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採掘場での戦い1

更新がすこぶる遅れました。

本当に申し訳ありません。

 地響きと共に、巨大な爬虫類が採掘場で蠢く魔物達を押し分けながら、その姿を表した。夜の闇に焚き火の明かりを背負いながら、その巨体を映し揺れる影は昔【かいじゅう】の絵本で見た様な途方も無い不安感を与える様だった。


 あの絵本怖いよな。かいじゅう達のデザインが幼少期の俺にはとてつもなく不気味だった。成長してからもかわらず手に取る事は無かった絵本だったな。


 全体的に暗いんだよ。


 鋭い歯を見せながら、巨大な爬虫類はその銀色の針が密集した鬣の様な物をキリキリと耳に痛い音を立てて鳴らす。


「バ、バジリスク…」


 俯いたマリアが声を漏らす。その足はガタガタと震えており、今にも座り込んでしまいそうなのをただひたすら耐えていると言った風だった。俺の服の裾を握りしめている手まで冷や汗が滴っている。


「で、出来るだけバジリスクの目を見てはいけないわ…即死の魔眼を持つ冥界の竜と呼ばれている魔物だもの」


 シャアアアと辺りが凍り付く様な唸り声。だが、今の所それだけである。坑道の入り口でどうする事も出来ない俺達に対して、不自然な程に唸りを上げ続けるだけのバジリスク。


 バジリスクの上に何者かが座っていた。


「人間って面白いよね。大半が女神アウロラを信仰していると思えば、実際は形だけ。冥界のゾンビ達より中身は腐ってる腐ってる。この間さ、地獄の門に来た神父からさ、あれだけ女神に尽くしたんだから天国へ連れて行ってくれと懇願されたよ。ま、地獄に落としたけどね。俺は親父じゃないから多様な意思を持たない物達の方が好きだよ」


 体操座りで朧げな視線を虚空に送りながら、紫色の衣を身にまとった男はブツブツと呟いている。


「あ? 何言ってんだアイツ。とにかく、バジリスクとは目を合わせなければいいんだろ」


 ブツクサ言ってる根暗は置いといて、とっとと殲滅戦に取りかかりたいという意思を全面に出すユウジン。それに過剰反応する様に体操座りの男。


「は、バジちゃんの魔眼は冥界のゾンビでも二度死ぬから。舐めないでもらいたいな、ってか人間の分際で何言ってんの? 馬鹿なの? 死ぬの? あ、目、合わせたら死んじゃうんだっけ? プププ。さっさと死んだらぁ?」


「…あ"?」


 いつの間にか抜き身になっていたユウジン。身体から蒸気が吹き出し始めている。蒸気に濡れた流しが肌に張り付いてその鍛え上げられた上半身を浮き出させる。


 ってか、鬼闘気。随分とまぁ鬼らしくなってるじゃないの。

 角が生えて、牙がのびて、皮膚も熱を持っているのか赤くなっている。


 赤鬼だ。中級モンスターのレッドオーガとはまた違う。

 本物の鬼って感じ。


「おっと、ダメだよ先走っちゃ。君たちのイレギュラー加減は俺も耳にしてるからね。なんか銀髪が居ないけど、とりあえず目的はそこの神父だからね。一筋縄では行かない事は判ってるからね。俺も少し考えて来たよ」


 普段は女を見るを問答無用で地獄に叩き落としちゃうんだけどね。と、ブツブツと夜の静けさだからこそ聞こえる様なトーンで喋り続ける男は、指をパチンと鳴らす。



 急に、服の裾を引っ張られる感覚が無くなった。

 後ろを振り返ると、マリアが死んだ様に倒れていた。


「マリアさん!」


「あれ〜? おかしいな。そこの貧乳の女のも頂いた筈なのに」


 そう言いながら、手の上に浮く光る玉を弄び始める。

 嫌な予感がする。


「一体何をしました?」


「あ、これ? コレね。魂だよ魂。そう言えば自己紹介遅れたね。俺は冥界の王プルート。今からゲームをしないかい?」


 クツクツと笑いながらゲームだなんだ言う冥王プルート。


「おい、コレってマズいんじゃないか?」


「……貧乳って……」


 プルートは立ち上がって、バジリスクから飛び降りた。

 このやり取りの中、集まっている魔物達は不自然な程に静まり返っていた。よくよく見れば、四肢が欠損していたり、至る所に火傷や裂傷を負っていたりとよくその傷で生きているなと言う風貌の魔物が大勢いる。


「心配しなくても、魔物共コイツラには手は出させないよ。ただのギャラリーだからね。ただし、コレは見ててもらうけど。少しでもゲームルールから外れた行為をしたら冥界に連れて帰っちゃうよ〜」


 馬鹿な事しないでね、と一言。

 歯噛みする様な状況で、プルートは独特の口調で淡々と説明をして行く。


 簡単に要約すると。

 武器の使用禁止。プルートの用意した魔物と素手でかち合うそうだ。


 彼曰く、本能のままでこそ生物は美しいんだとか。


「まるで不可避イベントだな」


 そうユウジンの言う通り、絶対に死んでしまう系のイベントに巻込まれてしまったのかもしれない。いや、俺達プレイヤーは死に戻りペナルティを味わうだけだが、マリアは違う。


 死んでも生き返る事は無い。

 セーブポイントとか、死んだらそこからやり直しなんて無い。


 死んでも助ける。それに尽きる。



 いつの間にか用意された、採掘場の端材を使ったステージに俺とユウジンは二人で上がる。特別席の様に設けられた場所にジンは動かなくなったマリアに寄り添う様にして此方を見守っていた。


 プルートは、バジリスクの背に座ってクツクツと笑いながら此方を見つめている。まるで、自分の勝利を悟っているかのようだ。


 この試合、勝てば終るのかと言えばそうではない。

 プルートが繋いだ冥界への召喚魔法陣。そこから無限に湧いて来る魔物と戦わなければならない。その辺の事情を詳しく説明していない彼は、心の底で「ルールに明記していないけど破っては居ないもんね」と思っていそうだった。


 あくまで主導権はアイツが握っているから、俺らがその明記していないけど的な裏をついたやり方をすれば、癇癪を起こしてマリアの魂を消滅させかねない。


 一体どうすれば良いんだ。

 簡単な話、冥界の魔物を全部殺してしまえば良い話なのだが。


「どーすんの?」


「刀が無いのが辛いが、やれる所までやるしかない」


 そういうことだ。






 戦いが始まった。俺とユウジンは交代したり、互いに有利に戦闘できそうな場合は戦いを譲り合う作戦を立てた。インターバルを設ける事で、少しでも体力の温存を図る。


 先ず始めはユウジン。


「じゃ、手始めにバトルゴブリンからね。ハンター協会だっけ? それの指定ランクだと個体でDランク」


 通常ゴブリン個体はGランク。ハンター協会の最低ランクはFランクなので、ハンターを志す程に鍛えた相手なら赤子の手を捻る様に殺せる手合いなのである。

 だが、ゴブリンは群れる。群れたゴブリンは規模にもよるが大体50匹で一つの集落を形成するので、その場合はランクDとなる。


 つまるところ、一つの群れ分のゴブリンだと言う事だ。





バトルゴブリン・ゾンビ

種族進化クラスチェンジも行わず、ゴブリンの中でも強者として君臨していたゴブリン。弱い種族なのだが、戦闘本能を強く持っていた個体故に一時期小さな村を脅かす存在になっていた。孤独で小さな戦闘狂。長い戦いの中、奇跡的に生き残ると緩やかに王としての風格を持ち出す』




 あれ、鑑定。

 少しこの個体の記憶とか生前も含めてないか?


 まぁどちらにせよ情報が多い事に濾した事は無い。

 ステージの端の召喚魔法陣から出現したバトルゴブリンは、獰猛な唸り声を上げながら本能の儘にユウジンに戦いを仕掛けて行った。


 本能の儘、顔面を狙って飛び上がるゴブリンだが、ユウジンはアッサリと迎え撃つ。顔面をグーパンで強打されたゴブリンの首は不自然に折れ曲がり、それっきり動かなくなった。


「第一ステージクリアだね」


 いちいち癪に触る声が聞こえて来る。

 無限ステージの癖しやがって!


 バトンタッチである。


「小出しで行こうと思ったけどやめた。そう言えば君たち、イビルクラーケンとか帝種とか仕留めてたね」


 何やら不穏な事を言い出したプルート。


「じゃ、上級行っちゃうね。ネザーオーガちゃんカモーン」


 真っ白な衣を身に纏った、真っ黒な鬼が召喚魔法陣から姿を現した。一般的なオーガとは違って図体は大きくなく、人間程の大きさで引き締まっている様に見える。



冥府之鬼

『冥界に落とされた生き物を管理する鬼。地獄の法力を操る。鬼種の中でも特殊な部類に入る』



 鑑定の結果を知った瞬間。金切り声を上げながら、冥府の鬼は嬉々として俺に迫る。まるで、俺の事を獲物だと言う風に。


「あ、その子はね、少し前に来た人間の神父? アイツに散々手をやかれたから、すっごい恨んでるみたいよ?」


 なんて事してくれたんだ糞神父!

 ってか俺だけレベル違うくない?


 バトルゴブリンとは比べ物にもならない程の速度で、金切り声と共に鬼の掌が俺の眼前に迫る。顔を狙っていると見た。


 とにかく、脳は即死部位なのでガードしなければならない。

 咄嗟の事に、判断を見誤った。


 何もかもがフェイントだった。

 鑑定には法力を操るとあった筈だ。


 完全に勢いに押されて物理攻撃だと思っていた。

 だが、腕の動きは下にズレて俺の胸の位置にある。


 その掌には魔法陣の紋様が描かれていた。

 掌から腕に沿って、魔力を流しながら淡く光るこの紋様は、簡単に言えば無詠唱で魔法を発動する事を可能にする物だった。


 近接と魔法を織り交ぜたその一撃に俺は完璧に対応を遅らされた。


「あの馬鹿……」

「神父様ッ!!」


 ユウジンの呟く声と、遠くでジンの叫ぶ声が聞こえた。

 その瞬間小規模な雷光がほとばしり、胸ではなく心臓に直接響く様な衝撃を感じて俺は意識を失った。









 聖書シスターズ、再起動しろ。






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