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福音の女神、ギルドホームで

 他人事はアッサリと終わります。

 神父視点なので。笑

 ログインした。ベッドから身体を起こす。


(おはようなの〜)

(おはようございます!)


 フォルとクレアの声が一番最初に響く。

 ベッドの脇の丸いアンティーク調のテーブルの上に置かれたティーカップにタイムブレイクティーを注ぐ。


 ステータスがMINDオンリーになったお陰で、空間拡張という便利系の魔法が使えなくなった代わりに、精神空間セーフティーエリアに物を収納できる様になった。

 精神空間セーフティーエリアでは、フォルとクレアが常に常駐している。何をしているかと思えば、セーフティーエリアに収納された物をせっせと整理整頓し、自分好みの空間に仕立て上げているそうだ。


 俺の頭の中は、お前達のプライベートルームかよ。と言った風に、今度はアレが欲しいだのコレが欲しいだのおねだり攻撃が一層の物となった。


 お陰で元々持ち合わせていなかったお金を散財している始末である。かなり蓄えていたかに思えたブレンド商会からのお金も、糞学校長のお陰でユウジンにバレて文字通り没収されてしまった。


 それもかなりの金額をだ。

 黙っていた俺は何も言えない。


 ほら、アリアペイだけど、ユウジンも使える様にしていただろ。

 それはアレだよ、いつか渡そうと思っていたんだよ。


 という懇願も、言語道断の如くしっかりとユウジンの貰う筈だった金額プラスアルファで持って行かれてしまったのだった。

 ってことで、ここ最近は節制に節制をかかさないのである。


 そして、ここからが大事な話。

 世界樹の元へ向かった筈だった俺達、実を言うと結局行かずに我がギルドホームに戻って来てしまった。

 その前にユウジンが目覚めたからだった。





 事の発端は、一度みんなログアウトして休憩してから戻って来ようと一区切り置いたお陰だった。実際に、プルートの一件でかなり長時間ログインしていた訳で、休憩を挟まなければいけなかった。


 それほどみんな熱中していた様だった。

 マジで、異世界に居るみたいでどうしようもない。


 そこで何気にリアルで絡みのある釣王に連絡を取ってみた。


『強制ログアウトさせてみれば?』


 思いもよらない言葉が返って来て、一瞬思考停止に落ち入った。そう言えばゲームの世界だったな、別にリアルでの自分がどうこうなる訳でもないしと言う訳で。


 俺はユウジンの自宅の道場へ出向いた。

 自主練を行う門下生達を横目で眺めつつ、師範はかなり仕事をサボってゲームに熱中している状況ってどうなの。という事を考えつつ、彼の自室へと赴いたのだった。


 説明書を読みつつ、万が一の強制ログアウトをさせて行く。


『んあ? アレ、俺生きてんの? ってクボどうした?』

『強制ログアウト試してみた』

『なるほど。これってどうなの? 俺、ボス戦してたんだけど』

『向こうじゃ、寝たきりだよ。世界樹まで行かないとダメって言われたんだ』

『世界の果てじゃねーか。どうやって行くんだよ』


 そんな事を話しつつ、彼の道場で一試合する。

 そして少しの素振りにて精神を立て直した彼は、今一度ログインし、何事も無く目覚めたのであった。


 実にあっけなく終わった彼の騒動である。

 俺の心配を返せ。


 あと、釣王には後でお礼を言っておかなければ。

 無茶な要求をされなければ良いけど。





 目覚めたユウジンは、精神世界の中でひたすら素振りをしていたんだと。俺にはこれしか無いという風に彼はひたすら素振りをした。

 確かに、素振りをしている彼はただ一心に、魂に一振りを刻み込むかの様に無我夢中である。押しつぶしに掛かる世界の意思を受け流しながら彼は木刀と共に一つの極みに至った。


 それが、剣の極である。

 魂に刻まれた剣の技だと言う。


 そして、ただひたすらに剣しか握れないという性質が加わった。彼はこの世界で剣の極みに至り、世界の意思さえ敵わない強靭な精神力を手に入れたのだった。

 世界の意思を素振りに夢中になってシカトして置き去りにするなんてユウジンさんマジで凄いと思います。


 世界鬼はどうなったかと言ったら、ユウジンの軍門に大人しく下ったらしい。多分そこには熾烈な精神争いが巻き起こっていたのだろうと予想する。だが、彼の口から聞いた話だとこのままなのだ。


 何とも拍子抜けなのである。




 扉をノックする音がする。


「クボヤマ様、『リヴォルブ』のギルドマスター、ロバスト様がお見えになられています」

「今行きます」


 ギルド福音の女神で雇っているNPCが俺を呼ぶ。このNPCはブレンド商会が新たに着手した人材派遣会社から、派遣されて来たメイドである。

 アラド公国にて王家貴族の下で業務に携わっていた執事を顧問に据えて教育を施し各地のギルドや貴族の下へ派遣するというサービスである。

 乳母から従者、執事まで様々な使用人の分野での専門家派遣サービスはそこそこ順調に運営できているそうだ。


 実はこれには、ウチのギルドの筆頭執事セバスチャンが関わっており、使用人育成を補助するという形で、費用は全部ブレンド商会持ちで、ウチのギルドは使用人達を雇っている訳である。

 無論、リアルスキンモードプレイヤーも使用人に魅せられた人々がウチの下に集っていたりする。ロールプレイヤーの一塊と化している訳だが、もうリアルスキンプレイヤーは基本的にロールプレイヤーなのだ。


 ただ、リアルスキンモードプレイヤーの執事育成システムは、まだ始まったばかりなので重要な使用人業務は、アラド公国から既に教育されて派遣されて来たNPCばかりなのだ。

 相互扶助である。まぁ王族直下で使用人としていきなり学ぶよりも、ウチのギルドという比較的心持ちも軽い場所で学び、一度王族直下で研修してアラド公国の貴族達の執事や、その他国の使用人業務に携わって行く方が良いだろう。


 ウチのギルド主要メンバーがギルドホームに揃った訳で、邪神討伐の件は次の段階へと進み始めた。

 英雄を集めようと策を凝らしてみたが、山田アラン以外の英雄の存在が掴めなかった。英雄職へと至には、やはり相当な運命の巡り合わせが必要となって来る様である。

 そこで、物量作戦を考えついた訳だ。

 そう、人海戦術。


 初期からトップギルドとして君臨していたリヴォルブ。無事にリアルスキンモードへの移行が完了していたみたいで、そのトップ『巨人ロバスト』との会談が今、福音の女神の会議室で行われようとしていた。


「来て頂いて本当にありがとうございます」

「おう、気にすんな。まぁ久しぶりだな、またとんでもない物に絡まれてるんだって?」

「またってなんですか……」


 冗談を交えつつ、話し合いはスタートする。

 だが、結局の所ロバストさんは快く承諾をしてくれた。

 これがトップギルドマスターの器である。


「ってか、結局原因は自分なんじゃねーか」

「申し開きもありません」

「いや、それは良いんだけどさ。英雄だっけ?」

「はい、北国で偶然覚醒に立ち会った山田アランという英雄は、今魔大陸の情勢を独自に探っている様です」


 魔大陸は、邪神の勢力圏に陸続きで繋がっている大陸である。それ故に過去に邪神によって圧政を強いられたり、戦争に巻込まれた歴史がある。

 その中から、それを良しとしない魔族が立ち上がり邪神封印時に独立に向けて立ち上がった背景もある。


 魔族や獣人など、様々な種族が織り成す大陸だが、彼等の感情には邪神を憎む同一の感情が根付いている地域でもあり、それは絶対的な防波堤として機能している。

 だがしかし、魔族と邪神の関わりは古くからの歴史もあり、未だ水面下では邪神復活に向けて動いている勢力も在るんだとか。

 防波堤であるが、邪神復活の兆しが出た今、一つの亀裂から大きくひび割れし、そのまま決壊してしまう可能性も高い。そのため、やまん——山田アランの略称——の水面下での動きや報告がかなり重要な情報になって来ている。


「なるほどな。要するにチンタラ英雄を捜している暇は無いという訳だな」

「はい、ですからギルドで連合を組み、邪神が復活し切る前に一気に片を付けてしまいたいのが本音です」

「でもな、勝てるのか? トップを走っているであろうお前らでも先日は厳しい戦いだったんだろう?」

「そこなんですよね……」


 この発案自体はまぁそれなりに良い案であると思うが、その内容が有り得ない程足りていない。

 と、言うよりも、俺が大局の舵を切る事自体が間違っている。

 神智核マナスと呼ばれる非常に頭の良い核を持つ凪も、彼女らは二人揃って本の虫、全く持って邪神討伐に関心を示さないのである。


 と、いうよりも、ウチには本当に馬鹿が揃っている。

 ロールプレイヤー馬鹿共である。


 エリー、ハザード、凪はいつだかのプレイヤーイベントでの大戦犯である。

 そしてユウジンはそんな事には興味ない程に剣の虫に成り果てた。


 結局の所。



「とりあえずセバスチャンを呼んでください!」



 戦闘以外では安心と信頼の実績を持つセバえもんに頼るしか無いのである。

 ドアの外で待機していたメイドにセバスを呼んで来てもらう様に言う。ロバストとはプレイヤーイベントにてツートップを張った事もあるのですんなりと話は進むであろう。


 尽く他人任せになっている俺だった。




 早々と更新だ!

 久々にあっさり3500文字程!

 8000文字とか長過ぎ!

 損だけかくなら二分割して更新しろ!

 って感じですかね…?


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