変わり目
試合が終わっていの一番に駆け出した俺だが、彼女は予想以上にケロッとした姿でセバス・ユウジンと共に控え室にて俺達を出迎えてくれた。思わずズッ転けたよ。
無事な彼女の姿を見て、思わず抱きしめてしまった。
顔を真っ赤にしながら「役得デス〜」と抱きしめ返しす彼女の身体は少し震えていた。やはり死の恐怖と言う物は、例えゲームの世界であろうとこのリアルスキンモードでは恐ろしく感じてしまうようだ。
うむ。
そ、そろそろ離して欲しいんだが、しばらくこのままでも良いかな。
ユウジンは「凡ミスだったわ〜」と暢気に言いながらも木刀で素振りを行っていた。彼も彼也にこの試合で思う事があったのだろうか。
いや、完全に俺の責任だった訳だ。
「…本当にすまん」
ひと振りひと振りに徐々に集中して行くユウジンに俺は呟く事しか出来なかった。素直に土下座できたらどんなに楽だっただろうか。
そんな言葉は入らないという意思を彼の剣から感じた。
いや、本当に自分の実力の足りなさを省みているのかもしれないが、今の俺にはそう思えない。
今回の件は、しっかりと心に刻んでおこう。
教会の関係者から呼び出しを受け、俺は控え室を後にした。
向かった先は会場観客席の来賓席である。
「まず初戦突破おめでとうございます。ですが、あのやり方は少し如何な物かと」
エリック神父の隣に座りながら彼の話しを聞く。
正面に立って話しを聞いていると「まるで説教してるみたいじゃないですか」と強引に座らせられた。
いや、説教じゃないか。
「試合で焦ったのは私の責任です。それによって仲間の被害を出してしまいました」
「いえ、私はそこを言及している訳ではありませんよ。確かにミスはありますが、アレは相手が一枚上手だったに過ぎません。ですが、今の貴方は強さを過信し過ぎている節が見えました」
エリック神父の言葉が突き刺さる。
柔和な雰囲気は打って変わって、顕現状態の鬼畜さも無かった。ただ、今の俺を厳しく見てくれているんだろう。
「貴方は強くなりました。ですが、それだけです。この大会が終わったら、貴方はもう一度学び直した方が良いでしょう。クロスも返して頂きます」
そう言ってエリック神父は今行われている試合に視線を戻した。
俺も黙って視線を試合へ移す。
『遠洋』対『だがしや』の試合が行われていた。
釣王が押されている。
パーティ『だがしや』のメンバー。
明治いちご、森長、エル・アルフォート、ガーナー・ロットー、メルミルク、江崎ビスクと言った面々の名前に突っ込む気すら失せていた。
ただひたすら、エリック神父の言葉が心に突き刺さっていた。
これって要するに、アレだよな。
居た堪れなくなった俺は「わかりました。今までありがとうございます。コレは御返しします」と一言にクロスを手渡し来賓席を後にした。
暗い顔をして帰って来た俺を出迎えてくれる仲間達のありがたさに心を打たれる。
椅子に座ってふと戦いを振り返るとエリーのあのシーンが蘇る。
今一度、学び直そう。
神父を辞める気はさらさらない。
「すまんが少し皆に話しがある…」
俺は今後の身の振り方を話し出した。
大会自体は恙無く終了した。
ここで意気消沈してしまってみんなに負担を掛けるのは良くない。
クロスはお返ししたが、武器が無いだけで何ら問題は無かった。
俺のメンタル面には大きく問題有りだがな。
簡単に順を追って結果を説明しておく。
二戦目の『傾国の騎士団』だが、スキルやステータス補正でかなり耐久力のある相手になんとか削り合いでの勝利を収めた。凪の魔法にも耐え切るなんて凄まじい。
決め手はやはりハザードの質量兵器だった、練度の高い動きでなかなか的を絞らせてくれなかったが、俺が自分の能力を活かした決死の足止めでようやくと言った所だ。それでも降って来る柱を盾で支えたリーダーのヘイト氏には脱帽だ。
傾国の騎士団は、エリーを騎士団に加入させたいようで戦いの最中に何度も交渉を持ちかけていた。エリーは適当にあしらっていたけど。
何故だろう、傾国と聞いてエレシアナの事を思い浮かべてしまった。
傾いてるのは彼女の王位継承権であって、国じゃない。偏見だったな。
決勝はやはり『ジョーカー』との対決だった。
彼等は、珍しくもノーマルプレイヤーとリアルスキンモードの混合チームだった。
結果から話そう。
負けてしまった。
善戦したのはハザードと凪だけだった。
ユウジンはEve Birthday氏相手に今大会二回目の敗北に喫した。
ユウジンが話すには、彼はVRゲーではほぼ頂点と言っても良い有名廃人プレイヤーなのだそうだ。色々なVRゲームで戦った事があり、唯一勝ち星を上げれたVRゲームが『BUSHIDO』だけらしい。
そんなEve氏が率いる『ジョーカー』にはDUOとagimaxが居た。
俺とエリーは再び対峙し負けたのである。
善戦したハザードと凪も、流石にこのメンバーには勝てなかった。
準優勝である俺達パーティが貰った賞品は、飛竜の卵だった。
ユウジンが大喜びしていたな。
俺らが飛竜なら、優勝パーティは一体なんなんだろうか。
やはり、ギルド作成関連かな?
次が大ニュースである。
プレイヤーイベントの終わりにて重要な発表がなされた。
『公式からご報告です。リアルスキンモードについての一定のデータがそろいましたので、公式HPにて新たな情報をアップロードしております。それに付きまして、限定販売ではありますが、当ゲームの推奨VRギアの販売を限定でですが開始致します。詳しくはHPにてどうぞ。プレイヤーズイベントお疲れ様でした』
今までは『RIOを更に楽しめるプレイモード』としか記載されていなかった謎仕様が遂に公式にて発表されたのだ。
コレは俺も一度ログアウトして読んで来た。
ノーマルプレイモードからリアルスキンモードへの移行について記載されていたり、どんな事が出来たのか、または限定販売されてリアルスキンモードをプレイしたプレイヤーの人達は何をやって来たのか。
そんな事も書かれていた。
掲示板も大分賑わっていたとユウジンが言っていた。
ゲームじゃねぇとか、NPCアルゴリズムとか、なんとかかんとか。
その辺は俺には全く判らないので割愛。
一部で言われているのはこれはRIOが恋愛シミュレーションになったとか、リアルセカンドライフプレイできるとか。
俺は農民王になるとか。農奴乙とか。
よし、とりあえず行くか。
公式発表だったりプレイヤーズイベントの余熱が残り騒がしい会場を俺は後にした。神父服は脱いで、街で茶色のコートを購入して来た。
今の俺には神父としての要素は何も無い。
完全なるただの一般プレイヤーだ。
神父服と運命の聖書はセバスに預けた。
いずれ戻って来る予定なので、確り保管をしておいてくれそうなセバスだからである。エリーとかには間違ってでも預けられん。
「この世界では離ればなれになりますが、いつでもメールしてくださいね。そしてクボヤマ様の帰って来る場所を私達は作っておきますので」
そう言っていた。
全く持って頼もしい男だった。
「これをどうぞ」と彼から受け取ったのは今被っている飛行帽だ。
茶色のコートと同じ色をしている。
もこもこがついていてとても暖かそうだった。
「ネイチャーガードスタッグの革から作った帽子ですよ。ユウジンさんが贈り物なら飛行帽がうれしがるだろうって言ってましたので、私達からの餞別です」
守りの飛行帽
『大自然の守り主の毛皮から作った帽子。体温の調節機能を持つ。守りの力が備わっており、即死を防ぐ』
素直にありがたかった。
コートに飛行帽って言ったら、2Dゲームをしていた頃の俺のアバターだ。
ゲームも判らない頃、ユウジンにつれられ鉾を操る前衛職として活動していた頃を思い出す。
帽子の位置を直して歩き出した時、後ろから声を懸けられた。
「待ちなさいクボヤマ神父」
振り返るとマリア司書が居た。
「今は神父を破門された身ですよ。クボヤマだけでいいです。愛称でクボと読んでくれても結構ですよ?」
「え? あ、く、クボ! これでいい?」
声に力が入りまくりのマリア司書。
「じゃなくて。エリック様は貴方を破門した訳じゃないのよ。聖門を行く人として、正しい在り方を学んでほしかっただけなの」
「ええ、判っていますよ。ですが気構えという奴ですね」
「でも、これからどこへ向かうというの?」
「それは…」
言葉に詰まる。
一度修行して来いと言われた身だが、どこへ行けば良いか判らない状態だった。
まぁそれでも何とかなると思ってた節はあるけどな。
「ウチではね枢機卿クラスの資格をに得る為には一度、北の聖堂と呼ばれる場所に赴かなくてはならないの。今回クボヤマにはそこに向かってもらう様に言いつかっているわ」
そしてマリア司書が俺の手を握って言う。
「今回私が案内人を勤める事になりました。中央聖都ビクトリア大教会の司書マリア・チェイストよ、よろしく」
こうしてマリア司書との北へ向かう旅が始まった。
彼女は「私も初めて行くから道は聞いた事しか知らないわ、でも昇進って意味だから気分はハッピーね」と言っていた。
公式の最後に書かれていた文。
『貴方達は探求者です、もうゲームの世界とは思わない方が良いでしょう』
新作投稿しました!
「奈落に落ちた俺が超能力で無双する」
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