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ローロイズにて

 護国竜は緑色だった。

 海竜王女リヴァイが青色の竜だとすると、護国竜は緑色の竜である。この理論で行くと、飛竜部隊を束ねる火竜は赤色なんだろうな。


『その十字架、言わば教団の闇。早い内に背中から降ろす事だな』


 王宮から帰りの馬車に揺られながら、護国竜の言葉を思い出した。

 枢機卿になるためには、北の聖堂で幾つかの試練を受けなくては行けないのだが、俺が選んでしまったのは『誓いの十字架(オースカーディナル)』だった。


 いや、その時の状況により否応無く選ばされたと言った方が良いな。


 枢機卿を誓う十字架と言う物があるのだが、オースカーディナルは極めて難易度が高く、その誓約が厳しい物だった。


 普通、高難易度クエスト程そのリターンは大きくなって来る。だがしかし、教団のクエストはハイリスクてもノーリターンが多い。理由は、教団だからと言われればそれまでなのだが……。


 とにかく、その当時は空いているポジションは『特務』と呼ばれる地位しか無かったらしい。


 何だそれは、急遽作られた様なポストだな。


 そして、特務枢機卿は『オース・カーディナル』を持つ聖職者にしか与えられないポストで、歴代でも一人しかその地位に就いた事はなかったらしい。


 枢機卿よりもランクを落とせば、資格はありつつもそこそこの地位に就けたのだが、当時は時間が無かったからな。馬鹿な事に、力を九割程捨てていた俺に一番必要な物がその契約による力だったからだった。


 そんなこんなでこの糞重たい巨大な十字架を背負うハメになったのだが、確かに、この十字架のみ、何かと戦う為に出来た十字架と言った風なのだ。そのため、力を使う度に過剰な負荷が襲う。


 まぁ、背負ってしまったのは仕方ない。

 無駄に重たい十字架を背負って復路を乗り越えて、無事大教会に納める事でその一時的な契約は切れる。


 特務枢機卿も一時的なポストな訳で、他のポストが空けばそっちに移れば良いと考えている。


「教会の、闇ですか……」


「…上に上がれば変人になるか、腐敗するかよ。どこも一緒だと思うわ」


 俺の呟きに、マリアもポロっと言葉を漏らす。

 それは知っている。


 教団の名を利用した不正がまかり通ってる事が良くあった。名前を利用した力技でどうにかなる時もあれば、その闇が意外と深く、下手につつけば余計な事になりかねない状況もあって歯噛みした事もある。


 色んな人の力を借りなければ何も出来ない北への道中だった。


「トップがあの人でも、教団は一枚岩ではないですからね。ただ、時代が進んだ時、教団の未来はどうなるのでしょうか、心配でもありますね」


「老人が上にしがみついてるのがいけないのよ…。あなたも私も、異例の出世だわ。最初は感激したけども、どう考えてもこれからの風当たりが心配よ」


 そう、エリック神父の事だから。

 特権を無理矢理使った可能性がある。


 例えどれだけの敵が教団内に居ても、エリック神父の地盤にヒビは入らないだろうが、そこに俺が愛弟子という形で乗っかってしまった訳だ。完璧ではない俺には、必ず綻びがある。


 こういう自分の隙を作ってしまう様な行動は辞めてほしい。個人的な教えでさえ、地位的に厳しいはずだ。枢機卿なんて、もし俺が下手したら監督責任というか、全てを引っ被るのはエリック神父かもしれないのに。


 俺が悪いんだって声を上げても、蹴落としたい奴の矛先は必ずエリック神父に向くだろうな。その時は、聖職者を辞してでもエリック神父の隣に立つ。


 いやまず、自分が隙を見せなければ良いんだけどな。俺は意外と感情的だから自分の行動に保証が出来ないのだ。



 そうして教会に到着する。

 祈りを済ませて宿舎でログアウトしよう。
















 ログインした。

 早朝の祈りで、俺の使っている宿舎の小部屋に魔力を満たして行く。


 魔力を体内でコントロールする事は最早不可能というレベルになってしまっている。結果的に体外コントロールの熟練度を日々向上させていた。

 その恩恵と言っても、オース・カーディナルの誓約である身体への過剰な負荷を少々軽減する程度のハイヒールを常時身にまとう事が出来るくらいである。


 運命の聖書の『自動治癒オートヒーリング』までは行かない物の、少々無茶が効く身体は便利である。


 海溝の戦いで、誓約を上書きした結果。

 一瞬全身の骨が粉々になりかけた時は焦った。


 元々INTという魔法技術系の出力、器用値が全くないのだから、精神値を伸ばしに伸ばしまくるという方針だが、果たして意味はあるのかね。


 だが、MIND依存という特性上、降臨フォールは俺の絶対的な切り札である。そして本当の顕現時に至ってのみ、運命の聖書はその特性を発揮して俺の極小アウトプットを肩代わりしてくれ、尚かつ精神力依存。


 そう魔力共有見たいな形で、発動すると魔力がゴッソリ無くなってしまうのである。精神値を鍛えれば鍛える程、フォルの力は増す。


 運命の聖書がどういう効果を持っているのかは未だに判らない。

 だって聖書さん時代は、回復役と心のよりどころをしていて貰ってたんだ。


 良妻とは、見えない所で夫を支える。

 そう言うもんだ。


 しばらくの間、魔力ちゃんだけと一緒の状態が多かったんだが、彼女達の立ち位置は変わらない。


 聖書さんは、運命の聖書(フォルトゥナ)になっても伴侶で。

 クロスたそは、例え別居状態になっても嫁で。

 魔力ちゃんは、俺を支えてくれる良き妻である。


 ああ早く降ろしたいこの十字架。

 堪らん!





 さて、宿舎を出て外出する為に聖堂を通ると礼拝に来ている人がそこそこ居た。

 ローロイズの教会は、石像で作られた女神像がある訳でもなく、代わりに竜に乗った小さな少女の石像が安置されている。


 護国竜が居る国なんだ。

 竜関連の神が居た所で何ら問題はない、いやむしろこの石像の竜は、あの護国竜なのじゃないだろうか。真っ白な石像なので、色合いが判らないから何とも言えないが、護国竜というくらいだから神と言うより神格化されているだけなのかもしれないな。


 宗教が違うのでよくわからないし、まぁそこで差異を考え出すと始末に負えない。信者争いなんてするもんじゃない、そこに利益を求めるなんて、聖職者失格である。命を尊ぶ者が戦火の火種を自ら起こしてどうするんだと。


 他国の宗教論は、魔法学校のレポート課題でもあるので一応纏めておくが、余計な事は一切書かないし、学校長以外には渡さない様にしよう。


 立場上、しがらみが面倒くさいのである。

 これから先の、という見解もあるが、とりあえずブツクサ文句を言って来る奴が居ない今の状況を楽しもうと思う。


 ロールプレイもここまでくればロールプレイと言えるのだろうか。

 否定派だったんだが、俺はすっかり代名詞な事は判っているんだ。

 ユニークNPCなんて呼ばれている事もな。



 さて、ローロイズを早めに出てビクトリアに向かわなければならない状況で、俺は何をしているのかというと。

 ユウジンから聞いた情報なのだが、リアルスキンモードプレイヤーの間で通信用魔道具が開発されているらしい。


 と言うより、彼の居たグラソン商会がその希少鉱石の提供をブレンド商会と協力して行っていた為、戦闘要因として地味に鉱山へ潜っていた事が多かったユウジンにもその話は転がって来る訳である。


 ローロイズの大通りから少し脇道にそれた場所にある、ジンの魔道具屋と書かれたドアがある。今までにも魔道具は生産職プレイヤーの中でも開発されてきた。

 だが、ノーマルプレイで運営が使っていた様な映像用魔道具モニター拡声魔道具メガホンを作る事は不可能であった。


 完全にオブジェクトだと思われていたし、生産職のプレイヤーが作る魔道具は、調理器具に魔法処理を施していたりだとか、構造が簡単なギミックの道具くらいだったのである。


 まぁ、メッセージの送受信くらいヘルプシステムで出来るしな。マップだって言った場所のマップは蓄積されて行く訳だし、そもそも道具というより魔法装備や武器の生産に特化して来た背景がある。


 生産熟練度の為に、浮くだけの浮遊の杖が一時期有名になった。ハザードが好んで使用していたその杖は、ノーマルプレイ生産職の間で無属性エンチャントの熟練度に加えて細部の加工も拘れば細部加工の熟練度も上がるし、本当に本当に極々低確立なのだが、黄金比職人という称号の獲得にも成功すれば、ノーマルプレイヤーの生産職としては成功したも同然という風になっていた。


 話がそれたが、小ぢんまりした店舗は会計カウンターの上に『一瞬の閃き』と達筆で書かれた額が飾ってある。


「いらっしゃーい」


 カウンターの椅子に座った小柄の店主が話しかけて来る。栗色の髪を持った小人の様な雰囲気。大きなメガネを付けてカウンターを散らかしている所を見ると、何やら作業中だったようだ。


「あ、作業の邪魔をしてしまいましたか?」


「いいやーそんな事無いよ。今日は何をお求めで?」


通信魔道具メッセンジャーが欲しくて」


「あ〜それは、作るのに少し特殊な魔結晶を切らしてて、材料待ちでオーダー依頼だけ受け取ってるんだ」


 そうなんだ。

 最先端の技術って事だから需要に供給が追いついていないんだな。


「後、ウチ、オーダーメイドは紹介制なんだ。誰の紹介で?」


「すいません、すっかり忘れていました。これが紹介状です」


 王宮剣聖の印で封された紹介状を出す。

 流石王宮だ、紙ですら高級な物を使っている。

 質感が素晴らしい。


「ゆ、ユウジンさんからの紹介状!? 一体これをどこで……ヒャ!? こ、言葉遣い失礼しました!!!」


 紹介状を見た栗色の小人が中身を読んで更に驚いた声を上げた。


「いや、そんなに驚かなくても大丈夫です。対応も変えなくていいですよ」


「いえいえ! ある筋では有名ですよ! 貴方は!」


「ちょっと、どんな文が書かれているんですか? 読ませて頂けませんか?」


 返答より先に、紹介文と俺を目を見開いて交互に見る小人野郎から、奪う様に紹介文を手に取ると中身を読む。




『ジンお久。王宮の設備サンキュー。とりあえず古い友達の神父を紹介したから、コイツに凄い魔道具作ってやってくれ。あと、いつもみたいに適当に接客してるなよー、コイツもう枢機卿でこの間のアダマンタイトを手に入れたやつだし、グランツ商会とブレンド商会の間も取り持ってるから、本人は大丈夫だが、回りがうるさいぞ。あと、とにかくシンプルに使いやすく高性能で頼む。コイツ機械音痴だから。良いの出来たらエレシアナもプライベート用検討するってよ。頼むわ。ユウジン』








 実にユウジンらしさが出る文章である。

 俺はそのまま手紙を握りつぶした。


 するとその音に反応する様にビクッと挙動する小人。


「……ハハハ」


 ニコリと微笑むと、遂には泣き出してしまった。

 びっくりして背中を摩ってあげる、だがその時気がついた。


 背中をさすってあげると感触があるのである。



 キヌヤで売られているスポーツブラのラインの感触が。

 こっちの方が衝撃だった。



 ユニークNPCと呼ばれていた事はすでに昔の事であり、今はロールプレイのブームメントを起こす程の名誉ユニークNPCとされている。

 NPCでは断じて無いが、神父トトカルチョスレ住民の一人が『ネタバレしたけどもうユニークNPCでよくね?』と発言した事から、スレ住民の数々の思いを込めて『名誉ユニークNPC』と呼ばれる様になった。


 ネタバレ以降も、神父の動向を彼等は追っており、その行動を推測してトトカルチョ戦争をすると言う恒例行事に発展して行く。


 

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