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エリックの敗北

 咄嗟にオースカーディナルを盾にしたのだが、どうやら無意味だったようだ。そのまま為す術も無く、俺は意識を失った。


 そして、死に戻った場所はギルドホーム。ギルド内の大聖堂の奥にある自室として私用している小さな部屋のベッドである。


 少し気がかりがあったので、精神空間へ赴いてみる。フォルとクレアが使っていた家具が並んでいる。その中で、圧倒的な存在感をかもし出していた物が綺麗さっぱり消え去っていた。


「無い……」


 ついでに言うと、今この場所にフォルとクレアは存在しない。一時的に信託オラクルのリンクを切っている状態なので、二人とも運命の聖書の中へと避難している事だろう。


 戦いも過ぎ去ったので、そろそろ身体へ戻しても良いのかもしれないな。


「クボ!」

「マスタァッ!!」


 リンクを繋げると、勢い良く二人が俺に抱きついて来る。目に少し涙が溜まっている所を見ると、相当心配かけたんだな。


「申し訳ありません。負けてしまいました」

「いいの! ってか貴方の勝率ってそこまで高くないの」

「マスターが無事ならなんでもいいです!」


 クレアマジ天使だな。

 フォルも痛い所をつく。


 よくよく考えれば、最近戦いで負けっ放しな気がする。他力本願というか、回りがとんでもなく強くなっているので、例え俺が負けたとしても人柱的にどうにかなってしまうのである。


 コレをなんとかするべく北の聖堂へと旅立った筈なのに、全く持って本末転倒と言う物なのである。まぁ、彼女達が無事ならそれで良い。


「あ、カーディナルさん。いなくなっちゃったんだ……」


 クレアがぽっかりと空いてしまった空間を見つめながら言う。何故だか判らんが、あの巨大な十字架はココのご意見番として丁重に扱われていたらしい。特に、クレアは十字架に飾り物をして懐いていた。


 俺が死に戻って、そして十字架が無いという事は、完全に消滅させられてしまったという事だろう。


 無くなってしまった今だから言えるが、北からの帰り道、彼には大変お世話になった。ここまで成長できたのも、本当に彼のお陰なのである。


「良い感じに纏めないのなの!」

「すいません」


 でも消滅してしまったのは仕方ない。


「マスターなんか少し嬉しそう……」


 実際に嬉しいんだから仕方ない。先ず、聖書フォル聖核クレアがいない状態で死に戻って、限界点まで上げたあの誓約が全く俺にのしかかっていなかった。身体が軽い。


 今まではクロスを二つ所持していた。教団には聖職者は個人用の十字架と聖書をワンセットで必ず所持しておかなければならない。それも、破損してしまう等、やむを得ない事情が無い限り他のクロスと聖書を持つ事を許されない。


 オースカーディナルのお陰で、せっかくクロスたその所持を許してもらったのに彼女を持つ事を許してもらえなかったのだ。


 コレは絶対にエリック神父の陰謀だ。絶対にそうだ。

 あの子煩悩野郎目!


 オース・カーディナルの所持者。特務枢機卿という立場を上手い具合に使われ、クロスを返してもらえたが、未だに確りをクロスたそで瞑想に至れていない。戦闘もこなせていないのである。


 だがしかし、今は誓約も、その制限も解除された。消滅した。

 ありがとう魔王。流石神。邪神だけど。


 だが、殺された事は絶対に忘れないからな。いつか必ずお返しをする事をここに固く誓ったのである。


「クボ。シスターズから緊急要請なの。第五都市が大惨事だって」

「ああ、それはマリアに任せておきましょう。ウィルソードと藤十郎を向こうへ送ったのでしょう? なら状況説明も大丈夫だと思いますよ。……多分」


 喋りすぎる男と喋りすぎない男。

 果たして、情報伝達は上手く行くのであろうか。


「私は私でやるべき事があります。今すぐ大教会へ向かいます。エリック神父のところへです。多分魔王はすでに来ていてエリック神父が交戦している事でしょう。混乱が予測されますし、これを気に治安が乱れかねません。天門の準備は大丈夫ですか?」

「オッケーなの!」

「は、はいです!」


 さっそくリベンジマッチをするべく。俺は交戦しているであろうエリック神父の元へと転移した。精神空間からの転移はもう何度目だろうか。


 大分慣れたな。場所の捕捉はフォルに任せてある、流石です。
















「———ッ!? 神聖なる奔流ブレッシング・レイ!!」


 転移した先で、黒い業火が俺を包もうとする。

 一体何事か!?


「……貴方でしたか」


 後ろを振り返れば、いたる所を黒コゲされたエリック神父が膝をついて苦しい表情を浮かべていた。


 我が目を疑った。そして、その状況へとエリック神父を追い込んでいる人物は、あの糞ガキ——魔王サタン——である。


「貴方ともあろう方が一体どうしたんですか!?」

「……不覚を取りました」


 急いで駆け寄って自動治癒オートヒーリングを施すが、なかなか効きが悪い。それでも、少しだけ和らいだ顔をしたエリック神父に少し安心する。


「情けないぜ法王エリック。まぁ、人類最強も法定聖圏セントリーガルが無ければただの偉い人ってことだな」

「……私は最強なんて宣言した覚えはありませんけどね」

「はは、耄碌したな。アレお前、今いくつだって確か————才?」

「黙りなさい聖十字セイントクロス!」


 不適に笑いながら、魔王は告げる。法定聖圏セントリーガルやら人類最強やら、なにやら不穏な言葉が飛び交う中。とんでもなく重要な一言を糞ガキが言った気がしたが、エリック神父が咄嗟に飛ばした聖十字によって上手く聞き取れなかった。


「神父も出来たんですね、ソレ」

「貴方からはいつも学ばせて頂いてますから」

「それよりも神父。コレは一体どういう状況ですか?」


 改めて今の状況を尋ねる。


「クボヤマ。第五都市は破壊されてしまったと言うのは本当ですか?」

「はい。あの糞ガキ「——聞こえてんぞ?」じゃなかった。魔王の部下の策略よって、サルマンは自ら結界を断ち切り、それによって第五都市は自滅しました…」

「なるほど。やっぱりそうでしたか……てっきりサタンは魔大陸の奥の闇から出て来れないと踏んでいたんですが、読み違えました」


 遣り切れない様な表情で呟く神父を魔王は嘲笑う。


「だからお前ら人間は決めたがりだって言ってんだろ? 俺が魔大陸から出て来れない理由が"有る"とでも思ってんの? そんなもん俺に直接聞かない限り出ないだろう。法定聖圏セントリーガルは厄介だが、こうやって地道に腐らせてやればいくらでも付け入る隙は出来る。お前は法定聖圏セントリーガル人間界ココから動けない事を俺は知ってるからな」


 ご丁寧なご解説をありがとう。法定聖圏セントリーガルとは、聖王国全体によって構成される大規模な魔術らしい。聖王国の都市の配置が魔法陣の役割を果たしているとかなんとか。


 人類最大の魔法陣による恩恵は、範囲内のみであるが法王の名の下に絶対の勝利を約束してくれるんだそうだ。


 だが裏をかけば構成する都市の一つでも落とせば一気に力を失って行く諸刃の剣でも有り得る。その状況を守る盾として教団があり、統一教義の元に色んな権謀術数の線が重なり合い、人類は互いが互いを攻撃できない様に雁字搦めになっている訳なのだが。


 そういう裏の事情はあんまり考えないでおこう。

 つまるところ、女神様のお陰でみんなハッピーな訳だ。


「これ以上戦闘を繰り返すのはなかなか面倒だ。化物二人を相手していられる程こっちも万全を期していないからな。一番厄介だった教団に封印されていた邪神の欠片もかすめ取ったし、後は直接俺が手を下すまでもない」


 そう言いながら、魔王は転移門を出現させてその中に消えて行く。「俺は世界を魔で満たすぜ。俺らが安心して過ごせる未来が俺の教義なんでな」という捨て台詞を残して。


 くそ、一足遅かったようだ。俺はエリック神父の肩を支えながら彼等が戦っていた教団の地下空間を後にした。


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