時、【煌炎皇】が放った一撃が対応が一歩遅れたアマルティアに突き刺さった。
「ちぃっ!『暴食の口』」
攻撃で負った傷を残しておくわけにはいかず、仕方なくアマルティアはそれを吸収した。
《規定値突破》
《【天征七業大亜神 アマルティア】のリソースが生物の限界値に到達しました》
《これより対象を神の階へと上げ、【罪業神】へ昇華します》
「させないよ!」
《条件達成》
《進化を開始します》
《魂魄拡張》
《対象を【天征七業大罪神 アマルティア】に進化しました》
《昇華停止》
《対象のリソース限界値が上昇したため神への昇華を停止しました》
「やっぱり魂の拡張余地は残しておいて正解だったな。それもこれっきりだけどね。やっぱり君の攻撃に含まれるリソースはえげつないね」
そう、実はこの戦いアマルティアが有利に見えて実際のところは真逆なのである。
【煌炎皇】は自身と同系統の攻撃はその圧倒的な耐性で一切効かず。逆にアマルティアは一発でも食らえば直接的な回復手段を持たない為、その回復のためにリソースを吸収する必要がある。
そして膨大な【煌炎皇】の攻撃のリソースを吸収することはそれだけ己の存在が強化されることとなる。本来であればそれはさして問題ない筈だが今回ばかりは違う。既にリソースを限界まで吸収しているアマルティアはこれ以上吸収しては地上に存在出来なくなりこの世界の神階へと引き上げられてしまう。
だからこそアマルティアは攻撃の相殺やあいての攻撃を上回ることに徹した。僅かなダメージが大きな足枷となってしまうのを恐れたから。だが、もうそうは言ってられない。今の攻防でアマルティアの弱点は【煌炎皇】に割れてしまった。もう次は無いだろう。
「ならば!」
アマルティアがそれまでと打って変わって【煌炎皇】目掛けて飛び出した。
「もうあの子たちは大丈夫だ。だったら僕は僕の最後の役目を全うしよう。『我は経験喰らいし魔箱』」
アマルティアが受け取る筈だったリソースを蓄えていた特典武器が輝き、破裂した。その最後の役目を全うし、内に秘められた莫大なリソースがアマルティアに流れ込む。
「せめて君に循環不全くらいはプレゼントしようか」
《ERRROR!》
《人界に存在することが許されるリソースを遥かに超えた個体を確認》
《即座に神階へと引き上げを行います》
「今この時、僕は神の階を昇る。だからこの瞬間だけ僕は真に神としての力を発揮する地上の者となる」
両者の距離がゼロとなりアマルティアが神階へと昇るその刹那。確かに彼はことを成した。
「【我は人なる罪の神なり】」
「!?■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」
刹那に込められた彼の一撃は確かにその【権能】をもってして【煌炎皇】を構成する大切なナニカを打ち砕いた。
「さらばだ。ソウタ君とその仲間達。遥か天の階より君達の勝利を願っている」
この日、一体の魔物の頂点が消え去り、一柱の神が生まれた。
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