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枢機卿会議

 広々とした会議室に、七つ都市を任されている枢機卿が集まっていた。上座に据えてある椅子に座るのは現法王エリック。そして六名枢機卿は、皆一様な面持ちで円卓に沿って座っている。


「法王様、今になって姿を現すなんて一体どういうつもりですか? 何故、姿をくらませていたのです? 何故、枢機卿会議を招集したのですか?」


 エリック神父に一番近い位置に座っていた一人の枢機卿が、噛み付いた。和やかな顔からは到底牙なんぞ感じ得ないのだが、急所に近い所を抉り込んで来る鋭い物を持っている様だった。それに準じて数人の枢機卿が一斉に吠え出す。


「そうですぞ。第五都市の復旧すら終わっていないというのに」

「未だよくわからぬギルドの輩が第五都市にのさばっている状況、早く聖王国主導にせねばなるまい」

「その為には早く第五都市の枢機卿を任命しなくてはならない」


 今喋っているのが、エリック神父の言う反対勢力なのだろう。この場で口を開く事を許されているのは、枢機卿会議の際に招集される七枢機のみだ。俺はエリック神父の後ろにて特務枢機卿兼補佐として静かに会議の行く末を見守っていた。


 七人の枢機卿達は、各々が補佐役として、次代の枢機卿を担うであろう人物を後ろに付けて会議を行っていた。


 憶測だが、第一都市の枢機卿はエリック神父に一番近い位置で合っているんだろう。時計回りに第一・第二・第三と言った形か。一番始めに噛みつき、それに準じて口を開き出した枢機卿達も反対勢力一波なのだろう。


 エリック神父のもう片方を陣取る人物は第七席。この人はジッと目を閉じて、話に耳を傾けている様だった。この人については話は聞いている。味方だ。荘厳な佇まいが頼もしい。


 第四席。エリック神父の真正面に対座している枢機卿は、勝手に話し始める枢機卿達の顔色を見ながら終始おろおろしていた。この人も味方だと言っていたが、少し心配になって来る。可愛いオッサンという印象だった。


 そして、俺の近くで瞳を閉じている少し浅黒い肌をした青年。彫りの深い顔立ちに黒々としたカールの掛かった髪。彼も終始口と目を閉じて、一切開く事が無かったのである。


「貴方達も知っているでしょう。邪神が復活している事。この教団にも潜伏していたようで、第五都市を落とされ、大教会さえ崩されかけました。私が姿を眩ませていた理由は、魔王サタンとの戦闘で大怪我を負ってしまっていたからです。ある程度本調子を取り戻すまで、身を潜めていました」


 エリック神父のその言葉に、皆が驚いた反応を見せた。


「馬鹿な。あの狡猾なサルマンが邪神ごときに?」

「現法王もってしても、退ける事しか出来なかったのか…」


 邪神の復活を知らなかった者は、改めて聞かされた事実に驚愕し。独自の情報網で知っていた者は、サルマンの事を言う。まぁサルマンが友達だったんだろうな。


 第一都市の枢機卿は、その細めを更に細めるくらいだった。

 相変わらず表情が読めない。


「それはそれはとんでもない目に合われた様ですね。現法王でさえ凌駕する存在。ですから、早めに第五席を任命し無ければならないと思いますよ?」


 第一都市の枢機卿が口を開いた。サタンと直接対決した俺達の事をまるで他人事の様に切り捨てる。何が何でもこの枢機卿会議の時に自分の子飼を任命したいんだな。


「それの件ですが。この度の責任を取り————私が第五都市の枢機卿になります」


 エリック神父の一言に、この会議室の空気が一変する。座している枢機卿全てが目の色を変え、何も言い出せずにいる。


 淡々と自分の言いたい事だけ述べていた第一都市の枢機卿ですら、口を開きかけてからかなり長い間を置かなければ喋り出せない程に動揺しているらしかった。


「…………一体、どういうおつもりで?」

「貴方程の人物がまだ気付けないんですか?」


「———法王位選ポープスローンか」


 ようやく第七都市の枢機卿が口を開いた。相変わらず目は閉じたまま。まるで呆れた様な声で重要な単語を口にする。


「その通り。この度、私は一度敗北してこの聖王国の在り方を考えさせられました。人類の希望として、作られたこの聖王都な筈なのに。たった一人の魔王に揺さぶられ、主要都市の一つを落とされました」

「それが一体なんだと言うのです。災厄クラスの魔族であれば仕方の無い事でしょう。また、立ち上がれば良いのです。諦めなければきっと神の導きがそこにはありますから」


 第一都市の枢機卿が言い返す。深く信仰する一人の神父として、熱く語っている様に見えるが、実際はどうだかな。彼等は邪神の力の怖さをまだ知らない。そしてこの聖王都の意味さえ知らないのではないか。


 そう思える程に、そのセリフは滑稽だった。

 立ち上がる度に、その裏では利権でがっちりと固められ、復興の為に頑張る信者達を食い物にしていそうだった。


「今回、邪神教の勢力に攻め込まれた理由。それは教団内部の腐敗が原因でした。サルマンは裏で邪神と取引をしていたのです。そこにつけ込んだ邪神勢力が、彼に都市結界を一時的に切断させて、各地で魔物の襲撃が起こっていたと報告が上がっています」


 魔物の大部分は任務で第五都市に向かっていた特務枢機卿へと押し寄せたので民間への被害はありませんでしたが。と付け加える。


「病身に伏している間、女神アウロラ様から信託がありました。一度、一新するべきである、と。形は道であれ、私は決定したのです。邪神に対抗できる叡智と強さを兼ね備えた者を次代の法王に据えるべきだと」


 皆、法王を目指すかそれに準じた富を得たい野心家である。それが戦って強い者を新法王に据えるという判断に者を申さない筈が無い。言葉の荒はあまり無いが、噛み砕けば罵詈雑言の様な声があちこちで響いていた。


「そんな物! 貴方の"愛弟子"であるそこの特務枢機卿が断然有利では無いですか! 唯一実力によって執行を認められている枢機卿を新法王へ据えると言っている様な物じゃないですか!」

「いいえ、神は平等にチャンスを与えてくれます」

「は、上手い事神を使いよって! こんな出来レース。それこそ神が許してくださるのかな!?」

「どう考えても隠居して本家を継がせようとしている様にしか思————」





 ダンッ!!!!!





 今まで瞳を閉じていた第七都市の枢機卿が円卓を叩きながらその目を見開いた。鋭い視線が罵詈雑言を唱えていたその他枢機卿を黙らせる。


「法王の"決定"だ。"決定"は絶対であり。女神様からの信託でもある。喋り過ぎだ馬鹿共が」


 低い声で、唸りを上げる様に告げる第七都市の枢機卿。

 そこに痺れる憧れる。なんかハードボイルドっぽさを感じ得た。


「ですが、このままでは平等の匙加減が判りかねます。人は物差しが無ければ物を計れません」


 第一都市の枢機卿が落ち着いた口調で言う。あまり焦らない所から想像するに、実力にも自信がありという事か。


 第一都市の枢機卿からすれば、かねてから第五都市の枢機卿に据えさせて、この度の災害の責任を取らせ法王を降ろしてからジュード・アラフを法王に挿げるつもりだった筈。


 それが、面倒な手続きもせず強い物に法王の座を任せると言っているんだ。それは法王の座は任せるが、そのコントロールは七枢機がよりし易くなったと。そう考えるであろう。


 よっぽどジュード・アラフに自信を持っているんだな。


 エリック神父がニヤリと笑う。流石に今から告げるセリフには絶句するんじゃなかろうか。


「物差しで測れる人物が、何が法王ですか。全ての信者は平等であるべきです。そして教団は今の所戒律を厳しく定めていませんので、自由意志のもと全ての人がこの戦いには立候補できます———」








「———次代の法王を決める祭典の始まりですよ。女神聖祭をここに開催する事を宣言します。各自準備をお願いします」







 エリック神父の言葉に、第一都市の枢機卿の口元が少し痙攣するのが判った。多分枢機卿らが推薦した人物を競わせるとでも思っていたんだろうな。


 第一都市の枢機卿は、平等がどうのこうの言って特務枢機卿である俺を封じ込めたつもりだったのだろう。逆を突く様に、法王就任の権利を全ての人に平等だと言って退けた。


 半端に神を信じ、それによって生きている物に取って、苦渋を舐めさせられた結果になっただろうな。自ら墓穴を掘った様なもんだ。


 教団内で平等なのに、信者が平等でない筈無いもんな?

 教団ゼロ化計画である。


 これはどう転んでも上手く行く様になっている。例え、俺が女神聖祭の一番の催し物である『Battle of Crusaders』で敗北してもな。


 だが、今回に限り俺の敗北は絶対に無い。

 無いったら無いのだ。


 これに優勝すれば、正式にクロスたそを譲ってもらえる。

 遂に認められるんだ。



 待っててねクロスたそ。

 俺が勝ち残って法王の座を手に入れたら、絶対結婚するんだ!








 一人だけ、雑念を持って枢機卿会議に姿を現している神父様がいる様ですね。




 さてさて、導入部分も終わりましたし。

『女神聖祭 Battle of Crusaders -1-』


 始まりますよ〜

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