第五都市への道中2
中国拳法やら何やら言ってますが、実際にはこの世界の対人、対魔物に合わせて変化させて行った物になりますので、実際の知識とは関係ありません。
想像しやすい様に例えていたりはする訳で、実際に拳法も何も知らなくても大丈夫です。
「参ります———ッ!!!」
その声と共に、真夜中の中継所にある宿の裏庭で俺達は激突する。
特殊な歩法による物なのだろうか、一瞬で肉薄する藤十郎の拳を紙一重で回避する。目でも追えるが、神聖力を回りに垂れ流し、動きを掴む事にする。
この手合いは、視覚に頼ると痛い目を見る。様々なフェイクを織り交ぜた独自の動きがあるからな。
ノーマルプレイモードでは無理な動きでも、リアルスキンでは可能になる。
もし藤十郎があの男の弟子であるとするならば、俺の戦い方を少しは聞いているかもしれない。
そして、あの男を知っている故に、現段階で藤十郎が"本気を出していない"事も悟る事が出来るのだ。
「すごい存在感だ。まるで貴方が巨大に見えて来ます。これは殺気とは違う様ですね」
こいつ、なかなか鋭い。
俺の神聖力を感じ取っているのか。
「師匠は元気ですか? 本気を出していいんですよ?」
「はい。北への旅路ではお世話になったと言っておりました」
「それは、此方のセリフですよ」
お互いかそう言い合いながら、組み手は続く。
ちゃっかり俺の戦法は研究し尽くされているというか、教わっているらしく、なかなか捕まえさせてくれない。
だがな、俺はぶっちゃけ柔術を得意としている訳じゃないぞ。高校生の時から習っているだけであって、剣道やボクシングも齧っている。
そして、ジャ○キーの映画が大好きだからな、それも独学で学んでいる。ジ○ッキーって本格的な武術じゃなくて、京劇の体術みたいな感じだとか。
「本気を出さないのですか?」
「貴方も、あのクロスと聖書を使って無いじゃないですか」
藤十郎の拳が、猛烈な勢いに乗って行く。
フェイントを織り交ぜつつの翻子拳だ。
ぶっちゃけリアルの動きとは比べ物にならない程の速度である。
マンガの世界だな。
彼等は、一流に足が届きそうなパーティだが、藤十郎はパーティの中で唯一そのクラスへと踏み出しているだろう。
俺は、猛烈な速度で分身している様に思える腕を確り見切り、エリック神父直伝、クロスカウンターを繰り出す。
「———ッ!?」
藤十郎は、猛攻の中の隙間を縫って躍り出た拳に構える。
まぁ、急に現れた様に錯覚するだろうな。
「視覚に頼っている状況で、目を瞑ってはダメですよ」
そしてそれは当て身である。俺の動きの主体は基本的に柔術にある、そのまま襟元を掴み、乱雑に放り投げる。
藤十郎は、空中でなんとか体勢を立て直し、両手両足を使い猫の様に着地する。優れた体幹バランスだな。
「化物だな……」
いつの間にか敬語では無くなり、その瞳は自分より格上の敵を見つけた武人の色に変わっていた。そうだ、それで良い。
「師匠が言っていた以上だ」
そう言いながら、藤十郎は足に仕込んでいた武器を取り出した。三節魂をバラして入れてあるのかと思ったが、彼が取り出した獲物は二対のヌンチャクである。
中国拳法かと思ったら琉球古武術かよ。
って、そんな事を言っている暇はない。
縦横無尽の動きをするヌンチャクの片方を躱すと、すぐにもう片方のヌンチャクが俺を襲う。そして、その武器分伸びた間合いを見誤った俺の脇腹に鋭い衝撃を受けた。
武器を持った相手って素晴らしくやり辛い。こちとら接近戦な訳で、素手より広くなった間合いに対して、どうやって攻めるのかである。
一つのヌンチャクならば、まだ無理矢理隙を作り出す事が容易な訳だが、両手に持ったヌンチャクがお互いの隙をカバーし合い、攻めあぐねてしまう。
その技術を持つ藤十郎が凄腕な訳だが。
「……効いてないのか、化物め」
「STR依存の攻撃は通用しませんよ」
気軽に答えを告げる訳だが、信じれないだろうな。
藤十郎の攻撃は鋭い。そして自分の手足の様にヌンチャクを操る技術を持っている訳だが、俺とは文字通りレベルが違う。
「かつて師匠が言っていた。武のみでは、境地へ至れないと」
「……? 二三郎がですか?」
「ああ、それは教示される物じゃなく、己で探し当てろと言われた」
俺は、藤十郎の言葉に無言を持って返す。
それで伝わるだろう。
「貴方と戦えば、その境地にたどり着ける気がする———」
そう言いながら藤十郎は、ヌンチャクを振るう。
残念ながら、もう間合いは計ってる。
間合いさえ判れば何が来たって一緒だ、少し長いだけの素手と変わらん。
「———ッッッ!?」
急に彼の間合いが伸びたかと思うと、後頭部に一撃を貰う。
痛くはないんだけど、衝撃だけは伝わってくるんだよな。そして、後頭部への一撃は、彼の師、二三郎の三節棍を思い出す。
「コレで手の内は全部だ。急所への一撃も通じないのかよ……」
梢子棍である。二対のヌンチャクだと思っていた物を藤十郎は、繋ぎ合わせて梢子棍にした。ひと纏まりになった分更に伸びた間合い。
俺の後手に回って間合いを計り掴み技に活かすという習性の様な物を逆手に利用された。ヌンチャクは見誤っただけだが、梢子棍は本当に逆手を捉えた形だった。
そして無防備は後頭部へ遠心力を目一杯に溜めた一撃である。並みの人間なら、即死だ。そして、二三郎とプレイヤーズイベントで激突した頃の俺であれば、急所ペナルティによって死ぬ事は無いが、昏倒して自動治癒するまで数秒無防備に落ち入ってただろう。
今は、当然ノーダメージである。
そしてそれを確認した藤十郎は俺の負けだと言わんばかりに手を挙げ降参した。
「これ以上やっても無意味だ。結果的に何も学べなかったし、もう終わりだ」
何勝手に止めてんの?
殺り逃げって言うんだよそう言うの。
「何言ってるんですか? 戦いを始めたら決着がつくまで終わりませんよ。君が武人の目をした瞬間からそれは決定事項です」
「だが、実質攻撃が通用しない時点で勝敗は明確だ……」
それを屁理屈というんだよ。
一つしてやられた借りがあるんだ。
「君が、奥の手を見せてくれた様に、私が次は披露する番じゃないですか」
「……」
無言という事は、是として受け取って良いんだな。
イエスなんだな。
そう言う事なんだろ。
実際、俺も少しムキになっているのは否めない。
そして、エリック神父が俺を甚振る理由が判る気がする。
(クレア、少しだけ本気を見せよう。あとフォル、彼にこっそり運命の祝福を掛けてあげて)
(は、はいです〜)
(も〜、クボも子供なんだから!)
神聖力を開放し、天門を使い藤十郎の背後へ一瞬で転移する。
「……ウソだろ……」
お仕置き完了である。
「そう言えば、確かに師匠は仏門へと入り頭を丸めて修行を行っていた。精神修行に何があるのかと疑問を感じたが、そう考えると自ずと先が見えて来る」
一度拳を交えた事で打ち解けた藤十郎は、饒舌だった。
「あれ、藤十郎は知らなかったっけ? JOKERのagimaxも、確か仏門を極めて韋駄天の称号を手に入れたってよ」
「あのギルドは様々なプレイヤーがいるけど、レベル上げ、称号獲得に力を入れているわね。勢力圏はほぼ東よりだけれど、まぁ福音の女神が西にあるから仕方ないっちゃ仕方ないと思うんだけど」
「私は一応女神教団入りしていますよ。一応ログインしたら礼拝を欠かす事は無いです。信用度と言う物は重要ですからね。まぁノーマルプレイヤー時代からの名残な訳ですが……」
第五都市への道すがら、俺らの会話にウィル、アコ、アオイが加わって来る。中継所を過ぎた段階で、魔物の襲撃はぴったりと止んだ。そりゃそうだろうな、流石に一日以上結界を停止させておく事なんて馬鹿でも考えない。
だが、平和そうに見えて、この不自然な静かさに少し不安を覚えていた。で、あるからこそ、こうして和気藹々(わきあいあい)とお喋りに現を抜かしている訳である。
(本気、出してしまった……)
(も〜、セバスにも念を押されてたでしょ〜? 乗った私も私なんだけどなの〜)
(は、はい〜。私はご主人様の意思に逆らえないので申し訳ありませんんん)
心の中で独りごちると、フォルとクレアが言葉を返す。
反論の余地もない。
藤十郎との戦いの時、ついついムキになって本気を出してしまった。でも中継所で、第五都市からもそこそこ距離のあるこの場所であれば、気取られる心配は無いだろうと思っていたんだが、実際の所どうなんだろうな。
もう少し大人になろう。
現実逃避というなのセーフティーモードに落ち入りたかったが、隣で二日酔いに頭を悩ませるマリアの介護が重要だったため、今日は朝の礼拝すらしていない状況だ。
その状況にかなりフォルとクレアはぶすくれているが、仕方ないだろう。何やらシスターズを呼び出して説教すると息巻いているが、止めて差し上げて。
彼女達は何ら悪くない。一番悪いのは、商人のロールプレイさえまともに出来ないこの女なのだから。
「そういえば、貴方達はリアルでも付き合いのあるメンバーなんですか?」
アオイのノーマルプレイヤー時代からの名残という言葉を聞いて、気になってみた事を尋ねてみる。
「私とアコは同じ大学の友達で、アコとウィルは幼馴染み。で、藤十郎はギルドへ来る途中仲間になったんです」
「で、いざ一緒に旅してみたら皆同じ大学に通ってるからびっくりだよな〜」
「アオイちゃんてば、清楚な成りして意外とヘビーゲーマーだったんだからこの〜!!」
「藤十郎と大学であった時はゲームの中と錯覚をおこしたぜ!」
アオイとアコは、大学で知り合った友達らしい。そして、アコとウィルは小学生からの幼馴染みで、藤十郎はたまたま同じ大学にいたらしい。
出会ったのは皆この世界で。
世界って狭いねぇ。いや、現実の方な。
「因に、どこの大学ですか?」
「龍峰大学だぜ!」
「龍峰大学よ」
「龍峰大学です」
俺も通っていた大学じゃないか。生徒総数が万を超える大学な訳だが、それなら有り得る話である。ネトゲで出会うよりも、その大学で待ち合わせする方が大変だ。
まぁ、俺は中退だけど。
こんな風にお喋りしながらの道中であるが、俺の懸念はやはり的を得ていたらしい。強大な魔力が、とてつもない速度で俺らの元に近づいて来ているのを感じた。それも、第五都市の方角からである。
「藤十郎……気付いてますか?」
「……それが何かは判らないが、とにかく胸がざわついて仕方が無い」
俺は、一つ前を走る商人の青年に、この馬車を見ておいて貰えないかお願いしてみる。快諾してくれた青年は、今にも吐きそうなマリアにびくつきながら御者席へとやって来てくれた。
「お、おい。何やってんだよ?」
「……馬車の警護を頼む」
俺達から何かを感じ取って尋ねて来るウィルソードに藤十郎は短く告げる。
「また、てめぇら裏でこそこそやってんだろ! 昔の知り合いの伝手とか知らないけどな! そう言うのずりぃからな!」
「原因は私ですから……。一応言っておきます、とてつもない魔力が私達の元へ向かって来ています。多分感づかれたのかと」
「ここからの戦いは次元が違う。お前が着ても足手まといだ」
藤十郎、お前も何上から言ってんだよ。頼むから無愛想は止めてくれ。まぁ本気で死地へと向かわせたくないのは判るし。だが、お前もついて行けるか判らないレベルなんだ。
二三郎から『三回くらい殺してやって』との手紙が無ければ連れて行かないレベルだぞ。素直に従ってくれる女性陣を見習うんだ。
「とにかく、時間はありません。行きましょう天門」
敵に見つかってしまってはこっそりするもしないもどの道一緒なのである。ならば最初から全力前回だ。
「あ、待ちやがれ!!! 俺も一緒に連れて行け!!!」
そう言いながらウィルソードは、後先考えずに天門へと飛び込んだ。おいおい、少し前までの天門だったら即死だぞ。即死案件だぞ。
俺が聖核を持っているから制御できているだけで、コントロールを一歩ミスるとこの中に入った物は即死だ。
かつて、この天門によってやられた名無しのロッソがそうであった様に。一度昇天させている現実には、変わりないのである。
投稿が遅れました。
申し訳ございません。
目的地を決めて起きながらですが、基本的に目的地に行く事はありません。
クボヤマ視点ですので、状況は予測の範囲で、基本的に蓋を開けてみないと判らないと言う物は多々あります。




