謎武器を追って
最近、現実の世界では本を読む事が多い。色んな知識を取り入れて、そしてRIOの中で使うのだ。俺は予想以上にあのゲームにハマっているらしい。ただ惜しむらくは、自分の才能故に前衛職ではなく回復職になってしまっている点である。INTが低いので魔法職は無理。STRも低いのでアタッカーも無理。
だがVIT値も他の人より高め設定なのだから聖騎士もこなせるのではないかと模索している。俺は盾となりパーティを守る。
なんかカッコイイじゃん。これにしよ。
俺は読んでいた『ファンタジー大全』を閉じてギアの電源を入れた。
ログインした。いつもの教会である。
少し早めにログインできたので朝である。この始まりの街の教会は意外と大きく、朝早い時間帯は礼拝に来る人が多い。そんな中に混じって朝の祈りを捧げる。因みにやってもやらなくても良いのだが、この行為はMND少量増加のバフが貰えるらしい、1日持つそうだ。
神父職に付いていれば別に教会じゃなくてもクロスに祈りを捧げるだけでバフが掛かる。因みに俺は可能。
何故か。何故は知らん。謎だ。因みに聖書のとある一節を読み上げると同じ効果をバフとしてパーティと認識した人に掛ける事が出来る。
パーティが組めないじゃないかと以前発覚したが、パーティだ。と自分が思ってる人には勝手にバフが掛かるというコトが判った。
まぁ、そう言う物である。として認識している。
だってRIOだしな。何でもありだ。常識の範囲で。
だがファンタジーの世界は常識を覆す。
そう言う物だと俺は思っている。
「ユウジンさんは外で素振りをしていますよ。朝早いのに、素晴らしい心がけですね」
礼拝が終ると、エリック神父が話しかけてきた。最近この人も不思議なんだよな。NPCなんだか、同じプレイヤーなんだか全く判らないんだ。レベルも判らないし、この間貰った武器『神父のクロス』なんだけど、ユウジンもびっくりの謎仕様らしい。
一種のオリジナル武器としてありがたくお借りしておく。いつか返す。
また俺の様に神父のお世話になる人が出て来るかもしれないからね。
そこで持ち上がったのが、オリジナル武器作成という物だ。
ユウジンは早速、日々の活動の中に街の鍛冶屋での修行を取り入れ出した。現実世界では忙しくてなかなか出来ない事でも、この世界では出来る。
刀の知識は人一倍のユウジンだ。コツを掴めばすぐさまオリジナルの武器を作成してしまうんではないかと思う。
でね。
このオリジナルの武器なんだけど。売れるらしい。
これは、一稼ぎできるのではないかと。
まぁいいや。俺は今の所クロスしか扱えないから。STR足りないから。
未だ自分の武器すら満足に持っていないからね。
教会の裏手には空き地が有る。教会の子供達や、この街の子供達がよく集まって遊んでいる場所だった。朝は人が居ないので鍛錬に向いていると、ユウジンは好んで使っている。
いつもの侍の格好だが、上半身だけは脱ぎっぱなしである。剣の為だけに絞り上げられた肉体は素晴らしく筋肉質で、リアルスキャンの高性能さを表しているのか、過去に受けた傷も残っている。
「汗、やっぱりかくもんだな」
朝は少し空気が冷え込む。そんな中彼の身体は薄らを湯気が立つ程の熱量を帯びていた。
「教える側になってから、鍛錬というものは今の己の実力を下げない為に行う物だった。日進月歩という言葉を忘れていたよ。そのストレスでゲームにハマったんだけどな。でもこの世界の俺の身体は成長の可能性を見せている。勝てない敵が居る。強いヤツが居る。これほどまでに嬉しい事は無かった」
「お前って異常に勝ち負けに拘る体質だったな」
「その通りだ。道場で師範になってから勝負をする事が無くなった。その結果がネトゲ廃人さ。あいつらはヤバイ。俺もヤバいけど」
廃人ランカーと呼ばれる奴らの中でも、ユウジンはロールプレイしながら剣のみでランカーの仲間入りを果たすまでのめり込む程だった。
特に、和と刀を主体としたVRゲーム『BUSHIDO』では、無類の強さを誇り剣豪と呼ばれていたらしい。一報俺は、ユウジンが始めやすいからと勧められた2Dのゲームでコツコツクエストクリアを進めているくらいだ。
あら?そう考えると、大分前から彼はゲームを始めているから。勝ち負け関係無く意外とこう言ったゲーム類が好きだったはず。
「いや、元々ネトゲは大好物だったじゃないか」
「バレたか。だが、更にのめり込んだのは実際に身体を動かせるVRだな」
「どうだろうな。それより、刀の制作は進んでいるのかい?」
「ん〜芳しくないな。なんつーか判らんのよそのクロスの素材も魔力が関わっていると思うんだが、俺には魔力の才能が無い」
レベル1の彼の才能はレベル10の俺と同じくらいだった。どうせ剣術補正だろうと思っていたが、『武芸の天凛』とだけ書かれていた。
まさかの固有名付き。
一流は何をやっても一流なのか。
俺なんてMNDレベルアップ時ボーナスだよ。くっそう。まぁいいや、世の中上には上が居るんだよな〜どうせ。
まぁ才能が無いより救われたってことで。
そんな事より、そんな彼を強弱で表すとSTR超、VIT強、DEX中、INT微、AGI強、MND弱、LUK中である。MNDが低いのは、単純に仕事ほっぽってゲームするっていう意志の弱さからだろう。こと戦いに置けてはとんでもない集中力を発揮するわけなんだけどな。現実では。
数値化すると。
プレイヤーネーム:ユウジン
種族:ヒューマン
才能:武芸の天凛
レベル1
HP:280 MP50
STR 100
DEX 50
VIT 90
INT 5
AGI 90
MND 25
LUK 30
※リアルスキンモードはステータスおよびスキル振りが出来ません。
この時点で極振りより強いらしい。
そりゃそうだろうな、ノーマルモード基準で行くとこの時点で4人分のボーナスポイントは確実だもん。
で、話が脱線してしまったが。
普通のゲームで強い武器を作るとなると、魔力を使用してミスリルだったり、オリハルコンだったりを鍛冶技能精製して行くって言うのがありきたりだったりする。その時点で魔力の才能がほぼ無いユウジンは詰んだ。と言っていた。
「でもゲームだかんな。俺はぜってーあきらめんぞ! 日本の製鉄技術、刀匠の力で魔力に打ち勝つんだ!」
「まぁ、お前なら作りそうだな……いや何となく」
さて俺が適当に考えた推論なんだが、このクロスはある意味インテリジェンスとも言える。別に喋りはしないが、俺の思う通りの形をしてくれる。
想像が容易にできるものだと剣。そのまま長く大きくなる。そして鋒。後は鈍器。だが、伸びろと言ったら伸びる訳じゃないのであくまで武器としての誇りがこのクロスには有るようだ。そして俺の魔力を介して意思を読み取っていると思っている。
あくまで、思っているだけ。これが何かは知らん。この世界の何処かにヒントは隠されていそうだから、いずれ探しに行かなくてはならない。
で、インテリジェンスから着目した。喋る剣とかナイフだよ。
俺が欲しいのはインテリジェンスな喋る本だ。
なかに魔法の呪文でも書いてれば、勝手に読んで勝手に攻撃してくれるんじゃ無かろうかと、考えた訳だ。
他力本願である。だが、隣を見てほしい。彼と共に世界を渡り歩くとすれば、本があと三冊は欲しいじゃないか!どこぞの無理ゲー。
あくまで推論でしか、妄想でしかないので、できればいいな。的な感じで受け取ってほしい。
でも物的証拠としてこのクロスがある限り、この世界では可能なんだろう。
そう捉える事にしている。
とりあえず、聖書の事は聖書さん。毎日読んであげて、毎日話しかけてあげる事から始めよう。
完璧痛い人だが、俺は希望を信じるよ!!
お昼過ぎ。あれからユウジンは鍛錬の後、鍛冶屋で勉強しに行った。
俺は魔力を扱う練習と瞑想(聖書を持ち、座禅を組んで暗記してしまった聖書の文章を目をつむりながら読み上げる作業)をした後。子供達の相手をして、世話をして上げていた。
すっかり「神父さまー」と呼ばれる事に慣れてしまっていた。
鍛錬についてだが、ユウジンはもちろん鍛錬の仕方を知っている。だが、俺には魔法の鍛錬の方法なんてしらん。とりあえず感じる己の魔力をこねくり回す事から始めている。
魔力ちゃんをこねくり回した後は、聖書さんをひたすら読み上げながら目をつむるのである。
変態だ。今の俺は変態神父と呼ばれても致し方ない。
で、子供達と一緒に昼飯を食べて、ユウジンの居る始まりの鍛冶屋へと行く。今日は弁当を作って来ている。彼がいつもお世話になっているから親方やそのお弟子さん達へのささやかな贈り物である。
鍛冶屋は南東の方向にあるため東の大通りを跨いで裏路地に向かう事が出来る。ショートカットだ。
鍛冶屋、道具屋、教会、図書館、などの公共施設は基本的に大通りに沿って作られているので、基本的に女神の広場に抜けて南に向かえば間違いないのだが、広場前は未だプレイヤーでゴチャゴチャしているため、面倒くさいのだ。
ノーマルモードプレイヤーは基本的に裏路地を通らない。何故かは知らん。
ってか俺は未だ関わりのあるプレイヤーがユウジンとあのロールプレイ3人しか居ない。彼等は何をしているのかな。
機会があれば念話でも飛ばしてみようかな。
鍛冶屋の前に来るだけでも熱気が伝わって来る。
一応店ならエアコンくらい付けとけよ。
「おう、クボヤマか。今日もユウジンは来てるよ」
店番をしている弟子の一人が声を掛けて来る。剣に柄巻を施してる最中だった。とりあえず弁当をみんなも分も持って来た事を伝えると、彼は工房に昼飯の声を掛けると先ほどまでけたたましく鳴っていた金属を叩く音も止み始め、わらわらと食堂に移動し始めた。
もちろんその中にユウジンも含まれている。
「おまえは相変わらず違和感無いな」
「おまえは相変わらず違和感しか無いな」
うっせ。
昼過ぎに弁当もって鍛冶屋を訪れる神父なんか、俺しか居ないだろう。多分。
「親方さん、ユウジンはどうなんですか?」
「いやー。極東の国だっけか? 異国の製鉄技術ってすごいな、今ではこっちが教えてもらう側だ」
親方はドワーフの国で鍛冶を教わったという人族だった。
これによって俺たちの進む道は決まった。
ユウジンが鍛冶屋に通い始めた頃、俺は行くに行けなかった図書館にやっとの思い出行けたのだ。主に彼の荷物を預かった際にくすねた金貨一枚でだ。
そこで地理の本を見つけてなんとかこの世界の今俺達が居る大陸の地図を発見した。丁度その日の夜、ユウジンはドワーフの国に行くと言い出した。そして俺も都合のいい事に、俺の行こうとしていた国は、魔法の国である。その国はドワーフの国から西に向かって進むとあるのである。
『魔法都市アーリア』と『鍛冶の国エレージオ』。
俺達はリアルスキンモードだ、エリア制限などない。好きな場所に好きな道を通って行ける。開放されていない場所に対しても何でもな。
限りなく自由な世界がこのゲームの持ち味である。それが今発揮されている。
ワクワクが止まらない。
明日。北に進路を取る旅商人の馬車に載せてもらって、この始まりの街がある始まりの国『ジェスアル』を北上する予定だ。国をいくつか跨ぐのだその中で何かしらの発見も有るだろう。
この世界の時間で順調に進んで3ヶ月くらいかかるらしい。として魔法都市はそこから更に1ヶ月か。リアル時間も結構使うな。
ま、すぐって訳じゃないし、気長に行こうか。
あくまで出すのは初期ステータスだけなんだから!
天才と普通の差だけ判ればいいよね。
あと、武器屋に卸される武器の性能が始まりの街にして+1〜5の品が出始めた事によって、予告無しのイベントが始まったのかとノーマルプレイヤー達は騒然としていたらしい。




