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邪将ベラルーク

 天門ヘブンゲートにて転移した先には、背中から黒い羽を生やした褐色の屈強な男が待ち構えていた。赤黒い戦いの模様が塗られた顔から鋭い視線を感じる。


 その背後に従えているガーゴイル達。

 この時点でコイツらが邪神教の一門である事が容易に想像つく。


「ふん、貴様がそうか。よく魔物の軍勢から生き残れたな。まぁ、人間界の魔物は軟弱でいかん。そう容易く死んでもらうと此方としても興ざめだがな」


 男は鼻を鳴らし、そう言う。


「あの魔物は貴方達の仕業でしたか……と、言う事はサルマンは本当に結界を切ったんですね」


 予想は当たっていた。

 となると、心配になるのは第五都市に住む住人である。


「サルマン…? ああ、あの腰抜けか。手みやげだ、ほら」


 そう言いながら男は此方に向かって何かを放り投げた。

 それは、サルマンだと思しき人間の生首だった。首元からスッパリ切られて、だらしなく口元から舌を出した生首が、ゴロゴロと足下に転がる。


「……」

「な、生首!? ひェッ!」


 藤十郎は僅かに顔を顰めただけだったが、ウィルソードはそれだけで怯んでいた。

 まるで、俺達の目的がサルマンであると初めから判っていたようであった。まぁ元々サルマン自身、どうにもならなかったら粛清と称して殺す予定ではあった。


 だが、まだ他の可能性だってあった筈だ。

 それはどうにでもならない時の最終手段であって、覚悟は決めていたが本来の目的は別の部分にある。


「貴方……! 第五都市には、手を出していませんよね?」

「直接手出しはしてない。 が、この腰抜けがまんまと策に溺れて結界を切ったお陰で、魔物の軍勢にのまれよったわ! ハッハッハッハ!!」


 そう言い放ち、男は愉快そうに笑う。

 実に不愉快だ。

 胸の中からドロドロとしたとんでもない物がせめぎ上がって来る。


 その話を聞いて、下手に想像してしまったのか、ウィルソードは嘔吐する。


「ぉぇッ… 目、目が合っちまった… ゲームなのに、何だコレぇ…」


 この世界をゲームだと思わない方が良い。彼に自動治癒オートヒーリングを施す。エクストラヒール、オールリカバリーなど様々な高位回復系呪文を一緒にした呪文であり、患者を自動で選別しそれぞれに適した回復を施す。


 フォルトゥナースさんです。


(治療は任せてなの! ずっとやってきたから慣れてるの〜)

(じょ、女医ですか!? 女医! 魅惑の単語です!)


 馬鹿な事を口走るモン○ッチ達は放っておいて。


「コレを被っておいてください。致死の攻撃から一度だけですが身を守ります」


 未だ苦しそうにするウィルソードに飛行帽を渡しておく。一応運命の祝福ブレッシング・フェイトを施しておくが、万が一もあるからな。


 絶対それに吐くなよ。マジで。

 大事なんだから。


 まぁいい、コレで藤十郎は一回死んでも大丈夫。

 ウィルソードに至っては二回死んでも大丈夫だ。


 ウィルソード見ているとすっかり胸の内からモヤモヤが消えていた。安全マージンを確り取った上で、さぁ出陣しようかと思った段階で、隣を見ると藤十郎がいなかった。


「———ッ!!」


 ヌンチャクを両手に、縮地歩法にて一瞬でその男との距離を詰める。怒りにのまれている様に、めらめらとその怒りを自信の力に変えて藤十郎はヌンチャクを振る。


「矮小な腰巾着かと思えば、こんな所に生きの良い武人がおったわ」


 藤十郎の猛烈な接近に狼狽える事も無く、その男は自分の名を一言名乗ると、手をかざす。


「我が名はベラルーク。我が主、サタン様に仕える邪将の第三席。我に殺されるのを光栄に思え———豪腕の土塊グランド・アーム


 藤十郎とベラルークと言う名の男の間に、魔法陣が出現し展開する。そして地面が隆起して巨大な拳を象る。


 ベラルークが手をかざすと、その巨大な拳は藤十郎へと押し寄せて行く。

 慌てて神聖なる奔流ブレッシング・レイにて拳を消し去ろうかと構えたが、その必要は無かった。


 地面と地面が轟音を立ててぶつかり合う。

 だが、そこに藤十郎の姿は無かった。


 地面を殴り、アーチ状になった巨大な拳の上を、まるで橋を渡るかの様に駆け抜けて行く藤十郎が見える。


 曲芸の様な足運びで詰め寄り、ヌンチャクは攻撃範囲を稼ぐ為に梢子棍の形状になっている。いつになく本気だな。


「ふむ、なかなかやる」


 対してベラルークは余裕だった。

 巨大な拳の魔法陣は未だ輝きを失っていない。


 これはもう一撃あるな。


「魔術は不得手か? 体術のみでは超えられぬ壁と言う物が存在するぞ」

「———しまッ」


 ニヤリと笑ったベラルーク。案の定、振り子の様に拳は折り返し、今度は裏拳で潰す様に藤十郎に襲いかかる。


「熱くなるのは構いませんが、怒りにのまれるのはいけません」

「……」


 天門をすぐさま展開し、俺は藤十郎を一瞬の内に小脇に抱えて再び天門にてこの場を逃れた。小脇に抱えた藤十郎に説教する訳だが、コイツふてくされてやがる。


「チッ。転移門を操るのは厄介だな」


 悪態をつくベラルーク。

 コイツらは躊躇無く必殺の一撃を放って来る。

 そんな戦いに藤十郎はついて行けない。


「……助けなくても避けれた」


 隣で藤十郎がふてくされた様に言う。

 勝負に水を挿されてさぞ虫の居所は悪いだろうが、立った今俺は悟ったよ。


 コイツらは戦闘を舐めている。


「貴方は、武人である資格も自覚も足りません」

「……」


 ムッとした表情になる藤十郎に、俺は更に続ける。


「第一、先日私に勝てないと悟った段階で、貴方は負けを認め、戦いを放棄しました。その時点で気付いておくべきでした」

「……試合だったろ」

「いえ、死合いです。試合ではありませんよ、殺し合いです。大方大学のサークルで日和ったんですか? 強さの境地を目指すだなんだ言って、自分が死ぬ事を一番判っていない。まだこの状況に不快を感じて嘔吐するウィルの方がマシです」


 押し黙った藤十郎。

 ウィルソードも此方を覗き込み話を聞いている。


「勇敢と無謀を履き違えるな。これはゲームじゃない、甘ちゃんが…ッ!」


 ウィルソードがボソッと「いやゲームだろ……」と呟いた気がしたが、ノリに任せて言い放った言葉なのでスルーした。


「いっそ潔く死んでデスルーラでもされてください。と、いうか今から私が戦いますので見ておきなさい」


 邪将? そんなもん、将軍級悪魔よりもマシじゃい。

 冥界の化物よりもマシじゃい。

 と、言うか冥王より同じ位とは到底思えない。


 藤十郎のレベルが思った以上に高かったから行けるかと思っていたが、精神的基盤で俺達の立つステージに上がって来れていない。


 かつて師匠にさぶろうが言った言葉を、俺の戦いを通してよくよく思い返してみる事だな。


「……貴様。この我をいとも容易く倒せると言った風な口の聞き方ではないか。神父風情が、戯れ言が過ぎるわ!」


 まるで、ベラルークのことなんぞ眼中に無いと言った会話の流れに、苛立を隠せていない様子だった。そんなんじゃ程度が知れるぞ、第三席。


「ガーゴイル共、行けい!」


『あいわかッ———』

『我の猛火にていッ———』


 そう言いながら、猛然と羽を羽ばたかせて攻撃に移ろうとしていたガーゴイルであるが、一言を言い終わる前に、羽ばたく羽が二往復目に入る前に消滅する。


 神聖なる奔流ブレッシング・レイが一瞬の内に彼等を飲み込んでしまったからだ。以前の様に急所から弱点属性の攻撃を加えて崩壊させる手間なんて無い。まさに光が迸る一瞬の出来事であった。


「な、何をした!?」

「ガーゴイルにはあまり良い印象を持っていませんので、即行で退場して頂きました。そして——」


 天門にて、ベラルークの眼前に出現する。


「——コレから一切遠距離攻撃は使いません。貴方の言う転移門もです」

「グァッ!!」


 そう告げて、彼の鳩尾にボディブローを叩き込む。

 釜焚きボイラーさんの方が強靭な肉体をしていたよ。


「こ、このッ!」


 腹を押さえてベラルークは後方へ飛び退く。

 その動きに合わせて俺も一緒に飛ぶ。


 要するに密着に近い状態で再び俺の拳は彼の顔面に、腹を押さえて甘くなった防御が故にクリーンヒットした。


 バランスを崩して地面に転がる。呻く様に腹と顔を押さえる男が立ち上がるまで俺は黙って待っていた。


「……クク、ククク、ククハハハハッハッハ!!!」


 ベラルークは笑いながら立ち上がった。

 その目は充血して真っ赤になり、顔面は魔力を灯した紋様にて赤黒く輝いていた。


 見た事ある。ハザードの魔紋に似ている。



 手ほどき回です笑

 廃人プレイヤーのセリフですね笑

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