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北の大地にて

 迫り来る暴れ雪兎スノーラビットから逃げるべく、北の険しい雪山を全力疾走で駆け降りていた。凶悪なツラをした雪兎の咆哮が別の雪兎の咆哮を呼び、雪山にこだまする。


 鬱蒼とした森じゃなくて良かった。北の大地の草木は、ほとんどが枯れ果て木肌を剥き出しにしている。そのお陰でこっちとしても逃げ易かった。

 だからといって逃げ切れるかと言ったら、相手も俺の事を追い易い訳である。


 現在俺は、雪山グラソン族の試練を行っている。

 リアルスキンモード二世代プレイヤーである俺は、永遠に春が来ない北の大地『ダズノヴァ』と呼ばれる国を拠点に動いていた。


 単純に人ごみが嫌いというか、完全なるソロ思考というか。

 まぁ人と違う事をやりたくなるお年頃なだけのゲーマーなのである。


 RSMリアルスキンモード人族ヒューマンしかキャラを選択する事が出来ないが、彼の有名な黎明期トップに居たプレイヤーの話を聞けば、このRIOの世界の無限の可能性を理解できると思う。


 ロールプレイをしていたらヴァンパイアになったプレイヤーや。

 姫騎士プレイをしていたらいつの間にかエルフになっていたギルド『福音グッドニュース』の副マスター。

 侍と呼ばれる職をノーマルプレイモードにも普及させた『剣鬼』。

 ギルド『福音』を創設した裏社交界トップの執事。

 リアルスキンモード公式発表後に更なる発展を迎えたギルド『リヴォルブ』の巨人ギルマス。


 その他にも色々と話は存在している。

 詳しい考察や見解は全くの不明だが『人は進化する』とか『人の可能性は無限大』だと、RIOの掲示板ではそう言った見解がなされた。


 特に俺が好きな話は『戦う神父はプレイヤーなのかユニークNPCなのかトトカルチョ』である。

 結局その神父は、神父服と自分の聖書をセバスと言う名のプレイヤーに託して教団の女司書NPCと共に去って行ったと言われている。


 初めからユニークNPCだったんだと言う勢力とRSMPリアルスキンモードプレイヤーの最初の一人、普及させた偉大な神父と言う勢力に分かれて、きのこたけのこ戦争の様な不毛な争いを日夜行い、掲示板の消耗を加速させている。



 さて、雪山グラソン族の試練の話をしよう。

 北の大地にて日々の生活を送る内に、俺は確かな身体の変化を感じ取っていた。

 進化というより順応と言った方が良いかもしれない。


 その頃はまだ、手足の先が冷たくならなかったりだとか、薄着でも体温を保つ事が出来る様なったりだとかだった。


 この北の大地で朝食と言えば雪兎のスープが定番なのだが、それを啜っている時に俺は決定的な事に気がついた。明らかに身長が高くなっていたのである。


 北方人種は体つきが大きいので、宿は小柄な南方の旅人が使える様にされた場所を利用していた。

 だが、いつの間にか俺の身体は宿が利用できない程に成長していたのである。


 これは巨人ロバストの逸話と近い物がある。

 で、更に強くなるべく、北方人の中でもさらに過酷な環境に身を置き、強靭な肉体を持つと呼ばれる雪山グラソン族の集落に身を置いて十数日が経ち、この試練を乗り越えれば俺も晴れて雪山グラソン族の一員になれるのだ。


 そしてこの状況は、雪白熊の祠と呼ばれる場所にて無事にその試練を乗り越えて帰って来る所であったのだが、運悪く暴れ雪兎の群れに遭遇してしまった。

 この山の守り神である、雪白熊の力を授かった俺がだ。如何せんその試練の戦闘によって満身創痍状態である。


 要するに格好の得物だったってことだ。


 そんな事を思いながら、雪兎達の重なった咆哮により引き起こされた雪崩に俺は為す術も無く飲み込まれていった。













 目が覚めると、茶色いコートと帽子とゴーグルを身につけた男に腕を持たれ雪の中から引っ張り出される所だった。

 運良く肩から上は埋もれずに済んでいて、窒息死だけは免れたようだ。


「いだだだだだだだ!!!」


 腕を引っ張り出されると同時に身体にもの凄い激痛が走る。

 そりゃあれだけの質量に押しつぶされていたものな、全身の骨がバキバキに折れていた所でなんらおかしくはない。


「でも! いだだだだだだだ!!!」


「静かにしてください、少し痛いだけじゃないですか」


 その男は俺を引っ張り出しながら言う。

 あまりにも俺が痛がる物だから彼は一度手を離すと、背負っていた巨大な十字架を一度地面に刺してリアルではダサいがこの世界ではNPCハンターの間に大流行しているウエストポーチから本を取り出し読み上げていた。


「シスターズ、この者に清き安らぎを」


 本が光ると同時に俺の身体も淡く光り出した。

 その光はまるで眠りに落ちる一瞬の様な心地よさを俺に与えてくれた。


「だからって寝られても困るので痛みは感じる様にしておきますが…じゃ、一気に引っ張りますよ…ほっ!」


「あだだダダァッーーーーッ!!!」


「なに!? 一体なんなのこの悲鳴! ってクボ! 貴方急に居なくなったと思ったら一体何をやってるのよ!?」


 遠くからコートから網タイツを少し晒してブーツを履いたプロポーション抜群の金髪ギャルが走って来る。

 走る勢いでコートの切れ目から見える太ももがさらにエロい。生存本能が俺に生きろと言っている。


「あ、なんか生命力が強くなってますね」


「一体どうしたの?」


「ああ、雪崩が起きたじゃないですか。その時雪崩を起こした雪兎達に追われている青年を見かけたので心配になって探していたんですよ」


「で、見つけたと?」


「はい。全身複雑骨折で、心臓から上が奇跡的に雪上にありましたからね。ギリ助けれましたよ。でも凄いですね、この寒さの中、雪に埋まっても凍傷にならずに生存できるなんて」


「それが雪山グラソン族の強靭な身体の秘訣よ。彼もそうだったんじゃない?」


 雪山グラソン族と聞いて思い出した事がある。

 そう、今は試練の最中だった。


 太陽も少し沈みかかっている。

 タイムリミットは夕刻過ぎるまで、これは危ないんじゃなかろうか。


 集落の中でもこの時間帯に帰って来ない者が居ると集落総出で山狩りの如く探しまくるという。実に仲間重いな種族なのだが、やられた方は馬鹿にされるのでたまったもんじゃない。

 あと、コレが悪人を山狩りするように見えるらしく、雪山グラソン族は文明と接触するまでは雪山に住む蛮族として捉えられていたらしい。

 本来は逆で、蛮族の進行を影で食い止める役割を神時代から担った一族なんだとか。


 話がそれてしまったが、ヤバイ。


雪山グラソン族の試練の途中だった。助けてくれてありがとう! 集落までは多分ここからそう遠くない! 方角はこっちだよ。俺の足について来れるならついて来た方が良いかもね!」


 俺は裸足で駆け出した。

 あ、試練は靴を履いちゃいけないのでね。














「紹介が遅れた。俺の名前は山田。そして今、雪山グラソン族の名を頂いたから山田アランになった。あの時は助けてくれてありがとう。俺の事は気軽にやまんとよんでくれ」


 ここの人達は山田の田の発音が苦手なのか、俺の名前は間違えられて覚えられてしまって、『やまん』と呼ばれている。まぁ実際なんでもいいんだけど。この手のゲームで俺は名前にあんまりこだわりがない。


「私はクボヤマです。クボとよんでください」


「私はマリア・チェイストよ。マリアでいいわ」


 クボヤマと聞いて、少し引っ掛かる所があった。

 彼も同じ事を思ったのか、俺の目を見て何か言いたげな表情だった。


「あの、もしかして…」


「だろうな。RSMP?」


 そうだった。

 彼はクボヤマ、とある事情により北へ向かう旅をしていて、今は旅の折り返しで中央聖都に向かう途中との事だった。


 一体どんなクエストなんだろう。雪山グラソン族の試練よりも遥かに長い時間をかけて行うクエストだもんな。


 RSMでクエストと言っていいのか謎だが、とりあえずクエストと言っておけば伝わり易いかと思う。


 彼はサービス開始してすぐにRSMでプレイした強者らしい。

 それって黎明期でも一位二位を争う程の初期プレイヤーってことだな、少しでも攻略が出てから始める第二世代や公式発表を待ってからRSMをプレイする1.5世代とはまるで違う。

 俺も北へたどり着いてからこの世界がゲームというより異世界である事を常識として捉え出した。なにより、マリアさんはこの世界生まれのNPCだと言う事でそんなNPCと行動が出来るのもRSMならではだと感じる。

 俺がこの集落の一員になれたのだってRSMがあっての者だからな。


「この度はこの子を助けて頂いて誠に感謝致しております」


 集落の長が俺の前に出て来て彼等に俺を述べる。


「今宵は一人の若造が無事にこの集落の受け継がれる名前を頂いた記念です、どうぞ、些細な宴ですが楽しんで行ってくだされ」


 そう言って去って行く。

 「私、酒は飲まないんですが…」とクボは尻込みしていた。その隣でマリアは北の特産酒をガブ飲みしている。


「ちょっとマリア。それはいくらなんでも…」


「うっさいわねー。私はあなたと違って司書職なのよ関係無いわよ! なによそれでも許されないの? ああ神よ、彼の神父は私の囁かな唯一の楽しみまで奪うというのですか…!?」


「マリア、貴方はこの旅で大分失敗したんじゃないですか? 主に酒がらみですが私はもうその懺悔はいい加減聞き飽きましたよ? ってもう聞いちゃい無いですね」


 頭を抱えるクボを余所に、一人で勝手に盛り上がるマリアの元に、北の恵みをふんだんに使った料理が運ばれて来る。

 枯れた大地だが、そんな中でこそ人は強く生きる術を獲得して来た。


 雪兎のシチューに鹿肉のソテー。

 どれも雪の下で旨味を熟成させた肉を使用している。


 そして雪山グラソン族の集落特有の雪菜と呼ばれる冬にも育つキャベツの様な野菜を塩漬けにして雪の下で保存しておいたもの。


 この酸味がまた酒に合うんだよな。

 荒々しくも大地の恵みを感じるこの地の食べ物は意外と大好きなのである。


「漬け物美味しいですね」


「そうだろ? 雪菜っていうこの集落の特産品だぜ」


「お金は払います、幾つか頂いてもよろしいですか?」


「どうせ今日の宴の余り物もあるんだ。好きなだけ包んでおくと良いよ」


 お言葉に甘えて、とそそくさと木箱に入れてウエストポーチに入れて行く。

 ポーチに入り切らない程入れているのに、どんどん吸い込まれて行くようだ。


 不思議なポーチ。レアアイテムなのかな。



 そうして夜も更けて行く。

 コレが俺とクボヤマの出会いだった。








 雪山族からアランの名を受け継ぐ事によって、人種・北方雪山族と言う感じに変わります。

 まぁそれは個人の資質によりけりなんですが、北国にただ居るだけでは身長も大きくなりませんに寒さにも強くなりません。

 雪山族になる事で身体機能は強靭になります。


 雪山族に伝わるアランとは、神時代にこの地を守る様に言いつかった人物の名です。遠い祖先みたいな感じですね。

 その者はL字に曲がったバールの様な物を使い戦っていたそうな。


 ゲンノーンと呼ばれるそのL字型の武器は、殴ってもよし、投げても良し、引っ掛けても良し、小回りも効き、穴を掘るのにも便利だとか。

 武器というより雪山族特有の道具と言う形で発展を遂げています。

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