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神父は敵と共に来る

「この光景で鉢合わせしたらモンスタートレインっていってネトゲでも最悪のマナーだな」


 馬車を駆るユウジンが笑いながら言う。

 状況は依然変わらず、オースカーディナルとユウジンの愛刀である天道を載せた馬車を追っている。


 っていうか。

 オースカーディナルを手放してもその誓約は俺自身が受ける訳で、持っていても持っていなくても変わらず拷問の様な仕様である。


 当初は乗り物の速度にも影響するんじゃないかと思ったが、俺自身以外には関わらないらしい。要するに、うるさい足音と海溝で陥没した岩盤はエフェクトの様な物だった。


 なるほど、線引きが判らん。


 ただでさえ鈍足なのに、追い打ちをかける様にこの誓約と来た。

 海溝での戦闘時、状況的にどうしてもキングクラーケンに太刀打ちできる程の堅さと力が必要だったから仕方ない。


 オースカーディナルにスピードを求めてもこれ以上の誓約に聖書シスターズは耐えきれないだろう。ログインした瞬間死に戻りなんて発生しかねない。


「なんか遠距離攻撃ないの?」


「お前だって聖十字セイントクロスあるだろ」


「飛ばせなくなったんだよ!!!」


 そう、唯一の遠距離攻撃である聖十字セイントクロスだが、腕から数十センチまででしか発動できなくなった。これもオースカーディナルの影響である。


 前のクロスたそだったら中規模の聖十字セイントクロスを量産して飛ばす程の安心と信頼があった訳だが、この糞十字架、ただひたすら高威力の聖十字が発動するのである。


 威力特化は良いが、聖十字の凡庸性は唯一の遠距離攻撃だった所なんだぞ。

 マジでどうしてくれる。


「……急に自分を見つめ直すとかソロプレイし出して、取り得なくすとかもう神父やめたら?」


「うっさいな……」


 溜息をつきながら煽るユウジン。

 こっちだって溜息つきたいんだが、マジで。


「しかたねぇな。あんまりこう言うのは趣味じゃないんだが、光剣!」


 握りこぶしを作った手から光が溢れ出し剣の形を作る。


「姫さんに剣聖の称号貰った時に使える様になったんだが、鍛えれば空中に剣を何本でも精製できるみたいだから、一応鍛えとくか」


「なんだその超便利なスキル。刀いらなくね?」


 聖なる力を帯びた光の剣を前に、お役御免と言った具合に聖職者である俺の立場が揺らぎ、その事実に動揺してしまう。


「一応それなりに使えるけど、切れ味悪いんだよな」


 そりゃ、神鉄を鍛えた刀である天道てんとうには及ばないだろうけどさ、手数が増えるって相当良いぞ。本腰の刀と比べるな、鈍ら刀で鉄を斬るレベルにすでに片足突っ込んでるお前なら、大抵の魔物はまっ二つに出来る筈だ。


 手数と言う物は俺も初期に利用していた。

 聖書とクロスを操れば両手分の手数になる訳だしな、今は無理だけど。


「おらっ!」


 掛け声と共に光の剣を投げる。

 御者席の男に命中したのか、弾けとんだ生首が脇道に転がって行く。制御する者が居なくなった馬車は、指示を失いみるみる減速して行く。


 横付けして飛び乗ると、残っていた乗客風のゾンビの様な魔物達が、下から襲いかかって来る。俺はユウジンに刀を渡して御者席に向かう様に指示する。


 オースカーディナルを起こすと聖十字を発動した。

 巨大な十字形の輝きが中に居た魔物ごとキャビンを消滅させる。


「乗れ!」


「おっけい!」


 巨大な黒馬には男二人の乗るスペースが十分にある。無駄な者を背負わなくなった馬は十分な速度を出せる様になっていた。


 ぐんぐんスピードを増し、このまま引き離して逃げ切れるかに思えたこの戦いもまた違った展開で終盤を迎える。


 馬車で走っている間に日は落ちていた。夜中でも悠然と走る魔大陸産のこの黒馬には確り見えていたのか、急に減速して止まった。


「おいおいマジかよ。なんかクレーター空いてるぜ?」


 ドーナツ状に抉れた地面が月明かりに照らされて見える。

 ここで一体何が起こったんだ。


「強行できるか?」


「この角度じゃ無理だ! 第一この馬も止まっただろ」


 ならばどうする。

 後ろからは迫り来る馬車と魔物達。

 俺はこのクレーターを利用する事にした。


「ユウジン、俺が聖十字を発動させたら横に跳ぶぞ!」


 黒馬が目視して減速した位置に差し迫る。

 正面に構えた俺は、聖十字を輝度全開で発動した。


「今ッ!!」


 ギリギリのタイミングで横跳びする。

 それと同時に鈍い衝撃と黒馬の重たい悲鳴。それに重なる様にして後からキャビンの骨組みが落下の衝撃でひしゃげる音が響く。


「とりあえず走りながら応戦だ」


 クレーターを迂回しながら巻込まれなかった空を飛ぶ魔物の攻撃魔術を捌いて走り出す。地味に厳しいんだよな、走りながら戦うのって。


 走るのとは己との戦いだ。

 100回くらい諦めそうになるが、それを乗り越えるだけの精神を持ち得ている。


 AGI値的にこれのスピードが限界なんだが、ユウジンもう少し速度落としてくれないですか? もう耐えられないよ?

 それを知って知らずか、俺がついて行けるギリギリのスピードで走って行くユウジン。もう辞めて、俺の持久力はゼロよ。


「相変わらず足音うっせーな」


「だったらもう少しスピードを落として!」


「あ、でもほら、追いつかれるし」


 ドシンドシン鳴らしつつ。

 敵との戦いはユウジンに任せて、俺は己との戦いに明け暮れるのだ。















 開けた場所にたどり着いた。

 道の途中でデカい岩が転がって回りの採掘場入り口付近の木々を粉々に蹴散らしてた様なのだが、落石事故でも起こったようだ。恐ろしい。


「坑道に入ろう」


 ユウジンに告げた。

 空中を駆り、3次元的な攻撃を仕掛けて来る敵も、狭い坑道内に入れば自ずと行動範囲を制限される。


 案の定何の考えも無しに後を追って来た魔物を、待ち構えていた俺はぶん殴ってぶっ飛ばす。コメディマンガの様に唾をまき散らしながら坑道の入り口に出戻りして絶命した仲間の死骸を見て、どうやら相手は中に入るのに躊躇している様だった。


 これは都合が良い。

 まぁそれほど長い時間は持たないと思うけど距離を稼ぎつつ何処かでまた足止めすれば良い。


 暗闇の中を聖書シスターズの明かりだけで進んで行く。そこまで明るいという訳ではないが、聖十字で明かりを作るともれなく出口を塞いでしまう可能性があるからな。


 不意に、遠くに光がゆらゆら浮いている光景を見て二人で身構える。


「クボ? あんたこんな所で何してる訳?」


「なんだ、マリアさんですか」


「あれ、ジン。なんでお前もここに居るんだ?」


「あはは。生産職たる者って奴ですよ」


 ホッと胸をなで下ろす。カンテラを持ったマリアがジンと手を繋いで戻って来ている最中だった。

 ここから先へ行っても、どうやら鉱夫達の休憩所があるくらいだったらしい。坑道内は占拠されておらず、採掘場入り口の開けた場所に魔物は密集していたらしい。


 一体何しに来たんだ。

 集団デモかよ。


「ってかなによあなた。また面倒事運んで来たの?」


「いや、今回はユウジンが」


 呆れた様な顔で呟いて来るマリア。

 言い訳をするとお友達のせいにしないの、と嗜められてしまった。


「でもマリア。この採掘場、とんでもない気配がしますね」


「そうだな」


 そう言って、ユウジンと二人で頷く。

 通り道にあった大きなクレーター、採掘場の入り口付近にあったどでかい落石の跡。確実に巨大な魔物の襲撃があったに違いない。


 話に聞いていたが、やはり採掘場は魔の手が潜んでいたか。と思っていたが、マリアの一言に俺達は大きな溜息をつく事になる。


「あれ、全部この子の仕業なんだって」


「ハハハ……てへぺろっ」


 照れた様に頭をかくミゼット族の女。

 緊張していた糸が一気に緩んで行く。


「まぁでも、二人とも無事で良かったですよ」


 ってか坑道内であの規模の爆発物を持ち歩くとか、正気の沙汰じゃないな。意外と天然で恐ろしい少女に、魔道具の制作を一任して良い物か思考が一瞬ぶれるが、もう頼んでしまった物は仕方ないし、彼女も彼女で、採掘場へ来て巻込まれてしまったのは仕方ないと考えている様だった。


「先が行き止まりなら、魔物の応援を呼ばれたら面倒になる、外へ出よう」


 ごもっともなユウジンの案に従って、俺らは再び開けた場所へ向かった。

 外に出ると再び密集している魔物達。


 焚き火をしているオークやゴブリンが居るので回りは明るく照らされていた。そして、坑道の入り口から出てきた俺達を見張っていた翼を持った魔物が叫び声を上げる。


 その声に従う様に魔物が全員此方を振り向いた。



 これは大変マズい状況である。







 神父は遅れてやってくるのではなく。

 既に敵と居るのである。



 新訳聖戦書の一部抜粋。



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