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襲来

「地を司る第三席の我が舐められ、こうもあっさりと地に転がされるとは、まさしく愉快なり。まったく見せつけてくれる。良かろう、全力で相手して貴様が全力を出さなかった事を後悔させてやる」


 そう言うと、彼は身に纏っていた上着を破り捨てた。屈強な肉体が曝け出される。その身体には、顔と同じ様な紋様が刻まれていた。


「世界は魔素で満たされている。我ら魔族はそこから生まれた。唯一無二の自然物、上等種族なのだ。そして我は地の魔素を受け継ぐ者」


 唱える様に言葉を紡ぎ始めたベラルーク。その言葉に呼応する様に刻まれた紋様は赤く、赤黒く光り始めている。


 魔力の流れを感じ取ると、彼の身体を循環する魔素が凝縮され高密度に変わって来ているのが判る。


「———!?」


 俺は足下に違和感を感じ飛び退いた。足を見てみると、両足ともくるぶしの辺りまで石化していた。


 おかしい。

 石化の状態異常も、自動治癒オートヒーリングにて完全治療が可能な筈なのに、パリパリと未だ石化を続けている。


「あ、足が!?」

「……!?」


 ウィルと藤十郎も、石化によって地面に固定されているようで身動きが取れなくなってしまっていた。


(フォル! 一体どういう事だ!)

(体内干渉型の石化じゃないの! 流動系の石が貴方の足をギブスの様に覆っているだけなの! でも急いで破壊しないと壊死しかねないの!)


 なるほど。

 着地と同時に、堅い地面に足をぶつけて粉砕を試みた。


 覆っていた石はかなりの堅さを誇っていたようで、相当強い力でないと脱出は不可能だった。それこそ、両足の骨が砕ける程の威力で破壊に掛からないと手に負えないレベルである。


 と、言うか靴がオジャンになってしまった。どうしてくれる。

 足を一瞬で治療し終えた俺に、ベラルークは続けて言葉を放つ。


地殻流動クラストフローを凌ぐか。なかなかやるな貴様! 久々に全力を出せる事を誇りに思う!」


 腕を振るったベラルークの拳は、石で覆われていた。高密度の魔素体に、高密度の魔力を通した石の攻撃は、流石の俺にもダメージは通る。


 身体を反らして躱す。


 状況から察するに、カチコチになってしまった身体の防御力はかなり高いだろう。殴った拳がボロボロになりそうだ。


 未だ地殻流動クラストフローは健在で、俺は足裏の違和感を感じながら場所を移動して戦闘する。


 だが柔術ベースで有り、掴んでからが本来の力を発揮する俺の攻撃は、彼の身を守る流動する石によって攻めあぐねていた。


 攻撃が嫌らし過ぎる。

 ヒット&アウェーなんて、柔術には無いぞ。


 掛け逃げと言う物があったりするが、ルール無用のこの戦いで意味も無く技をかけた所で急所に一発貰っておしまいなのである。


「文字通り、手も足も出ないだろう! 世界が何で出来ているか教えてやろう。地、海、空だ。地は魔素を凝縮させる、そしてその密度による攻撃は———比にならない!」


 凝縮なのに流動するってどういう意見だよと思っていたが、見ているうちに全貌が少しずつ見えて来た。最初は溶岩と似ている物かなと思っていたのだが、どうやら凝縮して漏れた地面を操っているに過ぎないみたいだった。


 どういう事かというと、柔らかい物を手で握りつぶすと、指の隙間からニュルニュルっと逃げ場を失った物が飛び出て来る。


 そんな感じだ、多分。

 俺の勘が告げる。




 ———バゴンッ!




 バックステップで一端距離を取った俺に、本命が来た。地面が凝縮されて最早地殻並みの強度を誇る岩盤となり、俺をサンドイッチの具だと錯覚させる様に挟み込もうとする。


神聖なる奔流ブレッシング・レイ!!!」


 逃げ切れずに万力プレスを味わった俺の身体は、潰れる音と共に一瞬で色々な臓器をごちゃごちゃにした液体に変わる。だがしかし、運命の祝福ブレッシング・フェイトによって聖核クレアの保護がなされているお陰で、一瞬で復活する。


 そして、身体の再構築をしている最中に全身から力の奔流を放出。高密度の岩盤を消し飛ばして、光の奔流の中から俺は生還した。


 生還ではなく、復活だ。

 同時に、潰れる時『ピチュン』って感じの擬音が聞こえたが、岩盤のしまる音『バゴンッ』にかき消されて、回りにいる奴らには全身から光を放ち生還した様に見えるのであろう。


 だがその実は、一回死んでいるのである。

 余談だな。


 一回死んだ事で判った事がある。


 地殻流動という名前に惑わされていたが、実際この男からは、魔力を展開、流動させる事が苦手な節が伺えた。


 何が第三席だ。

 地を司るだ。


 魔素から生まれたんなら、全ての操作がお手の物だろう。たまたま魔素を扱う事に長けた生物だったってだけで、魔素から発生した自然物って時点で世界を冒涜してる。


 上等、下等など、それにかこつけて世界に生きる生命を蔑ろにした言葉もムカついた。邪神教、やはり滅ぶべきである。


「またその光か。鬱陶しい。鬱陶しいぞ。光すら通さない程、固め尽くしてやる」


 ベラルークは再び攻撃を仕掛けつつ、同じ肯定を繰り返す。


 欠点がまた見つかった。

 一連の攻撃には、溜めが必要な様だった。



(フォル、クレア。ちょっといいですか?)

(なんなの〜?)

(はいです!)

(神聖力の展開で、今地面に凝縮されている魔力に干渉できたりするかな?)

(可能なの。相手は所詮、紋様によって効果を得てるだけ。核そのモノのクレアちゃんからすれば赤子も同然なの! そして私達の力を魔素というものは扱うステージが根本違う訳なの!)

(じゃ、クレア、頑張ってくださいね)

(ひゃ、はゃ、は、はいですううう!!!)


 技名は立った今考えた。

 聖域クレリア


 えっと、サンクチュアリでも良かったんだけど、せっかくクレアが頑張ってくれている訳だし、なんとかクレアに因んだ名前にしたかった。


 だが、クレア・サンクチュアリは安直である。そして長い、俺は技名を唱える派。そしてそんな俺からすればブレッシング・レイとかブレッシング・フェイトとかに比べてクレア・サンクチュアリは噛む可能性がある。


 特に、チュの部分とか。

 結果、クレアとエリアを混ぜてクレリア。


 我ながらいいセンスしてる。


(……)

(……)


 さて、度肝を抜いてあげよう。


「魔力の扱いが下手糞です。凝縮も展開も同時に扱えてこそ魔力でしょう? 聖域クレリア!!!」


 そろそろ顔に到達しようかとしていた、ウィルと藤十郎を覆っていた流動する石であるが、聖域が発動した瞬間に力を失った様に砕け砂になってパラパラと風に舞って飛んで行ってしまった。


「な…な…!?」


 この状況に言葉を失ってしまったベラルーク。


「一体何をしたああああ!!!」


 狼狽えるベラルークに近寄って行く。意味不明な出来事に動揺し後ずさる彼の鳩尾に確り踏み込んだボディブロー。飛沫をまき散らしながら踞り、ちょうど良い位置へ下がった彼の顔面をそのまま蹴り上げる。


「何が魔素から生まれた上等生物ですか。神を冒涜しています。そしてコレは消滅した私の靴の分!」


 死んだカエルの様に仰向けになり失神したベラルークの急所に蹴りを一発。この痛撃によって目が覚めたベラルーシは『グポォオォオ』と汚い悲鳴を上げながら丸くなる。


 生殖機能が備わっている奴が、何が自然から生まれた上等生物か。

 彼の赤黒く発行していた紋様は、聖域クレリアの発動と同時に消え去っていた。なるほど、こういうのにも作用するのね。


「藤十郎さん。あまり戦いと言う物をお見せできませんでしたが———」


 このままこの男を完全消滅させ、戦いとは何たるかと言う物を彼等に説こうとした瞬間である。







 空が、急に闇に包まれた。








 強大なエネルギーを遥か上空から感じ得た。

 それも、聖核を持ったエネルギーの塊である俺よりも遥かに強大なモノを感じる。未だソコへ至れていない藤十郎やウィルソードは、急に闇に包まれた空に首を傾げるだけであった。


「……ハハハハ……ハッハッハッハ!!! 神は我を見捨てなかった! この雷は、我らが王、サタン様の力! 神よ! 我に慈悲を! 救いの手を! この憎き神父に、裁きの鉄槌を———」


 寝そべりながらも狂った様に息を吹き返したベラルークが、その両腕を空へと突き上げた瞬間、一本の雷が走る。


 あまりの光量に目を覆う。そして今一度ベラルークの横たわる地面を見据えると、人形の影だけが、そこに取り残されていた。


「おいおい! 神父さん! これはいったいどうなってるんだ!?」

「……」


 ピシャピシャと狙いを定める様に落ちる雷は、明らかに俺達を狙っていた。

 一発でも貰ったらマズいよな。


「マズいですね、一度帰還しましょう————ッッ運命の祝福ブレッシング・フェイト!!」


 天門を開き、彼等を引き連れて帰還しようとした瞬間、雷が二人を包む。

 瞬間的に俺は運命の祝福にて彼等の死を回避する。


「あ、あれ……おれ今しんで? ってうわぁっ!」

「神父、あんたは———!」


 そして即行展開させた天門に二人を放り投げる。

 転移場所と天門の制御はクレアとフォルに任せてある。


 そして俺もそのままトンズラしようと思った瞬間、天門に雷が直撃してしまった。天門は消滅し、轟音とあまりの衝撃に俺は十メートル程ぶっ飛んでしまう。


(フォル! クレア! 無事ですか!?)

(大丈夫なの!)

(は、はい! フォルちゃんが守ってくれました!)


 声を聞いて安心したのも束の間。空から声が響く。






「ハロー神父。 散々邪魔してくれるから、俺直々に殺しに来てやった」








 なんか、噛ませになった。


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