賢人vs化物
書いてたらまた6000字超えました。
少し長いです、ごめんなさい。
今はMMO的イベントーだ狩りだー冒険だーと言うよりも。
長期クエストに参加しているという位置づけの方が判りやすいと思います。
第二章はこんな感じです。
ハザードは、ベヒモスを誘導して広い場所へ出る。
ベヒモスも、自分を転がした存在である男を覚えているようで、地獄の咆哮を上げながら大地を揺らして疾走する。
冥界は言わばベヒモスのホームである。
地上へ召喚された時と違って、無制限に力を発揮する事が出来る。
巨大な腕がハザードを霞める。
風圧によろけながらも、ギリギリの所でその攻撃を躱して駆け抜けていく。無論、直撃すれば上半身が消し飛ぶことは当たり前。
ベヒモスはなかなか直撃しない自分の攻撃に沸々とわき上がる憤慨を覚えていた。恐怖を呼び起こる咆哮もこの人間には効かないし、制限か解除された攻撃の速さは人間に躱す事は到底無理な筈だった。
自分も支配する側であるという絶対的な自信を持っているが故に、理解できない感情だった。
「所詮化物か」
ハザードが呟く。
ベヒモスにもそれが聞こえていたようで、反発する様に金切り声を上げた。怒りで更に速度を増した攻撃を繰り出す。鋭い爪が、豆腐を切る様に簡単に地面や冥界の建物を裂き、その凶悪な咆哮は振動だけで至る所にヒビを入れる。
何故、当たらない。
確実に当たると思った攻撃も空かしていた。
一端落ち着かなければ、この人間には動きを一時的に封じられた記憶がある。強大な悪魔を呼び出され、杖を使った謎の術によって束縛された記憶が蘇る。
ベヒモスは一度立ち止まって落ち着くと、手足の指を地面に減り込ませた。今から繰り出す攻撃にはかなりの反動が有る。だが、決して逃げる事の出来ない強大な息吹攻撃である。
地面にスパイクさせた身体に十分な溜を作り、口からとんでもない量のエネルギーを放つ。これは、自分の体内に長年蓄積された輪廻転生にも戻れぬ死者の魂の純粋なエネルギーである。
放つと自分が飢える事になるので滅多な事では使わないのだが、この目の前の人間にはプライドが許さなかった。
喰らうよりも殺したい。
唯一の殺意が芽生えた相手。
大量破壊兵器よりも更に強大な攻撃『喰魂の咆哮』を放つ。この咆哮は不過視であり、魂を刈り取る衝撃波となって押し寄せる。更に凶悪な事に全咆哮へ波状するこの衝撃を避ける事は非常に困難だ。
だが、一瞬動きが止まったベヒモスの隙をついて、ハザードの土属性の杖が冥界の地面を隆起させベヒモスの顎に直撃し、強引にその大きく開かれた口を閉じさせる。
発動目前だった咆哮は不発。しかも、衝撃を飲み込む事が出来ず純粋なエネルギーと化した死者の魂は、体内を暴れ回りベヒモスの相応のダメージを与えるのである。
何故だ。何故だ。
何故ここまで自分の動きを理解している。
ベヒモスは未だ腹の中で暴れる衝撃に苦しみのたうち回りながらも、鋭い形相でこの意味不明な男を視界から外さない。
「やはり、力だけは理から大きく外れている。もしくは理その物なのかもしれん」
ハザードはそう呟いた。通常、上位クラスの物は自分の能力によって傷を負う事は無い。侍が刀で自分の足を斬る事もあると思うが、それは刀の切れ味が余程の場合か、ただその侍が未熟者なだけである。
リアルスキンにもレベルという概念はある。魂の研磨によってレベルは上がり、相乗して肉体のパラメーターも向上して行く。これが、ゲームであるが故に。
そのレベルを半減させ魂に刻まれた才能を消滅させる。ましてや自分の飼い主である冥王さえ喰い、力を削ぐ事が出来る化物。
大凡の予測はたった。
被捕食ペナルティという内容を見てから、ひょっとするとこれはユニークモンスターでもイベントモンスターでも無く、その理を超えた場所にあるモンスターなのではないかと。
ノーマルプレイモードでいうと、絶対殺せないモンスターみたいな形で、何らかの特殊な立ち位置がある筈だ、だがリアルスキンで討伐可能。
そう懸念していたのである。
どうやら読みは的中じゃないまでも、そう遠くない。
プルートまでも飲み込み捕食してしまったり、自分の攻撃を受けてダメージを負っている時点で、己の存在を超えた何かをその身に宿してあるのは確かである。
占眼を開いて、ベヒモスを観察して行く。
相手の行動のその先を見通してくれるこの眼は、占いの師メリンダから卒業と同時に受け継いだ物だった。
ハザードは一般的に賢人と呼ばれているが、その実はただの剣術と魔術が得意な占い師である。ノーマルプレイモードで表すなら、職業占い師で称号が賢人。
この占眼によって、行動を先読みしベヒモスの攻撃をギリギリで回避していた訳だった。
「意外と弱っているな」
夢幻の陣が弱ったベヒモスを封じに掛かる。占眼を閉じ、いつもの様に亜空間から質量兵器を落とす。
先を見通す眼は、全魔力をその眼に宿すので、ただの占い師であれば百発百中の凄腕になれるが、戦闘になれば一切の魔術が使用不可になるので全く使い物にならないのだ。
だが、元から属性魔法に適正才能が無いハザードに、その制限は通用しない。無属性以外の魔術は杖に頼り切っているハザードからすれば、己で魔術が行使できないのが普通であるため何ら問題は無かった。
空間魔法が使えなければ火力不足になってしまうのが十分な痛手ではあるのだが。
「魔紋。部位召喚・豪腕。ディメンション・太古の巨杭」
悪魔大王によって改変された賢人の紋様から魔の力を呼び出す魔紋を発動させる。そして部位召喚でディーテの豪腕を借りる。代償は血液。だが一滴にもならない量で召喚する事が出来た。
そして力を増した腕に抱えるのは、一人旅していた時に朽ち果てた王国で手に入れた壊れかけてほとんど風化しかけている王城のど真ん中にそびえ立つ、石とは違う材質で出来た巨大な杭である。
だからなんてそんな所にお前は居るんだ。と思うだろうが、たまたま霧の中を振らついていたら霧が晴れた先に朽ち果てた国があったのだった。それは霧の国に霧魔法を学びに行く途中であった。
観光がてらレアな物は回収してその朽ち果てた王国を後にしたハザードは霧の国で一悶着起こし、無事に霧魔法を獲得するのはまた別のお話。
その朽ち果てた国は『古代クエスト』をクリアして行き、霧が晴れる日時を特定する所まで来なければ不可能なクエストである。かなり高い難易度と言われているが、その恩恵もまた比例して高いのである。
ノーマルプレイヤーの間で、年に数回しかない霧が晴れる日は、一種の祭りの様になるのであった。
さて、そんな巨大な杭を魔人化し豪腕を使う事によって持つ事が可能になったハザード。これで火力不足も心配ない。いやむしろ質量兵器に自身の火力アップがプラスされた形になっている訳で。
そんな物が、今動けないベヒモスの横腹を貫いた。まるで猟師に撃たれた猪の様に必死で杭から逃げ出そうと前足後足をバタバタとさせている。だが次第にその動きは衰えて行き、痙攣して動いているだけになっている。
口から荒い息と涎を垂らしながらその眼だけはギョロリとハザードを向いていた。ハザードは目障りなその眼をとりあえず穿ち潰す。
それでも絶命しない化物。
ディメンションで亜空間から出した柱が幾重にも杭を打ち付け更にベヒモスの体内を傷つけて行く。物理的には貫通して突き刺さってこれ以上叩いても意味ない様に見えるが、実際はこの杭は幽星体のベヒモスの身体の内部にまで深く打ち付けられている。
何度目か判らぬ程、質量兵器を叩き付けた時。光を失ったが怨念の籠った眼孔をこちらに向けている様に見えたベヒモスが震え始めた。
(そろそろか)
そう、杭は今まさにその無限の体内を貫かんとしていた。
そしてもう一度叩き付けた時、ベヒモスからこれまで上がった事の無い悲痛な叫び声が上がる。
太古の巨杭を亜空間にしまうと、ベヒモスの横っ腹に空いた真っ暗な穴から、数万の人の恐怖が同時に混ざり合った様な叫び声と共に薄灰色の気体が冥界の空へと吹き出した。
これが化物の体内に居た正体か、とハザードは思う。
だが、ハザードが思っていた物よりも遥かに強大な物であるとは微塵も感じてなかった。それがハザードを追いつめるのである。
六本の杖を構え、冥界の空に広がる薄灰色の気体をどうにか杖に封じようと試みる。だが、その動きに気付いた気体は風の様に此方に来襲する。
ただの気体であるという余裕からハザードは初見で危険と思われる相手には常に開いていた占眼を開いていなかった。
故に本質に気付かない。今までの思考回路を辿れば少しは根本にたどり着く事が、ハザードには可能なのに、吹き出た際に気体を少し吸ってしまった事で、既にこの気体に思考を奪われかけているのだった。
そして気体は何もかも奪う様にハザードを吹き抜ける。
「……?」
景色が反転していた。
そして、それは自分が倒れているという事に気付くまでに数秒要した。
妙に身体が軽い、まるで浮いているようだ。
いやまて、本当に浮いている?
視線を降ろすと、眼を開いたまま倒れている自分が居る。そして半透明になって空へと昇って行く自分が居た。
本来ならば意識すら奪い取られて何も考えずに冥界を彷徨う一つの魂になる筈だったハザードは、幸運な事に最後の最後で『賢人の意思』によって思考を取り戻すのである。
そして邪魔な物を無くし、意思だけの存在になったハザードの思考回路はかなり透き通っていた。
「これが幽星体か」
このまま行けば肉体と魂は完全に切り離され確実に死んでしまうというのに、ハザードは至って冷静である。
「ふむ。精神体をすっ飛ばして我々の域に来るなんてなんて奴」
気体が喋る。
いや、幽星体になったからこそ判る。
これは何万もの数えきれない程の魂の集合体である。
(普通の人が見たら強行状態に陥るぞ)
「いや、常人が可視できるステージに立てる筈が無いであろう」
どうやら思念すら読み取られているようで、思っただけで此方の思惑が伝わっている様だった。だったら話は速く、元来の性格の儘。ハザードは思った事を思ったまま言う。
「何でも良い。早く俺の物返せ」
「嫌だ、我々は無限に吸収し尽くすのみ。せっかくハデスの思惑から逃れられたというのに」
あくまで引かない姿勢、強気で居るハザード。だが、ハザードに残された物は魂に刻まれた悪魔大王との契約のみであった。体に刻まれた賢人の紋様やら占眼は使えない。
だが、今のハザードにはこれで十分である。
背水の陣。これで無理だったら俺もディーテも終焉を迎えると腹を括っていた。
もちろん、それは最悪のパターンで、勝機はあった。
例え自分を失ってもこの目覚めてしまった化物は消す。
「ディーテ。
聞こえてるんだろう。
これで最後の契約だ。
くれてやるのは俺の魂。
好きにしろ。
悪魔降臨」
ハザードは、悪魔契約の中でも禁忌とされる言葉を呟く。それは、その身全てを代償に悪魔を降臨させると言う物。どれだけ強靭な意思を持つ物も、魂を差し出した所で持つ筈が無い。
そして魂の代償は悪魔に超純度の顕現能力を渡す。それにより一国が破滅してしまう程の災厄を振りまく程の力を。
ハザードは現在魂核のみの存在である。
その純粋な姿に元々刻まれていたディーテとの繋がりである。
悪魔大王は、大王としてのその力を存分に振るう事が出来る。いや、賢人の意思の力も乗っ取り更なる高みへと昇華できるのだ。
『ん? なんで意思が残ってるんだ』
全部くれてやったと思っていたが、未だ自我がある事に、ハザードは驚く。
『我が残しといた』
赤目になり角が生え、二対の黒い羽を生やしたハザードが一人二役するかの様に喋り出す。声はダブり二人で同時に喋っているかの様。
『全部くれたんだ賢人の意思すら乗っ取れるんじゃないのか?』
『お前も数奇な運命にある。我もその行く末が気になっているんだ』
『どういう事だ』
『お前が我に差し出す物は友の誓い。ただそれだけで良いと言っている』
『……ご大層な契約なんて必要ない。もう既に魂で繋がった盟友だろう?』
『悪魔にそんな常識は無い』
『恥ずかしがり屋か。悪魔のくせに、まぁいい』
『そうだな。喋りが過ぎた。奴は無限。邪神とはまた異なる様々な人の魂の集合体が神と同等の力を持った存在だ』
『付喪神という奴か。厄介だな』
『いや、今なら勝てる』
そう言うと、腕を広げる。
その瞬間、赤黒かった冥界が真の闇に包まれる。
悪魔大王の固有能力『暗黒の深淵』。
それは真なる闇を生み出し続ける能力で、魔法学校の暗黒冥宮がずっと拡大を続けている原因は住み着いた悪魔がディーテだったからであった。
無限は圧倒的とは言っても、出て来たばかり。そして、何よりベヒモスが一度無限のエネルギーを利用して咆哮を放っていた。
かなりのエネルギーを使用しているのでそれによって若干力を削がれているのが幸運だった。
無限が風になって向かって来るが、ディーテの暗黒世界の闇が捉え吸収しようとする。
だが無限も抵抗し逆に闇を取り込もうとしていた。
互いに力が拮抗する。
気体と闇が拮抗している間に、ハザードは未だ倒れている自分が背負うバッグから一本の杖を取り出すと、無限に向かって投げつけた。
『ほお、懐かしき。逝かれた悪魔じゃないか。確か名付けた記憶があるぞ』
『テロだ、忘れるな。お前に協力したいとガタガタ動いていたぞ』
気体に絡めとられた杖は、爆裂し、気体を散り散りにする。
それだけで、無限は消滅する事は無いのだが、力が散り散りに分散した事によって闇がより有利に吸収を進める。
だがそれにより無限も焦ったのか、抵抗をより激しい物にする。
吸収して行く中にで、ハザードは奪われた自分の力を発見した。
賢人の紋様やら、今まで肉体に蓄積された技術やらが霧散した無限の中に散らばっている。そこは抜かり無く闇で吸収して回収する。
それは肉体ではなく魂核に刻まれて二度と他に奪われる事が無い永遠の技術となる。達人の体が覚えて無意識のうちに技を繰り出すと言うが、それの上位互換と捉えてくれれば良い。
そしてそのまま魂に刻まれた技術は自分の才能になり、魔紋により人ならざる者になったお陰で少し変質した才能『賢者の意思』の下に統合された。
賢人と認められた時の称号の様な物ではなく、真なる賢者として魂に刻み込められた才であった。
さらに無限の一部を吸収する事によって無限の中の膨大な知識の一部を獲得し、右の占眼が変質。全てを見極める魔眼へと変わる。
そして、格段にパワーアップしたハザードを確認した無限は、魂の集合体の中でもとりわけ有能な集合体を切り離し、自ら散り散りに霧散して消えて行った。
このまま闇を広げれば捉える事も可能かもしれないが、冥界でこれ以上闇を広げるのは不可能だとディーテが告げた。
ハザードは幽星体から自分の肉体へと戻る。
そして一息ついて言った。
『おい。お前いつ帰るんだ? もう帰れ』
『お前酷いな。降臨したら死ぬまで戻れないぞ? しかもお前の魂はなかなか死なない存在になったからな。ヨロシク我が友よ』
(はぁ〜……)
『聞こえてるぞ我が友よ』
溜息も出る。
だが不思議と嫌な気持ちではなかった。すでに一戦を共にした悪魔大王はハザードの家族の様な存在になっていた。
『古代の力』と言う称号は全ステータス補正2倍という破格の物。
難易度とボスは強いが、勝てば更に強くなれるのである。
ハザードが迷い込んだ時期はクエスト発動時期でもなくたまたまだったため、ボスの出現はありませんでした。なので悠々とただ観光しただけでした。
因に城の杭には裏ボスが仕込んでありましたが、時期じゃないためこれもただただ無用に封印を解いてしまっただけでした。
本来であれば、通常ボスを倒してから、裏ボスと言った形で進んで行くんですが、このお陰でボスが常に裏ボスになってボスが中ボスみたいな形になってしまい、難易度が劇的に上昇。恩恵も然ることながら、霧が晴れる日の為に力を蓄える人達が沢山でてきてお祭り状態になるのです。
ってことで古代系を獲得した人がいずれ出るかもね。それはリアルプレイヤーでもノーマルプレイヤーでもどちらにも可能性はございますので、破格の性能の称号。敵キャラにならない事を祈るばかりです。笑
ってか、ハザードさいつよ!
そしてズッ友になりました。
※補足です。ハザードより分離してディーテが降臨した訳じゃなく、ハザードの体の中にハザードとディーテが居るので、一人二役やってる様に見えてます。




