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未定  作者: 数学やらなきゃ
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プロローグ

天才だ。才能がある。優秀だ。


俺はそんなことを言われて育ってきた。

自分で客観的に評価しても、理解力も判断力も長けていると思う。自惚れていると思われるかもしれない。だが、実際、何をやっても、普通の人間より上手く、強く、美しく、素早く行うことができた。

内面にある傲慢さを隠し、周りと上手くやっていくこともできた。

俺は器用だった。


だが、その器用さ故に自らの感情を表面化でしか、理解できず、周りの大人達の行動を観察し、物事の対処の仕方を学ぶとともに、内面の感情を把握できなくなっていった。


俺は本やアニメや漫画が好きだった。


序盤や終盤に名言がある。

意図したものであれ、そうでないものであれ、人の感情を動かすことができる言葉が好きだった。

その言葉は世界を形作り、意味づけ、その物語の知の体系となり、宇宙となる。

発言者、その物語の傾聴者、或いは作者、或いは読者、視聴者、全てを動かし、新たな調和を生み出す。

そんな名言が好きだった。


名言、即ちシェークスピア。それほどまでに彼は数々の名言を生み出した。

如何に傲慢であったとしても、彼の言葉の数々は彼自身、そして現在に至る数百億人の人間に影響を与えたことは変えようのない事実となっている。

彼の言葉一つ一つは美しい。物語の転機になる言葉は必ずと言っていいほど名言になる。


俺はシェークスピアになりたいわけでも、名言が言いたいわけでもない。


ただ、感動が欲しかった。快楽主義者なのかもしれない。

他人の激動を得て、楽しみたい。それだけだ。

自分で作り出すことのできる限界を超え、人生全てを費やしても足りないくらいの感情の渦に飲み込まれたかった。

激しい感情に飲まれながら、その感情を傍観するという矛盾に従属したかった。


この言葉には何の価値もない、この言葉は素晴らしい、そう自らの意思で選択することが楽しかった。

その時は感情をはっきり表現できていたと実感し、またその感動の選択を羨望し、渇ききった心を潤すかのように、また名言に泥む。


そういう自分を客観的に見ることも面白かった。

自分が何を欲し、何を嫌うのか、より理解することができた気がした。


自分の発言の中で、やはり保険をかけたがる自分がいるのをも理解し、また喜びを感じる。


だから、俺には現実世界が退屈で仕方がなかった。

現実世界の青春など陳腐で、感動を覚えるには程遠いものだった。

しかし、その現実世界から生まれた人間が物語を作り出し、自分を楽しませているのもまた事実だった。


理解者を求めた。

そこに隠れている享楽を見つけ出してくれる仲間を求めた。


普通で何の面白みもないはずの人間から出てくるかもしれない感情、それが欲しかった。


自分で作り出すことのできない感情、心の震えを見聞きし、咀嚼したかった。



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