とある魔道具屋にて
後書きもストーリに繋がります。
※2015/4/15
※感想でのご指摘を受けて一部種族名称を変更致しました。
※ホビ○ト→リトルビット
顔が怖い。
高校時代から良く言われて来た事だった。
でも泣かなくても良いじゃないか。
仕方ないじゃないか。
俺も泣いた。
スポーツブラの感触に感極まった訳じゃなくて、とにかく人の顔を見て泣く少女を見て、自分の境遇を思い出して泣いたのである。
「…グス。そんなに泣かないでください」
マジで、こっちまで悲しくなって来るじゃないか。
ああ、嫌な記憶を思い出してしまった。
コンビニで弁当を温めてもらっていた頃。店員が手を滑らせて温めた弁当を落としてしまった。
弁当を落としてしまった女子高生と思わしき店員に「え、なにしてんのマジで?」と、ただそれだけ言っただけなのに、その女子高生は泣いてしまったのである。
俺も帰ってから泣いたね。
「な、何故泣いているんですか…?」
涙に濡れた俺の目を同じ様に潤んだ瞳で見つめかえして彼女は言う。
黒目が大きいな、本当に人種なのか。
「悲しいのです。あなたが泣いている事が…」
「…ふぇ?」
俺の一言に対して、少し紅潮する彼女。
アレだな泣いてるのが恥ずかしくなって来たんだな、そろそろお互い泣くのは辞めよう。生産性が水分と塩分くらいしか無い。
「さぁ立ってください。在庫が無いからと言って、私は怒ったりする様な輩じゃありませんので」
椅子から崩れ落ちる様に泣きを入れた彼女の手を引っ張って椅子に座らせる。そして水筒に入れていたお茶を飲ませる。
「おいしいです」
「旅で北に行っていたのですが、途中美味しい紅茶を紹介して頂きましてね。タイムブレイクティーと呼ばれて、産地ではこの紅茶を飲む為だけに休憩時間を設けている場所もあるそうですよ?」
そして超高級なのである。
それは内緒。
高級茶を水筒に入れて持ち歩いてるのはマリアには内緒である。
だけど、彼女も経費を酒に使い込んでるし良いよな。
今回も教団の皆様へのお土産として北の超高級紅茶を買って、こっそり作って水筒に入れておいたのである。
因にこの紅茶と紅茶を入れた水筒が俺の空間拡張スペースをかなり消費している。精神修行で少しは伸びたと言っても、本当にちょっとだけしか強化されていないので相変わらずカツカツの状況でやりくりしている事には変わりない。
その大部分は紅茶を入れた拡張水筒と、着替えと夜営セットなのだ。
もはやスペースは無い。聖書なんて基本的に胸ポケットだし、クロスは背負っている。なにより空間拡張の中に空間拡張できないって厳しいよ。
お陰で紅茶はしばらく持つ。だが、容量を節約しなければならなくなってしまった。恋文の様な見るだけで顔が赤くなる様な文章が書かれたケータイ用の画像を収集する癖を持っていた姉を思い出す。
「パソコンが動かないんだけど〜、どうにかして〜」と、言っていた。単純な話、ハードディスク一杯まで画像を収集するなんて頭おかしいだろ。バカジャネーノ。
俺はその点、きっちり容量半分で紅茶を納めてるからな。
飲めば減るし、その点抜かり無いのである。
紅茶を飲んで落ち着いた彼女は、改めて自己紹介してきた。
「すいません取り乱しました。改めまして、ジンの魔道具屋の店主をしています。ジン・クルという名前でRSMをプレイしています」
「あ、どうも。クボヤマです。見ての通り聖職者です」
「いつもユウジンさんには色々な販路を融通して頂いて助かっています」
聞いた話によると、彼女自身は人種小人族と呼ばれているらしい。RIOの世界で良く聞く逸話がある『ドワーフには剣を打たせてミゼットには細工をさせろ。そしてリトルビットは旅に出る』と言う物だ。
何が言いたいのかさっぱり判らないが、酒場で良く話の例えに上がっている言葉だったりする。『そしてお前の小人は夜中どこへ旅立つ』と言って話の落ちにして笑うというのが恒例の様だった。
下ネタかよ。結局。
「通信魔道具はどれくらいで制作できるんですか? 材料が届く期間も含めてです」
「ああ、それはマチマチなんですが。大体リアル時間で三日後くらいですね。ブレンド商会の竜車搬送はかなり早くて便利です」
飛竜搬送は、種の数が少ないのと船を浮かせる為の浮遊石が高価でかなり高額になるそうだ。それこそ、国がお金を出すレベルじゃないと録に運用できない程。
その点走竜での搬送はコスパがあまり掛からない。まず竜車は馬車を流用して作る事ができ、飛竜船の様に浮遊の魔法石が必要ないからである。
そして餌代もあまり掛からないからな。
これは経験談である。
空の王者と呼ばれた飛竜は意外とグルメだそうだ。
その点、ウチのラルドなんて適当に良さげな魔物を平気で貪るからな。
だが、セバスの料理を長い間食っていたからかなり舌は肥えている事が予想できる。でもその分、良い物を食べているから他の竜種より体つきは一回り大きくなっている訳だ。
ひょっとして、飛竜種の強さって身体にいい物を食べているからなのかもしれないな。ほら、爬虫類って死ぬまで成長し続けるって言うじゃん。
あと、魔大陸に渡って行ったやまんの話を思い出す。
北の食べ物を食べて生活していたらいつの間にか北方人種になって、今では完全に雪山族の体つきになってしまっていた話。
良くあるRPGは転職という物があるが、こっちでは進化か。
エルフになってしまったエリーの耳も、確かに兆候はあった。
「三日ですか…。申し訳ないですがご依頼はまたいずれこの国にきた時にします」
明日にはローロイズを立って魔法都市を目指す予定だったので、確実に帰って来てから受け取りますは出来そうにない。
とてもじゃないが、聖王都からローロイズまでリアル時間3日で往復するなんて無理だしな。あちこち寄るのでもっとかかる予定だ。
「そうなんですか、残念です。あ、あの! また来てくださいね。材料取り置きしておくので!」
「いえいえ、そこまでして頂かなくても。不良在庫になるかもしれませんよ」
「いえ、クボさんの依頼断ったら良くない事が起こりそうなので」
「いや、そんな事無いのですが」
妙な先入観を抱かれてしまった様だった。
ユウジンめ、後でなんと言ってやろうか。
だがまぁ、確かに今の状況を省みると、要するに自分の雲脂が相手にパラパラ掛かる状態だな。それは嫌過ぎる。
マジで嫌過ぎる。
改めて身の振り方を考えていると、店のドアが開かれる。
「ジン、ここに神父来てるか〜?」
「あ、ユウジンさん。ご無沙汰してます!」
入って来たのはユウジンだった。
「ん? お前どうしたんだ。いつもの剣聖の礼服じゃないけど?」
「これがいつもだアホ」
短く答えるユウジン。
そう、懐かしき着流し浪人姿である。
腰の帯刀もあの頃とそっくりだ。
「ユウジンさん、今日はいつもと服が違いますね。どうしたんですか? オフなんですか?」
「そうだな。剣聖をしばらく辞めて、クボ、またお前と旅する事にするよ」
店内に並べられている商品の感触を確かめながらとんでもない事を口にした。せめて質問したジンに返してやれよ。
ほら、涙目じゃないか。
また泣くぞ。
「いやいや、どういう事だよ。主旨を言えよ…」
「ああ、これはジンにも関わる事だからな」
ユウジンは、涙目になったジンの頭を撫でてあやしながら言う。端から見ていると完全に近所から道場に習いに来た子供をあやしてるみたいだな。
「最果ての採掘場が何者かに襲われたらしい」
エレーシオの鉱山から連なる山々を西へ向かうと山脈の端にたどり着く。ローロイズにもっとも近い鉱山とされているそこが、最果ての採掘場と呼ばれている。
因にこの鉱山帯は鍛冶神の神殿が直接奉られていた(過去形)ので、鉱石類が豊富に穫れる。
と、言うか結構前に神鉄とれたしな。
死にかけたけど。
その採掘場が何者かに襲撃されて、占拠されてしまっているらしい。そのお陰で鉱石の納品も遅れてしまっているらしい。このままだと三日どころか1ヶ月近く待つ事態になるかもしれんと。
他から鉱石を供給する事になるので、価格も割高になってしまうだろう。
「なに? まさかそこに行けと?」
「そう言う事。ついでに材料もただで貰って来ようぜ」
容易に想像できるし、この男の魂胆も紹介文からも察する事ができる。
エレシアナの分も作る気だろ。
「いや、俺は中央聖都ビクトリアに向かわないと——」
そう言いかけた俺の肩に組み付くユウジン。
耳元でボソッと言う。
「少しばっかり込み合った事情がある。邪神に関係する事だ」
「マジかわかった」
邪神というワードを耳にして、俺は即断する。
最果ての採掘場に行かなければならないと。もうアレだ、邪神関係は潰しておかなければならないと思う。
未だ英雄の存在は全く持って判らないのだが、やまんの時の様に運命と言う物がトラブルを運んで来るのだろう。
薄々そんな気はしているんだ。
薄々、薄々、誰がハゲだって?
まだ禿げてねーよ。
「おまえ白髪増えたな!!」
「帽子返せよ!」
悩んでいると、俺の脳内を読み取った様にユウジンが帽子を奪いさる。そんな子供並みの冗談に割と本気で憤慨しながら狭い店の中をドタドタと出て行く俺達。
「あ、ジン。お前は心配しなくてもいいぞ。とりあえず魔道具は依頼だけ受けて制作は一旦中止にしておいた方がいい」
「あ、ちょっと! でも!」
「あ、心配しなくて良いですよ。材料を持ち帰ったらいの一番に作ってくださいね!」
「あ、そう言う事じゃなくて〜!!」
閉められたドアの奥から『あ、が多い!!』と意味の分からない声が聞こえて来たが、回復職である俺が居るから小林○薬いらずである。
少し気分が高揚しているのは、ユウジンのこういうノリに合わせるのが久しぶりであるからと、また彼との二人旅にワクワクしているからである。
そうして俺達は、この勢いのままでろくな準備もせず竜車に乗り込み、後々苦労するハメになるのである。
先ず始めに、乗った竜車が南へ向かってしまった事が最大の失敗であろう。
だが、採掘場行きの竜車に間違わず乗る物が居た。
いつも掛けているメガネは、度の入ったゴーグルタイプ。
小洒落たブラウスにチョッキを来てよく男と間違われるのでたまのお出かけにはスカートをはいてたが、今回はツナギである
『生産職は、物の原点を知ってこそ、真価が判る』
別ゲーのVRMMOにて、師匠に教わった言葉だ。師匠とはRIOの世界でまた会おうと言って別れてから再会していない。師匠は変な縛りプレイを好むが故に、このリアルスキンモードの有るRIOの世界では、お互いが偶然出会うまで再会禁止と定めていた。
私もそこそこ生産職として名を広める機会だ。
剣聖である彼と出会えたのは運が良かった。
でも鍛冶に携わる彼なら判るだろう。
彼も鉄を山にわざわざ取りに行ったとか。
そう、生産職は素材集めもまた重要な要素なのである。
どんな場所で、どういう所に、どういう具合に素材が転がってるかなんて、素人には判らない。
最高傑作を作るには、己が危うい状況になったとしても、自分の目で納得の物を掴みに行かなくてはならない。
私のポリシーを守る為に。そして。
あのダンディイケメン神父様に、私の最高傑作を作る為に。




