夜襲(?)と名前
大変遅くなりました。内容を詰めていくのに時間がかかってしまいました。
久しぶりで、キャラが安定していないかもしれないです。
その日は、既に日が大分傾き始めていたので、各々の職場に併設されている食堂を利用し、ほかの騎士から同情されつつ新しい俺の部屋に戻った。
荷物を片付け、リーデウルのもとへ行き、一応護衛として侍る。
しかし、藍の宮には基本的に人が来ない。
使用人もいない。
なので、ひたすらリーデウルが魔法資料を漁っているのを、落としたまま気づかれていない資料を拾いながら見ているだけだった。
護衛対象のほうが護衛より強い上に、やることが資料拾いのみ。
護衛とは一体なんだったか。
その後、とりあえず今日は終わりだと告げられ、自室に戻って湯を浴び、身体を休めた。
────真夜中に突然、大きなもの音が鳴った。
硬いものがぶつかりあう音が、藍の宮に響く。
(夜襲か!?)
常に傍らに置いている剣を片手に、気配を殺し、部屋の外に出て耳を澄ませる。
(クソ、油断したか。まさか就任初日に夜襲とはな。……音がしたのは一階の入口付近、リーデウルは隣の部屋にはいない)
──『寝る前に研究の資料のまとめだけして寝ます。すぐに寝ますので護衛はいりませんから、先に寝ていてください』
そう言ったリーデウルは、まだ部屋に帰っていない。俺の耳が、ドアを開ける音に反応しなかったからだ。どんなに小さな音でも、隣の部屋に誰かが入ってくればわかる。獣人の耳は、たとえ眠っていても、意識していれば音を拾うことができる。決して見かけだけではないのだ。
その耳が、足音を拾った。
……下に、誰かいる。この足音は、リーデウルのものだ。
あとは、羽音?
いや、なにか硬いものが擦れる音も聞こえる。何が起きているんだ?
慎重に、だが速く階下に下りた俺が、そこで見たのは、自身の魔法媒介である短杖を構えているリーデウルと──
「……アーシェイドさん」
「魔導師リーデウル、『それ』はなんだ」
石のようなものでできた鎖で体を縛られ、身動きが取れなくなっている、大きな──俺と同じくらい大きい──甲虫だった。
形状は、ボウガン虫に似ているが、もとのボウガン虫は色が黒っぽいのに対し、鋼のような光沢のある銀色をしている。あととにかくでかい。
「えっと、そのー……あはは」
「魔導師リーデウル。世の中には笑っていては解決しないこともあるぞ」
「わ、わかってますよ。……ちょっと、豊穣魔法の実験をしてただけなんです。ボウガン虫にかけてみたんです。でも魔法術式が不完全で、魔力をこめたら、違う魔法になってて……」
「言い訳は後で聞く。それはどうするんだ」
夜襲と思った自分がおかしいのか。それともこの状況がおかしいのか。
確実に後者だろう。
誰が護衛対象本人が真夜中にこんな音をたてると思うのか。
俺の知り合いにいないだけで魔法師ってのはこんな奴ばかりなのか? そうじゃないと思いたい。切実に。
「あ、大丈夫です。すみません、すぐに戻しますので!」
そう言うと、魔導師はすぐに短杖を構え直し、何かを唱え始めた。
「〈エスペラール・アイナ。彼の者に集う大地の力よ、散れ〉」
唱え終わると同時に、巨大ボウガン虫は弱く光を放ちながらどんどんと小さくなり、俺の良く知る普通のボウガン虫になった。色も普通だ。
とりあえず、飛んできたら厄介なので魔導師に確認してから持っていた剣で仕留める。残骸は魔導師が消した。
「ボウガン虫にかかっていた魔法も、その消す魔法もはじめて見たが、どんな魔法なんだ?」
「えっとですね、ボウガン虫にかけた魔法は、大地の力を借りて繁殖力を強くする魔法だったんです。範囲魔法だったので、魔法陣を使ったんですが、もう少し術式を訂正する必要がありますね。力を上げることには成功しているので、対象物を確定することができればほぼ完成していると言っても大丈夫でしょう。確定する術式を書き足せばいいだけですし。あぁ、自分で唱えた魔法を終わらせるのは、陣がなくてもできますから、ボウガン虫は元に戻ったんですよ。
あと、死骸を消したわけではなくて、転移魔法を簡略化したもので、ゴミ箱に転移させたんです。それで──」
「ああ、もういい。そこまで専門的な話はわからんからな」
やはり畑違いだったな。聞くべきじゃなかった。
しかし、魔法師の友人から聞いた話によると、転移魔法はかなり高度な魔法だったはずだが、それをごみ捨てに使うとは……魔法師たちが聞いたら血涙を流しそうだな。
「あの、アーシェイドさんは何故?」
「下で物音がしたからな。夜襲かと思ったんだが、違ったならいい。魔導師リーデウル、なぜすぐに眠らなかった。資料をまとめたあと、すぐに部屋に行くと言っていたはずだが」
魔導師に詰問すると、そぉっと目を逸らす。
一応、罪悪感のようなものはあるらしい。
「資料をまとめたところまでは良かったんです。その資料の中で、ちょーっとだけ検証したいことがあって。す、すぐ終わらせるつもりだったんです!! でも、直したいところが見つかって、それを試しているうちに時間がたっていたというか何というか」
「言い訳はそれだけか」
「うっ……すみませんでした……」
目に見えてしょげる魔導師をみて、俺は長めのため息を吐いた。
「……まぁいい。明日からはアンタが部屋に行くまで、一緒にいることにする」
「で、でも、そんなことしたらアーシェイドさんの休息が」
「それが俺の仕事だ。休息はアンタが資料に向かい合っている時間にとっている」
そういうと、魔導師は何も言えなくなったらしい。それでもまだ「でも……」と続けるので、またため息を吐きつつ提案する。
「なら、そのアーシェイドさんっていうのをやめてくれ」
「え?」
魔導師はキョトンとしているが、今日一日思っていたことだ。
アーシェイドさん、なんて、ほとんど呼ばれたことはない。
この国の騎士団は、王宮と王族を専門で守るためにと8年前に軍から独立し、発足したばかりで、その人選はほとんどが若い者だったので、歳も近い。
貴族出身もいるが、平民も多いし、階級による遠慮なんぞ、激しく厳しい訓練を積むうちになくなる。
一応、役持ち(団長や副団長、隊長)は敬われているが、団長なんてクソジジイ等と呼ばれることもあるくらいだ。そんなもの無いに等しい。
そんなこともあり、さん付けで呼ばれることに対しては慣れてない。
「なんか、ムズムズすんだよ。アーシェイドさんじゃなくて、ロギルでいい。敬語もいらない。護衛対象に敬語を使われるなんておかしいしな」
まぁ、俺も護衛対象に敬語を使わなかったのだが、それは同性だと思っていた上に、ファーストコンタクトでの態度が原因だ。
理由を聞いたからと言って、急に敬語になってもコイツはおどおどしそうだし、今も何も言わないから、いいだろう。
「な、なら、魔導師ではなく、リーデウルって呼んでください。いちいち魔導師リーデウルって言うのは、『王宮騎士ロギル』っていっているのと同じことですから。リーデウル、が長いなら、リディでも構いません」
「……それもそうだな。なら、俺はアンタをリディと呼ぶ。アンタは俺をロギルと呼ぶ。これでいいな?」
「は、はい!」
嬉しそうな顔をする魔導師リーデウル──否、リディの頭をポンポン、と軽く叩き、部屋に帰るよう促す。
「満足したなら、部屋に帰れ。俺も寝る」
「あ、でも後少しで魔法陣が、」
「運ばれるのと、自分で行くのと、どっちか選ばせてやる」
「ごめんなさい自分で行きます」
結局、俺たちが眠ったのは、日が昇る少し前だった。
どうでしたでしょうか?
今回は遅くなってしまったので気持ち長めに書いてあります
ようやく、名前で呼び始めました……
なんだか長かったです
次は、登場人物紹介でも書こうかと思っています。
お話はその次です。
多分、読んでいくうちに情報が足りなくなっていく可能性があります。
流し読みで構いませんのでご一読ください。
12月11日&12月18日&12月20日:誤字訂正しました