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王宮にて

 ローロイズの王宮に向かう道中、送迎の馬車の中からリアルスキンプレイヤーの個人経営店が幾つか見えた。

 黎明期プレイヤーの生産職の多くは、アラド公国のブレンド商会に助けられた点が多かったと思うが、人口も増えた今ならば独り立ちするプレイヤーも少なくないようだ。


 シェアは圧倒的にブレンド商会の勝ち。

 流石『神と対等に取引する男(自称)』である。


 名実共に、神父のロールプレイヤーから本当の神父になってしまった俺は、いつまでもハンターカードとアリアペイを懐に腐らせたままだ。


 まぁ、この旅が終わればまた皆で旅が出来る時が来るだろう。

 やりたい事は沢山ある。


 生産職は俺の中でやってみたいランキング第1位だ。

 だがしかし、エンチャントとか魔力が必要な技術がある時点でハードルかかなり高い訳だ。


 はぁ、結局廻り廻って隠居したい。

 そう言う思考に落ち入ってるから白髪が増えるのかもしれないな。



 で、さらに白髪が増す原因なのが、今向かっている王宮で待ち構える女王エレシアナなのである。

 正直良い思い出が無い、グリモワール魔法学校にて毎度の如く嫌みを言われていた記憶しか無いぞ。


 気になる所は、何故そこにユウジンがいるのか。

 剣聖と呼ばれ武術指南をしているのか。


「はぁ…」


「何溜息ついてるのよ? 隣にこんな美人シスターが座っているのに」


 最近より自己主張が激しくなったマリア。

 まぁ毎度の事なので簡単に受け流す事にする。


「私は以前、魔法学校に通っていたのを知っているでしょう?」


「出会った頃ね。あの時は心配したんだから! 私だって、は、初…」


 急に顔を赤くするマリアを余所に説明を続ける。


「現女王のエレシアナ・ケイト・アルバルトも同じ学校で同じクラスだったんですよ」


「貴方の人脈もここまでくれば笑えてくるわ。王族と御学友だったなんて」


 その学校生活で仲睦まじい関係を築けていたら、どんなに楽だった事か。


「当時、王族の間でも私の名前は知られていたらしくて、明らかに名声狙いで私を勧誘しているのが目に見えていたのでお断りしていたんですよ」


「…まぁ、そう言う事もあるわよね」


 当時の彼女は何かに取り憑かれた様に焦っていた。瞳もその地位の高さから周囲を見下ろした様な態度。


 その時から、俺はNOと言える神父をやっていたわけさ。


 思えば、インテリジェンス武器を作る事に躍起になっていた時期だった。結果的にそれは叶わず、変態共の巣窟でエリック神父にボコボコにされたり、腕が消し飛んだりするだけだったが、結果的に聖書さんは運命の聖書フォルトナに生まれ変わった訳だし今さら何も言う事はない。


 強いて言うなら久しぶりに彼女に会いたい事と、如何にして謝るか。

 それが最重要課題である。


 こんな王宮、社交辞令でさっさとおさらばじゃい。

 また皆でバーベキューがしたいのである。


 フォルも顕現させて皆でバーベキューしたい。

 このゲームにバーベキューしに来たのかと問われれば、少し悩む。


 セバスの料理は美味い。

 それを越えるのが美食プレイヤーのケンとミキである。




 話が蛇足したが、王宮の門を越えたのでそろそろ到着する頃だな。

 上からは謁見の許可は取っているから一度言って来いとしか聞いていない。


 いや、上と言ってもエリック神父しか今の直轄の上司と呼べる人物は居ないのだが、毎度無理難題の様な事を言って来るので苦労する。


 まぁ、それだけしか言われてないから、ローロイズ側から何か通達があるんだろうな。俺は伝書鳩かよ。















「クボヤマ様。あの頃は…私が魔法学校の生徒だった頃は、大変ご迷惑をおかけしました」


 顔合わせ早々、女王陛下に謝られる。

 空気感が重いよ!


 跪いている俺よりも更に頭を低くして謝る姿は、至極土下座に近い。

 空気が重い理由は、彼女がそれを裏でこそっとする訳でもなく、謁見最中の大臣やら家臣やらが大勢居る前で行ったからだ。


 王族が、一介の神父に向かって頭を下げる。

 その行為がどれだけの事を意味しているのか。


 王座の隣で立つユウジンが爆笑を堪えてる姿が見える。

 彼の目力が増し三白眼化している時、一件怒っている様に見えるが実はこれ、笑い堪えてる姿なんです。


 そんなユウジンの顔を見て、顔を真っ青にしている女王の腹心達。

 これは、あらぬ誤解を産んでいる気がする。


 誤解も何も、王族が頭を下げているのは事実な訳で、ここをどう切り抜けるかがローロイズを無事に抜けられるかどうか運命の分かれ道なのかもしれん。


「無礼者!!! 女王陛下が頭を下げているというのに!!!」


 一人の男から声が上がる、贅肉でぱっつんぱっつんにした服をプルプルさせながら怒り心頭だ。何かに指示する様に腕を振るう。


「この神父を捉えろ! 女王陛下、陛下も王族としての心構えがなっておりませんぞ! ここはローロイズ男爵が一人、ボンレス・クレハムが対応しましょう!」


 声と共に、控えていたであろう兵士が謁見の間に入って来る。その鎧の胸には男爵家の物と思われる紋章が刻まれていた。


「お、俺。神父に手を出した事無いぞ…」


「俺だって尼さんに手を出すなんて…」


 小声でそう聞こえる。じりじりと近寄っては来ているが、それは警戒しているのではなくお前がいけよとなすり付け合いが起こっているようだった。


 ダチョウ倶楽部かお前ら。

 聖職者ってこの世界で本当に大事にされてるな。ビクトリアが聖王都と呼ばれてそこまで特産物も無いのにこの大陸のトップ5に入る由縁も判る。


「さっさと行かぬか!」


 クレハム男爵からの喝が飛ぶ、まぁそう言いなさんな。

 この兵士達は救ってやらなければならない。


「顔を上げてください、女王陛下」


 まずは元凶であるこの女からだ。

 でもその懺悔、赦そう。


 巨大な十字架・オースカーディナルを俺は背後に降ろした。

 そう、ずっと背負っていたのである。それが誓いだからだ。


 そして聖書シスターズを浮かせる。


「貴方の懺悔は女神アウロラに届いています。貴方の罪は全て赦します。どうか顔を上げてください」


 ドワーフの時よろしく。神の如き赦しである。

 後命名された。


 本来ならば、クロスたそを神に見立てて浮かべて、聖書さんをパラパラとまるで神様がそこで聖書を読んでいるかのように見せかける技術なのだが、今回はそれが無い。

 こんな糞重たい十字架を浮かせられる訳ないので、後ろに据えて、極々微弱な聖十字セイントクロス


 淡い光を高く放つ巨大な十字架は、まさに神が宿っているようだ。

 そしてポイントは俺がめくっているんじゃなくて、あたかも神様がめくっている様に見せかけるんだ。


 神父は神の仲介者であるがゆえ。


「感謝致します」


 立ち上がり、再び礼を言う女王陛下。

 光り輝くその光景に、周囲を囲んでいた男爵側の兵士達はひれ伏した。


 そしてその光景を唖然とした表情で見つめる男爵を振り返る。


「女神の元に、全てが平等に」


「は、ハハァアアアアア!!!」


 本物の土下座をする男爵を尻目に、俺はなんとかこの危機を乗り切ったのだった。















「そう言う冗談はやめてくれませんかね」


 謁見も済み、俺はユウジンのプレイベートルームにて女王陛下に悪態をついた。いや、もうここでは立場は関係無いので女王陛下ではなく学友エレシアナと喋っているという感じである。


「いえ、私なりのケジメですわ。あの頃の私の目は本当に節穴の様でしたから」


 そういうエレシアナの瞳は、過去の他人を蔑む様な目ではなく、王族としての誇りを感じ得た。ただし、ユウジンを見る時はなにやら目の色が変わっている様だが、気にしないでおく。


「んで、まんまと素行の悪い事で有名だったあの男爵を改心させる切っ掛けに使われたと」


「あらやだユウジン様。本当に懺悔の気持ちで一杯でしたのよ?」


 ユウジンが横から口を挟む。

 それに微笑み返すこの女。心の中では絶対にテヘペロしているだろ。


 あの後男爵は、俺に大量のお布施を支払うとすっかり綺麗になってしまった瞳で兵士達を労いながら帰って行った。


「あの方も根は悪くないんですが、目立ちたがりやで排他主義でうるさかった物ですから」


「そう言えばユウジン。なんで王宮にプライベートルームなんて持ってんの?」


「私が説明しますわ。以前縁あって助けて頂いて以来、何度かお世話になっているので、その恩賞も含めた上でユウジン様には王国の兵士指南役をやって頂いてます」


 位は剣聖。

 王を守る剣という立場だった。側近である。


「ああ、位高い方が面倒が少ないと思ったが、やっぱり面倒なんだけど」


 全てを台無しにする様にユウジンが呟く。


「あらまぁ! ユウジン様、貴方のお仕事は私の傍に居る、ただそれだけじゃございませんこと? 本来ならば、王宮での行動には許可と費用が必要になって来るんでしてよ?」


 うっ。と痛い所をつかれて頭を抱えてしまったユウジンをそっと抱きしめるエレシアナ。見たままの感想だけど、ヒモだな。


 万人が万人そう言うよ。

 ヒモだな。


 これが王族の手腕なのか。

 腕っ節と下衆さランキングではそこそこ上位入賞圏内に居るユウジンを、見事なまでに外堀から埋めて行き、束縛している。


 正直笑ってしまった。


 久方ぶりに出会った友人は、大分変貌を遂げていたのである。

 着流し浪人スタイルが、かっちりとした服に変わっている所を見ると。


 頭の中は自分の事しか考えていないだろうコイツ。

 何から何まで外面を弄られてるなと感じた。


「このビクトリアとの通商条約の合意書は、私が責任もって聖王都ビクトリアに届けますので」


 エリック神父からの勅命は、この合意書を送り届ける事だった。

 ビクトリアって本当に神官以外なんにも居ない所だけど、一体何を通商するんだろう。


「後、是非とも護国竜に会って行かれてはいかがでしょうか?」


 そうだ。

 邪神について手掛かりになるかもしれない。


「はい、是非」


 俺は快諾した。










エレシアナが登場したのは『魔法学校の日常』です。

http://ncode.syosetu.com/n4162cj/34/


忘れている方も居ると思いますので。


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