断ち斬る乙女
お久しぶりです。
インフル死ぬほど辛かったです。
でもコミケは楽しかった。
「ああああ゛あ゛あ゛ーーーー!!!!」
痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
腕が、足が、全身が文字通り死ぬ程痛い。
愛刀は融解して私の腕を熔かし落とした。
防具は原型を保たず炭となった。
肌は黒く炭化した。
死ぬ。まず間違いなくどう足掻いても死ぬ。これが運命、これが終わり。
一周回って痛みすら感じなくなった頭で思考する。
どうしてこうなったのだろう、と
原因は様々
私があのパーティーの中で一番役に立たなかった
役に立つために功を焦った
私にはあの攻撃を凌ぎきれるだけの力が無かった
そして最大の要因は最もどうしようも無い理由
“運が無かった”
唯々それに尽きる
異世界に来て私の得た力は『一刀両断』
要は少しでも傷を付けられるのであればどんな物でも問答無用で斬れる力。
自らの力が一ミリでも届くのであればどんな敵にでも挑める力だった。
でも私の力なんてあのパーティーには必要無かった。
黒沼は死角から攻めればどんな相手でも殺せた。
見山は霊体をその身に宿して莫大な力を得られた。
天音の魔法は唱える度に威力が倍々に増えていった。
小鳥はもう動物だけじゃなくて魔物の力も再現できる様になっていた。
一番親近感を抱いていたリーダーの松山はいつの間にか金属を操り武器を生み出すなんてことをやってのけた。
あのパーティーには私の力なんて無くたって十分やっていける力があった。
私、山本里奈は居てもいなくてもそう変わりのない存在だった。
「本当にそうかい?」
声がした
目を開けることなんて出来なくて、口を開いて喋ることなんて点で無理で、返事一つ録に返せないのにその声は続く。
「君の力は君が思っているよりもずっと凄い力なんだよ?条件さえ揃えば万物に定められた『硬さ』という摂理を一切合切無視出来るなんて巫山戯るのもの大概にしろと言ってやりたいよ」
確か、この声はシンさんかな…?
「君の力が有ればどんな敵にも太刀打ち出来ないなんてことは無い。だから彼らはどんな敵にも安心して挑める。…口にはしない様だけどね」
慰めてくれてるのだろうか?
「さて、僕には他にもやるべきことがあるから長居出来ないから手短に話そう。…君はまだアレに挑めるかい?」
無理だ。
口は動かない。それでも力の限り叫びたかった。私はアレに有無を言わさずたかが一撃で瀕死にされた。テンカさんが大部分を防いだ様だけど私のいた場所の様に漏れは無数にあった。
炭化しかけている耳から今も阿鼻叫喚の声が絶えず聞こえる。
軍団の指揮はガタガタになっているだろう。多くの人が心折られたであろう。これ以上挑んでもまた屍を積み上げるだけだ。
「本当にそうかい?」
決まっている。あんな惨状をみてまだ立ち上がれるのなんてそれこそ物語の中の勇者でも無ければ無理だ。
「少なくとも君のパーティーメンバー達はそうは思って無いみたいだけどね」
「ぇ…?」
『全域通達!』
これは、確か【騎士聖】の人の声?
『これより大規模術式を展開する!それの発動までの間、魔術及び魔法が発動しなくなる。しかしそれでも回復魔法も攻撃魔法も絶え間なく発動し続けてくれ!死にかけの者たちも大勢いることだろう。それでも今この時ばかりは気合いで持ち堪えてくれ。これ以上に多くの者たちを救う方法を私は用意出来なかった。もしこの術式の間に死した者たちがいれば存分に私を恨むと良い。それでも私はここで止まるわけには行かないのだ。術式は1分後に発動する!備よ!』
私は激痛に苛まれながらも何とか右眼を開いて辺りを見た。
いや見渡す必要すら無かった。
空を覆う様に展開された巨大な結界。端は全然見えなくて、多分戦場になっている海底を丸々覆ってるのかもしれない。
白く半透明なそれに黒い線が走る。あれは…
「|ぁぁぇ《》天音?」
そこに黒い線で書かれたのは五線譜。半透明な黒と白で描かれた五線譜と色とりどりの音符が結界に描かれる。
「もう1分経ったね。それじゃあ《回復》」
シンさんが使ったのは《回復魔法》でも最も初歩的な魔法《回復》
「《回復》《回復》《回復》」
シンさんが幾ら呪文を唱えてもさっき言われた通り魔法は発動しない。それでもシンさんは《回復》を使い続ける。
「彼女の力は届かせる為の力だ」
届かせる?
「圧倒的な強者に対して弱者はなす術なく蹂躙される。そんな弱者達の力を束ね、増幅し、圧倒的な強者にすら届く牙にする。それが|松屋天音《【|響鳴妃】》の魔法。そしてこれはその極地とでも言うべき魔法」
『我らはか細き言の葉なれど、いずれ天へと届き響く絶叫となる!』
天音の声がした。振り絞る様な、張り裂けそうな絶叫だった。
そらの五線譜と音符が煌めき結界の中全体に光が降り注ぐ。
その中でも緑色に輝く光が私を包んだ。
「何これ?………あれ、声が」
光に包まれて目が眩んだ次の瞬間、私はなんの痛みも感じず声が出せた。両目をしっかり開いて空を見れる。失った筈の腕でバランスをとって動ける。炭になった筈の足で立ち上がれる。
私の身体は完全に回復していた。
「結界内で発動した魔法を全て反響させ、増幅し合い、系統毎に統合してさらに増幅する大魔法《大響界》」
「《大響界》…」
「一見簡単そうに見えて内部における全ての魔法を管理し、統合増幅する極度の集中と繊細なコントロールを求められる大魔法だ。これを初めてで成功させたの彼女の意地と覚悟の賜物だね。それにほら、あれを見てご覧」
シンさんに指されて目を向けた先には何というか、青白い人達が立っていた。
「え、あれ見山?」
その人だかりの先頭に立っていたのはチームメンバーの見山健斗だった。
そして今気付いたが彼の後ろに立っている人たち、いや正確には人では無い。
青白いのは身体どころか見に纏う装備ですら青い炎のような物で構成されているからだった。
「あれは英霊だよ」
「英霊?」
「死した英雄達の魂を具象化した物だよ。今彼が従えているのはこの戦場で死んだ英雄達のようだね」
「英雄…?」
確かにあの青白い霊体達の行列にはチラホラと見覚えのある人達の顔が覗く。あの人達が死んでしまったのかと言う悲しみがある一方。一つの疑問があった。
「見えないかい?彼らが英雄に」
「失礼ながら…はい」
確かに彼らの中には一騎当千の英雄達もいるのだろう。でも今私から見える英雄達の数は明らかに多過ぎる。ともすればここで死んだ人間の全てが居るのではと思える人数の大軍団だ。
「それは君の英雄の定義と彼にとっての英雄の定義の違いから来る物だよ」
「英雄の定義?」
「多くの人が英雄とは何かと問はれれば強大な魔物を倒しただとか圧倒的偉業を成した者というイメージを抱く。でも彼は…今の彼は違う。彼の思う英雄とは万人が定義されうるものだ。
見知らぬ誰かを庇って死んだ人。
愛する者を守る為に命を張った人。
自分は老い先短いからと先の長い若者を守った人。
その誰もが誰かにとって命を救った英雄であり讃えられるべき存在だと彼は思ったんだろうね。だからこそ彼の扱う力は過去の英雄を呼び出しその力を授かる『英霊憑依』ではなく多くのか細き英霊達と共に歩む『英霊軍勢』なのだろうね」
見山と共に歩む英霊達の軍勢を見て泣き崩れる人が何人も居た。彼らは一様に感謝の言葉や懺悔の言葉を軍勢の中の誰かに叫んでおり、その声はその全てが後悔に満ちていた。
「救われた者達、救った者達、救えなかった者達がいる。あの英霊達は死して尚、友や愛する者達を守る為に戦うことを選んだ。これを英雄と言わずしてなんと言う。正しく彼らは英雄なんだよ」
多くの英霊達が列を外れない程度に残された人達に声を送るのを見て決心がついた。
「シンさん」
「…覚悟は決まったかい?」
「はい」
「よろしい。それでは君に道を授けよう」
シンさんは何も聞かなかった。それでも私の意図をちゃんと汲んでくれた。
「この先にソウタ君が居る。君はそこで彼に求めるべき物を求めたらいい。後は彼が上手くやってくれる」
「ありがとうございます」
“疾”
私は戦場を駆ける。焼け落ちた筈の装備はいつの間にか真新しい物を纏っていた。恐らくシンさんが用意してくれたのだろう。あの人には後で改めてお礼を言おう。
覚悟は出来た。後は私の成すべき事を成すだけだ。
《条件達成を確認しました》
《個体名リナ=ヤマモトの能力制限を解除します》
《【職業】が完全解放されます》
《【職業】が【侍】から【斬撃妃】に変更され……… EMERGENCY!》
《上者からの干渉を受けました》
《【職業】を変更します………ERROR!》
《【職業】に適うる状態に至っておりません》
《【職業】が【■■神】に変更されます》




