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初めてのパーティー

やっとパーティです。

リアルスキンモードと、ノーマルモードの違いが判って行きます。

 さてさて、やって参りましたよ。女神の広場へ。

 忌々しい記憶が蘇る。だが今の俺には通用しない。刺されても回復できるからな。


 女神の広場には交流掲示板がある。パーティ募集や、素材の買い取り等、プレイヤー間での交流を促す内容が多い。もちろん、道具屋だったり公式の商業施設も置いてある。


 俺の目標は前衛プレイだ!近距離職だ!

 とりあえず、何をすれば良いのかわからなかったので、キョロキョロしてみる。


 そういえば、ろくに街を見る事無く、教会での生活にいそしんでいたなと思う。まぁなにも困った事は無かった、むしろ快適過ぎる教会ライフだったのでMMORPGの世界にいるというコトを忘れていた。俺の世話好きが祟ったみたいだ。

 うん、また。あの子供達に会いに行こう。フィールドでの話を聞かせて上げたい。


 ただ立ち尽くしていても埒が空かなかったので、俺は公園のベンチに座ってぼーっと回りを眺めていた。人やエルフやドワーフか、色んな人が居る。それにも飽きて来たので持参していた聖書を読んでいた。エリック神父が教会で学んだ事を忘れない様にと俺にくれた物だ。

 ありがとう神父。聖書ってなんか心洗われるよね。


 時刻は昼下がり。本に集中していると声をかけられた。


「あなたが噂のNPC? それとも神父のロールプレイ?」


 顔を上げると、そこには美しいエルフがいた。

 太陽を反射する薄緑色の髪を後ろで束ねている。装備を見ると女騎士、って感じ。質問の意味はわからんが、声を掛けてくれたのは素直に嬉しかった。

 彼女の後ろからは「声掛けちゃったよ」やら「NPCには見えないなー」などの声がおそらく彼女のパーティメンバーであろう方々から上がっている。


「噂?は知らないですが、私はNPCではないですよ。訳あって神父服を来ていますが、志しているのは前衛職です」


「あ、そうなんだ。ごめんなさい急に変な事を言ってしまって」


「いえ、それより神父のロールプレイってなんですか? 職業の事ですか?」


 未だロールプレイという単語について判らなかったので聞いてみる。もし職が決まってしまっているとしたら、前衛職への道が閉ざされてしまうってことを予感する。


「あ〜。ガチ初心者さん?」


「はい。恥ずかしながら」


 2DのMMOゲームであればやったことある。あれも大分友人に助けられていたが、私は鋒を扱う戦士をやっていた。なので前衛職に拘るのである。


「なるほど。例えば忍者になりたいとするなら盗賊のジョブで、忍者の格好をしてニンニン言ってる事が忍者のロールプレイに当たるわ」


「エリーはエルフ騎士のロールプレイをやってるもんね? その為にわざわざエディットでエルフの容姿に近づけたんだから。あ、アタシの名前は凪。ナギってよんで」


 エリーと呼ばれるエルフの隣から、赤髪で活発そうな小柄の女の子が口を挟む。

 なるほど、ロールプレイね。そういうことか。

 俺の格好が神父でそして聖書を読んでいる。そして教会で暮らしている。


 うん。全く持って否定できない。


「特にロールプレイでは無いですが、しばらく教会で暮らしていたので」


「始まりの教会の? あなたもなかなかコアなロールプレイをしているわね。私も見習わなくちゃ・・・」


 そう言いながら、エリーはグっと拳を握りしめる。いや、俺は特にロールプレイをしている訳じゃなくて、洋服も神父服しかなかったんだよ。偉い丈夫な素材だったし。

 話を聞く限り。彼女達はロールプレイでゲームを楽しむ集団だった。エルフの騎士に、それに仕える従者。そして小人の細工師。といった3人メンバーだ。

 エルフの騎士っていうか姫騎士じゃないの?従者連れてるって。凪と呼ばれる人はエリーの友達らしく、たまたま小柄で手先が器用だからそういう風になったらしい。

 なんなんだこのパーティは。


「ねぇねぇ、神父さまをパーティに加えようよ」


 凪がそう言い出す。


「そうね。私のロールプレイなんか霞んでしまう程のロールプレイ。逆に師匠と呼ばせてほしいくらいだから、是非パーティに入ってもらいましょう」


 いや、ロールプレイじゃないから。何なんだこの人達は。でも、実際の所初めてパーティに誘われるので嬉しかったりする。

 これも神のお導きだと・・・あ。あぶない。神父になってしまっていた。


 あれよあれよと言う間に私はパーティに入っていた。


「セバスチャン、挨拶」


「はいお嬢様。よろしくお願い致します。クボヤマ様」


 お、おう。


 だがここで致命的な問題が起きた。俺がパーティ承認のやり方を知らなかったのだ。メニューボタンを選択してだったり、ヘルプ機能からだったり、色々と指示を受けるが、全く持って言ってる意味がわからない。

 だって無いんだもん。そんな画面。


 だが究極に困った。


「どうやら、バグみたいですね。凪、こんなバグあったかしら?」


「いや、アタシは全く知らないわね。あとで運営に報告しておく?」


「う〜ん。経験値的にはどうなるか判らないけど、同行者って形でついてきます? 師匠を見捨てる選択肢は私にありませんので」


 それでいいなら。と俺は同行者としてこのパーティに混ざる事になった。まぁ彼女達も経験値効率は二の次でこの世界を楽しむという事に照準を合わせているらしいし。俺だってそうさ。


 俺たちは南のフィールドを歩いている。始まりの森だ。ここに来るまでにある程度の情報を彼女達から聞いていた。

 始まりの街から東西南北に始まりの〜シリーズでフィールドが展開しているらしい。攻略組と呼ばれる人達は既に第3の街まで先に進んでいるそうだ。さまざまなクエストがあり、それをクリアする事で色んな所へ行ける道が開かれる。そういった物らしい。


 俺たちは始まりの森で素材集めそして狩りを行う予定だ。出て来るモンスターは熊、兎、犬、鳥系の様々なモンスターである。多種多様の生態系とモンスターによりワンランク高めの難易度だが、その分豊富な素材が手に入るそうだ。

 東の草原は兎と犬と牛と馬くらいなもんで、俺はもっぱら兎専門だったわけだ。因みにモンスターの名前は知らない。鑑定の魔法をまだ持っていないからな。


「そうだ、鑑定の魔法だ」


 急に思い出した様に言う俺に、回りの三人は驚いた顔をする。


「びっくりするじゃない。何なのよクボヤマ」


 エリーがそう言って来る。最初は師匠師匠言っていたが、辞めさせた。いや、俺はロールプレイじゃないし。


「鑑定の魔法ってどこで手に入れれるか知ってる?」


「鑑定の魔法? なにそれ」


「自分やモンスター、アイテムのステータスを見る際に必要になるらしくって、俺はまだ持っていないから自分のステータスすら見る事が出来ないんだ」


 そう言い放った瞬間みんなの顔が硬直した。

 一瞬間を置いて。


「何意味判らないこといってんの? ステータスはステータスオープンでしょ! 常識だよ常識!」


 と凪。


「し、師匠。まさかそこまでこの世界のロールプレイを行っていたなんて・・・私は感激です。もうずっと付いて行きます。」


 とエリー。


 セバスチャンは首を横に振って降参と言った雰囲気だ。

 だがな、ステータスオープンと言っても、念じても、何の変化も起こらない。基本的にソロで引きこもっていた俺にとってすれば、鑑定の魔法が無いから扱えないと思っていた。


「まさか、アイテムボックスも無いの?」


「ははは、凪さんよ。そのまさかだ」


 たぶんな。アイテムボックスって何だ。と最初思っていたが、調べてみる限り空間拡張系の魔法技能がないと仕えないと思い込んでいた。

 どこまでもリアルの世界だと思い込んでしまっていた俺は基本的にそう言うのを学ばない限り仕えないだろうと仕様だろうと予測していた。


「だからバッグを持っているのね。わざわざバッグ経由でアイテムボックスから物を出すなんてロールプレイの達人だと思ってました」


 エリーもそろそろ呆れて来ているようだ。


「なんでかしら! このゲーム、色んな仕様が隠されているらしいんだけど未だに誰もそれにたどり着いてないの。ゲームとしてはクオリティも自由度も高いのに未だ他のVRゲームでの最高クオリティって感じなのよ! アタシからすれば、クボのその状況が鍵になると思うの!」


 凪が捲し立てる様に言って来る。んー、違いねぇ。ノーマルモードとリアルスキンモードくらいの違いかな?


 ・・・それか?

 ちょうどそれを口に出そうとした所で、私の全身が身震いした。何か来る。ヤバい物が来る。


「待ってくれみんな。何か来るヤバい何かが!!」


 最初に被害を受けたのはセバスチャンだった。獰猛な声が響いたかと思うと、巨大な虎の前足が、セバスチャンを押しつぶしていた。グロいコトにはならず、セバスチャンは即死。光と共に消滅した。たぶんリスポーンしたんだろうな。冷静に考えるとそうなんだが、今の俺にはそんな余裕は無かった。

 光になったセバスチャンをみた虎の魔物は、つまらない様にこちらを向いた。その獰猛で鋭い牙を備えた口からは餌を見つけたときの獣の様に大量の涎が拭っている。


 あ、目が合った。

 俺は直感した、食われる。たぶん俺が。


「な、なんなのあの魔物! 聞いてない!」


 やめろ、叫ぶな。心の中でそう思う。その声に反応して虎は凪を向いた、そして飛びかかって行く。右前足が彼女を押しつぶそうとするが、俺が咄嗟に投げた石が虎の顔面に命中して虎の意識を乱し、ギリギリ擦る程度ですんだ。

 それでも彼女は弾き飛ばされて動けないでいる。小刻みに震えている所を見ると、しびれて動けないようだ。


 そして虎は石を投げた俺に向かって来た。俺は動けなかった。


「パワーガード!」


 そう叫びながら大きな盾を構えたエリーが俺と虎の間に割って入った、鋼鉄を鋼鉄で殴ったときの様な重い音が響く。


「ぐっ。クボヤマ! はやく凪にヒールを、あなた神父でしょう!」


 我に返った。凪の痺れは麻痺攻撃だと思う。ヒールとリカバリーを施す。

 リカバリーは異常状態を治す魔法だ。

 立ち上がった凪も魔法の詠唱を始める。だが、どう考えてもエリーの盾では時間が稼げない気がする。俺にも何か武器が無いか。


 そうだ、クロスがあった。

 胸ポケットに入れていたクロスを持つ。

 持った瞬間にクロスは形状をかえる。そのまま巨大化しましたって感じだ。形状的に十字になった部分がほこの様に見える。昔の2DMMOゲームで鉾ばっかり使っていたからかもしれない。まぁおあつらえ向きってヤツだ。


 この変化に目を奪われたエリーと虎の均衡が崩れた。エリーも盾ごと弾き飛ばされる。と、同時に俺は虎の首元に十字架の尖った部分をブッさす。


「ゴアッ!?」


 思わず虎からも悲痛な叫び声が上がる。意外と攻撃力があったみたいだ。



 でもこっからどうしようかな。頑張って押さえ込んでるけど。これ抜いたら俺間違いなく食われる予感。エリー早く助けて、盾役チェンジしてくれよ!盾じゃん!

 チラっと見たら、うっとりした様子で。


「戦う、神父の、ロールプレィ・・・」

 と頭の中がお花畑になっていた。


「おい姫騎士! 白馬の王子様とかそう言うのじゃないから! あと俺ロールプレイじゃないから!」


 だめだ!もう持たない。

 と言った所で、もう一人残ってましたよ小人の細工師。あ、職は魔法使いらしいです。細工の技能も持っているらしいけど。


「お待たせ! あとは任せて思ったより時間稼いでくれたから今ある中で特大のをお見舞いしちゃうよ!! あとなんか今日は集中すればする程調子がいいよ! エクスプロージョン!!」


 魔法の軌道が見える。虎の顔面に向かって。

 そして、爆発した。




 虎は死んだ。







 俺も死んだ。

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