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第五都市への道中1

 それから、あれよあれよという間に出発した。

 ウィルソード達のパーティ『毎日がeveryday』は、ギルドメンバーではなく、観光と実利を兼ねてこの都市へ着てみたら、居心地が良過ぎてそのまま居着いてしまっただけだった。


 まぁ、なのでギルマスだったり執務長セバスの事を知らなくてもいいんだけど。依頼者に対する態度が問題ありだという訳で、セバスがハンター協会へ通じてペナルティを与えた。


 いつになくキレていたセバスである。

 何気に初めて見た。

 少し面白かったんだけど、黙っておこう。


 彼の逆鱗に触れてしまうと、社会的に殺される可能性大である。枢機卿という立場に居ても、そんなの関係無しにどこぞの王族とか引っ張って来られても困るし、何よりギルドの運営を彼一人に任せている以上、俺は何も口出しできない。


 そう、この旅商人とそれを護衛するハンターパーティに扮したロールプレイでさえ断る事は出来ないのだ。


 ノリノリでやるけどね。


 彼等へのペナルティは、セバスの調査に同行しろという事らしい。要するに、魔大陸へ出張する俺について来るという事だな。


 実際、パーティ『福音』は顔バレが激しいのと、自重しない連中が数人居るお陰で、魔大陸へ行くまでの道中で目立ちすぎる。宣教師と旅商人へ扮装し、秘密裏に渡航する為のデモンストレーションなのである。


 ウィルソード個人に対してもペナルティは課せられていて、それは依頼料と前金のカットである。

 借金だな。パーティメンバーには正規の報酬が与えられる、ウィルソードの財布から。ビクトリアの街でかなり散財していた彼は、払える筈も無く、セバスが立て替えているので、返済し終えるまでコイツはきっちり教育され、働かされそうである。


「なんで俺らは歩きなんだよ……」

「も〜、そろそろ機嫌直したら? 今回はウィルが悪いよ!」


 第五都市への道中、様々な旅商人に紛れながら進む中、ウィルソードはずっと文句を言い続けていた。主に俺に対してであるが、セバスからのペナルティがかなりキツそうだったので、特に言う事もなく逆に憐れみを感じている。


 聖王国都市間には、グルグルと物流を巡回させている商隊が存在する。そうして各地を満遍なく回り各地の物資を支えている訳だ。その一つに紛れ込む様にして、商隊の最後尾から少し離れた位置をついて行く。


 俺らの馬車の後ろからも、旅のハンターや、歩きでの旅商人等がぞろぞろとついて来ている。何か文句を言われるかなと思われたが、多分ウチの馬車の護衛を利用されているんだろうな。


 その証拠に、隊列の最後尾には護衛が少なかった。


「昼間から飲むのは止めませんか? ……お願いですから。職務ですって」

「だって暇なんだものぉ〜! あんたも一口くらいいきなさいよ? ねぇ?」


 道中が暇過ぎたのか、マリアは即行馬車に積んである酒を伸び出した。酒樽の他に、瓶に詰められた物も入っている。瓶に入ったエールはかなり質のいい物で、瓶の底に一つひとつ温度調節の魔法陣が刻まれており、マリアは飲んだくれのおっさんの様になりながら酔っぱらってなだれかかって来る。


 膨よかな女アピールを酔った勢いからか、終始俺の腕に押し付けて来るのだが、地味に刺が痛くて非常に鬱陶しい。


 ってか、飲酒運転に入るのかなこれ。手綱を握っているのは俺な訳だが、そこの所どうなんだろう。


 この状況で嘔吐しない事を祈るばかりだ。

 ハラハラするので、回復魔法をこっそり施しておく。あと、彼女のシスターズにも確り管理しておいてねとフォルを通じてお達しする。


(わかっちゃいるけど、マリアずるいの〜! シスターズには少し厳し目にする様に言っておくの!)

(ふぉ、フォルちゃん落ち着いてくださいぃぃ!!)


 毎日ログインしたら、瞑想の為に精神空間に出向いているだろう。物も買い与えているし、俺の回りの女性はもっと我慢する事を覚えてほしい。


「うわぁ、お酒飲むと、人って変わるんだね。わたしまだだからわかんない」

「お酒はお淑やかに嗜む物ですよ。大学のサークルじゃまだなんですか?」

「まだ二十歳になってないからねぇ〜」

「……嘘だ……俺の、マリアさん……」

「ウィルもさ、将来きっと良い人が見つかるって」


 そんな様子を見ながら話すアコとアオイ。更に落ち込むウィルソードを宥めるアコの声も聞こえて来る。そんな、道中であった。















 向かう道中にて、魔物の強襲が起こる。市街には結界が施されているが、市街を繋ぐ道には途中の中継地点をのぞいて結界等が施されていない。そりゃ、常時起動させるだけでも莫大な魔石を使用するからな。


 それを賄える教団は、やっぱり巨大組織だと言う訳だ。世界中から寄付金が集まって来る訳で、やはり宗教は強い。


 さて、此方も商隊に紛れさせてもらっているので、その分働きましょうか。


「後方からの魔物は任せて頂いて結構です!」

「助かる!」


 後方の馬車を操っていた一人の商人が、剣を抜きながら俺に言う。この世界の商人は、一通り戦える人が多い。それでも商人故に安全マージンは確実に獲りたいのであろう。


 ハンター協会などに護衛依頼を出す訳だが。


 今回強襲して来た魔物は、何かに従っている節がある。なかなかの連携で、馬車を追い込み取り囲んで来ている。


 不運だな。


「俺の出番だな!」


 本格的な護衛の仕事っぽくなって来た事で、ウィルソードがやる気を取り戻した。それに呼応する様に、彼のパーティメンバー他三名は戦場に展開する。


 回避盾の様な役割が強い彼のパーティは、一カ所に固まってしまうとその利点を無くしてしまうからな。


 取り囲まれる前に早い所、分散していつも通りの動きをする方が吉だろう。


 ある程度のランクでこの中央聖都まで来れる実力は、まさに一流に足を踏み出そうとしている可能性を感じた。


「デュアルファング! おいギルマス! てめぇも動きやがれ!」

「ファイヤスプレッド! だめよ! お忍びなんだから!」

「アクアベール。みなさん、それは言ってはいけない事ですよ?」

「……馬鹿野郎が」


 ウィルソードが舞う様に駆け抜けて、トリッキーな動きで双剣を操っている、一瞬カポエイラかと錯覚したが、どうやらブレイクダンスを取り入れた動きだった。


 アコは緋色に輝く宝石がついた杖を振るう、恐らく高価な火属性の杖だろう。その補正に後押しされた炎の魔法がその名の通り、広範囲で魔物に襲いかかる。


 アオイの生み出した水のベールは、俺とマリアを包む様にして戦火の飛び火から守る。


 藤十郎は珍しいな、技名を言わないプレイヤーだった。対人戦のセオリーを判っている様だった。と、言うよりも身体の動きがほとんど武術家の動きに近かった。ウィルソードのカポエイラ風のブレイクダンスとは一線を画した武術家の身のこなし。


 似ているな。

 いつだか戦ったあの中国拳法家の動きにそっくりだった。後でゆっくり話し手みたいな。


「助かったよ! 随分とまぁ腕の良い護衛じゃないか!」

「ええ、でもこの魔物の動き……些か奇妙じゃないですか? これほどまで的確に包囲してくる魔物なんでいるんでしょうか?」

「それもそうだな……。ここいらの魔物は市街に結界で入れない分、地域毎に食物連鎖を築いていて、この街道を襲って来る魔物の規模もしばらくここまでじゃなかったはずだ」


 もちろん、群れでの狩りを得意とする魔物もいる。それは司令塔となる魔物がいるチームだからこそ有り得る話なのだ。広大な領域を誇る荒野に潜むコヨーテや、森に潜む小鬼。


 集団で襲いかかる魔物が少ないのは、市街や中継所に結界が施されている聖王国ビクトリアならではの生態系だった。


 道中に枠のは、生態系から追い出されて来た雑魚か、意思を持って他の地を目指す大物のどれかしかいないと言う。故に、俺の馬車の前を行く馬車に乗る商人もこの魔物強襲の不自然さに気付く。


「例え群れを作る魔物がいたとしても、ここまでの規模は存在しない。商隊の隊列を組めば群れを作る程に頭の回る魔物は、襲って来ないからな」

「聖王国の中央聖都と七つ都市は、構造的に魔物の湧き出る箇所が点在してしまいます。それで囲ってしまえば巨大な生態系と組織が築かれない利点があるのですが、今回はそれを無視した様に大規模な強襲です」


「くそ! 倒しても倒しても切りが無ぇ!」


 徐々に包囲網を狭めながらもその密度を増して行く魔物達。倒しても倒しても次からその穴に新しい魔物が補填されて行く。


「何かきな臭い……」


 話をしていた商人は、徐々に気付いて来ている様だった。

 コレがただの魔物の襲撃ではないと。


 一番後ろを任されているまだ若い青年の商人であるが、少しのヒントで疑問を感じるとは、なかなか切れ者で商人に向いているじゃないか。


 はいはいたまたま魔物が大量発生したんだと思う商人は、失格である。セバスであれば失格の烙印を容易く押してしまうだろう。


 常に疑問を感じ、それを読み解いて行く事こそ、経済を読み取る要であって、商いに大切な要素であったりするのだ。


「もしかして、この先にある第五都市の結界が切れている……?」

「可能性はありますね」


 あえて仄めかしたが、ご名答である。あくまで俺の予想だが、老獪のサルマンが道中で邪魔をして来ない事は無いだろう。ド派手な神父の竜車かそれに準じた集団を狙えと魔物に命令を出せる存在がいる。


 そう、悪魔達との繋がりが決定的な物となる。

 色々な情報を貰っているからこそたどり着けた答えであり、多分間違ってはいないだろう。魔物をこの道に集める為に、一時的に市街の結界を切ったのだろう。


 まったく馬鹿な事をしてくれる。

 結界から弾き出される強大な悪魔を自分から受け入れてしまっている可能性を感じなかったのか。


 俺を殺す方法をとらせる様に見せかけた罠じゃないか。順調に利用されて教団の都市内部を食い荒らされているな。


 このままでは一番危ないのは誰かって?

 第五都市の市民である。

 好き放題にさせてはなる物か。


「後方は私達がなんとかします。貴方達は前方へ移動して道を切り開いてください。多分まだ中継地点の結界は作動している筈です、この規模を真っ向から相手をしては時期に端から食い破られて行きます。退避しましょう!」


 俺は『毎日がeveryday』に指示を出す。文句を垂れながら従うウィルソードについて行くパーティメンバー達。


 うむ、戦闘は普通に良い物を持っているな。流石そこそこ距離があるこの聖王国ビクトリアまで来れる奴らだった。


「おい、あんた一人でどうにか出来るのかよ!?」


 慌てた様に言う青年の商人である。少し状況に慌てる節があるな、どんな状況でも冷静になるべきである。焦っても良い事無い。マジで。


「マリアさん、撃ち終わったら結界をよろしくお願いします」

「ふぁあ〜い……ぅぷッ……」


 少し速度を上げた馬車に揺られて更に酔いが回ったマリアである。

 おい、この状況でマジか?

 マジか?


「出来るんです」


 神聖なる奔流ブレッシング・レイを少し放出する。光の速度で一瞬だけ輝いたそれ。一瞬の眩しさに目が慣れた頃には、既に後方から迫って居た魔物の集団は消し飛んでいた。


 熱殺菌した後に絆創膏で傷口に蓋をする様に、マリアが結界魔法にて後続が出ても良い様にカバーする。コレで後ろは一安心だ。


 ウィルソード達にはこっそり運命の祝福ブレッシング・フェイトを施しておこう。精神値を補正された一撃には意思の力が宿るからな。


「な……あなたは、一体……」

「貴方はなかなか筋が良いです。どうですか、ウチで修行してみませんか?」


 そうして商隊は速やかに中継地点に到達した。

 なんと被害は奇跡的にゼロである。
















 そして、夜。

 俺の部屋のドアをノックする音がする。


「どうぞ」

「……」

「貴方ですか」


 ドアを開けて姿を現したのは、藤十郎だった。


「無礼を承知ながら、我が師に打ち勝った神父様に、手合わせを願いたい」


 ほう。

 意外と礼儀正しく饒舌なんだな。







 藤十郎って一体誰の弟子なんですか!?

 一体誰の!

 誰の弟子なんですかーーーー!?


 予測は容易ですね笑


 次回は、久々に神父の格闘パートです。

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