海竜王女
神父が北へ向かう物語は別で用意してます。
タイトルはドタバタしてる感じ有名なアレから模してます。当たったら聖書さんとのデート権をあげますん。
この章の語り手は基本的に山田くんです。
意識が戻ると、ベッドの上だった。
死に戻りしてしまったかと思ったが、最後にログアウトしたのは小さな港町の宿屋だった事を思い出す。
生きてる。
そう、実感した。
俺達が寝かされていた部屋は、八畳程でベットが二つ並んでいる。木材で作られている壁の至る所が染みで汚れている。
いや、これは腐っているのか?
淡く部屋を灯している物体の正体は、瓶の中に入った光蘚の様なもの。光る海綿の中に光を放つ生き物が棲んでいるようで相乗した効果を生み出しているのかもしれない。
不思議だな。
「目覚めたか?」
ドアが開くと、一人の幼女が入って来た。
ツインテールにされた深くも鮮やかな青髪、その瞳も全てを包む母なる海の様に深い青だった。
着ているワンピースも青色だった。
そろそろクドい。
「病み上がりじゃろうて、わしが食事を作って来てやったぞ」
お盆に乗せたウネウネと動く何かを差し出して来る。
皿にすら乗せていない、それは一体なんなんだ。
「こ、これは…?」
「なーに言っとるか? みんな大好きオクトパースウィフトじゃろ? 少し林檎風味がまた格別に美味なんじゃ」
想像するならば、酢ダコにされたタコ足がリアルタイムでしまって行く感じ。収縮と膨張を交互に繰り返すかの様にお盆の上でうごめくタコ足は不気味だった。
「それ、タコあ…」
「オクトパースウィフトじゃて。何度言わせるんじゃ?」
ほれ、こう食べるんじゃ。と齧り付く幼女の口には鋭利な牙が見え隠れする。それで見るからに固そうなオクトパースウィフトとやらを咀嚼していく様は、異様な光景に見えた。
顔は美少女なのに。
あと10年経ったら結婚しても良い。
とりあえず一本口に含んでみる。
甘酸っぱい味だった。
北の地では、時として木の皮すら食べなければならない時もあった。
そんな俺からすれば、このタコ足は全然柔らかい食べ物だった。
ついつい、箸が進んでしまう俺をニンマリとした表情で見つめる幼女。
「違う。ここは一体どこでお前は誰だ」
本題である。
幼女は、残りのタコ足をまるでうどんをすする様に食べきると言った。
「わしは西海域の主。海竜リヴァイアサンじゃ」
無い胸を張って、口から飛沫をまき散らしながら言う。
甘酸っぱい。
ってかきたねーな。
ゲロ処理で慣れてなかったら激おこだぞ。
百戦錬磨のゲロ処理班。
嬉しくも何ともないんだがな。
「海竜…? まさか」
キングクラーケンに海中へと叩き落とされて、薄れる意識の中見た光景を思い出す。海底から唸りを上げて急浮上して来るあの巨大な竜種の存在を。
「あれは、すまん事をした」
弁明する幼女。
いや、海竜リヴァイアサン。
「リヴァイと呼んでくれてもええんじゃがの?」
と首を傾げる幼女は、海王種。
西海域を守護する役目をになっているらしい。
俺も初めて知ったのだが、大陸西部は魔大陸に一番近く面している場所であるらしい。そして、地・海・空を守護する竜によって魔族の進行が食い止められている状況なんだとか。
魔大陸に一番近いとされる西端の国『ローロイズ』の護国竜がその竜種の象徴とされている。
「よくぞあのタコ共を食い止めてくれたぞ」
「キングクラーケンか。俺達よく生きてるな…」
「英雄の鼓動は、馬鹿みたいに負けず嫌いじゃからの! アランのヤツめ! 一緒に来いと言うのに自ら北へ行くと言う事を聞かんのじゃ!」
ああ、あの時の声の持ち主か。
相手が強ければ強い程、己の力も増す鼓動だと言う。相応の精神を磨かねばダメらしいが、ゲロ処理班としての精神力では負けないよ!
どんな消化されかけた食材が出て来ても負けないね。
マリアさん、俺の100年の恋もスッパリ冷めてしまうよ。
「じゃ、船のみんなは」
「大丈夫じゃ。少し出遅れたが追っ払ってやったんでな」
ホッと胸を撫で下ろした。
良かったな神父。
俺達は確り守れたみたいだぜ。
後の乗客は、西域警護を担っている『遠洋』と呼ばれるギルドに保護された。
最近になって海の魔物が活発化して来ているらしく、どうしても手に余る時がでてくるそうだ。
あの時も、キングクラーケンとは別の『死海蛇・王種』の群れを追い払った後だったと。
「釣王は大型回遊魚の養殖に成功しよるからの! 出来る奴じゃ!」
釣王って確か、プレイヤーズイベントでも確実に本戦出場してくるトッププレイヤーだよな。
すでに海竜との交流があったのか。
「…ん…ここは…?」
神父が目を覚ました。
地味に帽子を脱いだ所を始めてみたけど、苦労してんだな。
白髪が目立ってます。
そんな俺の視線に、クボヤマは慌てて帽子をかぶった。
「ははは」
「ははは」
二人して笑うしか無い。
「なんじゃ二人してニヤニヤして気持ち悪いのぉ?」
横やりを入れる様に取っ付いて来る幼女。
そんな幼女にクボヤマが反応する。
「まさかこの匂い。オクトパースウィフトですか?」
「そうじゃ! 知っとるか!?」
「ええあの、ほのかな林檎の風味…」
酒好きなマリアにもってこいなお土産ですね、少し分けて頂けませんか。と早速タコ足の交渉に入る神父を横目で見て溜息をつく。
白髪の原因、何となく判ります。
その強さとか相当な苦労をして磨き上げたものなんだと思うが、何となく察するに元々バトルセンスは高い方だったんじゃなかろうか。
ただ単に、無駄に尻に敷かれ過ぎだと。人生に。
そう思いながら新しく用意されたオクトパースウィフトを齧る。
西海域の海溝はY字型になっていて、枝分かれした一方と一方にキングクラーケンと海竜リヴァイアサンの住処がある。
当然キングクラーケンの住処がある方は魔大陸沿いになっており、最近何やら魔大陸での動きが活発化しているらしく、その影響で普段人間の海域にまで出て来ない『死海蛇・王種』などがその活動域を広めているらしい。
「わしもキングクラーケンがこの辺まで来るなんて思いもせんじゃった」
そう言うリヴァイに続いて部屋の扉を潜ると、殺風景な洞窟が広がっていた。
彼女が片手を振るうと、青い光が洞窟の壁を反射して行き、それに反応する様に光蘚に明かりが灯る。
「北でも、悪女ヴィリネスが凍土から南下して来ていましたしね」
「あの悪女か? 奴は魔とも人とも言えぬ奴。世捨て人の成れの果てじゃが、凍土にずっと引き蘢っておったはず」
「邪神か。やっぱりあちこちで影響が広まってるんじゃないか? 悠長な事は言ってられないぞ」
ふと、リヴァイが立ち止まり振り返りながらこう言った。
「おぬしら、世界の縮図はまだ見た事無いのか?」
「大陸の地図ですか? ありますよ。この大陸の物ですがね」
クボヤマがすぐ返す。俺は見た事無いぞ。
第一、このゲームはノーマルスキンモードでも自分が行った場所もしくは何処かでマップを手に入れなければヘルプシステムに表示されない様になっている。
リアルスキンモードは当然の如くマップを記憶するか、道行く人に聞くもしくはマップを紙面に書き写すしか方法は無いからな。
「違うのじゃ、この世界を書き記した物じゃからそんな小さな物ではない」
チッチッチッと指を振りながら舐めた様な目つきでこちらを見るリヴァイ。
この幼女がっ。
リヴァイの説明を軽く聞きながら洞窟を進んで行く。
人の歴史の始まりは、神時代から。
だが、それよりも前に紡がれている歴史と言う物が竜族に伝わっているという。
遥か昔、人は絶滅寸で迄追いやられていた事がある、その時の竜族は世界の観察者としての責務を全うしていたらしい。ノア・アークと呼ばれる船大工がまだ幼き神子を託した一隻の方舟。その子を守るべく船に乗った人々がのち英雄と呼ばれる人物になったそうだ。
と、素晴らしい程色んな物を端折った世界の歴史らしい。
世界の歴史というよりは永年を生きる竜族が見てきた物を人間視点で考察されたものと言った感じ。
「ま、ついてくればわかるのじゃ」
そう一言。
「人智じゃ追いつかない程の歴史が隠されているんでしょうか」
神父も神父で何やらワクワクとした様子。
ってか、スケールがどんどんデカくなっている気がする。
邪神って即行出て来過ぎじゃない?
魔王でいいだろ魔王で。
「神と、戦うんだよな?」
「邪神と呼ばれていますが、神ではありませんので大丈夫です」
「じゃ、なんだよ」
「それに近い何かだと私は思っています」
「いや、一応神の中に名を連ねる一人なんじゃが…」
神じゃねーか!
洞窟の壁に頭を数回打ち付ける。
全然頭が冴えないな!
ってか、壁が抉れて行く。
こら壊すでない!とリヴァイが俺を止めに来るまで打ち付けていた。
そしてしばらく洞窟を進むと、行き止まりへとたどり着いた。
どこまでも透き通った深い水たまりが目の前にあるだけである。
「もうついたのか?」
ある程度察しは付く。
だが一応、一応聞いてみた。
「まだじゃよ。これからココを渡るんじゃから」
そう言いながら水面を指差す幼女。
やっぱりかい。
タコ足ではない。
幼女やっとでました。
ノーマルプレイヤーモードは、水泳のスキルを取得するとある程度のレベルまで行けば水中呼吸が出来る様になります。
リアルスキンでは不可能です。水棲の進化をたどらない限り、そう言う種族でなければ水中呼吸は不可能です。ある程度の身体強化が無ければ水圧にも押しつぶされます。




