四つ文字
いいサブタイトルが思いつかない
◆◇最前線◇◆
現在最前線にはSランク冒険者“大死書”こと【暗殺王】のブラリ、“不労”こと【負働皇】のタケ、“禁忌の乙女”こと【腐食王】のアシ=プレーグの3人がいた。
勿論3人の背後には無数の既に集まっていたCランク以上の冒険者達がパーティ毎に集まって並んでいる。
「ああいやですわ、なぜ私があのような汚物共の討伐などしなくてはなりませんの?」
「おいおいこの中で一番汚物を振りまくあんたが言うかい?」
「………」
「お黙りなさいニート風情が!」
「んなこと言ってもよお、俺の仕事は【不働皇】だぜ?ニートで大いに結構!」
「………」
「ふん!精々働く苦労を理解するといいですわ!」
「(やっぱこいつ口喧嘩よえーな。)」
「………」
「ところでブラリさんは先程から黙りこくってどうしたのです?いつにも増して今日は無口ですわね?」
「 」
「あん?なんだって?」
「 、 、殺す!」
「ひゃっ!?」
「うおっ!?どうした!?」
「あの小鬼共は私が今月一番楽しみにしていた【異界ブラリ旅シリーズ】の初版本を最初に読む邪魔をした。その罪万死に値する!」
「おいっ!腐食のっ!あのブラリが普通の声量で喋ってるぞ!?」
「一体どれだけ楽しみにしていたのですの!?」
いつも全身が黒いモヤに覆われているため声から少なくとも女性であることぐらいしか判別のつかないブラリを覆う黒いモヤが今はその範囲を更に広げて周囲一帯に黒いモヤが溢れかえっている。ともすればそれは真っ黒なモンスターにすら見えてくる。普段はとても無口な友人の機嫌が生まれてこのかた最高に悪いことを理解した2人はどうしようか戸惑い、それを遠目に見ていたA~Cランクの冒険者達も恐怖で身を竦ませていたその時
「!ゴブリンの軍団の先頭を確認!ここより2キロ先にてゴブリンエンペラーも確認!………!?追加報告!対象のゴブリンエンペラーは名前持ち!個体名【大軍統鬼 ドミネーション】!四つ文字です!」
その報告を受けて冒険者達は俄かに活気付く。四つ文字名前持ちとは即ち討伐に最も貢献した者に得点武具を授けるモンスター。ひとたびMVPに輝けばその者は冒険者として明るい未来が約束される。だがそれは即ちそれだけの力があると世界に認められる程の強者である証でもある。経験の浅いCランク達は我こそがMVPになってやると野望を燃やし、ベテランと呼ばれるBランク達は自分達の実力をしっかりと見定め不確実な栄光より目先の報酬を求めいかに効率的にゴブリンを殺すか検討し、一流と呼ばれるAランク達はさらなる高みを目指すために己が必殺の一撃を研ぎ澄ましている。
だが、そんな有象無象のことなど知ったことではないと一人の女が動き出す。
「《換装:【呼死眈々 ハイド】、【六芒凶刃 リクドウ】》『起点加速』《加速補助》《歩行強化》『脚力強化』《超加速付与》『雷速伝達』『無限機動』『累乗加速Ⅷ』『貫突』[鎧袖一触]…[瞬光]」
光が爆ぜた。
身体にまとう大量の魔法やスキルの付与エフェクトによって黒いモヤの内側からは光があふれ出ていた。
そして真っ黒な光の塊が動いたと思った次の瞬間既にそれなりの数が見えていたゴブリンの群れの中央から轟音と大量のゴブリンの死骸が吹き飛び周囲に撒き散らされていく。ゴブリンの死骸は丸で波のように宙に舞って行き、ついにその先端がゴブリンエンペラー【大軍統鬼 ドミネーション】の前までやってきた次の瞬間、黒い塊…“大死書”ブラリはドミネーションの首に所持していた特典武具である短刀【六芒凶刃 リクドウ】を突き刺しその首を吹き飛ばした。
その光景を圧倒的なステータスによって目視していた二人のSランクは
「まじかよブラリの嬢ちゃんいいとこ全部持って行きやがった」
「ま、まあ今回はブラリさんに譲ってあげるとしましょう。おほ、おほほほほ。」
「腐食の、声が震えてるぜ?」
「な、なんのことですわ?」
「まあ取り敢えず敵の大将が討たれてもこっちに攻めてくる馬鹿共はいくらでもいるだろうからそいつら狩って金の足しにするとするかね…」
「ええ、では私はブラリさんが真っ二つに割った敵陣の左半分側から行きますのであなたは右半分から行ってくださいませ。」
「りょーかい。んじゃさっさとやるか………?」
「?いかがなさいましたの?」
「おかしい…」
「えっ?」
「四つ文字が倒された現場にいるのにMVPアナウンスがながねぇ。」
「それは私達があの大鬼に一度もダメージを与えていないからでは?」
「いいや違う。何度か四つ文字の討伐に参加したことはあるがダメージを与えていなくとも同じ戦場にいればMVPアナウンスは流れた。流れないってことはつまり…」
「つまり?」
「!ブラリ!そいつの死体から離れろ!」
「!?」
次の瞬間ゴブリンの大軍の最前面、いわゆる役職を持っていない雑兵達が次々と倒れていく。そのゴブリン達は皆一様に内側から何かに貫かれたかのように血を吹き出し凡そ300体余りが倒れた所でその謎の死亡事象は終わった。
そしてブラリが先程首を落とした筈のドミネーションは胴体から溢れ出てきた赤い煙によって包まれたかと思うと瞬時にそこから傷ひとつない完全状態のドミネーションが中から現れたのだった。