表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/168

シスターは遅れてやって来る

※神父視点ではありません。

 魔道具を作る上で必要な材料である鉱石がある。普通の鉱石より数ランク上に当たる魔法鉱石と言う物が採掘され出したのは、この鉱脈の東側、鍛冶の国『エレーシオ』近くの鉱山にて噴火が起こってからだと言われている。


 実際には、噴火手前の状態でギリギリ収まっているらしい。山の神様が鉱山に巣くう悪魔を追い出すための噴火だと、噂している鉱夫達から聞いた話だった。


 それから、どういう訳か魔力を過剰に含んだ鉱脈へと姿を変えてしまったらしい。鍛冶の国・魔法都市は、共に鉱脈域に接する国である。そしてそのお国柄、魔法鉱石の需要は絶えない。


 両国では、魔石とはまた質の異なる魔法鉱石を利用した一大事業が巻き起こっている。それに食込んだのが丁度最果て域の鉱山を持っていたローロイズである。ローロイズには、まだまだ成長の兆しを見せる大きなマーケットがある。


 そして同じく優秀な販路を持ち、大陸の流通の大部分を占める程に成長したアラド公国のブレンド商会と手を組み、技術革新と企業拡大を進めている。


 元々アラド公国は、ローロイズ王位継承第8位の走竜種をこよなく愛したと言われるとある王族が興した国であったと言われている。


 当時末っ子の変態王子だと言われていたアラドは、竜と話す能力を持っていたとされる。そして、飛竜よりも雑な扱いを受ける走竜種達にもっとのびのびと住める環境を作る為に作ったのが農業大国アラドである。


 アラド健在の時は、ローロイズとの関係も良好だったとされている。公国とされているのも当時の名残を受けているから。だが、長い歴史の中で走竜種を排他的に見た派閥が大きくなり、アラド公国とローロイズの間に亀裂が入り、立場も逆転して行ったりと様々な出来事が起こるのだが、割愛。


 話は戻って、色んな国が関わるこの鉱脈だが、一番先に利となるのは大きなマーケットがすぐそこにあるローロイズの持つ最果ての採掘場だった。


 そしてこれを邪魔する者は当然出て来る。

 誰の物か判らない悪意が、その採掘場には向けられ、現在進行系で魔物に占拠されてしまっているのである。


 採掘場にひしめく魔物達を、遠くの影から見据える小さな人影。

 魔物の大群を見た竜車は早々に引き返して行った。一緒に帰った方が良いぞと言った御者のおじさんに従っておけば良かったかも。


 額に汗を流しながらそう思ったとある魔道具屋の店主である。


 生産職プレイヤーだと言っても、自分で素材を取りに行く内に強くなっているプレイヤーもいる。だが、彼女は道具職人で、しかも器用特化であるミゼット族に変わっている。


 小柄な人種は色々種類があるが、特出して力と豪快さを兼ね備えたドワーフ族。器用さと魔力を兼ね備えたミゼット族。勇気と好奇心の強い戦闘種ホビット族。


 ミゼット族は戦闘補助担当の種族なのだ。

 故に単独で魔物の巣窟へ向かう事等は滅多に無い。


 装備自体は、最近潤っている財布を最大限に利用したキヌヤのオーダーメイドである。このつなぎ、実はかなり丈夫なのである。

 そして魔道具による幾つかのギミックを施して戦闘向けにアレンジしているのだが、幾分この大量の魔物を相手にする為には忍びない装備だった。


 基本採掘メインで、もし敵にエンカウントしたらという場合を想定した装備故に、数を相手にする場合どうしようもないのである。


 かといって、大人しく逃げ帰る訳にも行かないのであった。

 というか、神父クボヤマと剣聖ユウジンが先に到着して魔物を蹴散らしてくれているという乗っかり系の打算があったから来た訳だ。


(一体、どこに居るのかな? もしかしたら、既にやられちゃったのかな)


 死に戻ってしまったという最悪の状況を考えてしまう。

 頭を振ってその思考を飛ばす。


(とにかく、探さなきゃ)


 自分も逃げ帰るという選択肢は既に無くなっていた。

 今の自分は、ちっぽけなポリシーと泣き虫な自分の為に泣いてくれたあの神父に最高の魔道具を作るという感情の上に成り立っている。


 得物はクロスボウである。

 木製ではなく、魔法鉱石を使った合金製なのが特徴で、エンチャントが掛けやすくかつ長持ちする。そして最大の長所は、形と威力に対してのこの軽さだろう。


 魔法鉱石の中でも浮遊石をボディに使用しているため、ミゼットでも片手で取り回しが聞く等、かなり軽いのである。


 飛竜船に使われる程の高純度と大きさではないが、そこそこ良質な物を使っているので、強度も問題ない。


 そして特製合金クロスボウに装着する矢であるが、これは先端に爆破魔法鉱石を乗せてある。剣聖ユウジンがとある筋から回してくれた魔法鉱石だった。


 削られて剥き出しになった山の上の方にある比較的脆そうな箇所である。アローボムで下に落とせばかなりの被害になるはずだ。


 幸い捕われてる人も居ないみたいだから、とミゼット族のかなり精密な身体の動かし方で、狙いを定める。矢羽根に施すエンチャントは風魔法、矢筈やはずには火魔法。これで風の影響を受けず速度も威力も更に出る。


 金具が外れて射出された音がする。

 耳のいい魔物には気付かれてしまった様で、此方を振り返り窺う姿が見える。自分から見えているという事は、敵からも見えている。すぐに身を隠すが魔物側から声が上がる。


 と、同時にそれより更に大きいな音が轟いた。

 爆破された瓦礫が崩れて魔物達に降り注ぐ、そして最後は意外と大きな一枚岩が出っ張っていたようで、回転して更なる破壊エネルギーをまき散らしながら此方に飛来した。


 魔物達の悲鳴と共に、転がって来る岩の方向が自分も巻込まれる位置であると気付いてから、すぐさま走って飛び退いた。


 木々をなぎ倒し、かなりの距離を破壊して岩は止まる。


「痛たた…」


 そこその数を倒す事に成功はしたが、魔物はまだまだ健在だった。と、いうよりも飛来した瓦礫が中途半端に小さく、挑発程度にしかダメージを受けなかった魔物達は激昂していた。


 オークより身体の大きなゴブリンの様な魔物が、此方を指差し吠えた。それに促される様に魔物達が此方へ向かって押し寄せて来る。


「きゃあああああああ!!!」


 押し寄せる魔物を前にして女の子の様な叫び声を上げて走り出したジン。

 血走ったゴブリンとオークの目を見ると捕まった後自分がどうされるかなんて容易に想像ができる。


 そのお陰で冷静な判断が出来なくなっていた。

 最悪、竜車に引き返す用書かれた看板の前まで行けば、巡回に来た竜車が居て逃げ切れるかもしれない、そんな考えが頭を過り道を引き返して走る。


「ゴアアアアア!!!」


 後ろから迫り来る咆哮に、怯んで転んでしまった。

 猛烈な勢いで接近する軍勢を目の前にして、流れる涙はもちろん、他の物も流れ出てしまいそうな程恐怖する。






「あーもう、竜車もやってなかったし、やっとの思いで徒歩で来たのに何なのかしらまったく…気が滅入るわね…」


 その一言と共に、ジンの目の前に薄らと光の壁が出来る。先陣を切って走っていたゴブリンは進行を阻まれ、後続から押し寄せて来る他の魔物達に押しつぶされたて内臓をまき散らす。


 玉突き事故で死んで行く魔物達。

 振り返ると、光沢のあるボンテージ衣装に身を包んだ女性が居た。頭に被っているベールで辛うじてシスターを連想させるが、今の所この結界魔法が神聖魔法であるという情報だけでしか教団関係者だと判らない。


 もっとも、ただの魔道具職人であるジンには判らないのだが。


「あなた、向こうから来たみたいだけれど、ゴーグルの着いた帽子を被った神父は見なかった? あと珍しい武器を持った友人ユウジンと行動してるらしいんだけど…」


 叫ぶ魔物を無視して言う。


「えっと、私もその人達を捜しているんです」


「え、どういう事?」


 話が見えないと言う風に聞き返す女。

 ジンは自分の詳細を話した。


「お世話になっているユウジンさんに言われて神父様は、この採掘場に向かったらしいんですが…」


「なるほどねぇ…。よっぽどの事があったのかしら。私は教会に報告があったから後で遅れて来ると連絡入れていたのだけれど、まさか徒歩の私が早く到着するなんてね」


「私が出たのも昼過ぎなので、掴まっているかと思って攻撃してみたんですが…」


「逆に追われるハメになったと…」


 やれやれと言う風に肩を動かした女性は、シスターマリア。大教会の司書である。姿から一目で尼さんだと思わないが、シスターであると聞くと、被っているベールがどことなくそれを連想させる。


「何も言い返せないです…」


「あ、もう! 泣かないの!」


 状況が状況なので何も言い返せず涙を溜めるジンに、マリアもたじろぐのである。そして一呼吸置いてから、押し寄せて叫び声を上げたままの魔物軍勢を振り返る。


「コイツらをどうにかしなきゃね」


 依然として状況は固まったままである。

 結界を取り囲む様に魔物達は密集している。


「あ、これくらいだったら、なんとかできます。かなり密集していますので」


 ジンは思い出した様にそう言うと、背負っていたリュックの中から円柱状の筒の束を取り出した。七本の筒を一纏めにして、その中心の筒から一本の紐が伸びている。


「どうしてもつるはしで掘れない時に使おうと思ってたんですが、これを使いましょう」


 それは、精製された爆発魔法鉱石を粉末状にして火竜土 (火竜の排泄物がしみ込んだ土を特殊加工された火薬)とレッドスライムの体液と混ぜた混合物である。どちらも扱いが難しい素材であるが、レッドスライムの体液と混ぜる事によって安定化する。


 ダイナマイトの様な物。


「なによそれ?」


 当然ながら、RIOの世界に住むマリアは知らない劇物だった。


「火竜土って知ってます?」


「燃える土ね。天然物はかなり希少らしいけど、ローロイズでは人工的に作る事が出来るらしいわね」


「それと爆発魔法鉱石と呼ばれる破壊属性の鉱石の粉末を掛け合わせた物です」


「かなり危険じゃない?」


 想像だけでも理解できる。

 火竜土はかなりの勢いで燃える事で有名なのだ。


「あまり数が用意できないので取って置きたかったんですが…この結界ってどれくらい持ちますか?」


「爆発の程度が判らないけれど、ガーゴイルの業火くらいは防げるわよ」


「よくわからないですが、多分それじゃ持たないのでなんとかしてください」


 いきなり図々しくなったわね。とマリアは呟く。

 そして聖書を懐から取り出すと詠唱を重ね出した。


「一級神聖結界を重ねるなんて、特級には及ばないけれど。できる人なんて私くらいよね」


 以前ガーゴイルと戦っていた時は出来なかったが、クボヤマの聖書シスターズの力を借りてから、何故だか多重起動が可能となっていた。


「十分です!」


 ジンはそう言うとバラバラにした爆発物の導火線それぞれに火をつけた。


「一瞬上だけ結界開けてもらえると助かります!」


「また無理難題を……あ、できた」


 意外と簡単に出来た結界操作に自分があっけに取られてしまうマリア。そして爆発物を周囲に散蒔くとジンは耳をふさいでしゃがみ込んだ。


「耳塞いで下さい!」


 別にしゃがむ必要は無いのだが、マリアもジンに習って耳を塞いでしゃがみ込んだ。


(…紫…)


 ジンが余計な事を考えている内に、凄まじい音と光が周囲に炸裂した。

 魔物達は一切の悲鳴を上げる事もなく、飛来した物に疑問を感じた傍から爆発の衝撃で消し飛んで行った。


「うわ、地面が抉れてる」


「わ、私も作っておいてですが、こんな威力が出るなんて思ってませんでした」


 7連で張った結界は薄らと消えかかっており周囲は大きなクレーターの様な物が出来ていた、どれだけの衝撃があったのかが窺える。


 その光景を見て、もし採掘で使うなら7本束ではなく一本にしておこうと固く誓った小さな生産職であった。



 竜種は、賢く清潔なので、トイレ文化を持っています。縄張りを誇示する様な習性ではなく、竜種のマナーです。

 巣を替えて居なくなった火竜のトイレに使われていた土は排泄物が色々と混ざっていて火薬より爆薬に近い程のエネルギーを発します。


 ローロイズでも一応少量人口生産されていますが、天然物とは年期が違いますね(断言)。


 天然物は一年一回の収穫では計り知れない程の思い出が詰まった一品ですので。



 火竜の糞尿評論家ももちろん居ますよ。世界には。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ