淵より来たる
うーんこの説明回どうにか減らしたい。
“カンカンカンカンカンカンカンカンカン”
戦場と化した海底(海水無し)にいくつもの金槌の音が響き渡る。
「鍛造、射出、鍛造、射出、鍛造、射出!」
ただ我武者羅に馬鹿みたいな数の武器を鍛造し続ける。鍛造した武器は出来たものから次から次へと魔銀触手によって【煌炎皇】目掛けて射出され続けている。
「…何故お前は無限の剣製をしている?」
「出来たから」
「…色々と気になるが今は一旦置いておくとして、それアレに効き目あるのか?」
「アレは熱量の塊みたいなもんらしくてさっきから俺の撃った武器を溶かし続けてるけど少しづつ奥まで食い込むようになってる。このまま溶させ続ければ本体まで届きそうだ」
「成る程」
「ただアレはまだ殆どスキルを使ってない。使ったやつだけでもふざけた能力だし油断は禁物だぞ」
さっき使われたスキル『薪尽火滅』は奴の視界内全域にランダムで強制着火する能力らしい。わかっていたところで対処のしようもない能力だ。そんなレベルの意味不明な能力が更に五つもある。下手すれば全滅さえ有り得るだろう。
とその時
「全員攻撃やめえっ!『宙の巫女』が行動を開始する!全力で退避ぃっ!!」
宙の巫女?確か俺たちと同じ日に到着した参加者の一人だったっけな。殆ど話してないから印象に残ってない。
そして【煌炎皇】の周囲の人々が大慌てで退避して行くのを見るに相当やばいナニカをするのだろうか?
そして戦場に一人の少女が降り立った 。
「■■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■■」
「■■■■」
「■■■■■■」
「■■■■■■■」
「■■■■■■」
「■■■■■■■■■■」
「■■■■■■■■」
「■■■■■■■■」
その発音は一切理解出来ない。だが何故だかその意味が理解出来る。まだ少女の少し舌足らずな声で紡がれたその呪文は意味もなく俺に恐怖を抱かせる。
「■■■■■■■■■」
空に赤黒く濁った超巨大魔法陣が四重に浮かび上がった。
“ピキッ”
四重に重なる魔法陣の最上段に位置する魔法陣にヒビが入る。
“ピキッ、ピキッ、バキッ!”
決定的な音を立てて最上段の魔法陣が崩れた。
そしてその勢いのまま二段目の魔法陣も破り三段目に突入した。
“キイィィィン”
とその時、最下段の魔法陣が輝き赤黒く濁った色から少しづつ青白い輝きへと転じていく。
“バリン”
三段目の魔法陣が破られたがその時には最下段の魔法陣は完全に青白く輝く魔法陣へと転じきっていた。
「■■■■■■■■■」
その祝詞をトリガーとして割れた魔法陣の破片が一斉に『宙の巫女』へと取り込まれていく。
“概念吸収完了”
“概念定義:縮退炉”
“擬似理外スキル『万物呑み込む右腕』及び『無限蒸発之左腕』を獲得”
そこに居たのは先程までの『宙の巫女』とは全くの別物。身体は成長しきっており確かに言われてみれば面影もある。だがその両腕は明らかに人の物では無い。
漆黒が凝縮した様な右腕と薄灰掛かった輪郭で辛うじてそこに在ると認識できるほどに希薄な左腕。
何よりその身に纏う気配がどう考えても人の物では無い。
『あれは『源流スキル』『瞑目せよ世界』の能力です。』
『瞑目せよ世界』?というか源流!?
『はい。あのスキルは簡単に言うと【邪神】を召喚するスキルになります』
「は?」
【邪神】て確か【魔王】の本体みたいなものなんだろ?えっ、じゃあ、あれラスボス?
『厳密には違います。あれは『縮退炉』の概念で出来た《現実級【邪神】》です。【魔王】の本体とは階級と概念が違います』
階級?概念?
『その説明を行うにはそれなりの時間がかかりますがよろしいですか?』
「いいぞ。どうせ近づけないし鍛造し続けるだけだし」
『では、そもそも【邪神】とは単一の存在を表す物ではありません。あらゆる概念の生まれ故郷である【深淵】から産み出てきた生きた概念を纏めて【邪神】と呼称します。
【邪神】達は【深淵】から産まれ出た後、【虚無】へと吸い込まれるその前に己が存在を確立し、永遠の物となる為に世界群へと干渉を試みます』
その【深淵】と【虚無】ってのは?
『【深淵】とはこの世全ての概念を内包する永遠に続くビックバンの様な物です。
そして【虚無】とは万物が還る場所であり、そこではありとあらゆる物質が、【邪神】や真なる神でさえ例外無く消滅し、無へと還ります』
なんとなくわかった。続けてくれ。
『全ての世界は【世界源流現実騎士】と呼ばれるシステムで守られています。【邪神】はその概念の強度に応じてこのシステムを段階的に無視して世界に顕現する事が可能です。世界は外側から順に《世界》《源流》《現実》《騎士》の順で四重の膜に覆われており、《世界》の膜を破れる【邪神】を《世界級》、同様に《源流》の膜を破れる神を《源流級》、《現実》の膜まで破れる【邪神】を《現実級》と呼ぶのです。
そして最期の《騎士》の膜を破れる【世界源流現実騎士】を完全に無視できる《騎士級》の【邪神】を総じてシステムが【邪神】と呼びます』
ちょっと待て、じゃあ《騎士級》以外の【邪神】はなんなんだよ。
『《騎士級》以外の【邪神】は一定時間が経過した段階で【世界源流現実騎士】により各世界より弾き飛ばされます。その為、《騎士級》を除く【邪神】は総じてその【邪神】の概念を名称として呼ばれます』
と言うことはこの世界を脅かしている奴こそが【邪神】と呼ぶに相応しい奴で、いまあの子に憑依(?)している奴は【邪神:縮退炉】ってことになるのか?
『正確にはそのまま【縮退炉】と呼ばれます』
そうこうしているうちに『宙の巫女(邪神インストール済み)』が【煌炎皇】を攻め立てていた。
「うわ、凄いな。火って質量ない筈なのにガンガン取り込んで魔力に変換してる。あれって最早縮退炉じゃ無いよね?」
『あれは《現実級》である為、概念が不完全かつ不安定なのを利用しています。定義の揺らいでいる概念は世界から弾かれやすくなりますが使い捨てる分にはとても有用です』
「【邪神】を使い捨てる事が出来るスキルって事なのか?」
『厳密には一時的に【世界源流現実騎士】の能力を停止させ、《世界級》にすら劣るレベルの【邪神】を無理やり召喚するスキルです。本来は存在その物が許されないレベルのスキルですが、出力の上限の関係で《騎士級》の【邪神】は絶対に召喚出来ないと言う制約のため存在が許されている様です。でなければ発生と同時に保有者ごと消滅させられていたことでしょう』
「こっわ」
兎も角、【縮退炉】の登場によって戦況は有利に傾いた。【煌炎皇】が次にスキルを発動した時用の対策も練られたらしく、先程伝令が走ってきた。未だ使われていない五つのスキルという不安要素はあれどこのまま行けば討伐もあり得る。
そう考えていた矢先
「カァッ、カァッ、カァッ!」
戦場には場違いのカラスの鳴き声が響き渡った。
巻きたいけど割と超重要イベント盛りだくさんだから巻くに巻けない。