中央聖都ビクトリア3
現実の教会と似せる部分も在りますが、大分独自ルールが当てハメられて居ますので、気をつけてください!!
「では、特務枢機卿クボヤマ。直属の上司である私からの指令です。魔大陸へ行く前にやってもらい事が在ります」
「……この教会に潜む邪神の影ですか?」
そう言うと、エリック神父は知っていたんですね。と言う風な表情を見せた。
「方舟を知っていますか?」
「海竜王女に守護されている物ですね。ああ、なるほど。貴方もご覧になったんですね、アレを——」
どこまで知っているんだ貴方は。
あっさりと納得され、その事実に戦慄する。
「ですが、エリック神父程の方が一体どうされたんですか?」
「教団も一枚岩じゃないんですよ……」
「でもその気になれば可能ですよね」
「私には法王としての決める権利は在りますが、実行する力は持ち合わせていません。私の直下に補佐する枢機卿が居て、更に直下じゃなくとも各地の支部にも枢機卿は居ますからね……」
エリック神父は初めて疲れた様な顔を見せた。戦闘では嬉々として俺の顔面をぶん殴った筈なのに、やはり人とのしがらみが強い部分にはなかなか強い判断を下せない。もしくは得意分野では無いのだろう。
苦手ではないが、得意ではない。と言った具合だ。
聖王国ビクトリアには、中央聖都の大教会程ではないが、中央聖都を取り囲む様に広がる七つの地域に教会が七つある。そしてその教会のトップに一人ずつ枢機卿が君臨している。
それが教皇である法王エリックを直接的に補佐する部下達である。彼等には、所謂決める権利は無いが、教団の教えの元に実行に移す権利を持っている。実行に移す方法を特に定めていないのは『優秀な者同士競い合いより効率化して行くためにやったんですが』とエリック神父は言っていたが、次第に耄碌して行って純粋な信仰心が薄れて行った枢機卿達は、頑に自分の地位の保守に向けて動き始めて、己の金勘定のみに優秀な爺に成り果てたのだった。
「コレばっかりはどうしようもないですね。私の様に果てなく続く修行に耐えうる者でしたら、人種として更に進化し、老いに多少也とも逆らう事が可能なんですが……」
「え、エリック神父。今いくつですか?」
「秘密です」
そこで、唯一大きな枷が施されているが、実力による決定権と実行権を持つ特務枢機卿を再び推薦した。
それが、俺だったという訳だ。
俺は要するにエリック神父の懐刀の様な形に収まりつつ在るらしい。何せ各地を巡行して色々な所で目立って来た愛弟子であって、既に自分のギルドを喧嘩を売る様に大教会の目の前に立てている。それが成り立つ程の資金力を兼ね備えていて、他の枢機卿が口を出せない程に地に足をつけている。
「でも、北への聖堂へ言っても枢機卿になれなかったら意味なかったですよね」
「私は勝ち目の無い賭けはしませんから」
「ああ、なるほど……でも私の実力が足りてなかった場合は?」
「私が初めて稽古を付けてあげた時は既に相応の実力を身につけていましたから、あとはありきたりな理由を付けてあげれば必ずやり遂げると信じていましたよ。せっかく進化した聖書を置いて出て行った時はびっくりしましたけどね。ですが、クロスも聖書も無い状況で、更なる成長を遂げて帰って来た貴方には本当に感心しますよ」
実に嬉しそうなエリック神父である。
俺がお土産に渡したタイムブレイクティーを上品に飲みながら彼は続ける。
「本来であれば、北への旅路にて貴方達が必要としたお金を請求しようと思ったのですが、思った以上の成長振りだったので不問とします」
笑顔がダークになる。
「えっと、明細貰えます?」
そう言うと、エリック神父が懐から取り出した一枚の丸められた羊皮紙を手渡して来る。そして書かれている数字を見て度肝を抜かれた。
割引されても凄い高かった記憶が新しいボンテージ服よりも、土産物のお酒代がとんでもなく高価な物となっていた。
実際あまりお金を使用せずやって来れた旅だと思っていたんだが、実際に船のVIPルームとか、食事代はサービスの様だったが、そういう物の値段をちゃっかり法王宛に請求されているのである。
「好き放題やってもらった分、今度は私が好き放題貴方を使う番ですからね」
フフフ。と笑うエリック神父。
いや、笑えないから。
「待ってください、マリア。彼女の酒代がかなりの値段です。まったくいつ買ったんだか……」
「貴方の監督不足です」
「いえっさー……」
一言で一蹴されてしまった俺には、彼に従うしか道は残されていなさそうである。そして、エリック神父は鈴を鳴らした。
執務室の扉が開いて、プリプリしたマリアが姿を現した。
「まったく、人が楽しんでいた時に一体なんなのかしら」
コイツ、酔っとるがな。
ほんのり顔を赤くして楽しみを邪魔された事にプリプリと怒るマリアは、その様子を楽しむ様に優しく微笑むエリック神父の顔を見て、自分の置かれた状況にようやく気付いたようである。
ってか、今まで気付いてなかったんか。
恐ろしい子や。
「マリアさん……? ……その……」
「今理解したから、言わないで」
ほんのり赤みを帯びていた顔面が、急激に青くなって行くのがよくわかった。この女、昼から酒を煽っていたようである。そりゃ、大変な目に散々あって、その後帰って来て溜まっていた仕事を片付けてからの、久々の休みだもんな。
だがシスターが昼から酒を煽るってあかんよ。
そして、法王の前でそのボンテージもいかんと思うよ。
「マリアさん、似合っていますね」
「えっとこれは、ハハハ……」
嫌みなのか、素直に似合っているのかよくわからない口調で告げるエリック神父。
「本来であれば許されない服装と、昼間からの飲酒ですが、許させる立場にして上げましょう。良かったですねちょっとした昇格ですよ」
と告げて、それを一瞬で理解し、素早く反応したマリアが「いや、その!」と言おうとしたのを遮る様にエリック神父は告げる。
「特務枢機卿補佐。今後ともよろしくお願いします。あ、あと大司書の仕事もきちんとしてくださいね」
酒乱シスターに制裁が加えられた瞬間であった。
「いやあああああああ!」
「え、そんなに私の補佐をするのが嫌なんですか……」
激しく絶望した様な叫びを上げるマリア。
地味にショックなんですけど。
「え、いや……嫌じゃ、ないけど」
「あら? まだ顔赤いですけど、振らつきますか?」
「あ……」
そんな様子を見ていたエリック神父が「あらあらまあまあ」と微笑んでいた。
いいから手伝えよ。極度の緊張から吐き出すかもしれんぞ。
間に合わなくなっても知らんぞー!
「まぁいいわ! クボとどこへだって行ってやろうじゃない!」
起こそうとした俺の手を振りほどき、もうどうにでもなれと言う風にマリアは立ち上がり決意した。
「そう躍起にならなくても、やる事は簡単ですよ。今回は特別に私がやれる所までをやっておきましたから」
無事に特務枢機卿になった俺。
そして、北での一悶着、海での一悶着、ローロイズでの話と採掘場と冥界での話。それらは、特務枢機卿の試練を受けた俺の動向として上層部の一部にはしっかりと上げられていた。
上げたのはエリック神父の息のかかった下の者達なんだが、それによって特務枢機卿の中でもコイツはヤバイと行った風に仕向けたらしい。
そりゃ、目の前に大教会に劣らない建物を構える集団の頂点が、教会内でもエリック神父の愛弟子と言われ、更には特務枢機卿という枢機卿達からすれば、自分と同じ位に属していて、誓約が課せられているとは言え、実力実行権を持つ奴が決定権を持つ者の直下なのである。
皆が一丸となっていれば頼もしい筈、出来ない事をやってくれる汚物処理的な意味合いを持つ特務であるが、いざ自分が汚物側に回ると容赦なく処理されてしまう脅威となり得るのだ。
ならば、私の息のかかった者を特務枢機卿に仕立て上げよう。
と思った者もいたんだとか。だがしかし、試練は圧倒的に難しく半端な者だと命を落とす危険もあり、その誓約もただの人間には超えられない壁だった。
「邪な雰囲気は感じ取っていましたが、一体誰がというのはまず判りませんからね。下手に私が動いても隙を突かれかねないですし」
と、エリック神父は続ける。
「で、思った通り、邪神大陸と関わりのある者があぶり出せました」
冥王プルートと採掘場で一悶着起こしている状況はしっかりと観察されていたようで、その様子を聞いた邪神の息の掛かった枢機卿が一人、恐怖におののく様に魔大陸へと移動を開始したそうだ。
表向きじゃ、魔大陸への布教活動および、それに付随する向こうの宗教の調査だとかなんとか言っているが、実査は単に怯えて逃げただけである。
「枢機卿の一人オラン・リラ・サルマンは、前々から教団を金としか見ていなかった節が在りますからね。まぁ金勘定と市民動向の読みに長けていたから任せていたんですが、此方に恐怖するよりも邪神に恐怖しろ、という話です」
「私からすれば、恐怖して逃げるくらいならば、初めからやるなって感じなんですが」
「むしろ、恐怖できるからこそ私の存在の脅威にいち早く気付き逃げたんですかね? そこは優秀なんでしょうか?」
エリック神父、マリア、俺の順番で溜息をつく。
丁度魔大陸に出張予定だったし良いかな。
「では、サルマンの後を追いつつ、魔大陸の何者と繋がっているのか探りを入れたいと思います。魔大陸には先に向かった信頼できる仲間が居ますので」
「実に頼もしいですね。では、よろしくお願いします」
その言葉を後に、俺とマリアはさっそく準備してサルマンの後を追うべく出発した。
デレがかけん。
エリック神父のデレだったらかけるのですが…笑




