中央聖都ビクトリア4
早速マリアと共にギルドへ戻って準備する。出来上がりつつあったマリアも、聖王国のトップに君臨するエリック神父から直接指令を受けたとなると、一瞬で酔いも冷めてしまったようだ。
そして俺の懐には、懐かしきクロスがしまわれていて、先ほど動きのチェックは済ませてある。
実に良い。
改めてオースカーディナルと比べてみると一目瞭然である。第一オースカーディナルが巨大すぎるのが悪い。
何だよ背負う十字架って、特務枢機卿のその身に背負う誓約の象徴として掲げてるそうだが、そんなの体裁だけな気がして止まない。
「セバス、少し良いか?」
「はい、畏まりました」
そう短く告げて、ギルドのエントランスをそのまま通り過ぎ、セバスの執務室へ向かう。ギルドには出入り口が幾つか用意されていて、一般的なギルドメンバーやその客人達は開放されているエントランスからの出入りを義務づけている。
広く一般に開放されているこのギルドは、幾分宗教じみているとの意見も在るが、ギルド内にはビクトリアの雑務依頼や魔物討伐などのクエストも広く扱っているのでそこそこの盛り上がりを見せている。
何より食堂にあの夫婦を雇う事が出来たのは良かった。福音の女神のギルド食堂は飯が美味い事で有名なのだ。
そして、ギルド内にはホテルが完備されており、ギルドメンバーはその個室を自由に利用できる。ただし、部屋の広さはランク毎に決められていて、より良い空間で過ごす為には、ランクを上げなければならない。
まぁランク毎の平均収入も在るようだし、自分の収支に見合ったご利用を促している。と、同時にAランクを使用するメンバーはウチの貴重な戦力という訳だ。
この技術はリヴォルブとも提携している。まぁ、有事の際には運命共同体として頑張ってもらうという取り決めがなされているらしい。
食堂もランク別なの?
という疑問を初めに感じたが、食堂はメンバー以外でも広く利用できるそうだ。そう聞いて安心した。
で、コレは全て聞いた話で、セバスが独自で作り上げた者なのだとか。
本当に素晴らしいよセバス。
さらに、聞いた所によるとジンと共に魔導家電の開発事業を展開させており、いずれは大規模モニターやこのギルドでの一大イベントを行って、各国へと中継するサービスを作り上げるそうだ。
いや、好きにやってほしいね。
知らぬ所で膨れ上がって行くギルドを尻目に、ギルドマスターとして登録されている俺は何をすれば良いのだろうかと日々日々疑問を感じる。
『象徴でいいんですよ』とニコニコとした表情で告げたセバスであるが、一体なんの象徴なんだよ。そしてギルドの象徴が簡単にエントランスをくっちゃべりながら往来する。
言わば社員の目の前に常に社長が居る状態。
ってか、そんな事しなくていいのに、俺は広くこの世界の人と絡みたいのだ。
だってVRMMOだろうが!
と、心の中でツッコミと入れたのは、もう今まで食べて来たパンの枚数くらい覚えていないのである。
話が大きくそれたが、執務室はセバスが各国のお偉いさんや商人を相手にする時に使用する応接室と直結する彼のプライベートルームである。
エントランスから厳重なセキュリティがかけられたゲートからセバスの執務室にアクセスする事が出来る。
これがエントランスからの入り口である。
まぁまず俺ら以外は使わない。
もう一つは、各国のお偉いさん達が使う入り口である。馬車を止めれるスペースが中庭に用意されており、そこから一定ランク以上の使用人が管理するお高い作りの門から入館するができる。
俺は基本的にギルド内の大聖堂以外はあまり見た事無いので詳しく知らないが、調度品などは全てブレンド商会とセバスの見聞きによる選りすぐりの物で、アラド公国の大公も唸る作りだと言う。
もうここまで行くと本当に俺は知らん。
第一、大聖堂はありがたいがぶっちゃけて必要としているのは、孤児院と俺のログイン部屋くらいなのである。
ほら、どうせすぐ出張とか言ってあちこち飛び回ってるしなぁ。
「オラン・リラ・サルマンという人物を知ってるか?」
「ああ、サルマン様は何度か取引を求められた事がありますね」
セバスは少し考え込むと、思い出した様に言った。
「大教会の前に目立つ建物を建てて、あまつさえ別の神の名を語るギルドは烏滸がましい、だが、儂と取引するならばそれも認めてやらん事も無い。と仰っていました」
「どんな取引?」
「まぁ有り体に言えば所場代を高額請求されたくらいですね。ギルドを創設する時期に事前に法王様には許可も頂いていましたし、聖王国の事は大体調べ尽くしています。サルマン様は政治資金の為に使われていた部分がありますし、それも過去の事で、サルマン様の納める市は七都市の中でもそこまで規模が大きい訳でもないですからね。時代と共に耄碌した御仁の一人な様です」
敬っているのか貶しているのかよくわからない言い方でセバスは断言した。
「そのサルマンが邪神と取引しているという情報は上がってる?」
「資金繰りが低迷しているという事は、前々から調べはついていましたが、邪神に関しては初耳です。我々が判るのは市場調査にて浮かび上がった事実のみですから」
「なら、サルマンの動向を今すぐ調べ上げてくれ」
「畏まりました」
あ、できるの?
半ば無理を言って押し付けてしまう形になるかもと予想していたが、すんなりと了承してくれた。
もしかして、そう言う部署かなんかも作ってるの?
諜報的な。
「では、今すぐ調べさせますのでしばらくお待ちください」
そう言うセバスに頷きで返答すると、俺は執務室を後にした。
執務室をセバスが使用しているという事自体、このギルドの実質トップが誰だか察しがつくだろうな。
とりあえず食堂に顔を出してご飯を食べて何して待つか考えようと、エントランスまで戻って来ると、マリアが色んなひと達に囲まれていた。
「大司書ってなんですか!?」
「そのボンテージ服どこ買ったんですか!?」
「マリアさん今度デートしてください!」
「……」
「……あ〜、この服はローロイズで買ってもらったのよ」
「誰ですか!?」
「彼氏ですか!?」
「居るんですか!?」
「……」
口の軽そうなチャラ男と大学生デビューしましたと言う風な髪型の女の子二人が共に揃ってRPGの世界へやって来ましたという風な格好でマリアを質問攻めにしていた。一人だけ鋭い目つきの男が一言も喋らずにこのやり取りを眺めている。
「あ、クボ!」
「なにやってるんですか? マリアさん」
マリアは俺を見つけると、助けを求める様な声を出す。
話を聞いてみると、俺を待つついでにギルド内を見物していたら、もの凄い勢いで質問攻めにあっていた所だったという。
御愁傷様で。
「今、相手方の動向を探っている所なので、しばらく待機です」
「その間何をしていれば良いの?」
「食堂に挨拶ついでにご飯を食べようと思っていました」
「良いわね。私も行くわ」
逃げる様に俺の傍に来るマリアを見て、チャラ男の方が噛み付いて来る。
「ちょっと! マリアさんは俺と食事するんだ! 邪魔するな!」
「ちょっと剣志! どう見たってマリアさんの彼氏でしょ? 邪魔しないの」
「ば、馬鹿! リアル名持ち出すなって。ここではウィルソードって名前で通ってるんだから!」
「いや、そんな……彼氏だなんて」
「あ、別に彼氏彼女という関係ではありませんよ? 教団の同僚でふすッ!」
マリアに思いっきり鳩尾を殴られた。
相変わらず、STR依存の物理的ダメージは受け付けない身体になっているというのに、彼女の拳は重かったのである。
とりあえず、エントランスで騒いでいても仕方が無いので、食堂へ出向いて空いたお腹を満足させる事にした。
何に対してイライラしていたのか判らんが、腹が満たされればそのイライラも少しは収まるだろう。
少し大所帯になってケンとミキに挨拶するのは、迷惑がかかるかもしれないので、普通に食事だけ獲る事になった。
「へぇ〜、凄いですね。メニューが豊富で。私は兎肉のシチューにします」
「じゃ、私は美豚のソテーにするわ。えっと……コラーゲンたっぷりで、お肌に効果的……ですって」
「皆さんもここは私が持ちますので、召し上がってください」
そんな言葉に甘える様に、彼等は遠慮と言う物を知らずに頼み始めた。マリアは、しつこく話しかける剣志にうんざりする様に付き合っていた。
まぁ、隙をついて酒を頼もうとした罰だ。
もう少ししたら助け舟を出してやらん事も無い。
「私は水魔導士のアオイ。パーティの回復薬です」
「わたしは炎魔導士のアカイアコ。アコって呼んでね。最大火力なら任せて!」
「俺はウィルソード。本名で呼んだら殺す。双剣使い。ってかおま———」
「も〜、藤十郎にも喋らせなよ?」
「……藤十郎。……武術家」
パーティとしてはオーソドックスな4人組である。
まぁ盾役が居ない分、前衛職二人の機動力を活かす回避盾。それをサポートする回復役と前衛で倒しきれなかった際の最大火力という以外と理にかなったパーティである。
凄く俺に噛み付いて来るウィルソードを止めるアコを眺めながら時間は過ぎて行く。
そして、このまま彼等はなし崩し的に俺達の旅に同行する事になる。
で、思いがけない懐かしい名前を聞く事になるのである。
火魔術師は、炎魔導士、焔魔法師と言う風に魔法の根源に近づくに連れて名称が変わって来ますが、水のみ、癒しの属性を持ち合わせているため、変わりません。
より攻撃性が高くなると氷の上位属性やら、特殊属性として液と言う物があります。水はサポートと回復、攻撃も出来る属性ですね。
異常状態治癒や回復などは使用できませんが、水の癒しはそこそこ使えます。
乱文失礼しました。




