閑話・王族とご飯(1)
前話のその後です。2回くらいに別れます。
オムライスを作るために、材料を切り分け、あらかじめ卵を割っておく。準備が整ったら、魔石をコンロの穴に填め、火をつける。
これは、火の魔力が込められた魔石を使用したコンロで、一般的に普及している普通のコンロだ。
このくらいの大きさの魔石は少々高いが、魔力さえ込めれば何度でも使えることと、汎用性の高さから普及したらしい。
魔力を込める作業は月に一度開かられる魔法市で見習い魔法師たちが修行を兼ねてやっているし、火の魔力を込めた魔石はコンロだけではなく暖炉などにも使えるのだから、普及するのも頷ける。
俺の実家の厨房もこのような設備だったしな。
「ロギルさん、チキンライスはちゃんとコーン入れてくださいね? 卵はとろふわがいいです!」
「わかった、わかったから落ち着け。そして座れ」
まったく、子供かコイツは。
実家にいる年の離れた妹を思い出した。あいつもこんな感じだった。
「朱の宮だと、オムライス自体出てこないからねぇ」
「そうだったんですか、アセルス様」
「そう。だから、イザベルもとても楽しみにしているよ」
「ええ。そもそも、あまりオムライスを食べたことはないわね」
「ロギルさんのオムライスはとっても美味しいので、楽しみにしててくださいね!」
────ちょっと待て。
今、なにかがおかしくなかったか?
どうしてこの場にいないはずの声が聞こえるのだろうか。
賢明にも俺は、振り向かずに問う。
「おい、リディ?」
「はい、どうしましたかロギルさん」
「俺の勘違いだとは思う。今、そこに何人いる? アンタ一人だよな? そうだよな? そうだと言ってくれ頼むから!!!」
そうだ、今の今まで獣人の耳を持つ俺が気づかなかったんだ、そうに違いない。今聞こえてる声とか衣擦れの音とか笑っている気配とかもろもろは俺が勘違いしてるに違いない。違いないと言ってくれっ!!
しかし無情にもリディは答えた。
「違いますよ、私とアセルス様とイザベル様の3人です」
「……俺の覚え違いでなければ、それは国王陛下と王妃殿下の名だった気がするが、まさか同名の知り合いでもいたのか」
「本人だよ、昼にも会ったろう」
「私は初対面ね」
──神よ、俺が一体何をしたというのだろうか。
一旦火を止め、振り返る。
「陛下……? なぜあなたがここにいらっしゃるのですか」
「あれ? 昼に言わなかったかな、6人分頼むよって」
のほほん、とした様子の陛下に若干腹が立つ。
この人は本当に国王陛下なのか。
「いや確かに言われましたけど!! 本当にいらっしゃるとか誰が思いますか!?」
「養子に等しい、可愛い娘の宮に来て何が悪いんだい? まだ息子達が仕事中でね、もうそろそろ来ると思うんだけど」
「話を聞いてください陛下……というかリディ、なぜ知らせなかった? いつからいらしてたんだ!?」
「ついさっきですよ? 来訪者用の結界に反応があったので見てきたら、アセルス様が内緒のポーズをしていたので魔法で隠してました」
な ぜ そ こ で 隠 し た 。
内緒のポーズで口元に人差し指を当てているのはなんとなく理解できるが、なぜそこで素直に隠してしまうのか。
「はじめましてですが、ごめんなさいね、アーシェイドさん。でも諦めてちょうだい。この人は公的な場と私的な場で使う頭が違うの」
「王妃殿下……」
「あら、王妃殿下なんて堅苦しい言い方はよして。イザベルでいいわよ」
「そんな、恐れ多い」
「イザベルがいいって言っているんだから良いんだよ。ついでに私もアセルスでいいから。これ、王命ね」
「王命を軽々しく使わないでください!!」
ここに宰相殿がいたら卒倒していること請け合いだろう。
既に俺も卒倒しそうだ。
「アーシェイド、オムライスはまだかな」
「今作ります……」
材料、ちゃんと用意しておいてよかった。
自由な王様が楽しんでいる話ですね。
新登場イザベル様は王妃殿下です。
息子達も今回登場予定でしたがうまいこと行かなかった……orz
次回も宜しくお願いします