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北の大地を発って

 前回で書き忘れてました。山田アランの補足。


プレイヤーネーム:山田アラン

プレイモード:リアルスキンモード

種族:ヒューマン(グラソン族)

才能:耐寒→英雄アランの鼓動

英雄アランの鼓動】

制約を超えた者が授けられ、英雄の力を振るう事が出来る。

英雄の血を色濃く受け継ぐ民はこの鼓動の一部を宿すため、巨大な雪白熊アークティックから力を貰い受ける事は出来ない。

誓約は、決して退かぬ事。

その勇気をなくした時、英雄の血は効果を失う。



 北では厚く衣服を身にまとう為、白銀の刺青が腹部から全身に広がるが見えない。時間経過で髪の色は白銀色に変わって行く。




 旅は道連れ。


 リアルスキンモードプレイヤーである俺が、ずっとグラソンの集落に居座っていられるのかと言われたら、それはNOと答える他は無いだろう。


 あれから、クボヤマ達と協力して集落の墓地に今回の戦死した仲間達の墓標を立てた。しっかり祈ってくれるそうだ。

 流石神父様。


 あれだって、お偉いさんなんだって。

 まぁ黎明期からプレイヤーを騒がせていた人物だけあって、この世界での過ごした日も長いんだろう。


 本人はユニークNPCだという噂を遠い昔の話の様に感じているらしい。

 トトカルチョの答えはプレイヤーでした。


 あれから、長と話し合った。

 次代を継ぐものはこの集落の掟ではこの地で育った者が継がなくてはならないらしい。


 英雄とはまた違った扱いなんだそうだ。

 「お主には遥か先に果たすべき目的があるじゃろう。儂もまだ現役で行けるし、北の地は英霊様も雪白熊様もおる。どこでも行け」と、そう言っていた。



 クボヤマ神父が言うには、かなり前に邪神を復活させてしまったのは実は自分だったらしくて、その尻拭いの旅をしているらしい。

 今まで何の音沙汰も無かった邪神からのアクションだが、今回そのはっきりとした兆しを確認して、いよいよ本格的に行動に移ると言っていた。


 この地に留まってひたすら来るか判らない邪神を待つよりか、神父に同行して邪神討伐のグランドクエストを進めた方が良いだろう。

 ってか色んな事を置き去りにして俺はいきなりグランドクエストに足を突っ込んでしまった訳だが、流石リアルスキンモードである。


 可能性は無限大。

 とりあえず先ず目指すべきは、聖王都ビクトリアだと言っていた。

 枢機卿としての責務を負えなければならないとか。



 そうして、俺は長らく滞在したこの雪山を後にした。

 今も脈々と身体を流れているこの鼓動。


 この地で過ごした事は決して忘れないだろう。

 掛け替えの無い物を貰ったしな、ゲームの世界である事を忘れてしまう程だ。















 そして俺達は、北の大地で唯一凍らない港『ロフスクハーバー』へと着ていた。この不凍港から海を渡り、西沿岸部諸国を回るんだとか。


 陸路から直通の方が早いのではないかと思ったんだが、


「行きに強行して何も観光できなかったですからね、帰りは時間の許す限り見て回ります。各地に散らばった友人達からの手紙も頂いてますし、仲間集めと行きましょう」


 だとさ。この神父。

 まるで問題を理解しちゃいねぇ。まぁ早急に戦闘が重なる様な状況でもないようで、本当にヤバかったら連合国やビクトリアからの招集がかかるんだとか。


「有給休暇みたいなもんよね〜」


 旅は慣れたもんなのか、船の甲板にて優雅に海を楽しむ二人を尻目に、密かに邪神への決意を固めていた俺に謝罪しろ。


「何が観光か! 何が有給か! 今も邪神の影がこの世界に広まってるか、も…」


《オオオオオオオン》



『レッサークラーケンが確認されました。今回の航行は見送りとさせて頂きます、皆様避難の準備を』



 放送が響く。確認されたってお前。

 目の前に居るんだが、でっかいタコがだよ。


「足一本くらいなら美味しそうですよね。はぁ、馬車があればまるまる積載できたんですけどね…」


「何それ、タコ? クラーケンって食べれるの?」


「ええ、とっても合いますよ、お酒に。私も一人晩酌を嗜むタイプでして。あ、いやこの世界ではもちろん禁酒していますが…と言うか宗教の規律的はあんまり厳しくないですよね」


「お酒も葉巻もありだものね」


「女神様の包容力です」


 そう言って祈り始めた神父。

 北の酒は未だ残ってたかしら、とクラーケン(タコ)の足を見ながら今夜の晩酌の皮算用をする司書。


「マイペースかお前ら! うおおおお!!!」


 船を両断しようとする一本のたこ足をゲンノーンで弾く。

 間髪入れず襲って来る足をハジクハジク。


 こういうデカい手合いには手数で圧すこの武器は使いづらい。

 片手で弾ける当たり、英雄の力すげーってなる訳だが、それでも限界はある。


 未だ使いこなす事が難しいんだぞ。


「おい! 神父! 司書! はやく! こっち! 手伝えっ!」


 ダメだまるで聞いちゃいねぇ。

 出航前で良かった、悲鳴を上げながら逃げ惑う人々の時間稼ぎでもやるしかない。最悪死に戻りという手段が俺にはある訳だし。


 ブツブツと瞳を瞑り呟く神父の顔が厳しくなって行く。

 レッサークラーケンもずっとシカトされている状況に腹が立ったのか、神父めがけてよくしなるその足の鞭の様な一撃を叩き込もうとした。


「うるせぇーーーーーーーー!!!」


 巨大な十字架が光を上げてタコを消した。

 聖十字セイントクロスだ。


「は! いけません。私とした事がつい…」


「ちょっとクボ!! 私の今晩のつまみ!!」


 コイツら、おっかねぇ。

 黎明期のリアルスキンプレイヤーは変人ばっかりだと噂で効いていたが、まさにそれだな。


 ってかすっかり毒されている様に見える、マリア司書だった。

 彼女はこの世界の住人なのに。





 船旅は有り得ない事に再び出航へとこぎ着けた。

 人々は嬉々として「神の光だ」やら「有名な枢機卿が乗っている」だとか「神に守られた船だ」とか言っていた。


 この船を動かしている船長は商船の仕事もやっているようで、こちらも嬉しそうにヴィップルームへと案内してくれて、教会のお墨付きがどうたらとか言っていた。


 マジで恐ろしい威力だな。宗教って。















「うおおお。これ、俺見た事無いんだけど」


 ヴィップルームに運ばれた料理を見て俺は怖じ気づく。

 装飾品とか調度品とかが無い所で過ごした俺はすっかり田舎もんになっていたらしい。だってアレだ、長の家に有る装飾品なんて鹿の角とかそんなんだぞ。


 料理だって、北の大地とは思えない程の物があった。

 いや、前も食べた事のある物も混ざっているが、久しぶり過ぎて味を覚えていない。


 そんな俺は、ひたすら持参した漬物をぽりぽり齧っている。


「情けないのね。出された物は頂けば良いじゃない」


「いや、君たち仮にも聖職者でしょ?」


「あ〜まぁね」


 バツの悪そうな顔を一瞬するマリヤと視線を交わしたクボヤマが言う。


「私も元々得意じゃないんですけどね、こういうの。受け取らないと後々面倒事が重なる事が多かったので黙って享受する事にしました」


 一体過去に何があったんだ。

 地位が高いって言うのも考えものなんだな。


 出されたステーキを食べてみたらとんでもなく美味かった。

 飲み物だった。


「やまん、少し夜風に当たりに行きませんか?」


 食べ終わった後、既に出来上がり始めていた司書を放ったらかしに、クボヤマが話しかけて来る。


「なんだ、デートか? 男からはお断りだ」


「いえ、これからの事です。この世界の事は出来るだけこの世界で話す事にしているので」


 世界観を楽しむべく、リアルスキンモードプレイヤーは現実とRIOの世界を分ける事が多い。現実でもゲームでも共通の内容といったらログイン時間を合わせる話くらいである。


「邪神を蘇らせたのは少し前の話です。これは前にも話しましたよね」


「ああ、大会準優勝景品アウロラレプリカを廃れた邪神教の祭壇に置いたら復活してしまった話だろ?」


 デッキで夜風に当たりながら俺達は話す。

 真っ黒な海と空。灯が無い空間だからこそ星達がより一層輝いて見える。


「邪神教は、人を嬲り殺す様な奴らでした。この世界の人々は私達と違って、一度死んでしまったら終わりです」


「それは、わかってるよ…」


「掘り返してしまってすいません」


 雪山での出来事を明確に思い出し、俯いてしまう。

 神父も察してくれたのか謝って来る。


「心構えを持つ事は大切なのですが、それだけに縛られて固くなるのはいけませんよ」


 そう言ってデッキの手すりにもたれかかる神父。


「状況を楽しむのも一種のロールプレイですよ。私はそこから色んな事を学びましたので」


「それは凄い噂になってたな、エルフとか吸血鬼とか巨人とか」


 一番は神父、あんただけどな。

 変態共を束ねるクレイジー神父という噂もあるんだが、絶対お前だろ。

 これは言わないでおこう。


「ははは…。コレから先なんですが、ローロイズと呼ばれる王国へ向かいます。これは不本意ですが、上からの命令なので。あと一番の友人もそこで学んでいる様ですし連れ戻しに行くついでですね…」


 聞いた事無いな。


「それは上からの命令がついでなのか?」


「ええ」


 きっぱりと笑顔で言い切った神父。

 枢機卿の上とか、本当に教会のトップの人何じゃないのか。


「いいの?」


「いいんです」


 話は戻る。


「世界規模の力が必要だと上も感じているようで、今回特務枢機卿として往復する前に位を頂いてるのである程度の特権が効くんですよ。その下準備ですね、戦の仲間を集める段階ですが、問題はそれより遥かに根深い所にあるようです」


 そう言って神父は言葉を濁した。

 まぁ立場的に話せない内容も多々あるんだろうな。


「要するにお互い守るべき物を持つ者同士、均等に分け合って支え合いましょう」


「うん。お前の分は背負えるか判らないけど、俺に出来る事があればね」


「本当ですか? ずっと味方で居てくれますか?」


 ぐぐぐっと近づいて手を握りしめて来る神父。


「お、おう」


 おい、俺はマジで男は無理なんだって!

 お前の所の宗教でもそれは流石に許してないだろ放せ!


「うっぷ…船酔いしたぁ…」


「臭! マリアくっさ!」


「マリアさん、それは断じて船酔いじゃないと思いますが、決してここで吐かないでくださいね?」


「私は一度も、うっぷ、酒で吐いた、こ、事無いわよぉ…ろろろろろろろろr」


「ぎゃあああああああ!! ふざけんなくそ司書!!!」


「ゲロ処理はまかせましたよ! これも私の背負う業なんです」


「おいてめー鍵しめるな! すいません閉めないで! 開けてくださいお願いします神父様!」


「おぼぁ! 船いやぁ、おろろろろ。いやぁもぉろろろろお」







神父「ふふふ、コレで彼女達に謝る時の味方が増えましたよ。この調子で増やして行けばなんとか事なきを得るかもしれませんね」





ゲロ回でした。

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