表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/168

ユウジンvs冥鬼

お待たせしました。

次から神父視点です。

本当にお待たせしました。

 冥鬼と剣鬼ユウジンは互いに刀を打つけ合っている。

 赤黒い甲冑を身につけた冥界の鬼頭。角は二本、背筋を伸ばして立てば地面と水平になる程、真横に伸びている。

 全体像は、やや細めの武人と言った印象である。だが、その身に纏う魔力。いや妖気は、凄まじい程高密度に凝縮されていて、そのひと太刀には相当の重みが合わさっていた。


 ユウジンはその剛の力に少し圧倒されていた。

 ステータスはかなり向上していると言っても、能力自体は人間の物である。そう、リアルスキンモードの中で未だに『進化』と言う物を味わっていない。


 ある程度まで行けば、クエストという形で困難を乗り越えて行ければ、人は順応しそれに適用して進化して行く。

 それがリアルスキンモードなのである。

 ノーマルプレイモードでは、初期設定にて人種や亜人種数種類が選べる様になっている。そしてスタート地点の国が東西南北に広がったためそれに適応した人種にてゲームプレイとなるのだ。


 人気はやはり北方人種。

 次点で東方人種。

 身体の作り、動かし方が少し違って来るのだが、ヘルプモードにて順々に適応して行くのは可能。



 話は置いて、圧倒的な剛の力を持つ冥鬼の攻撃を真っ向から受けた場合、簡単に腕が折れてしまうだろうと予測したユウジンは、その熟練した技術によって受け流す事に集中していた。

 だが、受け流せどもひと太刀毎にガリガリと削られて行くユウジン。

 胸の内で弾き返せと、真っ向から挑めと言っている様に高ぶる鬼を押さえながらだとかなり分が悪かった。


 天凛の武と呼ばれる力が在るからこそ、進化するに至れなかったのだ。人の身にて、武のみであるが高みへ昇れる才。

 それが進化の邪魔をする。進化は人の無限の可能性、同時に彼の才能も己の可能性を無限に広げるものなのである。

 故に、彼に進化の兆しは訪れなかった。


(委ねろってか? 嫌なこった。勝手にしろよ、俺も勝手にするからな)


 この鬼の心に身を委ねてしまえば、強くなれるかもしれない。だがプライドが許さなかった。自分以外の力を手に入れた所でだ、己の考える極みには到底たどり着けないであろうという考えが頭の中で固まっていたからだ。


「力負けしてるから力を貸してやるだって? いらねぇよ」


 そう言いながら天道てんとうを握りしめ真っ正面から構え、己の心に宿る鬼に語りかける。





 力だけじゃ、圧倒的劣位を覆せない。

 誇りを守れない。

 磨いて来た己の技術こそが、その絶対的な隔たりを凌駕する。


 人間には紡いで来た歴史が在る。

 そしてそれを発展させる思考力もある。

 本能の儘に争う獣と比べるな。


 鬼は戦う種族だって?

 戦う為に考え、勝つ為に試行錯誤する人間様を舐めんな。

 戦いに生きる人の凶暴性を知らない獣に何が判る。



「達人は心を制し、心を振るう!!」



 その掛け声と共に、ゆっくりと上段に構えた刀を、凄まじい速度で接近する冥鬼に振り下ろす。この動作、今までに何万回と繰り返して来た。毎日だ、何が在ろうと毎日同じ動きを繰り返して来た。


 動きを身体が覚えるというが、俺の持論は心に刻み込ませるという事。戦う意思よりも遥かに先、『ただ剣を振るう』それのみに眼を向け向き合い続けたユウジンのひと太刀は、完璧なタイミングで冥鬼の兜に当たる。


 冥鬼も負けておらず、ユウジンを超える圧倒的な身体能力から横ばいに両断しようと振っていた刀を止め回避に専念した。

 その結果、まっ二つにならずに済み、左の角と兜を犠牲になんとか生き残った。


「見事だ。力は儂が上なはず、一体どういうまやかしか?」


 角が一つ、根元から折れた事によって少し力を半減させる冥鬼。そして割れた兜から黒髪の男が顔を出す。顔の特徴は一昔前の日本人の様な印象だった。


「そして、貴殿に世界鬼の気が伺えるが、仲間か?」


「俺は人間だ。おまえもその顔、元人間か?」


「記憶は無い。儂は本能の儘に戦う。何かの為に戦うのか、その何かも既に忘れてしまった」


 冥鬼は中途半端に残った兜を投げ捨てる。


「力が欲しくないのか? 開放してやろう、その力」


 角が折れてもなお、凄まじい速度と力で躍りかかる冥鬼。それに合わせる様にユウジンも刀を振るう。相手の力が弱まって、同じステージにようやく立てるその状況がユウジンのプライドに触る。

 だが、生き残るためにはそれも致し方ないと柔軟な考えて対峙する。心の鬼も冥鬼と切り結ぶ度に感情を高ぶらせる。


「別にいらねぇよ!! 他人の力なんぞな!!」


(と、言いつつ俺も少し楽しくなって来てるのがな……)


 そう思いながらいつの間にか両者の顔には戦いを喜ぶ表情が浮かんでいた。同じ思考を感じ取ったのか、先ほどまで力任せだった冥鬼の動きも見違える様に良くなって行く。


「ははははっ!! 戦いの中だが、平時より鮮明に見えるぞ!!」


「馬鹿力ゴリラの次は猿真似か!!!」


 ユウジンの動きを見よう見まねで真似する、だがそれが嫌に様になっている。

 戦いの最中、鬼の弱点は角であると判り切っているため、もう一本を折りに掛かる。そして、見よう見まねで動く冥鬼の隙を誘い残った角を切り落とす事に成功した。


「力の源は削いだ。これでお前の負けだろ」


「……確かに、儂の身体から漏れ出す妖気を押さえる事が出来ん。だが、何故か判らぬが、ひたすら貴殿に勝ちたい儂が居る」


 そう言いながら上級種程の力にまでパワーダウンした冥鬼は突っ込んで来る。まるで死を恐れない武士の様だった。純粋に戦いを楽しんでいる様だった。


 いつの間にかユウジンと冥鬼の立場は逆転していた。

 斬り結ぶ過程で、角があった頃は深い闇に包まれていた瞳に輝きが灯って行く。

 だが、ユウジンはそんな冥鬼をあっさり切り捨てる。


「お、おい!」


 狼狽えるその声は、自分自身に発した物だった。力を失いかけている冥鬼を、心の鬼が自分の身体を奪い一閃したのである。


「思い出した……儂は貴殿と同じ様に人間だった。だが、世界の意思が俺を鬼に変えた。人斬り故に鬼と言われても仕方の無い生き方だった…。鬼になり、さらに人を斬る様になった。だが、それもいつしか虚しさに変わって行った…。せめて不殺を貫こうと、斬っても斬れない木刀を世界樹から削り出したのを覚えている」


 倒れながら告げる冥鬼の意思がユウジンの身体に吸い込まれて行く。

 実は角を斬り落とした次点で、力が自分の身体に流れて来るのを感じていた。意気揚々と戦う心の鬼が冥鬼のエネルギーを取り込んでいる感覚。


 ユウジンの頭に冥鬼の全てが吸い込まれて、走馬灯の様に映り出す。

 極東の侍が鬼となり、放浪を続けた先に見えたものが。


 そして心の中の鬼は、ようやく自信の力の源を取り戻したというばかりにユウジンの身体を勝手に改変し始める。

 自身の心から溢れ出す膨大な力を感じる。世界鬼とは、世界の意思が作り出した心の鬼である。世界中の畏怖や羨望がごちゃ混ぜになって出来た膨大な力の塊である。


 使い方によっては世界に災厄をもたらしかねない力なのだ。そしてこの力の担い手は人であり、大抵の人は強大な力に打ち勝つ意思を持つ事が出来ずに、自分の欲望の儘にその力を振るう事になる。


 極東の侍はたどり着いた世界の果てにて、この世界の意思に相対し膨大なエネルギーのみを持ち去って腹を斬った。再び力に驕る犠牲者が出ない様に。


(儂は極みに至らなかった。ただ、戦時に運良く敵将の首を獲った一介の兵士)


 搾りかすの様に残った既に力を失った男の声が響く。


(儂の意思もすぐに取り込まれてしまうだろう。だが、今確信した。超えた先にある物に、貴殿は片足を踏み入れている。貴殿なら、儂の意思を)


 僅かばかり残っていた冥鬼の意思も言葉を言い終わる前にユウジンの中に取り込まれて消えてしまった。

 そしてストッパーとなって改変に抵抗していた意思が完全に消え去った事により、ユウジンの意思関係無く、世界の意思が彼の身体を鬼その物に再構築して行く。


 ユウジンは膝をつく。

 リアルタイムで再構築される身体に必死に抵抗していた。だがしかし、世界の意思への抵抗虚しく抗う術は無い。


(こっちは必死で抗ってるのに関係無く力が溢れてきやがる!)


 もう喋る力すら無い。大量の汗を流しながら、心の中で必死に抗っているつもりなのだが、果たしてこれが抗えてるのかどうかも判らない。

 天道を手にして、力を振り絞り自信の太ももに刺す。だがしかし、愛刀は太ももの筋肉に弾かれてポッキリと折れてしまった。アダマンチウムと呼ばれる神鉄で鍛えた刀が、いとも簡単に折れてしまった。

 それほどまでに人ではない何かに生まれ変わっているのか。もう戻れない所まで来ているのか。


 刀と同時にユウジンの意思も折れて行く。


 全く持って運命とは恐ろしい物である。ただ刀を持った鬼がとんだ置き土産を用意して待っていた物だ。

 何かに導かれる様にこの冥界に来ているのも、そして今までただの能力だと思っていた鬼の力が、完全なる別の何かだったのも。


 クボヤマ後で殺す。

 あいつのせいじゃね? マジで。


 意識すら保つ事が出来なくなりそうな時、ふつふつわき上がる物は親友への愚痴だった。そう言えば、アイツ商会からの金を隠してやがったな。

 自分がアリアペイ持ってない事をこれ幸いとばかりに舐めた事をしてくれたお礼はきっかりしなければならない。


 とりあえず生き返らせて殺す。

 救って殺す。


 物騒な事を思いながら、世界の意思に飲み込まれて行くユウジンの意識。



 このまま目が覚めれば、それは今までのユウジンではない何かとなっていた可能性がある。

 このまま取り込まれ再構築されればだが。




 運命とはコロコロと変わりゆく。

 彼の空間拡張された荷袋から一本の木刀が姿を現した。


 世界樹刀ウッドオブアースだった。

 一番最初のプレイヤーズイベントでの優勝賞品である。愛刀であり神鉄で鍛えた名刀天道が出来てからはすっかり使わなくなったただの鈍器である。


(まだ残ってるじゃないか、てめぇの意思!!)


 冥鬼はこの世から跡形も無く消えてしまったが、この木刀には紛れも無い彼の意思が受け継がれていた。


 木刀を手にする。


 ユウジンの魂は、世界鬼の意思を通して作り手である冥鬼とも同化していたので吸い付く様に木刀が手に馴染んだ。馬鹿みたいに重かった刀が、自分の求める理想の物になる。


 木刀には、不殺を貫き通し、この世を去った冥鬼の記憶が宿っていた。強制する世界の意思に抗う様に、彼も同じ様に木刀を振り続けた日々の記憶。


 ユウジンは感づく。

 世界の膨大な意思の数は力となって押し寄せて来る。だが、自分にも決して負けぬ程積み重ねられた日々が在るという事に。


 気付いたのだが、未だ人の理を出ていないユウジン。彼の意思が思い通りにならないと判断した世界鬼は、そのまま飲み込んで冥鬼の様に消し去ろうと潰しに掛かっていた。


「このままじゃ、マズイデス!」


 エリーが見ていられなくなったのか、苦し紛れに雪精霊フラウをサポートに出す。例え雀の涙程度の雪精霊の加護でも、ユウジンの力になれば良いと考えていた。


 実に甘い考えである。

 プルートの嫉妬の炎は、しっかりとこの雪精霊を覚えていた。


「コイツが…!!」


 そう、地上で負ける切っ掛けになった雑魚フラウ

 羽虫をつまむ様に雪精霊を捕まえると、嫉妬に狂った眼で見つめる。冥界では本領を発揮する事が出来ない精霊達。

 上位精霊である氷狼ならまだしも、下位の精霊でそして補助サポートが主体である雪精霊フラウを出す事は、完全にエリーのミスであった。


「フラウ!!」


 プルートの手によって、フラウの透明に近い羽が毟られる。

 そして雪精霊は四肢を引きちぎられ、その存在すらも保てなくなり、完全に精霊体としても消滅してしまうかに思えた。


 エリーも今にも泣きそうな絶望の表情を現し、口を押さえて何も出来ないでいる。




「——!?」


 プルートの地面から白い炎が上がる。

 雪精霊を放棄して彼はそれを回避する。


 炎に包まれた雪精霊は、不思議な事に燃え尽きずに、安らかな表情を浮かべて空中を漂う。そしてそれを抱きとめる様に黒い神父服を身に包んだ男が輝く扉から出現した。


「エリー、あとで説教です。雪精霊フラウに無理させて。精霊中心に戦うのはそれでも良いですが、私は前線で共に戦っていた頃が良かったよ。でもよくがんばりました」


 そして現れた神父は倒れ臥しながらも心の中では戦い続けているユウジンに向かって『運命の祝福ブレッシングフェイト』を施す。

 神父の声が荘厳で、敬語まじりになっている。エリーはクボヤマのそんな様子に、これはガチギレしているな、でもそこも魅力的だと赤くなる。


「後は任せてください」










 冥鬼はありきたりでグダグダな設定で作られた物です笑


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ