「一発でいいから殴りてぇ……!」
「よかったですね、ロギル。王宮に居を構えるなんて、騎士団長ですらできませんよ? 光栄ですね」
「嫌味にもほどがありますよ副団長…」
魔導師……いや、魔法師たちと騎士団は長年対立している。原因は数代前の騎士団長と魔導師の不仲が原因で、
「魔法に頼ってばかりの軟弱者どもめ!」
「んだとこの剣しか能がない脳筋どもが!」
と売り言葉に買い言葉で喧嘩し、それが今まで続いているのだという。
俺自身……というか、騎士団の上の連中たちは、別にそこまで魔法師を嫌っているわけではない。魔法の有用性を理解しているからだ。
それがわからない、もしくは根本的に反りが合わないという奴らは今でもいがみ合っている。
まぁ、俺の場合は魔法師に知り合いが居るというのが大きいのだが……とにかく、嫌ってはいない。が、それとこれとは別問題だ。
「いくら王宮だと言っても、魔法師たちが頻繁に出入りするであろう場所に住んでたら針のむしろどころの話じゃないでしょうが」
なぜ騎士団がここにいるんだ、という目で見られるに違いない。
そんな目で見られ続け、なおかつチクチク嫌味を言われるだろう場所に誰が好き好んで住みたいなどと思うだろうか。
そのうえ、今代の魔導師は未だに表舞台には立たず、騎士の中では一番交流があるはずの騎士団長も数えるほどしか姿を見たことがないらしい。
口数は少なく、常にローブと謎の面を被っており、素顔を見た者はいないのだとか。声がこもり、さらに顔は見えないので年齢不詳。わかっていることは孤児で『ガレド』の姓を名乗っていることと、黒いローブと黒髪が印象的なので、黒の魔導師と呼ばれていること、そして魔法媒介が短杖ということだけだ。
そんな野郎の護衛をするだけでも憂鬱だというのに、同じ場所に住むなんて。
「この命令だしたやつを一発でいいから殴りてぇ……!」
「王を殴りたいとか不敬罪でしょっぴきますよ?」
「王は何を考えてるんですか」
「それは私にはわかりませんね」
とにかく、と副団長は続ける。
「命令なんだから仕方ないでしょう。あぁ、これを渡さなければ」
また、胸元からなにやら小さい布を出した。
「これは先ほどの書類に書いてあった魔道具です。この上に物を乗せ、転移させるのだそうですよ」
「……小さいですね。ハンカチほどしかありませんが、俺の荷物はそこまで少なくないです」
ここが寮で、いくら持っていくものが数着の服と少ない私物だとはいえ、流石にこれには乗らない。
「安心しなさい。上に物を乗せればその分だけ大きくなるらしいですから」
「なるほど。便利なもんですね」
俺がそれを受け取ると、「私は忙しいので、これで失礼します」と副団長は帰っていった。忙しいなら部下をおちょくりにくるな、と言いたいところなのだが、引越しのことを教えてくれたので我慢しよう。
私室に入り、早速荷物をまとめる。
もともと荷物が多い方ではないし、寮住まいなので家具等も備品だ。数着の服と、小さめの箱一つに収まる私物をまとめ、魔道具のハンカチの上に乗せてみる。
「おお、本当に大きくなった」
すると荷物に合わせてハンカチが大きくなり、風呂敷のようになった。
たしか副団長曰く、このまま包めば新しい部屋(藍の宮に用意された部屋)に転送されるらしい。
入れていないものがないか再度確認し、包む。すると、魔道具が僅かに浮き上がり、強い光を放つ。
あまりの眩しさに目がくらみ、視界が元に戻った時には荷物は消えていた。
「はじめて魔道具を使ったが……凄いな」
一瞬で荷物を移動できるなら、長期遠征の時にも食料が尽きずに済みそうだ。そう何度も使える魔道具ではなさそうだが、やる価値はあるだろう。
今度団長に提案してみるのもいいかもしれない。
「さて……行くか」
いざ王宮へ。
騎士団VS魔法師/もう何十年もいがみ合っている。上層部はそうでもないらしい。下っ端の諍いは絶えないようだ。
ガレド/国に保護された特別な孤児に与えられる姓。王族は『ガレ』。
短杖/短い杖。だいたい20~35cm。ちなみに魔導師リーデウルが持っているのは27cm。
すみません思ったより副団長が自由に過ごしていきました…
次話でようやく王宮へ向かいます。
無事にロギルは王宮へ行けるのでしょうか。これを予約投稿してる時点ではまだわかってません。
次話の最後あたりでリーデウルがでるといいなーと思ってます。