閑話・王族とご飯(2)
前回の続きです。
「できましたけど、本当に大したことない料理ですからね?」
「うんうん、とっても美味しそうなオムライスだね」
「陛下、聞いてますか?」
「私はケチャップがいいな」
「聞いてないですねわかってました」
何が悲しくてこの国の頂点に立つ人にオムライスなんぞを作らなければならないのか。
その前に俺は一介の騎士で、そもそもは国王陛下とこんなに近くで話す機会なんてありもしないはずなのに。
「いただきます!」
そんな俺をよそに、リディは嬉しそうに食べ始める。
「おいひぃぃい……」
「リディ、言語崩壊してるわよ」
「私たちもいただこうか」
律儀に手を合わせてから食べ始めた国王夫婦が、一口食べる。
「まぁ……」
「これは……」
なにかに驚いていると思ったら、2人の顔がほころんだ。
「美味しいわねぇ」
「美味しいね」
「……ありがとうございます。こんなものでよければ、おかわりもありますので遠慮なくどうぞ」
「ロギルさん、おかわりしたいです!」
「もう少し味わって食えよリディ……ちょっと待ってろ、いま焼くから」
「オムライスー!」
「おとなしく座ってろ! ……誰か来たぞ」
「王子様たちです。今通します。それよりオムライスください」
「ガキかアンタは!」
俺がリディを叱ると、イザベル様はうふふ、と笑った。
「仲良しそうで、安心したわ」
口の端に米粒ついてますよ、王妃殿下。
流石に俺が言うのはどうかと思って、黙ってリディのおかわりを差し出した。
扉の開く音がして、食堂に二人の王子が入ってきた。
「お邪魔しまーす」
「邪魔をするぞ、リディ」
最初に入ってきたのは、ウルフェル様。王家に伝わる銀髪と、父親譲りの萌葱の瞳、そして母親譲りの柔らかい女性受けする顔立ち。そしてゆるい話し方が特徴の第一王子だ。次期国王になるため、現在は父王について、内政を勉強されている。
二人目はエッジ様。こちらも銀髪だが、イザベル様のワインレッドの瞳を受け継がれている。顔は今は亡き前王、つまり祖父譲りのキリッとしたシャープな顔立ちで、どちらかというと伯父に似ているようだ。エッジ様は軍部をまとめており、くそじじいもとい騎士団長の直属の上司だ。つまり、俺の上司でもある。
ウルフェル様は行事等でしかお見かけしたことはないが、エッジ様は頻繁に騎士団に指導や視察にいらっしゃるので、もちろんお互い何度も言葉を交わしたし、軽く打ち合いをしたこともある。
エッジ様は強い。流石に本職の俺たちのようには行かないが、全五部隊ある各隊長よりは確実に強いだろう。
ウルフェル様も強いとの噂だが、どうなのだろうか。
いや、それよりも……王子がいらっしゃったのに、ちょうど二人の卵を焼き始めたところで目が離せない……!!
「ウルフェル王子殿下、エッジ様、背を向けて礼もとれず申し訳ありません。火を扱っているのでご了承下さい!」
くそ、あと一分あれば焼き上げてみせたのに!
「仕方ないからね、かまわないよー」
「……父上、母上。今日は藍の宮に来い、と言う話でしたが、なにかありましたか? それと、アーシェイドはなぜ、キッチンに立っているのでしょうか?」
エッジ様が至極当然の質問をする。その質問は逆に俺が聞きたい。
「リディお薦めの、ふわとろオムライスが食べたかったんだ」
「……ふわとろオムライス?」
「もしかしてー、そこの騎士くんが作ってるやつー? いい匂いだよねー」
「確かに、食欲をそそられる匂いだが……アーシェイドが、ですか?」
「ウルフェル、エッジ、本当に美味しいわよ。この絶妙なふわとろはたまらないわ」
「うん、ケチャップに良く合うよ」
「母上ー、ほっぺにお米ついてるよ?」
「あらやだ、本当? 恥ずかしいわ」
「歓談中失礼します。お二人の分ができましたので温かいうちにお召し上がりください」
「ん、ありがとー」
「本当にアーシェイドが作ったのか。意外だな」
感心した声を上げるエッジ様に、苦笑する。
「王族の方に食べさせられるほど高尚なものではないんですが……リディと陛下が結託して、いつの間にかこうなってました」
「……アーシェイド。後で特別手当を出しておく。苦労をかけるな」
「ありがとうございます、エッジ様」
お気遣い痛み入る。本当に真面目な方だ。
どこぞのくそじじいに見習って欲しいものだ。
「エッジ! これおいしいよ! チキンライスのコーンが甘くておいしい!」
「兄上、わかったから肩を叩かないでくれ……ん、美味いな」
こんなに柔らかく笑うエッジ様の顔を見たのは初めてかもしれない。
あとウルフェル様のテンション高いな。
「ふぅ、ロギルさんごちそうさまでした!」
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「お腹いっぱいになったわ」
「僕もー!」
「アーシェイド、ごちそうさま」
「いえ、喜んでいただけたようで何よりです」
食後のお茶を飲みつつ、そろそろ解散する雰囲気が漂う。
ようやく、この王族が集合している状態から解放されるのか。
そう思うと、肩の荷が降りた気がした。
「アーシェイド、今日はありがとう。色々とね。これからも、リディをよろしく頼むよ」
「陛下の命とあらば」
正直料理に関しては荷が重いので勘弁して欲しいところだが。
「しかし、ふわとろな卵がこんなにも美味いとはな。今度シェフに頼んでみようか」
「どうせだったら私はまたロギルさんに作ってもらってみんなで食べたいです!」
「アーシェイドの負担を考えろ、リディ」
「それもいいねぇ。ね、イザベル」
「そうですね、あなた」
「僕も食べたいし賛成するよー」
……エッジ様だけは、俺の味方なのだと思う。
「よし、じゃあ朱の宮に帰ろうか」
「アセルス様、送りますか?」
「ん、ありがとうリディ。お願いするよ。私とイザベルは寝室に」
「僕は中庭かなー。お風呂の前に少しやりたいことあるからさー」
「俺は鍛練所に頼む。食後の運動をしたい」
「かしこまりました。〈エスペラール・ラオム。我に従いし空間の精よ、彼らを彼らが望む場所へ〉」
こうして、あまりにも濃い一日が終わるのだった。
……俺、自分の飯食うの忘れてた。
王子たちが登場しました!
優男風の顔でゆるい話し方のウルフェルと、きりっとした顔で真面目なエッジ。
エッジはロギルの上司なので、騎士団に所属するロギルのことは当然知ってます。
ロギルが、ウェルフェルとエッジの呼び方が違うのはそういった背景から来てます。
エッジの方が近い関係ですからね。
王族を魅了するオムライス……食べてみたいです(о'¬'о)ジュルリ
この次に、リディとロギルの最初の一週間のお話を書いて、閑話は終わりです
次章に入ります!
これからもよろしくお願いします!